第八話 打開はしても悪化は嫌だ。
リーラン国国王。サーマはカモ君達が王都を出立したという連絡と同時に敵工作員がマジックアイテムも管理する銀行まで侵入していることを王の執務室で知らされて、片手で額を押さえた。
「どうやら相手国の妨害があったようです。それを白い少女が解決したとの連絡がありました」
「…そうか。いや、あのカオスドラゴンの機嫌を損なわなかっただけでも御の字と言ったところか。下がっていいぞ」
サーマは情報を持ってきた兵士に退出を命じた。兵士が執務室から出たことを確認した後、深いため息をついた。
工作員の報せはここ毎日のように知らされていたが、まさか国の防衛力の一端を担う銀行にまで伸びているのは想定外だった。
あそこはある意味、治外法権ともいえるがそれゆえに様々な力と思惑が集う場所である。そんな場所を王が注目しないわけではなかった。ここ最近のきな臭い事件でいつも以上に警戒はしていた。それなのにこの体たらく。
王として。いや、この国を支える一人の人間として、この事態を恥じた。
負けても奪われるのはモカ領と数人の人間だけという国家間の決闘。いや、代理戦争を行う少年少女の手助けを担うはずなのに自分達が出来たのは彼等に修練の場所と機会を与えただけ。
いくら王族の手ほどきがあるとはいえ、この短期間で多くの力を蓄えることなど、普通は出来ない。
本来ならミカエリという最高の技術者を始め、多くの技術者の知識。軍人の経験から作られた軍人。それも親衛隊にも使用される防護服や武器を彼等に渡す手はずだったが、それがネーナ王国との協定で出来なかった。
もし、国が決闘する者を手助けするというのであれば、こちらも相応の援助をすると。彼等は希少金属ミスリルで出来た装飾品を見せつけながら言いのけた。
たかが文官にまで武器に転用すると強力な物に変貌するミスリルを行き渡らせている。決闘する者にはそれ以上の物が渡されているはずだと。決闘の交渉に応じた文官から聞かされた。
いったいどこからそんな資源を見つけ出したのかとサーマは再び、ため息をついた。
もともとリーランとネーナの国領はほぼほぼ拮抗していた。
いや、すぐ隣に立つコーホ。そして、カヒーとビコーという超人に恵まれている分、リーランの方が上と言ってもいい。はずだった。
だが、ネーナ王国は個人の力よりも集団としての力をここ数年で急速につけ始めた。
いくら超人の三人でも広い国土を持つリーラン王国を守り切ることは不可能だ。彼等も人の子。休憩や油断をすることは必ずある。そこを狙われでもしたらリーラン王国は崩れる。
あの自由気ままなセーテ侯爵も不測の事態に備えてカヒーとビコーは重要拠点の防衛を命じている。
技術者のミカエリも今回の決闘の舞台を製作するため、ネーナ王国の領地にあるコロッセウム。闘技場を改良した所。なのがだ、実は最寄りの他の領地がモカ領でもある。
彼女は決闘者であるカモ君達を優遇する人物だが、公私もしっかり分ける。分ける、かな?
