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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
旗だらけのカモの煮っころがし
172/205

第二話 毒は過ぎても毒は毒。

決闘場の控室。そこは出場者が主に装備の変更をするための更衣室のような一般人の目には届かない空間だったが、そこでカモ君はガンガンと頭を殴られるような頭痛を少しでも和らげようと控室の長椅子の上で横になっていた。


「…エミール。大丈夫そう?」


カモ君のすぐ傍で腰を下ろし、彼に膝枕していたコーテが彼に話しかける。

カモ君はこの決闘場に来る前に大暴れたした事により体力と魔力を大きく消費した。そこに真冬と言う環境で体を冷やし、風邪をひいてしまった。

先ほどの選手紹介や決闘のルール説明を受ける時には、相手に舐められないために無理を押して舞台上に上がったが、控室に着くなり崩れ落ちてしまう程弱っていた。もし、これが決闘選手でなければすぐにでもベッドに寝かせるのが正しい処置である。

魔法には病気を癒す魔法もあるが、扱いが難しい。ランクは上級。レベル3と今のコーテでも何とか不渇の杖の力を借りて使えなくもないが、扱いが難しく、熟練の医者か魔法使いでもないと癒せない。

リーラン王国から送られてきた支援物資。傷を癒すポーション。毒や麻痺を取り除く解毒ポーションに魔力を幾ばくか回復させるマジックポーションはある。風邪薬もあったのだが、とある理由でここにはない。というか、その時のための補欠要員。キィである。

だが、そんな彼女はカモ君と目が合うなり、視線を逸らし俯いた。


「………」


カモ君はさすがに彼女を自分の代わりにするのは諦めた。

同じ転生者のよしみ。と言うわけではない。コンディションが悪い自分の方がキィよりも強い。それに、ここ最近のキィは気落ちしている。闇属性でレベル2。もうすぐレベル3の上級魔法が使えるかもとシュージは言うが、いくら強属性を持つ彼女のコンディションは自分よりも悪いかもしれない。

自身とコーテの回復魔法。体を少し起こして支援物資の一つとして贈られたスポーツドリンクを飲み干し、カモ君は激しくせき込みながら横になる。だが、それもすぐ出来なくなる。

もうすぐ第一試合が始まる。それまでに舞台となる会場に顔を出さねばならない。このまま横になって自分の番が来るまで休めればいいが、それだとこちらが弱っていると言っているようなものだ。そうなると相手を勢いづかせる。

そうはさせない。体に鞭を打ってでも行かねばならない。だが、それまでは少しでも休んで体を快復させないといけない。

それでもカモ君の体は拒否するように激しい咳を出させる。はっきり言って先ほどまで舞台に上がれたのも、そこでせき込まなかったのもカモ君のやせ我慢があってこそだ。本当ならシュージ達の前でも平然とすることで彼等に心配させることなく決闘に挑んでほしかったのだが、そこまでの余力がないほどにカモ君の体は弱っていた。


「エミール、本当に大丈夫か?これは何本に見える?」


「生姜」


「これは駄目かもしれんな」


勝ったな。これは。


そう言って、シュージは右手の人差し指と中指を揃えて立てて見せる。既にカモ君の視界はぶれ始めていたため、それが自分の欲している物に見えるほどやっべぇ感じになっていた。

ライツはそんなカモ君を間近で見ながら握りこぶしを作った。


「せめて、風邪薬があればよかったのに」


「…あった。んだよな」


ネインがそう呟くと『あった』と答えたのがシィだった。

そう、過去形なのだ。風邪薬を一回だけ飲んでいたカモ君。それを見ていたコハクが興味を持ってしまった。

カオスドラゴンは状態異常・弱体化の影響を受けない。勿論、病気もしないわけで風邪薬など無用の長物であった。

だからなのか、薬という物に興味を持って自分も飲んでみようと思った。


一口目、苦い。それだけ。二口目、粉っぽい。三口目、好きな触感じゃない。四口目、どこか良い点があるかもしれない。五口目、探求心の赴くまま服用する。………。

十五口目、やっぱり美味しくない。と、結論づいた時点で風邪薬は底をついた。


もともと強力な薬であった為、カモ君もあと一回か二回ほど服用すれば風邪も治せたかもしれない。


全ての責任はコハクにある。だが彼女は謝らない!カオスドラゴンだもの。


カモ君のように風邪をひいているわけではないが、頭が痛くなる事案をシュージ達は抱えてしまった。だが、その矛先を犯人に向けるわけにもいかない。向けた瞬間に消し飛ぶのはこちら側なのだから。

