第六話 貧弱の殴り魔法使い
倒れ伏している勝者であるカモ君を傷一つついていない敗者のカズラが、その手を取り健闘を称えながら彼をシュージ達のところへと運んだ後に自分のチームの場所に戻った。
そこで待っていたのはチームメイトからの侮蔑の言葉だった。
「き、貴様っ!あれだけの報酬を渡してやったのにこの醜態はなんだ!」
「いやぁ、これでも全力だったんだよ。それで負けてしまったんだ」
カズラは両肩をわざとらしく上げながらもお手上げと言わんばかりの態度を表した。
そう、カズラは一応全力だった。全力でカモ君を無力化しようとした。
カモ君達に恩義がある彼女は現雇い主から全力で戦う事を命じられていた。だが、倒し方までは注文されていない。
彼女が殺す気でカモ君を害そうとするのなら、下から上へと切り上げる動作ではなく、心臓。もしくは脳天。喉元への刺突。そうすればカモ君も反撃は出来ずに死んでいた。
カモ君を殺せば特別報酬も約束されていたが、そこまで金に執着していないカズラは気が進まなかった。だが、依頼は依頼。きっちりとこなすのが彼女のスタイルだった。
「…奴等に手加減したのか?」
「いいや。全力だったさ。僕は全力で剣を振るっていたさ」
ここが戦場であれば。場外負けと言うルールが無ければカズラはカモ君に負けることはなかった。カモ君に吹き飛ばされようともノーダメージ。綺麗に着地も出来る上に、すぐさま距離を詰めて再度切り裂くことも出来た。カモ君もあの状態では成す術なくやられていた。
「ちっ。まあ、いい。あっちは運よく勝てたんだ。あちら側の種も割れた。もうこっちの負けは無い」
舌打ちをし、ローブを脱ぎ捨てながら舞台に上がっていくネーナ王国の次鋒を務める男性選手が上がる。
一応、魔法を学んでいる生徒であるため、経歴に嘘はないが、修学期間満了を目の前にしているエリートでありながら近接戦闘を得意とする二十歳。成人済みかつ絶頂期ともいえる年ごろ。
そんな彼だからこそカズラの剣戟の凄さは理解していた。この場にいる人間で彼女の剣を受けてまともに立ち上がることが出来る人間はいない。特に俊敏性は信用している。
剣戟において。自分が得意な長剣すらも軽々と弾き飛ばすカズラを倒したカモ君だが、見るからに弱っているように見えた。
自分の魔法で腰を強打したことが尾を引いているのか、そこを押さえながら舞台に上がってくる彼は見ていて痛々しい。が、カズラを除いてネーナ王国の人間は嗜虐的に笑っていた。
「ふん。だが、まぐれだ。どうせ、あのカモ野郎はすぐに真っ二つになるだろうよ」
「よーう。セカマ。運がよかったなぁ。もう、相手はボロボロだぜぇ」
セカマと言う選手の装備はミスリルやダマスカスと言った希少金属を使ったライトアーマーに額隠しに似た兜を装備した魔法剣士。補助魔法で魔法に対する防御力を底上げすることも出来る。というか、既にそれを使っているためにカモ君の魔法は彼には殆ど届かない。
実力は一般冒険者の二倍近くの膂力と剣術を収めている。万全のカモ君とも多少泥仕合になるが競り勝てる。カズラのように場外まで魔法で吹き飛ばされることはない。
「決闘開始!」
そして、決闘が開始された。
カモ君は疲弊&疲労状態。こちらは万全状態。
ネーナ王国のチームメイトは誰もが勝ちを確信していた。
ゲラゲラと下品に笑うチームメイトをカズラも笑顔で見ていた。だが、それはカモ君達に対してではない。チームメイトであるネーナ王国の選手に対してだった。
ドゴンッ!
まるで砦の門を破壊する破城槌がぶつかったような音が響く。数舜後には、ガシャンガシャンと音を立てながら、舞台の上から場外へ落ちていきながら、セカマが彼のチームメイトの足元にまで勢いよく転がって来たのだ。
「…しょ。勝者。エミール・二・モカ」
「「「「「は、はぁあああああああ?!!?どういうことだよ!セカマ!」」」」」
負けることはない。そう思っていた決闘で秒殺された。
秒殺する事はあってもされることはない。そう思っていた。だが、結果は見事に逆。
舞台の上を見れば拳を振りぬいた姿勢のままのカモ君がいた。
首元にチートアイテム。カズラのアイテムだった『魔法殺し』をネクタイのように巻いているカモ君がいた。
カズラに紛いなりにも打ち勝ったので彼女の装備していた物を受け取っていたカモ君の姿を見た。
「「「「「ふ、ふざけるなぁあああああっ!!」」」」」
ネーナ王国側は大声で叫んだが、ルール上は間違っていない。文句をつけるのは間違っているよ。と、カズラは目の前で醜く慌てているチームメイトを見て微笑んでいた。
そして、拳を振りぬいたままのカモ君はと言うと。
いってぇええええええっ!!指折れた!指の骨折れたぁ!!
でも、これなら。この決闘、勝ったな!ガハハ!コーテに早く治してもらおう!
チートアイテムの反動で結局はダメージを受けてしまったため、拳を振りぬいた体制を解けずにいた。
外見ではクールに振舞うが、内心は良い意味でも悪い意味でも泣きわめいていた。




