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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
旗だらけのカモの煮っころがし
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第十一話 その微笑みの下にあるもの

リーラン王国対ネーナ王国の共同決闘はリーラン王国側の勝利で幕を閉じた。


「いやいや、倒した相手側の装備の使用はやはり駄目でしょう。というわけで無効という事で」


「それこそ駄目に決まっているでしょう。そもそもそちらにだってはぎ取る機会があったのにはぎ取らなかっただけでしょうに」


まあ、こちらの装備品が相手側の装備品に比べるとしょぼかった。取らないでも勝てる自信があったんだろう。


「だが、そちらの選手は見るからにボロボロじゃありませんか。両者を見比べてどちらが勝者かなど言われなくてもわかりますよ」


「ええ。こちらの選手は五人とも現存。そちらは逃走して残り二名しかいませんね」


いや、確かにダメージの比率はこちらの方が大きい。主にカモ君が酷い。

シィは見た目こそひどいがそれほど思いダメージは負っていない。イタは魔力を多大に消費したがまだ自立できる。

シュージは魔力を消費しただけでほぼ無傷。ネインは戦ってすらもいない。ほぼ万全状態。


相手側もカズラはほぼノーダメージだし。セカマと呼ばれた選手も気絶しただけで目立ったダメージはない。


もし両者が戦えばワンチャン負けるかもしれない。

魔法殺しが無くてもカズラは相当素早い。接近戦に秀でたカモ君(肉盾)を欠いた状態で戦えば負けるのはリーラン王国側になる。


「しかしですね、これがルール無用の試合だった場合、明らかにこちら側が勝利を収めているんですよ。子供と言わず、強力なマジックアイテムを多数つけた我が軍事力ならば負けは無いでしょう」


「あら?圧倒的な力を持つ私の兄の一人に押し返された軍事力がなんですって?」


後になってわかるが、ネーナ王国側がカヒーとビコーが一人ずつになるのを見計らったように軍事演習をしようと申し出たことがあった。

カヒー一人。もしくはビコー一人対大軍とも言ってもいいほど部隊のぶつかり合いで、この二人は完勝したらしい。

こわっ。カヒーさんとビコーさんこわっ。

たった一人で軍隊を追い返すとかどれだけ?主人公やラスボスより強いんじゃねえの?


「でも、こちらはそちらにも情報を渡したわけでして、これが戦場ならば」


「しつこいですね。それに戦場と言うのであればこちらもそれ相応の場所でやります。それにどんな地形、情報秘匿があろうとシュージ君の魔法を使われれば終わりでしょうに」


本当にそれな。


決闘が終わり、勝者宣言からしばらくするとミカエリとネーナ王国の使者が何やら問答をしながらカモ君達のところまでやって来たのだが、その内容がひどい。

この決闘は無効だとか。リーラン側の判定負けだとか。非人道的なので反則負けだとか。様々な言い訳を使ってなかった事にしようとしてくるのだが、ミカエリはそれをすっぱりと切り捨てて、勝利した側。つまりリーラン王国に渡されるアイテムや領土。人的資産をもらい受ける話し合いになっている。


はっきり言って、今回の決闘だけでもスパイを使っての諜報。

モカ領での悪事による足止め。

ライツを使っての寝返り。

更にはリーラン王国側の上級貴族にまで手を出しているネーナ王国のほうが不正を多く行っている。


カモ君は目の前で口うるさくしゃべる使者が煩わしくなっていた。

もし体が万全ならば殴って黙らせようとしていた。が、ミカエリが気持ちのいいくらいに正論パンチをする。その度に苦虫を噛み潰したように顔を歪めながら真っ赤になる使者殿。


「黙っていればっ、このあばずれが!力づくで黙らせることが出来るのだぞ!いいから此方のいう事をきけば、…うぐぅ」


「あら、力づくが何でしょうか?」


忘れかけていたが、ミカエリはレベル4。風の特級魔法使いだ。彼女が魔力を開放するだけでもその気配は周りの人間にプレッシャーがかかる。とくに目の前の使者のように日ごろから動いていないのが丸わかりな肥満体ではなおさらだろう。

シュージが巨大な火ならばミカエリは針山のような気配を感じさせる。というか、シュージも目の前のやり取りにムカついてきたのか、掌に小さな火柱を生み出し、それを見せつける。

使者は自分の要望を飲まないので耐え切れなくなったのか大声をあげてこちらを黙らせにかかったのだが、見事に返り討ち。


「わ、私を脅すのか!国際問題になるぞ!」


「どの口で言っているんだか」


ブーメラン発言という物をご存じでない?