そんな雰囲気を普段は察することないコハク。だが、カオスドラゴンである彼女は人間よりも賢い頭脳の持ち主でもある。


このまま、カモ君が戦うようなことになればカモ君は意識朦朧とした状態で戦う。そして、負けてしまうだろう。それは酔っ払いが眼前の池に落ちるくらい当たり前の事。それではつまらない。色々と試行錯誤を死、奮起し、藻掻くカモ君こそ真価であると彼女は考えている。

だが、彼女はカオスドラゴン。そうそうに頭を下げて謝罪はしない。というか、出来ない。そんな事をすればオリハルコンドレスに変化したアースが無礼者と怒り、カモ君達を押しつぶすか可能性があるからだ。

だから、こちらからの施しとして、カモ君を癒してあげようと。

しかし、カオスドラゴンは治癒の魔法を使えない。だが、ドラゴンの体液は強力な秘薬の材料になるのだ。


「仕方ないから。私の体液をあげる」


風邪で苦しんでいるカモ君に歩み寄るコハクはカモ君の傍にまで歩み寄りながらそう言う。

そう言ってカモ君の顔に顔を近づけながら。


ガリッ!


と、音を立てながら勢いよく自分の舌の一部を嚙み切った。

その男らしさにカモ君は胸キュンした。風邪のせいかもしれない。


ぺっ。


コハクは彼女のつばの混ざった血を噴き出し、カモ君の口に入れた。

何も知らない人間がこれを見たら、コハクがカモ君に唾を吐きつけたようにしか見えない侮辱的な行動に、カモ君はぞくぞくした。これは風邪の症状であってほしい。


そんなドラゴンの出血サービスをもらったカモ君は次の瞬間、張り裂けるような悲鳴を上げた。


「ウボァアアアアアアアアッッッ!!?」


思いもよらないドラゴンの血を飲んでしまったカモ君の体に異変が起こる。

端的に言うと体のあちこちが膨張、血管が浮き出るどころか、ところどころから噴水のように血が噴き出る。目は血走り、ドラゴンの血を摂取した口からは泡を吹き、ビクンビクンと体を跳ね上げながらのたうち回る。

その異常事態にカモ君は勿論。周りにいたシュージ達も驚いて何もできずにいた。というか、急展開すぎて身動きできなかった。


薬も過ぎれば毒になるというが、カオスドラゴンの血を用いた。しかも薬に加工していなかったこともあってかただの毒でしかなかったかもしれない。


その事に気が付いたコハクは。


「やっちゃったZE♪」


と、普段は笑わないヒロインが笑ったかのような可憐な笑顔を見せて誤魔化そうとした。が、そんな彼女に構ってられないとコーテは回復魔法を。シュージ達は傷を癒すポーションと解毒ポーションをカモ君に浴びせた。

それから五分もしないうちに症状は治まったが、コーテは魔力切れを起こし、リーラン王国支給されたポーションの殆どを使い果たしてしまった。その甲斐もあってかカモ君は何とか命をつなぎ留め、なんと風邪からも回復した。が、カモ君の体力は大幅に削れてしまった。もし、彼の体力バーを確認できたのならば九割は削られ、赤く点滅している事だろう。間違いなく重症以上瀕死未満だ。コヒューコヒューと息もか細い。


毒(風邪)を持って毒(コハクの血)を制すると言うが、勝ったのはカモ君の生命力だった。これまでの地道な努力ではぐくんだ肉体が実を結んだ。

その光景を怯えながら見ていたイタは何とか場の雰囲気をよくしようと明るく振舞った。


「た、たしか、この事を災い転じて福となす。って言うんですよね」


災いしかないんだよなぁ。


コハクがいなければ絶対にそう発言するカモ君であった。

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