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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
暴れカモの妨害スープ煮込み
162/205

第五話 主人公と踏み台の間に友情は成立するか?

ルストとの決闘を終え、軽くシャワーを浴び、着替えた後はコーテの機嫌取りをしている間に気がつけばパーティー終了間近。

公爵家も参加するパーティーなので出されているご馳走やワイン。ジュースは伯爵以下の貴族たちでも滅多に食べられない代物だったが、カモ君がそれを口に入れたのはほんの二三口といった少量の物。上質なワインも実は下戸であるカモ君も一口しか飲んでいない。ジュースを頼もうとしたが、その殆どをコハクが飲み干したので残っていたのは平日でも飲めるような果実水な物だけだった。

実は結構期待していたのにあまり食べられなかったカモ君は内心落ち込んでいたが、この後大事なイベントが控えている。

ダンスの時間も終わり後はその余韻を楽しむか部屋に戻って休むか、恋人としっぽり過ごすか、生徒達はそれぞれの行動に入る。

カモ君は決闘で欠けていた歯をサリエに治してもらったため歯並び、および体に蓄積されていたダメージは快復しているが、この後の事を考えると気疲れもする。


「…すまん。またせたな。シュージ」


「遅いぞ。エミール」


体育館の裏。普段からも人目に付きにくいその場所に呼び出されたカモ君は主人公と対峙する。


「忘れたかと思った」


「悪かったって。これでもコーテに無理言って抜けて来たんだ。そこんとこ容赦してくれ」


セリフと声色から揶揄っているというのはわかったが、その眼だけは笑っていない。

シュージのすぐ後ろにはキィもいた。

二人の方頭と肩には少し雪が掛かっていた。頬も赤くしているのでこの寒空の中で待たせてしまったと申し訳なさもあるが、キィの表情からすると最終確認を取ったのだろう。


この世界と自分達の在り方に。


「時間もないから一気に話すぞ。エミール。お前は本当に『カモ君』なのか」


シュージの言葉には様々な感情が混ざっていることにカモ君は気が付いている。

嘘であってほしい。だが、嘘は言ってほしくはない。

そんな視線と言葉にカモ君は長い溜息を吐いた後に、その質問に真っすぐ答えた。


「そうだ」


ここで長いセリフを履けば誤魔化しと聞こえるだろう。そんな事はシュージが望んでいないこともわかる。だから、カモ君は短く正直に答えた。

その答えにシュージは少しだけ泣きそうな顔をして言葉を続ける。


「お前はそれでいいのか?」


「いいわけないだろう。主人公(お前)に殴られるだけの嫌な奴。たかられ役なんぞ、真っ平御免だ。出来る事なら何もかも見捨てて逃げ出したい。でも、な。そんな立場だからこそ守りたい人達に出会えた」


カモ君の力の抜けた笑みを始めて見たシュージは少したじろいだ。

こんなに弱気なカモ君を見たのは初めてだからだ。

シュージにとってカモ君はまさしく強者。もしくは、先達者といった人の上に立つか前に出るような人物像を描いていたのに、今の彼はまるで不可能を目の前にして、諦めたかのような弱者のようにも見えたからだ。