まあ、投げた瞬間に自分に刺さっている自覚もない。こちらに接敵する前に突き刺さっている状況を見るに一種の自白のようにも見える。

そんな事を考えていると使者の後ろから威厳のある壮年の男性が現れた。どうやら使者の上司か、それ以上の人物が蛮行を止めに入った。


「やめんか。これ以上は見ておられん」


「し、しかしですね。これでは私の沽券にかかわります」


「そんなものはどうでもいい。国の品格まで疑われる。お前は黙って帰るがいい」


注意された使者は赤くしていた顔を青くしたが、どうでもいいと言われたことにまた顔を赤くしたが、上司らしき人がにらみを利かせると、顔を赤くしたまますごすごと下がっていった。


「すまなかったね。もう少し早く止めるべきだった」


「よく言いますね。こちらが折れる可能性が無いと判断するまで黙って見ていたくせに」


上司の苦笑しながらの謝罪にミカエリのカウンター発言が入った。

…そうなんだよな。止めるならば最初の発言で止めるべきだったのに、ずっと使者に喋らせたところを見るとこいつもこいつで要求呑むかも。とか、想っていたんだろうし。

現に、目の前の上司さんは顔を赤くはしないが、口元がひくついていた。図星を突かれたのか、それとも歩み寄ってきた手をはたき落とされたとでも思っているのかは知らんが雰囲気は先ほどの使者に腹黒さを混ぜた感じだ。今もなお、その笑顔の下から感じる下心。それが本当に気持ち悪い。


「…こほん。では、勝者への賞品。今回こちらで使ったマジックアイテムや装備品は後日そちらに届けよう」


「ええ。この場でそちらの物を受け取りましょう。土地。金。その他マジックアイテムは後日送り届けてくださいな」


このクソアマァアアアアっ!


とか、想っているんだろうな、目の前の上司。


ここでもらえる物は全部持っていく。ごまかしがきかないようにしっかりと抑えていくと発言したミカエリに従うしかない。

後になって、今回の決闘に使われたアイテムの劣化品を渡されるかもしれない。渡すことが確定したのならそれを少しでも減らそうとしたんだろうが、ミカエリにはそれが透けて見えたのだろう。

小馬鹿にする表情のミカエリに頼もしさを覚える一方で、彼女に多大な借りがあるカモ君。請求される側だった自分の未来の姿を上司に重ねてしまった。少し涙が出そうになった。


「人材の方も。と、言いたいところですが、あまり期待できそうにないですね。彼女以外」


そう言って、ミカエリが視線を向けたのはカズラたった、

まさか自分にお鉢が回ってくるとは思わなかったカズラは困った様子で頬をかいた。


「え、ええ。彼女は冒険者にしておくには惜しい人材でしてね。ぜひ、正式に我が軍に属してほしいくらいですよ」


「人材の方は彼女と。…そうですね、そちらが長期で雇っている腕利きの冒険者数名で手を打ちますか」


今回の決闘だが、リーラン王国は領地と人材(シュージとカモ君)が賭けられており、ネーナ王国もマジックアイテムの他に領地と人材が賭けられていた。

ネーナ王国は欠片も負けるとは思っていなかったので、何を差し出すかは相手側に任せていたのだ。だが、その驕りがこうして返ってきたのだ。

差し出す人材は三人ほど。ここでネーナ王国貴族の令嬢や子息をもらい受けることも可能なのだ。が、ミカエリにとってそれは魅力的には見えなかったのだろう。

確かにネーナ王国の強力な人材は欲しい。だが、それ以上に腹に一物どころか十物以上ありそうな危険人物を取り込むより金を払えばある程度まで従う冒険者の方がいいと考えた。


「では『蒼閃』のカズラと、そちらで雇っている『傀儡』のドーマ。『天眼』のコウジの契約をそのままこちらに渡してもらいましょうか」


「それは、さすがに…。本人たちの意向もあります。冒険者は何より仁義よりも自由を優先します。彼等の了承が無ければ何とも」


「では、そちらの姫か王子を見繕ってくれますか?人質としてか役立ちません。というか、機能するのも怪しいですがそちらで手を打ちます」


強力な冒険者いなくなるのはとても痛い。特にミカエリの上げた三名はネーナ王国が抱えているTOP3と言ってもいい冒険者だ。それがいなくなるだけでなくリーラン王国側に行くのは痛手すぎる。

