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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
暴れカモの妨害スープ煮込み
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第四話 勝者への祝福。プラス効果があるとは言っていない。

ルストがいなくなったことを確認したカモ君は血が未だに噴き出ている口元を抑えながら、残された魔力を使って、回復魔法を使いながら審判に目を配る。


「しょ、勝者っ。エミール・ニ・モカ!」


そこまでしてようやく審判も決着がついたことに気が付き、カモ君の勝利を宣言する。だが、それに対する観客の反応は冷たいものだった。

勝者であるカモ君の血だらけで無様な姿。魔法使いらしからぬ泥臭い格闘戦。地味な勝利方法。

何から何まで強者であるはずの魔法使い。高貴な貴族からかけ離れているカモ君の姿を批判する声で溢れかえった。


「魔法使いの恥さらし!」「似非貴族!」「そこまでして勝ちたいか卑怯者!」「野蛮人!」


決闘の勝者に向ける歓声ではなく、様々なブーイングがカモ君に降り注がれる。

魔法使いの決闘はもっと華やかで華麗。それでいて爽快感のあるものだと。観客席にいた生徒達。罵声だけではなくゴミまで投げつけてくる輩も出てきたが、カモ君はそれを冷めた目で見ていた。


カモ君からすれば決闘。護身の札があるとはいえ、要は殺し合いだ。その状況なのに綺麗に勝とうなど毛頭ない。そんな事では未来で起こるだろう戦争で生き残れない。

その上、今回の決闘ではコーテの身柄が掛かっていた。それは、何が何でも死守しなければならない。彼女がいないと過酷な未来を乗り越えられない。だから文字通り、なりふり構わずカモ君は手段を選ばなかった。

魔法使いらしくなくてもいい。貴族らしくなくてもいい。ただ勝利を渇望した。

さらに言えば、カモ君はやろうと思えばシュージに代わりに出てもらおうとも、今回の決闘の不誠実さを盾にルストを脅す。何かにつけて決闘を回避することも出来た。

ただ、それをすれば人間関係で間違いなく五日後の決闘に支障をきたす。だから決闘を受けた。

貴族の義理は果たしたのだから文句を言われる筋合いはない。

今もなお文句を言ってくる輩は決闘やダンジョン攻略。盗賊退治と言った荒事を経験したことが無い温室育ちのお貴族様だ。


カモ君がそんな事を考えていると、突如大きな音が鳴って非難の声は一度収まる。

その音源を見れば、いつの間にかカモ君の傍に立っていた白のドレスを着た十七歳前後の女性がロングストレートの銀の髪を揺らしていた。が、その整った顔はどこか、この国の姫であるマウラやマーサを思わせる銀髪美女なお姉さまがそこにいた。


「諸君っ!私は悲しいっ!彼は正々堂々戦って勝利した!君達のいう魔法を数種類、数回使ってだ!確かに決めては関節技といったものだがそこに至るまでの手段!すなわち相手の視線を遮る壁!および足場の作成を瞬時に判断してクイックキャストという高等技術を使ってだ!彼に侮蔑の言葉を投げかける前に自身に説いたまえ!『自分に同じことが出来ただろうか?』と!」


銀の髪を持つ女性は、同年代に比べると背は高いが、少し悲しくなる程度の小さな胸を張りながら言葉を続けた。


「無論!私は出来るぞ!生徒会長だからな!だが私は君達のように侮蔑などはしない!そこに至るまでの難関辛苦を知っているからだ!あの体術も、落下した時に受けただろう痛みも私は知っている!締め上げる筋力はそう簡単に手に入れることは出来ない!筋トレは凄く地味で辛いのだ!あの時の落下はきっと凄く痛いのだ!あえて言うぞ!彼に文句を言う君達は何一つ彼に勝る戦闘技術を持っていない!」


そう力強くカモ君を擁護する女性。リーラン魔法学園生徒会長である。


サリエ・ナ・リーラン。


グラマラスなネインとは対照的にスレンダーな長身美女を思わせる彼女はこの国の王族の血を引く公爵家の娘であり魔法学園最強の生徒。いずれはシュージ。『主人公』達の仲間になるはずの女性だった。

仲間になる時期は大分後半になるが、その実力は魔法使いとしては主人公。主人公のライバル。次いで彼女になる。

仲間になる前から彼女の実力は折り紙付き。レベル99が最大のゲームなのに参加するレベル60。ステータスも相応に強い。なにより、彼女は水・風の二種類の魔法を使える魔法使いであり、育成次第ではどれもが最強のレベル5。王級魔法が使える魔王のような魔法使いになる。

