第三話 三次元はクソ。二次元最高。*戦術の話です。
年末パーティーにカモ君に決闘を挑んだルスト。
彼は自分が大好きな人間だった。
伯爵家の三男坊に生まれながらも風属性の才能に溢れ、学才や体つき・容姿にも恵まれていた。大きな病気や障害もない健やかな人物だった。
貴族の地位はあるが、それは長男が担っていき、次男はその予備。自分は更に良いと言ったところから責任感もない悠々自適な暮らしをしていた。
彼は挫折という物を知らなかった。障害となる壁を目にすることはなかった。
全てが上手くいっていた。
一年前までは。
初等部から中等部へ進級することも決まり、年末パーティーでは後輩から先輩にまで好感を持たれていた。伯爵という地位だけではなく容姿も整っていた彼が愛想笑いするだけでもれなく頬を赤らめる女子生徒が数人目に映った。自分の視界に入る女性は皆赤らめるものだと思っていた。
一年前のパーティー会場となった体育館。そこでコーテに出会った。
彼女とは知り合ったのはそこが初めてだった。
ある程度、ダンスを踊り終えて休憩を入れようとしていた所に彼女とぶつかって、彼女を転倒させてしまった。
とても小さい女子だったからこそ当時のルストの視界には入らなかった。また、ダンスを十数人と踊って疲れていたため集中力を欠いていたため、彼女に気が付かなかった。
淑女を転ばせてしまった事を気にかけ、転んでしまったコーテの手を取りながら詫びの言葉を伝えるとコーテはそれを了承した。無表情で。
ルストが始めて見る女性の無反応という反応に興味を惹かれたのだ。
それからルストはコーテの気を惹こうとした。
年末パーティーでは彼女がどこも痛めていないことを確認した後、ダンスに誘った。が、断られた。コーテからしたら転ばされた相手と踊るとかないでしょ。といった具合だが、並の女子生徒なら魅了してしまう程ルストの容姿は整っていた。が、コーテは若干筋肉フェチに目覚めていた。ルストのように細身のイケメンよりがっしりしたマッチョ面の方が好みだった。
年明けにルストは自分の領地の名産であるフルーツや工芸品をコーテに贈ろうとしたが、失礼にならない程度に断った。送られたものが名産フルーツだけならよかったが、宝石が施された高価な物までついてきたので断った。というか、受け取ったら何を要求されるか怖かったコーテは決して受け取ろうとしなかった。
年末。デェトに誘おうとしたが、そこでコーテは婚約者がいることをルストに伝えた。カモ君から受け取った水の軍仗を見せつけながら。
話によるとそれは自らダンジョンへ挑み、その戦利品を彼女に贈ったというではないか。
マジックアイテムは希少で高価な物であり、水の軍仗一つでルストのお小遣いの一年分以上の価値がある。
そこでルストはまだ見ぬカモ君からコーテへ向けられている愛情と甲斐性を見せつけられた気分になった。自分ではカモ君に敵わないと思ってしまった。それからコーテに付きまとうのは止めていた。
だが、実際カモ君が魔法学園に来てからその認識は変わった。
最初はど派手な決闘を繰り広げるが、詰めを誤り脱落し、コーテにその尻拭いをさせた。
ドラゴンを撃退したというが重傷を負い、コーテだけではなく学園長やミカエリ女史にも骨を折ってもらった。
次に聞いた話ではダンジョンに挑み攻略するも豪遊して、その報酬だけでは足りなくコーテから金を借りたという噂。
マジックアイテムを借り受けるも壊してしまう。何度も命の危険があるダンジョンに付き添わせる。
武闘大会でも家族問題に巻き込み、留学生を手籠めにし、強化訓練では行方をくらまし、コーテの心遣いを無下にし続けた。
何度もコーテが悲しむ姿を何度も見てきたからこそ悪評も噂も本当だと思い、今朝出会った謎の人物からの証言によりルストの疑惑は義憤へと変化した。
