第十一話 ラスボスの産声
リーラン王国。王の特別な執務室で様々な書類を仕分けしながら、その主の主。この国の長であるサーマは深く息を吐き出して、現状を整理していた。
「…サリエ。辛い任務。よくぞ完遂した。このような命令を下した私を不出来な王をどうか許してくれ」
カオスドラゴンの狭量を推し量り。その目的を再確認。そして、現状、彼女が何を一番求めているかを自分の姪に当たるサリエは見事に探り出してきてくれた。
カオスドラゴンは、特待生のシュージを求めているという知らせだが、それ以上にカモ君にご執心のようだと。そのお付きは任務を忘れることなくシュージを求めているが、コハク自体はカモ君と触れ合っている方がご機嫌だ。
カモ君とシュージが自国にある限り、カオスドラゴンは牙を立てないだろう。あの二人をこの国の帰属に招き入れたのも、カオスドラゴンの脅威を逸らせるため。それを重鎮の貴族に達にも話を通して叙勲を許可した。中には反対意見を持つ輩もいたが、彼等にカオスドラゴンを相手に出来るのか?と、語り掛ければ押し黙るしかない。
以前から話してきたが、カモ君とシュージの将来性を考えれば、貴族に引き込むのも遅すぎるほどだ。あの二人はきっと大成する。それはこの国を発展させる礎になる。
とはいえだ。
カモ君は少し目を離すと大怪我を負う。だが、それ以上に成果を上げる。彼のお陰でいくつものダンジョン問題が解決し、国庫も多少潤った。何より、彼と同じ道を歩く者を大きく成長させている。実弟しかり級友しかり。彼を慕う者は皆、大きく成長している。
将来、将軍や軍師は無理でも教官としてなら、彼は大きく貢献してくれるに違いない。
その薫陶を受け、目まぐるしいまでの成長を見せるシュージ。
去年から平民でも才能があるのなら魔法学園に通わせるという法案が通って本当によかった。明らかに一般魔法使いよりも強力な魔法と技術に現役の魔法兵団も唸らせるほど、彼ならば将軍。いや、姫の一人をあてがってでもこちらに引き込んでおきたい。
問題はこの二人がカオスドラゴンのお気に入りという事だ。
むやみやたらに勧誘すれば初の襲来。そして、サリエとの婚約発表での威圧事件が起こる。
いや、この二つはまだ運がよかった。少しでも間違えればこの城まるごと吹き飛んでいた。
護衛に超人のコーホをつけてはいるが、彼一人では心持たないため、特殊任務中のカヒーを呼び出して正解だった。二人の超人の保護下になければ探りすらできなかった。
「だが、これである程度方針は決まった」
リーラン国王、サーマはサリエが持ってきた結果報告を受け、それを吟味して一つの決断を下そうとしていた。
それは一国の長としての義務。貴族としての義務。民の頂点に立つ者として大きな決断を下そうとしていた。
彼の机に山のように積まれている書類。本来は見通しがいいように年に十枚未満の書類しかなかった。だが、ここ数年で徐々に増えてごらんの様になっている。この部屋の扉を開けたとしても、サーマの顔は山のように積まれた書類で見えなかっただろう
それは主にネーナ王国に隣接する自国領からの苦情。中にはこの国の中心の王都から来るものだ。モカ領ほどではなかったが、ネーナ王国の人間が起こす蛮行が目立ってきている。
本来なら、その領主が解決すべき問題だが、彼等は力をつけて調子づき蛮行が過ぎるようになる。中には殺人や人身売買まで未遂から事件まで既に起こっている。
密偵の報せだけではなく、あちらでは既にこちらをいつでも攻め滅ぼせると豪語しながら軍事訓練を行っている。その言葉通り、国境沿いの領地付近は物騒になっており、治安も悪くなっている。
何度も大使を送っては交渉し続けてきたが、戦力が大きくなって調子づいている彼等は耳を貸すどころか、領地と人民を売り渡せばおとなしくしてやると脅迫までしてきた。
これ以上放置していれば、さらに大きな被害も出る上に、本当にネーナ王国にリーラン王国を攻め込まれるだろう。
これ以上被害が出る前に。
禍根が産まれる前に。
第二、第三のネーナ王国にも付け込まれないためにも。
「ネーナ王国には滅んでもらう」
防衛の準備は常にしてきたが、これから先。それだけでは駄目だ。
相手を滅ぼす。その気概で軍備に舵を切ったサーマ。
王として。人として。それは正しかったかもしれない。
だが、『シャイニング・サーガ』を知っている者からしてみれば、間違いだった。
いくら両国の間に溝や禍根があろう。決してこちらから宣戦布告をしてはいけない。
なぜならば、『シャイニング・サーガ』というゲームが造られた国では専守防衛を国是としていたから。どんな理由があろうとも戦争を起こすと決意した存在は『悪』と定義づけられており、主人公たちが打ち倒すシャイニング・サーガの『ラスボス』へと至ってしまうストーリーなのだから。




