第十二話 カモを守る剣と風。
カモ君達を乗せている馬車に追随するセーテ侯爵専用の馬車。
その中は豪勢ともいえるが、それ以上に高性能な設備が整っていた。
防御面も優れていた内部でメイドと二人でくつろぐミカエリだったが、メイドから不意に声を掛けられた。
「カズラ様からの伝令です。『ハイエナをもう一匹潰してきた』と」
「また?懲りないわね。風の魔法使いが警戒しているのにわらわらと蠅のように酔ってくるのね」
ミカエリはカモ君を揶揄う形で彼等と共にリーラン王国に戻っているが、その実彼等の護衛も務めていた。それは雇い主が変わった瞬間にミカエリからカモ君達を護衛せよと命じられたカズラも同様である。
まさか、いきなり仕事を割り振られると思わなかったが、まさか雇われて二日でカモ君を害そうとやって来た謎の刺客をボコボコにしてリーダーと数名を捕縛。別の馬車に閉じ込めて残りをその辺に放り投げている事十回以上。
真冬でモンスターが出現しにくいとはいっても動けなくなるまでボコボコにされた彼等がどうなろうと知った事ではないが、こうも襲撃が続くと嫌になってくる。
幸い、カズラはカモ君達に恩義があるから進んでやってくれているがこうも続くと彼女以外の護衛の人間が疲れ果ててしまう。だが、もうすぐリーラン王国の領地に入る。そこに入れば少しは収まるだろう。
「でも…。帰ってからも問題はあるのよね?」
「そうなりますね。エミール様の方は落ち着くかもしれませんが、シュージ様は今回の一件で騒動の渦中に入るでしょう」
平民でありながら火属性のレベル4.特級魔法を使うことが出来る少年。
己の兄と同じ『超人』に並ぶかそれ以上の才能。そして、今は秘匿にしている『主人公』という立場。どんな立場の人間でも彼を欲するのは確実だ。
囲い込むのはたやすいと思っている輩は多い。が、それを解決する一手がある。それは彼を王族の血族に。リーラン王国の姫か公爵家の娘の伴侶にすればいい。
が、ネーナ王国の工作もありその血筋の者もゴタゴタが続いている。というか、今でもセーテ侯爵に付きまとっている問題をシュージに捌けるか?無理である。
貴族は自分達も含めて強欲だ。自分の利を取るためにあらゆる手段を用いるだろう。
シュージが。というか、そうなればカモ君も動くだろう。それはあまりに面白くない。
「あーもう。面倒くさい」
「では見捨てますか?」
「わかっているでしょ。私がこんな時どうするかなんて」
そう、ミカエリは面倒くさいと面白くない。その両方を天秤にかけた場合どうするか。目の前の従者もわかっている。
その知力と実力。権力を持って天秤ごと遠くへぶん投げる。
こちらを拘束してくる輩と目論見をぶち壊す。それはとても面白いと考える女だ。
セーテ侯爵は、あらゆる面で自由奔放。文句があるやつは力(謀略・知恵も含む)で黙らせる。今でこそ困っている表情だがその口角は上がっていた。
だが、それはそれとして。これだけ自分達が尽くしているんだ。少しくらい彼等で。特にカモ君で遊ぶのは当然の権利だろう。
「あ、新しい反応。カズラに伝えて頂戴。東南東の方から五つの反応。魔法使いが一人いるから気を付けるように」
「承知しました」
そう言うとメイドの姿が一瞬にして掻き消える。このメイドは常に自分を護衛する忍者である。数秒後には元の場所に現れるのだが、その初動などがすぐ近くで見ているミカエリには捉えられずにいた。が、いつもの事なので、次の休憩でカモ君の現状の一部を記した借用書を彼に見せて楽しんで来ようと考えるミカエリであった。




