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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
鴨の苦汁なお吸い物
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第七話 美化1000%

カモ君が目覚める一時間前。


カモ君の負けが確定。コロシアムの治療室に転送されたと同時にカモ君を批判したトーマ。

それを見て、頭に血が上ったシュージが観客席から飛び出した。

本当なら観客席と決闘の舞台を隔てる結界を自分の魔法で壊してすぐさまトーマに喧嘩を売るつもりだったのだが、自分のすぐ近くにいる他の生徒達も巻き込んでしまうのでやめた。が、その胸に宿った義憤の想いは轟轟と燃え盛っていた。

その勢いのまま、観客席から選手専用の待機室に繋がる廊下。選手待機室から決闘の舞台へ飛び出したシュージ。

その途中で何人かの警備員や監督を務めていた教師や先輩達に止められそうになったが、その時点ですでにシュージは自身に身体の強化魔法イグニッションを使用していたために彼を止められる人間がそこにはいなかった。

トーマがカモ君を侮辱し終え、審判がトーマの健闘を称え終わったころ。シュージは黄金の炎を身に纏いながら決闘の舞台の中央に降り立ち、宣言した。


「俺と決闘をしろ!トーマ・ナ・リーラン!!俺の友を侮辱した事を後悔させてやる!!」


その光景を見た半分の人間が歓声を。もう半分は悲鳴じみた声を喉で詰まらせた。

トーマは公爵家の人間であり、王族を除けば最上位。いや、リーラン王国の今後と方針次第では彼がこの国の王になることもあり得る。文字通り住む世界が違う存在だ。

彼と相対する事すらおこがましい。姉のサリエと同様に魔法学園の最高権力を持つ人間である。

だからこそ、カモ君は嫌々で、何とか決闘をしないように丁寧な言葉で拒否し続けた。それは一概にトーマがそういう存在だからだ。彼の機嫌一つでモカ領にすら悪影響が出かねない。結局は決闘をすることになったが。

この魔法学園。いや、この国では本来、トーマの前に立つことが出来る人間はそういない。

そんなトーマに意見する事。あまつさえ、決闘を申し込む事すら不敬に当たる。

公爵家と言う地位。魔法使いとしての技量。

その二つを持った相手にシュージは決闘を宣言した。


シュージは激怒した。この傍若無人な目の前の存在を許すことが出来なかった。

シュージには貴族の上下関係などわからぬ。けれどもカモ君の努力と成果をしる友人である。血と汗を何度も口にしているカモ君以上に努力している人を彼は知らなかった。彼が報われなければ他の人間が報われることは決してないと、この時は人一倍に義憤に燃えている。


そんなシュージに対してトーマは冷静になっていた。

姉の目を覚まさせる。そのためにもカモ君に圧倒的力量を見せつけた。

それを果たせたからこそ冷静になれた。

本来、トーマはカモ君。シュージを含めたネーナ王国との決闘に参加した生徒達をもてなさなければならない立場だった。上に立つ者として歓待で迎えなければならないのに、このような迷惑をかけてしまう。それは公爵家に泥を塗る行為だった。

シスコンであるトーマだが、それさえなければ好感を持てる。良識も持ち合わせる人物。

今になってそれを理解させられた。カモ君に決闘を叩きつけた後も、両親からそれとなく止めるように言われてきたが、目的を果たしてやっと響いてきたトーマは申し訳なさでいっぱいだった。

だからこそ、シュージの蛮行を水に流す。それで罪滅ぼしになるとは思わなかった。が、仮にも公爵家。彼の発した言葉は重い。だからこそ撤回も難しい。

シュージの怒りは正しい。しかし、自分の言動の撤回も出来ない。

そこまで考えたトーマはシュージの宣言に応えた。


「いいだろう。特待生。君の挑戦を受けよう」


トーマがそう宣言すると一気に歓声の声量が上がった。

当然だろう。ついさっき。それも一分にも満たない決闘。しかも、一撃でカモ君がやられてしまったから、盛り上がりのない。圧倒的な蹂躙を見せつけられただけでは観客席にいる生徒達は納得いかない。