カモ君は何となくそれを察していた。シュージもそうだが、コーテもミカエリも。クーやルーナ。自分の知人達は過大評価している。

カモ君だって楽な道があればそっちに行きたい。必死に汗水、血や涙を流さず儲けたい。

面倒事の矢面に立たず、無責任に堕落した生活を送りたい。

それが出来る立場ではないし、能力もない。だが、欲望だけは人一倍。いや五倍はある。


「守りたい人達。少し違うか。守ってほしい人達がいなければ俺は今頃、こんなところにはいないよ。どっかよその国で冒険者をしていたさ」


肩をすくめながら正直に話すカモ君。

もしかしたら生まれて初めて、心の底から本当の自分をさらけ出しているかもしれない。

虚勢。意地。やせ我慢。

その全てを取っ払った今の自分は主人公にどんな目で見られているのだろうか。


「…お前が、守ればいいじゃないかよ。そんな弱音。らしく、ないぞ」


シュージの声が震えている。きっと信じたくないのだろう。

自分の立場も。そして、カモ君の立場も。

だが、そうさせてくれないのがこの世界だ。運命だ。


「…俺は、弱いぞ。だからお前に守ってほしいんだ。この国とその人達を」


「…何言ってんだよ。何言ってんだよ!お前は強いだろう!俺なんかよりよっぽど『主人公』じゃないか!」


自分の友人が。憧れの人が弱音を吐いている姿を見たくないのかシュージは声を荒げる。それをカモ君は優しく受け止めた。


「シュージ。お前、本当にそう思っているのか?」


「当たり前だろ!お前の方が俺よりよっぽど努力しているじゃないか!死ぬ思いまでして強くなっているじゃないか!」


「なあ。シュージ。…お前、本当に俺の方が強いと思っているのか?少し考えてみろ。お前と俺の魔法。ぶつかり合った場合、勝つのはどっちだ?」


「それ、は…」


シュージは想像してしまったのだろう。自分の魔法でカモ君が吹き飛ぶ場面を。

それは魔法学園に来た時は決して想いつかないはずのイメージだ。

だが、彼と共に戦い、成長してきたシュージだからわかる。


今の自分ならカモ君に勝ててしまうという事に。


「その成長性こそが『主人公』。その効果こそが踏み台キャラ。『カモ君』なんだよ」


本来ならカモ君ほど死ぬ気で鍛えている人間に勝てる輩など一般貴族。モブキャラではありえない。

だが、『踏み台』。相手を強くするという特性によって普通とは違う成長性を見せる。

そして、『主人公』はその効果を倍増させることが出来る。

カモ君のように長期間努力。いや死力を尽くしてきた人間に、たった一年にも満たない期間の労力で追いつく事自体がおかしいのだ。

片方が『踏み台』で、もう片方が『主人公』でなければありえない。

もう殆ど成長性がないというレベルMAXのカモ君。まだまだ成長の余地を残したシュージ。この時点でカモ君の方が敗戦濃厚。そこまで考えればもう答えは出たようなもの。


「じゃあ、本当に…。お前は『カモ君』で、俺が『主人公』なのかよ」


「そうだ。お前もキィから知らされているんだろ」


カモ君の言葉にキィは顔を俯かせた。寒さで赤くしていた表情には申し訳なさからか青に染まっていた。

シュージのセリフだけ聞くと厨二を思わせるセリフだが、カモ君からして見たら腑に落ちる物だった。

シュージは震えながら言葉を続ける。立場を確認したのに状況がまるで逆だ。

信じたくない『主人公』と受け入れている『踏み台』の構図がそこにあった。


「なんで、お前は受け入れているんだよ。嫌なんだろ。逃げちまえばいいじゃないか。誰も文句は言わねえよ。そんな嫌な立ち位置から逃げても仕方ない。俺だったら逃げ出している」


「いや、お前は逃げないよ」


「なんで、そんな事が言えるんだよ」


「だって、お前。…泣いているじゃないか。俺の事を考えて」


シュージは泣いていた。カモ君と話しだしてからすぐに。本人は気が付かないうちにその瞳から涙を流していた。それに気が付き、少しだけ驚いたシュージを見て、カモ君は続ける。


「ある意味、立場が真逆の奴を想って泣ける奴が助けられる人達をおいて逃げられるわけないんだよ。だから、俺は『踏み台』を受け入れている。いや、甘んじている」


なにせ自力では決して攻略できないのが、シャイニング・サーガの敵キャラとイベントだ。

今まで必死に努力してこの状態だ。片腕を失い、借金を背負い、命を狙われ続けている。

もう少し頭がいい奴ならこの状況は違ったかもしれない。だが、自分はそこまで賢くなかった。愛する弟妹達を。愛する人達を。そして、シュージのような友人を守れるのなら、その礎になるのもやぶさかではない。


「俺には出来ない。だけど、お前なら出来るんだよ。だからこそお前に賭けている。自分勝手ですまないな」


「俺は、そんな奴じゃない。…俺はお前が、エミールが『主人公』なんだと思っていた」


だが、カモ君の言葉を聞いて。そして、彼と過ごしてきた変化を考え直すとそうとしか思えなくなっていた。


「冗談じゃない。俺が『主人公』だったらコーテに会えなかった。クーとルーナの兄になれなかった。確かに何度も嫌になった。だけど、それ以上にあいつらに会えてよかった。『踏み台』だから。『カモ君』だからあいつらに会えた」