ルストは自分も好きだが、コーテのように尽くしてくれる女性も好きだ。彼女を救うことで自分の評価も上がり、コーテからの好感も稼げる。ついでに奴隷へと落ちたライツの身柄も今回の決闘の戦利品と言って見受けすることも出来る。一石三鳥だと、思いあがった。
ルストはコーテを都合の良いように使うカモ君を狡賢い奴だと考え、決して逃げられぬ場面で決闘を申し込んだ。それは見事にはまりカモ君は決闘を受けた。
謎の人物からカモ君の戦闘スタイルも聞かされており、対策としていくつものマジックアイテムをもらい受けた。その人物の狙いが何なのかはわからないが、ありがたく使わせてもらおう。
出会った時から謎の人物を疑う事をルストはしなかった。出来なかった。それなのに違和感がなかった。
後になって不思議に思う事だが、ルストはその違和感を異質だと思えていなかったのだ。
とにかく、カモ君を決闘の舞台に引き上げることは出来た。
あとはコーテの目の前でカモ君を倒し、彼女の目を覚ませるだけだ。
空中に浮遊し、カモ君の手の届かないところから魔法を打ち込めば勝てる算段だ。
勝敗は既に出ている。そう考えていた。
現にカモ君は決闘の開始を告げる審判の声を聴いた直後こちらに向かって突撃してきた。このままお得意の格闘戦をしようという算段だろう。だが、接近するまでの距離がある。
ルストはシルフブーツに魔力を注げば体は高さ3メートルほどの高さに浮かび上がった。ついでに迎撃用の初級魔法の詠唱も済ませた。
カモ君も何かしらの魔法の詠唱を一気に詰め寄るが、完成する頃にはルストは空中にいた。
魔法で身体強化したジャンプしたところで迎撃用の魔法を撃ち込めば吹き飛ぶのはカモ君の方だ。ジャンプをしているから回避は出来ない上に踏ん張りも出来ないまま吹き飛ぶ。
カモ君はルストに触れることなく吹き飛ばされる。彼に空を駆ける手段はない。そのまま場外まで吹き飛ばせば勝ちだ。
確かにそうだ。現状、カモ君に飛行能力はない。空中戦スキルはない。
だが、無ければ作ればいいだけ。飛べなくても相手を殴れるフィールドにすれば問題ない。
「クレイウォール!ダブル!」
カモ君のクイックキャスト(笑)とダブルキャストで使った魔法は、本来なら粘土の壁を自分の目の前に作り出すもの。それを一メートル間隔で作り出した。
作り出した壁は二枚。カモ君の手前にある壁は高さ一メートル。幅二メートル。厚さ50センチの粘土の壁。そこから一メートル開けて高さ二メートル。幅五メートルの粘土の壁を作り出す。
その壁の上辺を跳ねるように駆け上がっていく。遠くの観客席から見れば徐々に大きくなっていくドミノを思わせる土の壁の上を忍者のように駆けていくカモ君姿を見た。
物理的に下に見ていたカモ君がすぐそこまで迫っている事に焦ったルストだが、彼はカモ君が向かってくると同時に、後ろへ移動しながらシルフブーツで上昇していたこともあってか二人の距離はニメートル。高さは一メートルほどルストが上の位置で離れていた。
「エアハンマー!」
ルストの正面に圧縮された風。遠くからも見てわかるほど白く見える風の大槌が打ち出された。
これだけ距離が離れていればルストにも魔法を放つ余裕はある。
カモ君ほど実戦慣れして生徒は稀であるが、ルストはその中に入る人間だった。
こちらに向かって身を投げ出している状態のカモ君を魔法の風で出来たハンマーで殴り飛ばすことは出来る。現にカモ君はそれに直撃した。
だが、一番近くで見ていたルストすらも気付いていなかった。
カモ君が粘度の壁の上を飛び跳ねている間にも三つ目の魔法の詠唱をしていたことに。
カモ君はルストの魔法を食らいながらも、その直後に詠唱を完遂し、実行した。