だが、今。舞台の上に立っている選手は違う。

黄金の炎を身に纏い、明らかな強者の予感をさせる挑戦者。しかも、国家間の決闘で圧倒的な実力で勝利してきたという経歴もある。これならば多くの見せ場があるだろうと大いに盛り上がっていた。

トーマの発言に審判は本当にいいのか確認を取る。決闘の連戦は本来タブーだ。出なければ徒党を組まれて数の暴力で負けることは必至。だからこそ、決闘は申し込まれた側に決定権がある。

申し込まれた側であるトーマが了承したことにより、両社は舞台の上で開始地点へと誘導された。

シュージは、補助魔法を解除して身に纏う炎を消した。が、その瞳の中で燃える怒りは消えていない。逆にトーマは後悔の念が瞳の中にあったが、公爵家としてそんな弱みは見せられないと堂々とした面持ちでシュージを正面にとらえた。


「では、決闘特別第二試合!レディー、ゴー!」


審判から護身の札をシュージが受け取り、所定の位置まで移動した後。決闘開始の合図が鳴らされる。同時にシュージはカモ君同様にトーマに向かって突撃した。

先ほどの焼き増し。トーマにとっては同じ作業を繰り返すだけだと思っていた。

確かにシュージも一般生徒に比べたらレベルが高い方に分類される。こちらに向かってくるスピードもカモ君と同じかそれ以上の勢いがある。だが、その手が自分に届くことは無い距離だ。自分の魔法が発動するには十分な距離もある。

仮に自分とシュージの魔法が同時に発動したとしても打ち勝つのは自分だ。

確かに火の魔法は風邪の魔法を食らう性質がある。しかし、勢い。推進力が風よりも弱ければその威力のまま押し返される。

トーマは自分の魔法に自信がある。姉には一歩及ばないがそれでもシュージの魔法くらいなら押し返せると判断した。最悪、その威力を逸らす事も可能だ。

トーマとシュージの距離が狭まる。残り五メートルの距離でシュージの魔法が少しだけ先に発動した。


「イグニッション!」


自身の身体能力に強化をかける魔法。それを選択したシュージを見て、トーマは彼を失望した。

ここで身体能力のバフはあまりに意味がない。いくら身体を強化しようともシュージの体重ではトーマの魔法を突き破れない。その握った拳が届く前にトーマの魔法を受けてしまう。その魔法でたとえダメージを負わなくてもシュージはカモ君同様に後方へ勢いよく吹き飛ばされ、場外負けとなる。


「ストームエッ」


それが、この場にいるほとんどの人間達の予想。

だが、経過と結果は違っていた。


バキンと何かが割れる音がトーマの右手首から聞こえた。

右手首に装備していた大魔導士の腕輪が二つに割れ落ちた音だった。

カモ君のメリケンサックの強襲を受けた時点で、腕輪はもうすでに限界だったのだ。時間差でそれが壊れてしまった。それが今になって生じた。

ノーキャストの効果が得られるそのマジックアイテムが壊れた今、トーマの魔法は発動しない。

歓声が沸き起こる中、腕輪が壊れた事に気が付いたのはトーマを含めてほんの数人だけ。

その小さな変化と大きく変わった経過で事態は急変する。

トーマも公爵家の人間として訓練を受けている。このような異常事態でも対応できるように戦闘訓練を受けてきている。その身のこなしから、至近距離から魔法を打たれても交わせる実力がある。

トーマは近づいてくるシュージから距離を取ろうともう一度足に力を込めて引き下がろうとした。いつもの自分ならそんなことは出来ないだろう。だが、カモ君を打ち負かした後から妙な万能感に溢れていた。それが、更なる回避行動を取らせることが出来た。


