第五話 自爆ぶっぱ初見は度肝を抜かれる
カズラのレイピアの攻撃を受け、仰向けに倒れたシィは派手に出血しているように見えるが切り口は浅く、ポーションをかければすぐに閉じる浅い一撃を受けた。
気を失っているのは、おそらく顎を軽く殴られる形で衝撃を受けて気絶したカモ君はシィを舞台から降ろしながらそう考え、シュージ達の元までたどり着くとシィの怪我の手当てをコーテに任せる。彼には悪いが、支給されたポーションやコーテの残り少ない魔力を使った回復は出来ない。この先の決闘でどれだけ消費するかわからないからだ。
と、同時に感づく。カズラに対抗できる人間がろくにいない。
シュージ。ネイン。キィ。イタ。
このメンバーはノーキャストと言う即時発動魔法は使えない。そのため、魔法を使う前に仕留められる。
シュージの持つアイテム。ゴリラの心得でステータスの入れ替えも考えたが、駄目。体術では当たり前のようにカズラが上だ。しかも、魔法殺しでフィジカル面のブーストが効いているカズラには勝てない。
というか、あれだけ素早いカズラに攻撃が当たるかもわからない。
彼女を捉えるには範囲攻撃による面制圧。それが出来るのが魔法なのだが。詠唱が出来なければ無理。
カズラの一撃に耐える。そして、広範囲の魔法攻撃を行う。
この条件を満たさないと勝てない。
そして、それをギリギリで満たせるのがカモ君。それ以外では無駄に負け越してしまう。
クイックキャスト(笑)のスキルを持つカモ君ですら魔法が発動する前に一撃をもらうだろう。が、ぎりぎり。本当にギリギリだが一発は耐えきれる。かも、しれない。
…こうなったら情に訴えるか?
駄目だ。番外戦術を思い浮かんだが、相手もプロの冒険者。昨日味方だった冒険者仲間が敵になって斬りあうなんてざらだ。というか、カズラと話をしたいと伝えるにはネーナ国側の待機所まで赴かなければならない。あからさまなスパイ行動などさすがに許されない。
順番を繰り上げて、自分が出張るしかない。
「すいません。ネイン先輩。次は俺が出ます」
そう考え熟考したカモ君は、剣を握りしめているネインの肩に手を置いて彼女を押しとどめながら部隊会場へと向かう。
「い、いいえ。エミール君。次は私のはずでしょう。私が」
「あいつに敵うのはおそらく俺だけです。だから俺に任せてください」
カモ君はネインを押しとどめる為に敢えて事実を述べた。が、全てではない。
恐らく、ネインは戦えない。
先の戦い。本当に一瞬で決着した光景を見て、彼女もわかってしまったのだ。自分の剣では勝てない。魔法も当てらない。と、
何より彼女の足は震えて一歩も動けなかった。カズラの戦闘力にビビった。だけではなく、自分の死を幻視したのだ。
シィは薄皮一枚だが、派手な出血を見せた。あれは運が良かっただけ。じゃあ、運が悪ければ?考えたくもない。
気丈に振舞っているが、ネインは戦意喪失。いるだけの選手になった。
「カズラさん。どうして…」
「…なんで、敵側にあいつがいるのよ」
シュージは以前、共闘していたカズラがなぜネーナ側にいるのかわからずショックを受けており、キィは仲間キャラであるカズラがどうして敵対しているのかわからなかった。
だが、カモ君はここにきてやっと思い至った。
カズラは傭兵として、ネーナ王国の学生になることを『依頼』された。
魔法が使えない彼女でも魔法学園で学ぶことは出来る。
その依頼先である学校ではカズラのような相手にどうすれば魔法が有効なのかを。彼女には魔法の構造や詠唱を知るという名目で依頼されたのだ。
それはちょうどアイムのような案件だ。
冒険者は魔法使いを。魔法使いは冒険者を知ることが出来る。
自分に金があったらカズラをそう雇っていた。