「ぐっ!ヘヴィアームッ!」
それは以前、シータイガーというモンスターを押さえつけた土で出来た巨大な魔法の腕。
あの時よりも魔法レベルが上がった事で、その腕はより巨大に迅速に決闘の舞台の上に発生した。その位置は決闘開始時にルストがいた場所。
現在のルストとカモ君の延長線上。カモ君のすぐ背後にその巨大な土の腕が急成長した樹木のように出現した。
その結果。ルストの魔法を食らい、後方へ弾き飛ばされるはずのカモ君は土の腕の手首に叩きつけられる形となった。
それは、正面から巨大なバッドで殴り飛ばされた衝撃と、柔道で言う所の受け身無しで勢いよく背負い投げを受けたかのように背中を激しく打った衝撃という二重の攻撃に襲われた。
が、『後方に吹き飛ばされる』ことなく、その空間にもう一度跳躍する足場(壁)が出来たという事だ。
「お、あああああっ!!」
ルストの風魔法の勢いは既に散っていた。
カモ君はそれを確かめることもせずに背後に出来た土壁蹴り、ルストに向かって跳び出した。その拳はルストの顔面に届くことはなかった。
ルストをはじめ、その光景を見ていた殆どがルストの勝ちを予想した。
カモ君の急接近には驚いたが、二度は通じない。上昇し続けているルストにカモ君の拳が届くはずはない。と、
そのままカモ君は重力に引かれて落ちていく。だが、その跳躍でついた慣性により、ルストの右足首をつかむことが出来た。
「っ!おらぁあああっ!!」
右足首をつかまれたルストは、掴まれた握力からくる痛みで表情を少しばかり苦くしたが、その数秒でカモ君は左手一本で体を持ち上げ、その勢いのまま両足をルストの背中から胸に絡めると同時に締め上げた。ついでに彼の足をそのまま後ろに引き上げる。
逆エビ固めと呼ばれる関節技をカモ君はルストに仕掛けたのだ。
空中に浮いている状態だが、カモ君は足でしっかりとルストの体を固定している事によりその技は成立していた。
「がぁあああああっ?!」
ルストが悲鳴を上げると同時に、上空に浮いていた二人は落下していく。彼の意識が関節技から来る痛みにより分散。シルフブーツに回していた魔力が乱れ、効果を失い落下していく。
それは普通に落下するスピードよりは遅いものの、それでも階段を転がり落ちるほどの速さで落下した。
関節技の体制上ルストは膝から、カモ君はほぼ顔から落下する形になった。その時、ベキリ。と骨が砕ける音がした。
一般成人男性ならその痛みで思わず蹲ってしまう落下ダメージがカモ君の首から上に走っていた。だが、それに支配されることなく理性を持ってカモ君はルストを締め上げ続けた。
カモ君はルストの体を合致し締め上げていた。落下してから上げた顔は血だらけだった。鼻からは大量の鼻血が。口からは落下した時にへし折れたのか、欠けた前歯が見えた。その顔はどんなに取り繕っても綺麗とは言えず、十人に九人は醜いと評価するものだ。
落下ダメージを受けたのはルストも同様だが、カモ君の顔面が先に落ちたことで幾分かダメージは和らいだが、それでも関節技の痛みは少しも緩まない。それどころかカモ君の足が未だに締め付けてくるのでうまく空気を吸えずに呼吸もままならない。こちらはまだ整った顔の魅力が十二分に発揮しているからかその姿もまた美しいと評価するものだ。
外観でまるで対照的な二人だが、どちらが有利なのかわかっていた。
やがて、締め付けられていたルストの上半身からボキッ。という音が鳴ると同時にルストは口から少量の血を吐き出すと同時に護身の札が発動し、舞台上から強制転移させられた。
どうやらカモ君の締め付けで肋骨を折られ、肺に突き刺さったのだろう。護身の札が無ければ明らかな致命傷を受けたルストの敗北が決まった瞬間だった。