「じゃあ、その三人を連れて逃げればよかっただろ!今のお前なら出来るじゃないか!」


いや~、借金まみれの甲斐性なしにそれが出来るか、微妙だな~。


と、言葉を吐き出しそうになったカモ君だが、なんとか言葉のオブラートに包むことが出来た。


「その後が続くビジョンが浮かばなかったんだ。俺は意地っ張りだからな。少なくてもその三人の前では格好の良い兄貴でいたいんだ。そんなことをするより、お前に賭けたほうがよっぽど楽だとおもった。だから、今もこうしてここにいるんだ」


改めて、自分勝手だと自己嫌悪する。

勝手に期待している。それも人一人の人生だけではない。国の未来を貴族でもないし平民のシュージに託すなんてありえない。それは王族や貴族の仕事。それを担える覚悟があるからこその立場だというのに、それを放棄して『主人公』だから託すのだ。

一時期は『主人公』を羨んだが、今になってみるととんだ貧乏くじだとしか思えない。カモ君がシュージの立場だったらそれこそ愛する弟妹達とコーテを連れて逃げ出す。

失敗すれば多くの人達が苦しむという重責をたった十三の少年に託すとか本当に情けない。

だが、そうするしかない。『主人公』に縋らないといけない程に敵は強いのだから。


「勝手すぎる。そんな期待をしないでくれよ。俺はそんなに強くないんだ」


「そうだな。最低だ。だから出来ることを全力で取り組む。これまでも。これからも」


「それが…。俺を強くするって事なのか」


「そうだ。お前を強くするために俺は色々と手を回した。そのために今まで努力してきた」


シュージの益になるためにカモ君は色々と尽くした。害になる物は出来るだけ排除してきた。それはきっともうしばらくは続くだろう。

シュージの瞳から涙はもう流れていなかった。代わりにあったのは疑惑と怒りにも似た不安。


「お前がいつも力を貸してくれたのも俺が『主人公』だからか」


「そうだ。それに縋るしか今までの俺には出来なかった」


カモ君が後ろ向きな事を喋ると、シュージの顔が再び歪んだ。

これまでの交友は全てシュージと言う人間ではなく、『主人公』という存在に向けられていたものだったのかと悔しさと悲しさに苛まれたから。


「お前がっ、俺の友達になってくれたのは『主人公』だったからなのかっ!」


これまでの流れだとカモ君は短く肯定するだろう。それはシュージが今まで感じてきた友情を否定するものだとわかっていても問わずにはいられないものだった。

だが。帰ってきたのは少し意外そうな声色の物だった。


「少し違うな。近づいた理由は確かに『主人公』だからだが、友人になったのはお前が気に入ったからだよ」


「…え?」


「言っただろう。お前に期待しているって。『主人公』だからと言って全面的に信じるほど俺は楽観的ではないぞ」


カモ君はこの魔法学園に来てからの事を思い出すようにシュージに語った。

それはシュージの性格やこれまでの行動や実績から信じられる人間だと判断したから希望を託す。その上で、彼との交流を重ね、サポートをしてきた。

別に『主人公』の友人にならなくてもサポートすることは可能だ。原作のカモ君同様に腐れ切った性格で彼と接し、彼の敵愾心を煽り、何度も何度も決闘を繰り返せばいい事だ。むしろそうしたほうがシュージは強くなる機会が増える。

そうしなかったのは経済面の問題もあるが、何よりもシュージと敵対するより友人として接したほうがカモ君的には嬉しかったから。

そこに効率性を求めなかったわけではない。しかし、友人として、彼へ戦術を。モンスターの脅威を。アイテムの効果と使い方を教えていくことにカモ君は一切悪感情を抱かなかった。

まるでもう一人の弟が出来たかのように自分の知識と技術を受け取ってくれるシュージの姿が嬉しかった。

それだけではない。友人としてテストや模擬戦で競うのは楽しかった。放課後、遊びに行くこともワクワクしていた。


どれもこれもシュージが好ましい少年だったからだ。だからカモ君は彼の友人という立場を選んだ。『主人公』を重要視するなら友人よりも嫌な奴。それこそ敵キャラとしてふるまっていた。


