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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
暴れカモの妨害スープ煮込み
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第七話 メタんていコハク。暴力で全てを解決する。

カモ君達を乗せた馬車とは別の馬車。決闘に参加する女生徒達も馬車に載せていた。カモ君達は決闘に参加する三名だけだが、女生徒は決闘参加者に補欠の三名にプラスして、補助員と言う役名でコーテと選手の世話係の一人としてメイドのライツ。特別観覧車の枠でコハクの六名が乗り込んでいた。

彼女達の馬車の後ろにはライツと同様に決闘参加者の世話をするために国から選出されたメイド達と物資が積まれた馬車が続いている。

コーテ達の馬車は王都から出る前に一度、マジックアイテムの貸し借りや売買なども行っている特殊な銀行へと赴いた。そこに預けているマジックアイテムを引き出すためだ。

これらの銀行は王国の重要な防衛拠点や貿易の多い所に設立されている。

例えば、王都に火のお守りを預ける。それを担保にセーテ領の銀行から別の火のお守りを借り受けることが出来る。それを紛失した場合は罰金と王都にあるマジックアイテムを徴収する手はずになっている。

イタやネインも貴族子女だ。この銀行を通じて実家からマジックアイテムが借り受けることが出来るという連絡を受けている。それを今日、受け取る手はずになっていた。のだが、


「生憎、私達の方には連絡が届いていないようでして。申し訳ありませんが」


「貴方、それを本気で言っているの!虚偽であればボーチャン伯爵への宣戦布告。いえ、この国への宣戦布告と取られてもおかしくないのよ!」


「そうは言われましても。無いものは無いとしか…」


銀行と貴族官のやり取りがあったという蜜蝋が押された書類をネインに突きつけられても銀行員は冷や汗を流しながら受け答えをする。

ネーナ王国にこちらの情報を出来るだけ渡さないようにギリギリまで伏せていた銀行のやり取りだが、ここにきてこのような不始末が生じるとか頭が痛くなってきたコーテだった。


こういう時に一番頼りになるミカエリとはここ最近、連絡が取れていない。あの人に頼めばピーキーなマジックアイテムを有料で貸し出してくれるはずなのに…。


しかもコーテが預けていたマジックアイテムの預け入れの記録も無いと言い出す始末。

さすがにこれにはコーテも黙っていなかった。

シュージが初めて受けた数組のコンビが入り混じるバトルロワイヤルで手に入れたマジックアイテムを数点。この銀行に預けていた。その証拠書類も突きつけるが、対応した銀行員の男性は否定するばかり。


「このリンバ・ナ・クンマ。この国と銀行員生命に誓って嘘は言いません!」


そう力強く言う銀行員にコーテ達は押し黙りそうになる。

銀行員は名ばかりではない。屈強なエリート貴族でもある。そうでないと強力なマジックアイテムの貸し借りを出来ない。強盗などが来ても撃退できるだけの実力が無ければそうそうにマジックアイテムの銀行員は出来ないのだ。

そして、貴族が国を後ろ盾に宣言するという事は絶対の自信があってこそできる。これで誤りがあればもう、その国の貴族を名乗ることは出来ないどころか、国外追放。奴隷落ちもあり得る。

そんな誓いを言われてはコーテ達も押し黙りそうになったところで、ずっと黙ってみていたコハクがトコトコと銀行員の傍まで歩み寄った。


「まあ、この国に微塵も関係なければ意味がないんだけど、ね」


「ぎぃやああアアアア!!」


「このガキ!オーナーになんてことを!って、誰だお前は!?」


コハクは軽くジャンプして、その小さな手がリンバと名乗る銀行員の顔に触れる。と、次の瞬間、勢いよく下方向に触れた手を振るう。その細く柔らかな指とは真逆の太く鋭い鉤爪で引き裂かれたかのようにリンバの顔が抉れた。

その爪痕は深く、額については骨まで届くほど肉が抉られていた。が、それに伴いリンバの顔の表皮一枚が破れ、その下から見覚えのない顔が出てきた。

その顔に他の銀行員は見覚えがない。顔を引き裂かれて血だらけになった表情からでも別人だと判断できる。何しろ顔がめくれると一緒にカツラらしきものも取れ、その下にあった地毛が自分達の知っているオーナーとは別の色だと判断できたからだ。


「あのさ。邪魔したいのはわかるけど。その汚い(心の)声を聞かされるとさすがに私も気分が悪くなる」


リンバに変装していた目の前の人物はコーテ達とのやり取りで、コーテ達を何も知らない小娘だと侮辱していた。二度、三度くらいなら構わないが、この男。考えが悪いだけではなく内容も下衆な物で、ネインやコーテ。事もあろうかコハクまで辱めてやろうとか考えていた。


ここでコハクが男の顔をそぎ落としていなければ、彼女のドレスになっているスフィアドラゴンが彼の後ろにあった銀行ごと魔法。もしくは実体化して物理的にすりつぶしていた。