気付くのが遅かった。気付いても実行できるだけの力がなかった。すべてが遅かった。
そのつけがこうなった。
カモ君は大きく後悔したが、現実は変わらない。
「イタ先輩。俺にもバフをお願いします。耐久が上がりそうなやつをお願いします」
「や、やりますけどぉ。エミール君、勝つ見込みはあるんですか…」
シィにも敏捷や耐久が上がる魔法は使っていた。だが、それをしてなお、シィはろくに反応できずにやられた。カモ君はシィ以上に丈夫そうだがカズラの一撃を耐えられるかわからない。
そんな不安の中でカモ君に補助魔法をかけるイタ。その不安はコハクを除いたメンバーにも伝わっていた。
「エミール。そんな補助魔法で大丈夫?」
「一番いいものを頼む」
コーテの言葉にカモ君はイタが使える補助魔法で一番効果がありそうなバフをもらう。
ライフアップと言う体に力が漲るという効果の魔法で、ゲームでは体力値を一時的に増幅させる光魔法。
イタはそんな魔法をカモ君に使用する。カモ君は左手を何度も握り直して調子を確認すると、待機所であるその場に寝かされているシィに感謝の念を送りながらカモ君は舞台に上がる。
相手側の休憩時間はもうすぐ終わる。下手すれば時間切れになるかもしれない事もあって、カモ君は次の決闘開始時間の一分前には舞台に立った。そこにはカズラも既に立っていた。
「やあ。久しぶりだね。見ない間に随分と風変わりしたじゃないか」
「まあ、いろいろあったんですよ。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・本当に、いろいろあったなぁ」
好青年のように爽やかに話しかけるカズラだが、カモ君がこれまでの苦難を思い返してあまりにも感慨深い様子を見て追及するのを止めた。
「君達には恩義は感じているが。それはそれ。これでも名の通った冒険者でね。手は抜けないんだ」
カモ君が想定した通り。カズラはネーナ王国に期間限定。それも今回の決闘が終わるまでの契約でネーナ魔法軍学校の生徒になっており、今回の決闘に参加している。
カズラは相手がカモ君達だから命までは取らないが、手を抜くことも無い。それ相応の報酬も受け取っている。が、カモ君達にも恩義を感じている。だからこそ手加減してシィを気絶だけに留めた。
「それは、まいったなぁ。…ごほっ。決闘前に失礼」
カモ君はわざとらしくせき込み、それを左手で押さえた。
それを見たネーナ側の控え選手たちは嫌な笑顔を作る。やはり、カモ君は弱っているのだと。
リーラン王国の控室に潜んでいた密偵の持ってきた情報は正しかったのだ。
「…風邪かい。それじゃあ、最短最速終わらせないとね」
カズラはその仕草に何かを感じ取ったのか気遣う様子を見せる。が、それと同時に自前のレイピアを構える。
カモ君が何度もせき込む姿を審判も見ているが、無情にも試合開始のカウントダウンを始める。この審判もまたネーナ王国側の人間だ。カモ君が苦しむ姿を見て、舞台の端からいやらしい笑みを浮かべている。
「では二回戦。エミール・ニ・モカ選手対カズラ・カータ選手。試合開始まであと三!」
無情にもカウントダウンが始まるが、カモ君は咳がひどいのか構える事すらできないように見えたシュージ達は焦っていた。
「そんな!まだ風邪が残っていたのか!?」
「やばいわよ!カモ君!」
依然カモ君は咳をしているのか体を時折震わせている。
「二!」
「嘘でしょ?!エミール君!」
「やっぱり私が出ていれば…」
イタはカモ君の様子に不安が募り、ネインは震える自分の足を強く叩いて動かそうとしていた。
「一!」
「…エミール。また無茶をして」
体を震わせているカモ君を見て心配するコーテ。だが、その心配の内容は違う。
彼を送り出す寸前まで見ていた。これまでの付き合いの長さからわかる。
