第三話 陰キャと陽キャ
「私から出せるアイテムはオークネックレスくらいしかないわよ」
カモ君を招き入れた執事とメイドとは顔見知りだったため、すんなりと通してくれたが、王城から戻ってきたミカエリから出た言葉でカモ君は撃沈した。
「というか、週末とかあと三日もないのよ?いくら私でもそう簡単に薬はともかくマジックアイテムは作れないわ」
薬ならいけるのか。ドーピングアイテムでワンチャンあるか?
「視力を失う代わりに触覚が敏感になる薬と理性が蒸発して本能丸出しになる薬と腹上死確定の媚薬ならすぐに出せるけど…」
なんで怪しい薬しか出せないんですかね?なんかどれもこれもエロの匂いがプンプンするのだが。
「効果は永続」
嫌だよそんな薬。使っても後がなくなるじゃん。
「それに公爵との決闘でしょ。それで変な因縁はつけられたくはないの。貴族って面倒くさいから」
わかる。貴族ってクソだよな。
相談相手も貴族だという事を忘れたわけではないが、それでも貴族が一度こじれると本当に面倒だ。
これが、侯爵以下。下手したら王家の血が入っていない中でも最上位に位置する伯爵でもミカエリなら何とかしてくれそうだが、公爵は。王族の血は駄目だ。
建国者の血を引く人間は、人間扱いされない。というか出来ない。スペックが違いすぎる。
容姿や知識。体躯に魔力が一般人では考えられない程上回っている。だからこそ、その下にいる人達は逆らえない。…逆らえないはず、なんだけどなぁ。
「…本当に手出しは出来ないわよ?」
「何故、そこで目を逸らす」
それは何かできると言っているようなものだぞ。
しかし、これ以上ミカエリにそれを頼むのも無理だと判断したカモ君は突然の来訪を謝罪し、その場を後にした。
入院で鈍った感を取り戻すために、シュージかアイムに模擬戦を称してトレーニングに付き合ってもらおうと考えなおし、ミカエリ邸を後にするのであった。
カモ君がミカエリ邸から完全に離れた頃。
ミカエリがくつろいでいる部屋に執事に連れられて新たな。いや、カモ君が来る前からこの別荘にいた客が入ってきた。
「彼って、あんなにも砕けた感じなのね。新たな発見をしたよ」
「本性はもっと我儘なんだと思いますよ。…サリエ様」
カモ君が来る十数分前にサリエもまたミカエリの元にやって来た。
要件は無理を言って決闘をさせてしまうカモ君の情報収集。
「もっと楽にしてくださってよろしいですよ。ここには私の従者しかいませんから」
「なら。…ごほん。度重ねてお礼と謝罪を。…私の。いえ、この国の面倒を押し付けてしまって本当に申し訳ございません。ミカエリ様」
人の好い笑顔は鳴りを潜めて。いや、笑顔の仮面を外したというべきか。
ミカエリの目の前にいるのは情緒が落ち着きすぎた少女の姿。
「この国の魔法使いの意識改革。肉体と精神の見直し計画に彼はどうしても必要なのです」
「まあ、私もその考えには同意です。皆が皆、急に彼のようにはなれませんから」
「カオスドラゴンの来訪。そして、ネーナ王国との決闘で思い知ったはずなのに。誰もがそれを認めない。目を逸らす。我々はあまりにも不測の事態と窮地に場慣れしていない」
「だからこそ。トーマ君とエミール君をぶつける。それによって魔法使いの卵。生徒達から意識を変え、あわよくば教師陣。そして、王都に属している魔法使い達の考え方を変える。…貴女も大変ね。常に笑顔を作っているのは」
「はい。ミカエリ様のように力と実績があればよかったのですが。そのように上手くいかないのです」
カモ君が、『クールな優等生』を演じているようにサリエもまた『陽気で人好きする生徒会長』を演じている。
常に余裕を兼ねているが、その裏では血のにじむ努力を決して見せない。
本当は一人でいるのが好きなのに人脈の拡大と維持のために『笑顔』の仮面を常に張り付けている。
弱音を吐きたいが、公爵令嬢足る者としてそれも許されず、本人も自覚している責任感。