「…なんだよ。それ。勝手、すぎるだろ。期待して、託して、楽だからって、嬉しかったって。お前、なんでそんなに、中途半端なんだよ」


「そうだな。勝手だな。殴ってくれてもいいぞ。好きなだけ殴れ」


悪態をつくシュージの目からまた涙が溢れ出した。

それは悲しさからじゃない。自分の友達は『主人公』だけを見て判断したのではない。それを除いた『シュージ』という人間性を見て友人になってくれたのだと理解したから。


「…出来るかよ。お前、貴族様だろ」


「廃嫡されているけどな」


ギネとの一件でカモ君の貴族としての立場はほぼなくなっていることをシュージも知っていたからか少し吹き出してしまった。


「お前なら成り上がれるだろ」


「お前の方が将来性あるけどな」


なにせ、『仲間キャラ』で貴族のネインだけではなく、敵国の姫でスパイをやっているメイドのライツ。まだ交流は少ないだろうが、何気なくシュージに頼っているイタ。そして、彼を気にかけていたこの国の王女マウラ。最後に裏ボスの娘のコハク。

少なくても今のカモ君よりは将来性の溢れる少女達の気を惹いているのがシュージだ。今にも追い抜かされる。いや、既に追い抜かれているのではと思う。特にコハクとの縁組みが確定すればそれこそこの世界の頂点になれるだろう。


「じゃあ、殴っておく。友人として。勝手に重い責任を託した落とし前として」


「おう。こい」


シュージは左腕を回しながらカモ君に近づいていく。そして、その手がカモ君に届く距離につくと同時に拳をカモ君の顔面。鼻っ面のど真ん中に叩きこんだ。

今のシュージのレベルは上がりに上がって43という素の腕力でもイノシシを絞め殺すほど力を持っている。そのような力で殴られたのだから体を鍛えているカモ君もさすがに数歩後ずさり。鼻からも出血する程だが、決して倒れるという事はなく。真っすぐに立っていた。


「これでチャラだ。これ以上殴るとキィも殴らないといけなくなる」


「それは大変だ。あいつじゃ死ぬぞ」


キィもカモ君同様に『主人公』のシュージに近づいたと、彼女自身から聞かされている。

『主人公』の力目当てで近づいたことも白状している時点でキィも同罪なのだが、そうされない事情が二人の間にあったが、それは野暮な事だろうとカモ君は鼻を押さえながら笑った。


「世界を救うなんて。子供の頃から憧れていたけど実際そうなっても実感わかないな」


「その前にモカ領を助けてくれよ。俺とお前の身柄もかかっているんだぞ」


「…そうだな。そうだった」


そう言ってシュージも笑って答えた。

それからしばらくして渡井あった後は明日に備えて寮で就寝しなければならない。これ以上、寒空の下にたら風邪をひいてしまう。


「それじゃあ。寮の風呂に入って寝るぞ。シュージ。お前には期待しているんだからな」


「お前も頑張れよ。エミール」


そう言って友人の少年達はキィを女子寮に送っていき、その足で男子寮の風呂に共に浸かり、それぞれの部屋へと戻っていった。

お互いに抱えていたわだかまりのような物も取れ、実に健やかに眠ることが出来たのだった。

彼等が男子寮に辿り着くまでそれを見守っていたコハクは、これが男の友情という物なのかと不思議そうに眺めた後、女子寮で自分の事を待っているだろうコーテの元へと歩いて行った。事前に彼女にはシュージの様子を見に行くと伝えている。キィが戻った時に自分がいなければ彼女に心配させてしまう。それは避けたかった。

その時のコハクの表情は若干冷めた物であった。やはり、彼女的にはカモ君が四苦八苦している様を見ている方が面白い。シリアスよりもコメディの方が好みだから。


あ、そういえば。サリエとかいうセートカイチョー。

あの人もネーナ王国とつながっている可能性があると言えばカモ君は慌てるかもしれない。


「楽しみだな」


きっとそれを知ればカモ君は頭を抱えるだろう。もしかしたら本当にリーラン王国から逃げ出すかもしれない。そうなったら絶対面白い。

難関を踏破する英雄の物語を楽しみにする。もしくは漫画の次の展開を楽しみにする子供のようにコハクは頬を緩めながら、はやく次の朝日が昇る事を願った。


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