風邪の心配ではない。別の何かを心配している。
「決闘開始!」
と、審判が声を上げると同時にカズラは、五メートル以上は離れていたカモ君との距離をゼロにしていた。
まるでシィと同じ場面を繰り返しているような光景だ。既に彼女のレイピアはカモ君の右太ももから左肩にかけて振りぬかれていた。コーテ達から見る限り、カモ君の体も斬りつけられて血が噴き出していた。が、その光景が間髪入れず、いくつもの灰色に刃に切り替わった。
カモ君を中心に直径五メートル。その範囲内に巨大な岩でできた十数本もの剣が勢いよく隆起していた。
アースグレイブ。
見た通り、魔法によって地面を岩の剣にして対象を下から突き上げるという魔法をカモ君は自分を中心にして使用した。
これだけの広範囲魔法には詠唱が少なくても五秒はかかる。だから、カモ君は咳をしている演技を見せていた。その中で詠唱をとぎれとぎれに行い。残り一文字のところで止めていた。
そして、審判の開始の合図と同時にその一文字を放った。
可能であるのならばカズラに斬りつけられる前に使いたかった自爆技。だが、カモ君の一文字を発する時間よりも彼女の方が早かった。が、これまでの鍛錬で鍛えた肉体とイタの魔法のお陰で魔法を発動させることが出来た。その効力の範囲にカズラを巻き込めた。
地面から突き出した岩でできた幾つもの剣の刃先はなまくら以下とはいえ剣の形をしている。なんの対策もなく、下手にこれを食らえばむごたらしく貫かれ、死んでいただろう。
だが、その場にいた二人は違う。
カモ君はそれを受ける前提で前もって身構えていたこと。イタに補助魔法をかけてもらっていたことにより体にいくつもの切り傷をつけながらも宙に突き飛ばされた。
もう一人は持ち前の身体能力と魔法殺しの効果で増強された身体能力の超反応。岩の剣をレイピアで受け止めたおかげでノーダメージ。だが、その勢いは殺せずカモ君同様に宙へと突き飛ばされた。その次の瞬間二人は目が合った。
普通の人間が宙に打ち飛ばされた場合、ほとんど何もできない。
だが、カモ君は魔法使いだ。宙に打ち飛ばされた時間は一秒前後。だが、それだけあれば初級魔法は使える。
「ウインド!」
カモ君全力の風魔法。一般の魔法使いが使えば飛んできた矢を逸らすのが精いっぱいだが、カモ君は腐ってもレベルMAX。人一人くらい短い距離だが、吹き飛ばすことは出来る。
それが出来たのはカズラが魔法殺しをつけていた事。
これは魔法の恩恵を捨てる代わりに身体能力を上げる。だからこそ、その分魔法の被害も受ける。
カモ君が全力かつ放出し続けた魔法の風は、カズラを木の葉のように宙を流していき、舞台の外まで飛ばした。
その間にもカモ君は重力によって地面に。岩の剣が乱立している地面に落ちて、腰のあたりを強く打ち付けたが、カズラが舞台の外に押し出されるまで魔法を放ち続けた。そして、カズラが舞台の外まで押し出されたことを確認すると同時に魔法を止めた。
足の踏み場もない。手がかりもない。重力に逆らうことが出来ないカズラは、そのまま舞台の外に姿勢を整えて着地した。
「まいったな。こうくるとは、ね」
カズラは少し困ったような声を上げるが、その表情はどこかすっきりしたようなものだった。
「…審判。あれは場外だよな?」
仰向けて倒れているカモ君が困った顔を舞台の外に立っているカズラを見た後に審判に声をかけた。
「…え、あ、ああ。だ、第二試合、勝者。…エミール・二・モカ」
どこか呆けた声で審判は告げた。
どこかすっきりしたような表情で、両足でしっかりと立っている敗者。
打ち付けた箇所がまずかったのか苦しそうに仰向けで倒れている勝者。
両者の表情と結果はあまりにも正反対なものだった。