実の弟にすら隠し通している陰キャな性格。
それをさらけ出せるのはミカエリだけ。
目の前の才女。地位以外、自分の全てを凌駕する同性の彼女の前でだけ。
きっかけはセーテ侯爵家でのお茶会にて。まさかのホスト側の彼女がゲストに笑顔で拒否した。目の前で中指を立てる一歩手前に迫る雰囲気で追い返した。
その原因はセーテ侯爵との繋がりを利用して私腹を肥やそうとする輩ばかりだった。
戦バカ。研究バカなら簡単に引き込めると思い込み、失礼すぎる言動を行ったため、それを見抜かれ、論破され、叩き返された。
そんな道中で好意的に取られたサリエだったが、追い返される際に小さなため息を零したところをミカエリに見られた。
繋がりを求めたお茶会で追い返されたのに、サリエはどこか安心した表情を少しだけみせた。失敗したことを喜んでいたように見えた場面でミカエリに興味を持たれたのだ。
そして、彼女にと話しているといつの間にか素の自分をさらけ出していた。
公爵家令嬢の仮面を取った自分がそこにいた。その解放感は何とも言えぬものだった。
素性を隠しあっている者同士、シンパシーを感じたサリエはそれ以来ミカエリに頼り始め、ミカエリもまたそれに喜んで応えてきた。
だからこそ、公爵家当主を通さず、魔法学園の生徒会長のサリエに下された王からの命令。
それが、魔法一辺倒に頼る魔法使いの意識改革。
二度にわたるドラゴンの襲来を乗り終えてなお、楽観視する輩の常識を叩き直さなければならない。その白羽の矢が立ったのが、彼女であり、カモ君だ。
上級魔法を使うだけでなく、冒険者仕込みの格闘術。そして、ガッツ。を、魔法学園の生徒に持たせることが出来たのなら自国の防衛力に繋がる。
そのためにサリエはあえて道化を演じ、カモ君をはめた。だが、問題がある。
それは、
「…トーマを相手にエミール君は勝てる。いえ、どれくらいもつでしょうか?」
「普通なら十秒もないでしょうね」
そう、トーマとカモ君の力量差。
レベルという数値だけを見れば同レベルだろうが、スペックが違いすぎるだろう。
何度も死線を乗り越えてきたカモ君ほどではないが、トーマも公爵家として訓練を積んできている。いや、高レベルの魔法使い。そして、将軍レベルの近接戦闘の訓練を受けている。
その上、トーマはカモ君を敵視している。サリエを言う最愛の姉を誑かせていると思われる輩に手加減も慢心もしないだろう。
更には魔法使いの相性。風は地(カモ君)に強い。
カモ君の魔法は悉くトーマの魔法に吹き飛ばされる。近づくことも出来ない。だからこそカモ君はこちらに助けを求めてきた。
トーマが強力な風の魔法使いと言うのは周知の事実。だからこそ誰もがカモ君が勝つことは無いと考えている。
それにミカエリはシルヴァーナの修復に忙しい。
実はカモ君が前回の決闘でぶん取ってきたマジックアイテム。それとシュージとカヒーが攻略した養殖ダンジョンで出土したマジックアイテム。そして、リーラン王国のへそくり。宝物庫に収められていたオリハルコンを合わせれば、シルヴァーナ修復が可能となった。
現在はマジックアイテムの心臓と血管ともいえる回路を摘出している最中であり、ミカエリはこの後すぐにでも作業に入らなればならない。
カモ君とサリエの手前、余裕を持って接してきた。が、カモ君の援助よりも、公爵家令嬢の嘆願。その上の王家の命令をこなさなければならない。だから援助も出来ない。
だが、そんな状況でもカモ君なら。なんか、こう、するんじゃない?くらいの期待は持っているミカエリ。
カモ君は確かに一般魔法使いよりは強いが、トーマには勝てないと考えているサリエ。
二人の令嬢の考えは、二日後。見事に当たった。
「勝者!トーマ・ナ・リーラン!」
決闘が始まって一分もかからなかった。
無傷のトーマと、全身をズタズタに切り裂かれあちこちから出血し、決闘の舞台から弾き飛ばされ、コロシアムの壁に叩きつけられたカモ君の姿があった。