彼女が本気で魔法を放てばカモ君がいる舞台上どころか観客席すらも氷河期になったかのような氷塊に埋もれてしまうだろう。


「更に彼を頂点とみなして、ルストを向かって作り出した壁は高さもそうだが、横にも徐々に広くなっていた。これは防波堤の意味もあるが、ルストの視界を遮るためでもある!相手の視界を遮った時に出来た驚きからルストが動けなかった場合、発動が遅いヘヴィアームによって彼は拘束され締め技で意識を落とされていただろう!だが、ルストは驚きつつも開始地点から動くという事をした結果、反撃の一手を咥えることが出来た!惜しむべきは正面から魔法を撃ち込んでいた事だ!もしあの攻撃が横殴りの物だったらエミール君は場外まで吹き飛ばされていたかもしれない!だが、運は彼に味方した!これは魔力や体術だけではない!知略と運!これらも含まれた戦術だった!」


…え?この人もコハクみたいに心読めるの?…こわ。近寄らんとこ。


そんな強者の彼女の言葉だから誰も文句が出せない。カモ君もまた自分がとっさに思い付いた戦術を見抜かれて押し黙っていた。というかその観察眼に引いていた。

地位・実力共に認める、現時点で最強の魔法学園の生徒会長に生徒はおろか教員すらも押し黙るしかない。


「故に彼に投げかける言葉は侮蔑ではなく賛辞である!だから私は彼に賛辞の言葉を贈ろう!おめでとう!君は立派な勝者だ!」


そう言いながらサリエはカモ君に向かって笑顔を見せながら拍手をする。

すると、静かになっていた闘技場のあちこちから小さな拍手が鳴り始めながら大きくなっていく。そして十秒後には大きな拍手となり歓声が上がった。

外観からして見たらカモ君の凄さに遅れて気が付いた観客が歓声を上げたと見えるが、実際はサリエに言われて仕方なく盛り上がっていることをカモ君と、同じ観客席から見ていたコハクにはわかっていたため冷めた気持ちで見ていた。

勿論カモ君はそんな事を気取られないように、ようやく血が止まった口元を拭って手を振って応えた。出来る事ならまだ抑えていたいのだが、公爵の娘であるサリエの好意を無下にすると後々怖いので未だ痛む顔面を堪えて手を振る。

それを見越したのか、サリエは短く詠唱をする。彼女の右手には青の光。左手には水色の光が集まっていた。

サリエはその手でカモ君の顔を包み込む。二人の身長の差はカモ君が少しだけ大きかったためか問題なく触れることが出来た。


「ハイヒール。そして、リジェネレート」


コーテが不渇の杖を使ってようやく使える水魔法レベル3の回復魔法を難なく使い、自己回復能力を高める魔法を同時にカモ君に使ったサリエは、笑顔を消して、眉尻を下げながら頭を下げて彼に詫びた。


「すまなかったね。君は。いや、君達にはまだ越えなければならない決闘があった。だから休まなければならい時期にもかかわらず、このような決闘をやらせてしまった。私がその場にいれば止められたのだが。…ルストは私の友人でね。私の耳に入った時にはもう受諾されていた。そうなれば私でも止められない」


それは先ほどまで力強く発言していた女性ではなく、友人の凶行を止められなかった事への謝罪だった。

サリエとルストが友人というのは事実である。二人とも自己肯定感は高く、自信家という事もあって馬が合った。事情を知らなければルストではなくサリエがカモ君に制裁の目的で決闘を挑んでいたかもしれない。

だが、生徒会長という役職からの権力。公爵家という自負。力ある者としての責任感から、カモ君の事情を夏季休暇前から調べていた彼女はカモ君に絡むことは控えるようにしていた。


「いえ。ルスト先輩が気にかけるのは仕方ないですよ。実績が実績ですからね。それに生徒会長には怪我も治してもらいましたからそれでチャラにしましょう」


本心では、これは貸しだからね(ニチャア)。と、ほくそ笑んでいるカモ君。

その本音と建て前をサリエが気付かないわけでもない。


「すまない。恩に着るよ」


サリエはカモ君の了承(下心あり)に感謝を述べながらも彼の顔から手を離さない。

もうしっかりと回復したカモ君はそれを不思議がっていた。それどころかサリエは顔を近づけてくる。

闘技場の光を弾く綺麗な前髪がかかるかかからないかのところで綺麗に切りそろえている王族の血縁者にふさわしい整った顔。

力強い意思が宿った青い瞳。大人の優美さ。子供の可憐さを両立した切れ目。

彫刻家が何度も作り直して出来上がったかのような綺麗な鼻筋。

瞳の青に合わせたかのような口紅の下からでもわかる艶やか唇。

それがこのタイミングで近づいてくる。と、察したカモ君はそれを遮るように。遠くから見ればサリエの口元を抑えるかのように左手を動かした。


「おや?勝者へのキッスではご不満かい?」


「こう見えても婚約者がいますので」


カモ君から見て、ちょうどサリエの後ろにはコーテがいた。

彼女はカモ君を控室から送り出してすぐに決闘関係者専用の観客席へと移動した。そこは一般の観客席より舞台を眺められる場所のためすぐにわかる。シュージやコハク達もそこでカモ君を応援していた。

