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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
鴨の苦汁なお吸い物
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第十二話 平和の終わり

深夜。リーラン国王城の正面玄関から一台の馬車が出てきた。

シルヴァーナの修復が完了したミカエリは極秘の任務を完了させ、馬車に乗って王城へやって来た。生涯の中で最大の任務とも言ってもいい作業を成し遂げたミカエリはマウラに直接受け渡しを行い、シルヴァーナ・ニアを回収した。

結局、マウラとカモ君はまともに会合することなくそれらの役目を終えたミカエリは王城から自宅へと。シルヴァーナ・ニアを自身の別荘へと運んでいる最中にそれは起こった。

自身の。そして、最高の護衛忍者の警戒網をかいくぐって毒が塗布された矢が放たれた。その数は百以上ある。これだけの量と殺意に気が付かず、放たれるまで対応できなかったミカエリを乗せた馬車はあっという間に矢の雨にさらされる。

本来ならばこの襲撃でミカエリやその馬車を操縦していた従者達も射抜かれることになっていた。だが、襲われたのはこの国一番の発明家が自ら改造した馬車だ。

見た目は一般馬車に見えるお忍び馬車。

だが、軽くて丈夫。矢が突き刺さることはあっても貫通して中にいる彼女を傷つけることは出来なかった。

外にいた従者も放たれた矢から生じた音に反応し、即座に警戒。襲い掛かる輩身を守るために隠し持っていた武器や防具で身を守った。だが、数の暴力は恐ろしく多い。致命傷を避けるように身を守ったがそれ以外の場所にはいくつもの矢が突き刺さっていた。

それから一秒未満で馬車を覆う暴風の檻が展開された。彼等の主。ミカエリが皆を守るために魔法の結界を即時展開した。


「被害状況確認!」


「業者とメイドが矢を受けた!現在、ポーションと魔法で手当て中!」


「敵は!」


「…目視、できません!」


ミカエリの従者は従者達の界隈では最強と言ってもいい訓練を受けてきた。そのため、毒矢を受けても即座に意識を失ったりはせず、即座に対処し、誰一人として死んではいない。だが、毒矢を受けたものは解毒の魔法やポーションを使用しても苦しんでいた。

それらが無ければ、馬車を引いていた馬のように泡を吹きながら死んでいただろう。


「毒が、消えない?!」


「嘘だろ?!解毒魔法とミカエリ様特性のポーションだぞ!?」


「…ぐぅ。お嬢、様。王城へと、おもど、りを」


治療は現在も続いている。しかし、従者達は相も変わらず苦しんでいた。

その藻掻きは次第に緩慢となり、彼等は意識を失い馬車の影に落ちていった。

馬車の外にいた従者は四名。中に二名居たが、その半分が戦闘不能になった。馬車から一名のメイドが飛び出し、馬車から滑り落ちた同僚の手当てを行う。

放たれた矢には返しがあり、一度突き刺さると手術をしない限り体外に摘出できない。それを一瞬で見極めたメイドは隠しナイフで同僚の傷口を抉り、矢を抉り出した。

普段はちゃらんぽらんな主に似て能天気な彼等だが、友人以上の情はある。彼等には悪いと少しだけ思ったが、荒療治には抵抗なく作業が出来たメイドの練度が高いと誰もが理解した。

襲撃者にもそれが理解できた。暴風の檻の向こうにいるのは確実にターゲットのミカエリがいるのだと。通常ならその暴風を見て撤退がするのが当たり前だが、襲撃者にはそれをどうにかする手段はあった。

それは深夜ではわからない。一握り程の漆黒の石。それが暴風の檻に向かって放り投げられた。それが普通の石なら、どんな強度。どんな技術を用いても吹き飛ばされるだけだった。が、王都の中心で襲撃する輩が投げる石。それが普通なわけがなかった。