「イグニッション!」


だが、シュージが使った魔法は身体強化魔法。最初の魔法効果が切れる前にもう一度の重ね掛け。その効果はトーマの身体能力を上回る。そして、その振り上げた拳は彼に届くものだった。


ゴッ。と、鈍い音をその場に残してトーマは殴り飛ばされた。回避行動も威力を逸らせるためにわざと後方に身を逸らした。それでも威力は完全には殺せない。それどころか大きく弾き飛ばされたトーマは何度も地面の上を転がされ、気がつけば自分がカモ君を叩きつけた壁付近に転がされていた。…場外負けである。

頬が少し傷む程度のダメージ。ただ、弾き飛ばされたという状況。これはカモ君が受けた決闘。そして、トーマがシュージに対しての予想。

それが、自分に入れ替わったような状況だった。


「な、あ、あ?」


状況は理解した。だが、納得は出来なかった。

何を間違えた。何をどうすれば自分が舞台の上から弾き飛ばされる?

多くの歓声がいつの間にか止んでいた。それはトーマの心境を映しているようで。

どうして自分はここにて、シュージが舞台の上にいる?

そんな葛藤にも似た疑問を抱えているトーマの視界に入ってくる一筋の光。

それはカモ君の装備していたメリケンサック。そして、シュージの纏う黄金の炎。

それが答えを物語っていた。


「そう、か。俺は、君に。いや、君達に負けたのか」


カモ君がつけた小さな一撃を、シュージが繋いだ。

大魔導士の腕輪の小さな異変。されど大きな変化に気が付いたシュージが狡賢く見つけ、勝負を仕掛けた。だからこそ、シュージは接近戦。かつ、身体強化の魔法を使って勝負に出たのだ。

攻撃性の魔法ならその威力と範囲によって自爆する可能性がある。そうすればシュージが身に着けている護身の札も燃えてしまい負けてしまうだろう。

しかし、バフをかける魔法は違う。シュージの魔法は見た目こそ派手だが、あれはあくまでそう見えるだけで熱量は無い。ただ、自身のうちに強烈な力を有しているサイン。

だが、そこまで思いついたとしてもそれを実行できるかは別だ。むしろ、腕輪が壊れたタイミングが都合よく怒るはずがない。それが起きなければ。あと三秒も遅ければ自分達の立ち位置は逆だった。だが、それを確信していたかのように。シュージは力強く舞台の上に立っていた。


「…君はわかっていたのか。腕輪が壊れる事が」


「わかるわけない。だけど、エミールがただ負けるはずがない。あいつはいつだって大きな事を成してきた。それが分かっていたから俺はつき進めたんだ」


そもそもシュージは腕輪の異変に気が付いていなかった。だけど、カモ君が成してきた事をコーテの次に見てきたと自負している。

カモ君がただで負けるはずがない。カモ君なら何かを残している。それが何かはわからない。だが、それはきっと後から続く者達に何かを残すものだと信じていた。

カモ君を馬鹿にされた怒りもあるが、それ以上に彼への圧倒的な信頼。それがシュージを突き動かしていた。人はそれを友情ともいう。


「は、はは。…俺にも君達みたいな友人がいれば違ったかもな」


結局、トーマはカモ君に勝てたが、カモ君に負けたのだ。

その差は目の前の友情を持った人間の差かもしれない。

自分にもカモ君とシュージの関係ような友人がいれば、このような無様な決闘をしなかったかもしれない。挑戦を叩きつけていたかもしれない。だが、しばらくしてもその様子はない。圧倒的強者である公爵家が庇護すべき平民に負けたことにショックを受けて声が出ないだけかもしれない。だが、それでも理解できることがある。


「俺の負けだ。完敗だ」


自分は二人の友情に負けたのだと。




「みたいなことが起きたんだよ」


「………計算通り」


「嘘つけ」


コーテから決闘の内容を知らされたカモ君は冷静な笑みを浮かべながら虚勢を張ったが、即座に看破された。

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