ある意味、コハクの慈悲で生かされている状態の男は顔を押さえながら、その場から逃げ出そうとしたが、物凄いスピード(本人敵はステップ程度)で先回りしたコハクに正面からローキックを受けることになる。右から左にかけての水面蹴りで、その威力は男の左足を押しつぶし、右足の骨も砕いていた。


「あ“あ”あ“あ”あ“あ”あ“っっっ!!?」


「うるさい。あと、汚い」


うつ伏せに倒れた事にも気が付けない程の痛みに悲鳴を上げる男の背中にコハクはその細く小さい足で踏みつけた。

ドゴンっ。と、小さなクレーターが出来ると同時にボギッと鈍い音が響いたと同時に男は血の泡を吹きながら気絶した。

明らかに致命傷。すぐに応急処置をしないとコハクに潰された男は死んでしまうだろう。


「…手当しないの?この後、尋問?とかするだろうから生かしておいたんだけど。それともこのまま潰す?」


「す、するっ。手当をするからこれ以上手を出さないでくれ!」


小さな少女が引き起こした惨劇に誰もが呆気に取られていたが、何が起こったかはわかる。

銀行のオーナーに変装していたこの男がコーテ達を妨害していた。それをコハクが力ずくで暴いた。男の身柄を調べ上げるかどうか?という場面なのだろう。

オーナー以外の銀行員達だけでなく、銀行警備の人達も慌てて男の身柄を確保しようと動いた。だが、見るからに死にかけの男にまずは回復魔法をかけて延命処置をしなければならない。各々に隠し持っていたマジックアイテムやポーションで男の手当てを行っていく中、一人の女性銀行員の左手をコハクが掴み、その場に留めた。


「あ、あのっ。な、なにをっ」


その女性はコハクに怯えている。当然だ。この惨劇を一瞬で作り出したコハクに怯えないはずがない。だが、女性が怯えているのは別の理由があった。


「それ、バジリスクの血だよね。透明色は初めて見るけどそんなものを振りかけたらこの辺にいる人達。貴女含めて皆、死んじゃうよ?」


そう、銀行に潜り込んでいたのは二人いた。

一人はオーナーに変装していた男は、一ヶ月前にネーナ王国の工作員。

キャリアを積み正当に銀行職員に就職し、一年前にネーナ王国に寝返ったリーラン王国の裏切り者。

工作員の任務を補助し、失敗した時は排除するように命令されていた女性だったのだが、それすらも心の声を読み取るコハクに見破られていた。

そんな事を知るはずもない女性だったが、コハクの手を振りほどけない。まるで地面に手を埋めたかのように動かすことが出来ない。蛇に睨まれたカエル。いや、標本にされる台の上に寝かされているような気分だった。

そんな恐怖から女性はポーションとして偽っていた毒薬の入った試験管を落としてしまったが、それを一呼吸。軽く吸い込む動作でコハクはそれを口の中に吸いつけると試験管丸ごとかみ砕いて飲み込んだ。

カオスドラゴンはバッドステータスにかかることはない。勿論、毒は効かない上に試験管を砕いてできたガラス片で口内を傷つけるという事もない。

その光景を見た女性工作員は更なる恐怖でその場に座り込んでしまう。周りにいた人達もコハクの発言に驚いていたが、圧倒的強者のコハクが絶対であると思い込んでしまった。


「ほら、この人も捕まえて拷問とかするんじゃないの?」


コハク言われてようやく状況を飲み込めた警備員達は女性の身柄を拘束する事でようやく彼女は手を離した。

それから解放された女性は息を大きく吸い込む。何度も何度も過呼吸寸前になるまで呼吸を繰り返した。自分が生きている。存在していることを確かめるように。

誰も彼もがコハクを畏怖の目で見ていた。

当然である。人間の視線からすると彼女は神か魔王と見間違えるものだったからだ。

こうなることはわかっていたからコハクは何とも思わなかったが、ただ一人。彼女の背中をポンポンと叩きながら褒めてくる。


「ありがとう。不審者をとっちめてくれて」


それはコハクより背の小さいコーテである。

彼女もコハクの作り出した惨劇に若干引いている。というか怖いと感じている。

だが、その行動は自分達を想っての行動だ。それに見た目こそ凄惨だが、内容は国家間での行事の妨害をした不審者兼悪党をしばき上げただけだ。しかも、それはカモ君達の生存にも関与するものだから弁護しようとも思わない。むしろよくやったと思うくらいだ。

そんな両極端な想いを抱えながらもコーテはコハクを労った。


「…コーテ。…気持ち悪い」


「ごめんね。でも、貴女を恐れていると同時に感謝もしているの」


しかし、その行動は腹に一物を。下心を隠しながら接してくる貴族や商人のような下衆さを感じたコハクはコーテを嫌がった。読心術が使えることを知っているコーテもそれをわかっているからこそ感謝を伝えた。

