第二話 君は駄目な奴だなぁ。ほんと、だめ。
「…え?」
カモ君達が騒いでいると。サリエの口からカモ君の声でそう宣言した。
勿論、カモ君はもちろんコーテ達も驚いていた。声の出所はサリエ。しかし、少し離れたところから見ているシュージ達からだとまるでカモ君が宣言したかのように見えた。
呆気に取られているカモ君達をよそにサリエの口からカモ君の声で日にちが告げられた。
「「ちょうど、次の週末に決闘場が空いているからお受けしますよ。サリエ先輩」ありがとう。エミール君。お礼は期待してね」
それはサリエの一人芝居のようにも見えた。だが、少し離れた場所から見るとそれはカモ君が承諾したようにしか見えない光景だった。
「エミール君。ドタキャンとかしたら公爵家はもちろん君の家にも泥を塗ることになるから出来るだけ控えるようにね」
サリエはまるで捨て台詞のように告げるとその場を離れていった。
「ああっ。入学して早々に魔法学園目玉の決闘を見ることが出来るなんてラッキーだな!」
「しかも生徒会長の肝いりだなんて楽しみだわ!」
「今のうちに席を取っておかないと!」
「放課後にトトカルチョやるぞ!生徒会副会長対たたき上げ貴族の一騎打ちだ!」
その光景の後に沸き上がった歓声にカモ君はようやく自分がはめられたことに気が付いた。
「…やられた。ハウリングか」
風の補助魔法には身体強化も少なからず含まれる。遠くに声がよく響くようにする魔法。ハウリングボイス。上級者になればモンスターから人間まで一時的な行動をキャンセル。スタン効果を出すことが出来る魔法。それの出力を弄れば他人の声を出すことも出来る。それには緻密な練度と制御が必要になる。
彼女もまた公爵。魔法で成り立っていると言ってもいいこの国の公爵の娘だ。自分の声を真似るなど楽勝なのだろう。
自分の声と言う嘘の証言と周囲の証人達。
公爵家令嬢と貴族未満の自分とでは心証が彼女に傾くこと間違いなし。余計な反対意見は不利になるだけだし、最悪モカ領にまで迷惑をかける。
今のモカ領はガタガタだ。何かあればすぐにでも崩れる状況なのに自分の粗相があれば簡単に崩れる。そうなれば必然的にクーやルーナ達の印象も悪くなるわけであり、最悪の場合を考えるとなると。
『死んでも決闘を受けろや!クソ兄貴!』
『どうせ失くすのはお前の尊厳だけだろが!』
俺の愛する弟妹はそんな事は言わない。
でも、それの欠片ほどの悪印象も受けたくないのでカモ君はもう決闘を受けるしかなかった。そうならないために何度も丁寧に断って来たというのにサリエの策略の所為でこんな事になってしまった。
というか決闘になれば賭ける品が必要である。カモ君がかけられるものと言えば、外付け魔法力の効果がある搾取の腕輪(敵国の姫付き)。と、身を軽くするウールジャケット。この二点である。
え、嘘でしょ?高ステータスであろう生徒会副会長様相手にこんなピーキーな装備で挑めと?
火力が。火力が足りなさすぎる。鉄腕が当たればワンチャンありそうだが、当てられる気がしねえ。というか自分との相性が悪すぎる。
しかもゲームでは副会長のトーマは遠距離攻撃が得意だったはず。こちらの防御を荒々しい風の刃でゴリゴリ削るタイプだった。しかも近づけばその分距離を取られる。ヒットアンドウェイな戦術が一つの動作で出来る。
い、いや。まだつけ入る隙はあるはずだ。なにせこちとら低スペックの『踏み台キャラ』だ。ゲームでもあちら側がカモ君に目をかけたり、気にする描写は一切なかった。相手が油断していれば必ず隙は生まれる。…はずだ。
「エミール。どうするの?」
「…やるしかない、さ。これだから貴族様は嫌いなんだ」
因縁吹っ掛けられるのは主人公だったはずだろう。なんで俺なんだよ!?
フィジカルでゴリ押す魔法使いだから?仕方ないだろう!これ以上マジカルが上がらないんだから!フィジカル鍛えるしかないんだよ!
しかも主人公や主要キャラクターに比べれば微々たるもの。今のシュージにでさえ、もしかしたら魔法無しでも負ける可能性大だ。十回に八回は負けると思っているカモ君。
色眼鏡付きでこちらを高く評価してくれるのは嬉しいがそれに見合うだけの結果は生み出せていない。
「これ、使う?」
「いや、負ける可能性が高いからそれは使えない。それまで失ったらさすがに今後生き残れる気がしない」
ただでさえコーテのサポートがあってギリギリなのに、彼女の杖まで失えば生きていける自信がない。というか、コーテの実家にもこれは自分と彼女の絆のようなものだと手紙を書いた覚えもあり、これを失う=彼女との絆も失う。彼女の父、グンキにボコられる。弟妹に嫌われる=兄の威厳の死。
「…勝てる見込みはあるの?」
ここまで不安材料があると告げられたコーテは素直に不安を口にした。
これまで多くの逆境を乗り越えてきたカモ君は不敵に笑った、
ミカえもおおおんっ!決闘受けることになっちゃったよぉおおお!なんか道具出してぇええええ!
その日の放課後。
上記の内心をオブラート加工させ、なんとか兄のメンツを崩さない程度に抑えながら、王都にあるミカエリの別荘に駆け込むカモ君だった。