轟轟。と。


その石が暴風に触れるや否や、その暴風がその石に吸い込まれていった。かなりの勢いを持っていたはずなのに。その石を中心に渦を巻くように暴風が吸い込まれ、掻き消えた。


「アンチ・マジックアイテム?!ミカエリ様の魔法を?!」


魔法を無効化する手段はいくつもある。それは同じ魔法であったり、道具であったりするが、その精度はまちまちである。ミカエリほどの魔法を無効化するには一般的どころか、軍事目的造られた道具か、魔法兵団長クラスの魔法でなければ不可能。

それなのに、それ相応の効果を持つアイテム。それの近くにある限り、魔法は無効されてしまう。そんな黒い石が襲撃者の手にあった事を驚愕するメイド。

暴風が消えたことで、馬車には十数人の黒づくめの人間が襲い掛かっていた。

暗器である投げナイフを投擲しながら押しかかってくる攻撃をかわすためにも馬車から飛び出したメイドは、大きく跳躍。馬車の高さを軽々と飛び越える身体能力を見せながらナイフを躱す。だが、その場に残した同僚達の体に複数突き刺さる光景に怒りを覚えながら馬車の上に着地。いや、弾かれるように馬車の天井を蹴りぬき、襲撃者達に向かってこちらも隠しナイフを投げ放つ。


「お嬢様!どうにかお逃げください!」


襲撃者に肉弾戦を挑むメイドは襲撃者の一人の顔面を勢いよく蹴りぬいた。

ゴキンと嫌な音を立てながらあらぬ方向に首が曲がった襲撃者。そのうちの一人がやられたことに周囲にいた他の襲撃者だが、数ではこちらが上。

装備と自分達の練度は自分達が用意できる最高のもの。反撃される前に仕留めるつもりだった。それは失敗したが、相手は今、一人で対応しているメイド一人だけ。護衛対象のミカエリの魔法は封じた。この任務が失敗する可能性はゼロだ。

馬車を挟んで、メイドの反対側にいた襲撃者のリーダーはそう判断し、襲撃の続行を決めた時だった。彼の視界に不規則な切れ目が入った。


 な

に  おこ

 がっ

  た?


彼の思考と視界が不意に分断された。と、同時にリーダー含め、周辺にいた仲間達も物言わぬ肉片に細断されていた。その血しぶきがあたりに散らばる。アンチ・マジックの効果を持った石。それがいつの間にか砕け散っていた

どんなアイテムにも強度はある。ミカエリの魔法を無効化した。だが、し続けることは出来なかった。

彼女は襲撃された時から絶え間なく強力な魔法を使い続けた。従者達への補助魔法。守るための結界魔法。そして、襲撃者たちへの攻撃魔法を。

同時に三つの強力な魔法を放ち続けた結果、アンチ・マジックの許容量を突破。事態の打開に出ることに成功した。

そして、襲撃者も残り三名になった所でミカエリの風の鞭による捕縛の魔法が襲撃者達を抑え込んだ。

そんな場面になると馬車の中にいたミカエリが、共認可に残っていたメイド共に外に出てきた後、倒れ伏している従者達に回復促進の魔法を施す。未だに痙攣をして危険な状態だが、今から王城へ戻り、そこで処置を施せばまだ間に合うだろう。だが、その前にやるべきことがある。

捕縛している襲撃者の下顎部分を魔法でえぐり取った。次に従者と同様に回復促進の魔法をかけた。自害を防ぐためである。


「私と従者達に手を出した自分を恨む事ね。死ぬことを望んでも生かしてあげる。せいぜい、何もかも忘れるくらいになるまで搾り取ってあげる」


手引きした輩の情報。そして、その命を。


主語を除いたセリフを吐くミカエリの表情はカモ君達にも向ける優しい笑顔。だが、その眼には底なし沼のように何を考えているかわからない闇を抱えていた。


ミカエリは自身の従者と襲撃者をまとめて移送した後、襲撃者の主が自国関係者だと知る。

それだけではない。自分以外にも有力貴族への襲撃がこの日、あちこちの領地で起こっていることを。後にカモ君も知ることになる。


リーラン王国の全貴族の四分の一がネーナ王国に寝返った事を。

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