とにかく、彼等が不利になるような真似はしないだろう。だが、その舞台を制作するのはリーラン王国だけではない。ネーナ王国からも技術者が出ている。
舞台は既に完成済みだが、その所々にだまし討ちの吹き矢を撃ち込めるような小部屋。舞台を照らすためと言う名目で、日の光を反射して決闘者の視界を潰す大きな鏡。あえて、観客席から手が出せそうな位置に選手の控室を設置するなど、妨害工作がすでに出ているという。それらの全てはミカエリの手腕で全て取り外されて公平な舞台を作っているが、今もそのような妨害設備をネーナ王国が我が作り続けているという情報が届いてくる。
選手達から武器と防具を取り上げ、戦う環境すらも劣悪。
サーマはもし自分が決闘参加者なら例え立場が下であったとしても文句を上層部に叩きつけるだろう。
そんな命を懸ける場面なのにこれと言った支援どこか、防衛すらもままならない今のリーラン王国を嘆いた。
まるで戦争をしているかのような状況に頭を悩ませた。というか、モカ領出身のカモ君からすれば戦争そのものなのだが。
彼等が決闘に勝つ可能性はほぼ無い。だが、無いわけでもない。
それはカモ君のような様々知識と経験を持った人物ととんでもない可能性を秘めた生徒。あのセーテ侯爵が贔屓するほどの生徒だ。マウラから聞いた話だと彼が一番強い。おそらく我が国の一般兵士たちと戦えばギリギリ彼が勝つという事も知らされている。
そして、平民のシュージ。彼の成長率は嫌でも注目するそうだ。その伸びは一年もしないうちに超人に迫る勢いだという。魔法の才能のある人物を貴族ではないが国力として取り込むという事業がこうして芽を出したのだ。
この二人が今回の決闘の結末を分ける。
はっきり言って残りの三人の選手には二人のサポートに徹してほしい。
そして、考えたくはないが、最強のジョーカー。
カオスドラゴンのコハク。彼女をどうにか焚きつけてネーナ王国を壊滅させる。
だが、それを少しでも間違えればこちらが滅ぼされる。
人と言う生き物は自分の利益よりも不利益を重く考える。そのため、彼女をどうにか遠ざけたいという意見はあった。何より、彼女の意思一つで文字通り国が揺れたのだ。だが、ドラゴンは強力かつ凶悪だ。彼女の機嫌を損なう可能性がある案は全て破棄した。それがこの国のためだからだ。
魔法学園学園長のシバはこのような重いかじ取りを任されてその日から胃薬を飲み続けている。本来ならば王族か、上級貴族が取りなす事柄なのだが、その貴族も今では信用ならない。
なにせ、四大公爵の一人。自分の従弟にもあたるサダメ・ナ・リーランの裏切りの発覚。
国宝でもある宝珠をネーナ王国に渡していたことが発覚。しかも、それをもとに作られたという四天の鎧という強力アイテムを作り出す技術をネーナ国は有している。
王が完全に信頼できる人間など本当の意味での身内。自分の息子、娘達くらいだ。
神がいるなら縋りたいくらいだ。いや、人の長たる者、そう簡単に諦めてはいけないのだが。カモ君達が決闘に負ければこの不安定な状況は更に悪化する。それを考えると祈りたくなるのも仕方がないというもの。
その最たるものがセーテ侯爵の離反だ。
彼等はカモ君を贔屓している。そんな彼が敵国の手に落ちたら、まずただでは済まない。ネーナ王国はある意味で彼に注目している。だからこそ、彼を処分。決闘の勢いで彼を殺してしまうかもしれない。
そうなればセーテ侯爵はリーラン王国に愛想が尽きて離れてしまうかもしれない。
今の状況で彼等がいなくなれば間違いなく国がつぶれる。
現状、リーラン王国貴族は楽観視している者が多くいるが、それは超人の保護下にあるからだ。それを理解していない。王自らも最大限カモ君達を援助すべきだと口に出したが、事あるごとにそれを拒否する貴族グループがいる。
本来なら王の決定を覆すなど出来ないのだが、彼等のやり口は実に意地汚く、経済面や食料面。交易など、カモ君がいなくなっても何の問題もないと場の雰囲気を整え、他の意見を押さえつける。
審議する人間の三分の一以上の議決を持って援助は打ち切られた。マウラがカモ君達を特訓させたのも彼女の自由意志と言う事で通っていたが、あれは純粋にマウラの意思が無ければ通らなかった。
そして、審議していた三分の一の貴族グループ。考えたくはないが、彼等はネーナ王国に寝返っていると考えてもいいだろう。
今はカヒーとビコーに交代でその貴族メンバーの探りを入れるように命じている。
さすがにこの二人が同時にいなくなれば相手側も警戒せざるを得ない。そのため、あの二人の内、一人が今まで以上に活躍している間にもう一人がガサを入れてしょっ引くという仕事になっている。
既に四家の貴族の証拠を掴み、郎党もろとも取り潰しを行っているが、まだ容疑のかかった貴族はいる。
自由人のセーテ侯爵がまだそれを楽しんでいるのが救いだ。勧善懲悪は人の上に立つことを考えている人間ほど好まれる事柄だから。
現状を再度確認して目頭をもむサーマ。
カモ君の次に今回の決闘を深刻に考えているだろう王は、未だに見たことが無い神に現状の打開を願うのであった。