この感謝の言葉を伝えねば、恐怖と感謝という二つの感情を持ったままコハクと接する事になる。それは彼女も不快に思うだろうし、コーテ自身あまり好きではない。だから、この場ですっきりさせるために怯えながらも感謝を伝えた。

はっきり言って打算である。このままやり過ごすよりもここで清算させた方がすっきりするという自分勝手な考えだ。それをコハクが読み取ると複雑な表情を見せた。

まるで嫌いな食べ物が出された子供のような渋い顔をしていたコハク。

ここで了承をしないとなると暴れることでしかこの鬱屈感を晴らせない。かといって暴れれば全てがご破算。カモ君の喜劇を見ることが出来ない。だから、これで満足するしかないのだ。


ああ、これが妥協かぁ。すっきりしないなぁ。


コハクは納得いかないと眉間にしわを寄せるが、渋々と馬車に戻っていった。それを見送りながら、コーテは再度、残った銀行員にマジックアイテムの引き出しを要求した。だが、ネインやイタを含めた彼女達の預けていたマジックアイテムは全て持ち出された後だったため、引き出すことが出来ない。代わりのアイテムを要求したいところ、数点のマジックアイテムを渡されたが、どのアイテムも脆弱であり、当初予定していたアイテムの格落ちの物しかなかった。


指輪。お守り。杖とローブといった魔法属性の強化を少し上げるだけの物。

ナイフに小手。胸当てと言った希少金属を用いた防具も数点。しかも魔法使いである自分達には向かない装備品しかなかった。


特にネインはシルフブレードという素早さと風魔法の威力を引き上げる武器を、工作員達の手によって持ち逃げされたことが痛手となっていた。

コーテも余っていたアイテムをシィやシュージ。状況に応じてカモ君に貸し出すつもりだったのだが、それすらも持ち逃げされていた。

その事にただでさえか細い希望の火が消えかけていたが、そこに混沌の輝きが差し込む。


「武器が無いの?じゃあ、私の鱗をあげる」


馬車に乗っていたコハクがまるで腕に生えた産毛を引き抜くような動作を見せた。

引き抜いただろう手には澱んだ光が灯っており、それだけで威圧感を放っていたが、それをコーテ達の足元に軽く投げつけた。


さくりと。


まるで果物に包丁を差し込んだような音を立てて、その場に突き刺さったそれは大きな魚の鱗を思わせる物。人に化けていたドラゴンの一部が元に戻った物だった。


カオスドラゴンの鱗

まだ幼体。未成熟。そして軽量ではあるが、最強のドラゴンの鱗。

高い柔軟性と硬度から生半可な武器では歯が立たない。また、その鋭さからミスリル以下の防具。魔法障壁では防げない程の威力を持っている。


これを武器代わりに使えと言っているのだろう。

コハクからこれだけの支援を受けられただけでも感涙物であったが、問題が一つある。


「気持ちは嬉しいんだけど…。私達の誰もこれを装備できない。というか、持てない」


ドラゴンの素材はどれも一級品。そしてその長たるカオスドラゴンの鱗なら、その威力も推して知るべし。鑑定魔法の使えないコーテでもその威力は肌で感じ取った。だからこそ、その鱗に近づけないでいた。素手で触れれば即座に切り裂かれるだろう。

ミスリルや魔法障壁を切り裂くことも出来る鱗である。そんな威力を持った鱗を果たして誰が持ち上げるというのか。というか、取り扱える術もない。


っ!っ!


スフィアドラゴンが、姫様の恩情にケチをつける気か!と文句を言っている気配を感じて身を竦めたコーテだったが、コーテの言う事実は変わらない。

締まらないなー。と、思いながらコハクは馬車を降りて、その鱗に歯を立てて、ゴリゴリと音を立てながら削っていく。

人間でいう所の爪を噛む仕草だが、決して人体から出て言い音ではない。

そして出来上がった物が。


カオスドラゴンの小盾。

荒く削られた混沌龍の鱗。薄く丸く力技で作られた顔を隠すほどの大きさの盾。とって着けたミスリル(スフィアドラゴンの表皮)の持ち手が使い手を選ぶ。

上級以下の魔法を弾き、生半可な剣や槍などは弾いてしまう。


いくらでも装備しても効果が重複する。マジックアイテムの装備効果は三つまでという弱点を無視した。普通の防具が出来上がった。

はっきり言って、これ一つだけで伝説の金属オリハルコン1キロよりも価値がある。というか、四天の鎧に迫る強度を持つこの小盾。


「一個だけね」


そう言ってコハクは馬車に乗り直すと、その眼を閉じてうたた寝をし始めた。

これ以上、人の心を読む気にはなれなかったのだ。はっきり言って気分が悪い。

だが、コーテとネインからは感謝の気配を感じたため、それに気をよくしたコハクはそれからしばらくはおとなしくなった。

ちなみにここにカモ君がいたら、『どうして裏ダンジョンでやっと手に入るアイテムがここにあんねん?!』と取り繕うことなく声を上げていただろう。


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