だが、これが通らなければ姫や王子を寄越せという。ネーナ王国にも十以上の姫や王子はいる。その下にはいくつもの派閥。貴族のグループがある。差し出した場合、そのグループから敵視さられるのはもちろん、売国行為とみられ貴族だけではなく平民からもさげすまれた視線に囲まれるだろう。かといって上記の冒険者を手放すことは国力の低下に繋がる。


「そ、それは。私の判断ではどうにも」


「あ~、僕は同じ条件ならリーラン王国に言ってもいいよ。勿論、違約金とかは無しの方向で」


「で、では。『蒼閃』のカズラはそちらにお譲りします。残りの二人は持ち帰らせてもらえますか」


「仕方ないです。早めにお願いしますよ」


戦力を取るか安寧を取るか。

最もリスクの低いのはここでカズラを差し出すことだ。

上司はネーナ王国から、最悪負けても、罰は与えるが打ち首にはしないと言付けを受けている。そして、今のやり取りでカズラはこちらを裏切る可能性が高いと判断したので彼女を引き渡すことにした。

そもそもカズラの強みはその素早さと魔法殺しでブーストされた戦闘力だ。魔法殺しを手放した以上、彼女の優先度は落ちると考えていた。のだが、


「では、カズラさんは正式に俺たちの味方になるってことでいいですか?」


「まあ、そうなるかな?雇い主はネーナからリーランに移ったから正確には違うかもしれないけど。敵になることは無いよ」


「じゃあ、これはお返しします。俺達からの契約金という事で」


目の前でカモ君から魔法殺しを受け渡されるカズラを見て、上司は声を荒げることを必死に堪えた。


シュージは魔法を主にして戦う、典型的な魔法使い。

カモ君は魔法ありきの格闘術。両方あっての魔法戦士。


この二人に魔法殺しは持ち味を殺すことになるのではっきり言って魔法殺しは必要ない。

そんな不必要なものでカズラを正式に雇い入れることが出来るのなら安い物である。


「エミール君、ナイスタイミング」


敵が唯一と言ってもいい利点を目の前で潰したカモ君に親指立てるミカエリ。

上司からしたらこの上ないくらいに居たくない場面である。


「で、ではこちらにも準備する者がありますでこれにて失礼します」


「あ、ちょろまかしが無いようにうちの者もつけていきますからまだ失礼は出来ませんよ」


ミカエリと共にやって来たリーラン王国側の使者の一人が足早に去っていく上司の後をついていった。

場の雰囲気の悪さ。というか、ミカエリの纏う雰囲気がここで切り替わる。


「皆。お疲れ様。苦戦するとは思っていたけど勝ってくれて本当に嬉しいわ」


絶世の美女と言ってもいいミカエリの笑顔で勝利を祝福されたシュージ達は顔を赤らめながらも笑顔でそれに応えた。

その中には死線から解放されたことにより精神的にも緩んでいたカモ君も含まれていた。が、すぐさまコーテに左足を触る程度の強さで小突かれた(重症のため激痛を伴う)のですぐに引き締めることになったが。


カモ君はその直後、医療施設に運び込まれ、丸一日適切な処置を受けることなった。シュージ達もそれに付き添い、リーラン王国へ戻る日は一日遅れたが、共に戦ったカモ君を置いていくなど考えてもいなかったため誰もが嫌な顔を一つもせずに帰路に就くことになった。

帰りの道中ではネーナ王国側の使用したマジックアイテムの山分けやリーラン王から賜る褒美に心躍っていた所を、共に別の馬車で帰路に就くミカエリ呼び出されて、こう言われた。


「これで、王族からのミッション。五分の一は消化したわね」


そう。多大な褒美が約束されているこの決闘も、カモ君が抱えている借金というか任務の五分の一にしか満たないのである。


ハッピーな気持ちで帰らせてくれよぉ…。


カモ君はその憂鬱な現状を悟られないように笑顔でシュージ達のところへ戻っていった。

こうして、本当に今回の決闘は幕を下ろしたのである。

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