コーテの表情は無表情だが、その付き合いの長さから少し硬いようにも思える。決闘中はそこまで気を回せないが、決着がついた今ならその余裕がある。

コーテはカモ君の顔にサリエの手が添えられた時から違った意味で表情を硬くしていた。

ここでされるがままだったら彼女を裏切る形になる。それは。それだけは駄目だとカモ君でもわかった。

そんなカモ君の意図も読めたサリエはカモ君の顔から手を放しながら肩をすくめた。


「そうか。それは残念。…と言うとでも思ったか!馬鹿め!」


「なっ?!」


サリエはそこから素早くステップを踏むかのようにカモ君の右側に移動する。そして、そのままの動きでカモ君の右頬にキスをした。


「私はやると決めたらやる女なのさ!そこに相手の都合など考えない!」


「…最低だよ、あんた」


カモ君が若干ジト目になりながらもサリエを睨む。だが、まったく気にしていない様子でからからと笑いながら続けた。


「やると決めるまでは少し悩んだぞ。しかし、私はこう見えても公爵家の娘だ。そんな私からの施しを断る方が失礼に当たるのではないかな?」


その発言にカモ君は少し押し黙る。

確かに自国の姫(の血縁者)と言ってもよい彼女の好意をないがしろにしてはこの国の貴族として後々障害になるかもしれない。


「それに私はな、楽しいのが好きなんだ!こうした方があとあと面白い事になるだろうと思ったからしたまでだ!」


そう言って笑う彼女の後ろから物凄い殺気と魔力の波動をカモ君は感知した。

それはコーテのいた観客席とは別口に設けられた特別観客席。

そこにいたサリエと同じ銀の髪。青い瞳を持った男子生徒。生徒会副会長がカモ君を睨みつけていた。


角刈りにされた頭だが、決して優雅さを失わせるようなものではない雰囲気。力押し(物理)のカモ君を少し補足した均整の取れた体つき。そして、野性味あふれる顔からはこちらを今にも射抜かんばかりの殺気。そこからあふれ出ている魔力。


トーマ・ナ・リーラン。


サリエの二つ下の弟で、重度のシスコン。

それはあまりにも強烈だったのをカモ君も覚えている。

なんせ、『主人公』の仲間キャラではないが、サリエとのエンディングを迎えるためにはまず彼の好感度を稼がなければならないほど。

なにせ、どんな状況に陥ってもサリエの後ろにいて彼女をサポートする。と、評価できればいいが、サリエ狙いのプレイヤーからはお邪魔キャラがしゃしゃり出たと辟易するほどとにかく邪魔してくる。


どっかの誰かに似ているって?知らんな。


そんなトーマの反応を楽しんでいる。いや、チラリと横目にした時にコーテの表情が少し険しくなったことを確認して猶更笑みを深めるサリエ。


「あいつも空気が読めないわけではないが、休み明けに君を見かけたら間違いなく決闘を申し込んでくるだろうな」


なに笑っているんだこの生徒会長。厄介事を一つの動作で二つも増やしやがって。


「君には期待しているんだよ。悪い意味と悪い意味で」


悪い意味100%じゃないか。


トーマの殺気で気付くのが遅れたが、観客席にいた男子生徒からの殺気。というか怒気の籠った悲鳴が上がり、再びカモ君へブーイングが始まった。

サリエはその容姿と性格。地位からも男子生徒からの人気がある。

そんな彼女がカモ君にキスをしたのだ。そしてカモ君にはコーテと言う婚約者がいることもほぼ周知の事実。それを考えただけでも男子生徒の怒りを買うのは当然の結果である。


「はっはっはっ!ではこれにて今夜の決闘は終幕とする!諸君、残り少ない時間だが最後までパーティーを楽しんでいってくれたまえ!」


そう言ってサリエは舞台から控室へ繋がる通路の奥へスキップしながらその場を去っていった。

残されたカモ君は男子生徒からの怒気とブーイングから逃げるようにサリエとは別の通路。自分の控室に繋がる通路へと逃げた。が、その少し奥にはいつの間に移動したのか少し頬を膨らませたコーテがいた。


肉体的にも。精神的にも。将来的にも大変なのに。そこから更に疲弊しろと申すか。


カモ君が内心そう嘆きながらも、コーテのご機嫌を取り直すのに一時間かかった。

その様子を見ながらコハクは実に美味しそうにジュースを飲んでいた。


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