第二話 事実陳列罪に対する自己弁護(逆ギレ)
「…名前と理由をお聞かせ願えますでしょうか?先輩方?」
こちとら貴族の地位を奪われた身だから立場は明らかに向こうが上。断れば相手に恥をかかせることになり、その報復にモカ領に何らかの迷惑が降りかかるかもしれないからカモ君に拒否権はなかった。
相手の立場と決闘の理由をまず知れば、どうにかうやむやに出来るのではないかと考えたカモ君だが、相手はカモ君から少し視線を外すと、すぐ傍にいたコーテに優しく微笑みかけた。
まるで、『自分はわかっていますから』と、言わんばかりの優しい笑顔。カモ君はそれが気に入らないので、さりげなく間に割って入るように少しだけ前に出た。
相手はそれが気に食わないのか、眉尻を上げて、少し声を荒げた。
「僕の名はルスト・ナ・メシン!そこのコーテ・ノ・ハント嬢を君から解放するために決闘を挑むのさ!」
「え、余計なお世話」
ルストの発言に食い気味で返したコーテ。そんなあからさまな拒否感を見せる彼女には優しく微笑みながら、その整えられた長い前髪をかき上げながらルストは受け流した。
「エミール君。君は彼女の好意を悪用している。その事をつかんでいるのだよ!」
「なにを根拠に」
カモ君もコーテと同じように冷静に返事をしようとした瞬間だった。
「一つ!君は彼女に決闘、ダンジョン攻略に支援してもらっているようだね!貴族として、男として情けないとは思わないのかい!」
ルストの容赦ない真実の言葉がカモ君に突き刺さる。と、同時にカモ君が押し黙る。
「別に私は守ってもらうだけのお嬢様じゃない」
「一つ!マジックアイテムを彼女から受け取っておきながら何も返せていない!」
コーテもカモ君同様に押し黙る。
確かにカモ君は自分からマジックアイテムを借りた。そして、それを壊してしまい、返せず仕舞い。一応、水の軍杖を不渇の杖に強化したからプラスマイナス0と、考えたかったが、ルストのいう事も嘘ではないので押し黙ってしまった。
いや、それだけの脅威を退けただけでも立派だと思うけど…。
と、アネスが考えた。が、
「一つ!危機管理がなっていない!毎回毎回致命傷を負っている!そんな事で彼女を守れるのかね?!」
あ~、ごめん。エミール君。弁護できねえ。
アネスの考えも封殺された。
確かにカモ君はコーテに被害が及ばぬように前に出続けてきたが、彼女を守るためとはいえ、毎回ボロボロになっている。むしろカモ君が進んで危機的状況に飛び込んでいる場面もあったのだ。それが例え、嫌々であったとしても。
むしろ、コーテがいないと死んでいたと思われる場面が何度もあった。守るというよりも守られているという悲しき実績がアネスに弁護を諦めさせた。
「一つ!貴族の立場を失い、複数の人達からの支援でどうにかこの場にいる!そんな恩情が続くと思っているのか!彼女の将来を支えられるのか!」
そして、甲斐性を指摘される。
カモ君は確かに現状が危なすぎる。将来性も無い。そんな男が婚約者を持つなど不相応。
そんな事はカモ君自身がよくわかっていた。
「一つ!複数の女性と関係を持っている疑惑もある!いい身分だな!子爵をはく奪された人間は!」
コーテという婚約者だけではなく、ミカエリという理系美女。現在進行形でパーティー会場の給仕しているライツという姫でメイドな奴隷な元スパイを所有している。
はっきり言って女好きの屑野郎と言われてもおかしくない。
カモ君は、それを自覚している分、それを第三者である人間から言われたカモ君は思わず押し黙ってしまった。
もし、クーとルーナの婚約者がいたとして、自分のような人間がいたとしたら。内情を知っていても引き離そうとする。いや、知ってしまったら猶更引き離そうとするだろう。
自分ならそう考える。そう、行動する。
高らかに。まるで宣言をするように声を上げているルストのせいで、いつの間にかダンスパーティーの音楽は止まっており、会場にいた生徒達の視線はカモ君達に集まっていた。
その様子にまるで鬼の首を取ったかのように気分を良くしたのか、ルストは締めの言葉を放つ。
「そんなダメ男からハント嬢の目を覚まさせるためにも僕は決闘を申し込むのさ!」
まるで劇の主人公のように言い放ったルストは様になっていた。
彼の容姿からか頬を赤らめ、黄色い声を上げる女子生徒達もいた。
カモ君の罪状らしき物を聴いた男子生徒や女子生徒はカモ君を軽蔑するような視線を投げかけていた。彼との接点がない生徒程それは顕著だった。
だが、それとは反対に怒りの感情を露わにする人もいた。
それは『主人公』とその仲間達。
シュージはカモ君を馬鹿にされたことに怒りをあらわにして、ルストに食って掛かろうとしたがそれをネインに止められた。
だが、そのネインも苛立ちという感情を隠せずルストを睨んでいた。
ネインは知っている。カモ君の強さと誇り高さ。それに対する必死さも。知っているからこその怒りとルストの態度が気に食わなかった。だが、ルストは自分と同じ伯爵家の人間だと把握している。それに盾突けばシュージはもちろん、アネスやコーテにも被害が出るかもしれない。だから、止めた。
普段はカモ君を馬鹿にしたりするキィも不快感を露わにしたが、すぐにそれも暗い表情になる。これもまた自分が原因ではないのかと。
逆にルストに同調する存在もいた。
一人は給仕に混ざって自身もメイドとして給仕をしていたライツ。
カモ君が落ちぶれていけば自分を手放すこともあるかもしれない。そうすれば晴れて自由の身。とまではいかないが、ある程度は自由になれるだろう。運が良ければその通りになるかもしれない。逃げられるかもしれないと。
そして、もう一つは。
わかっているんだよ!精一杯やってんだよ!それでこうなってしまったんだよ!これ以上どうしろってんだ!ちくしょおおおおおおおっ!!
外見はクールに振舞っているが、内心では事実の陳列に発狂しながら、まるで自爆でも決め込んだ特人工生命体のように荒れているカモ君の心情を肴にぶどうジュースを樽で飲んでいたコハクである。
ちっぽけな存在がその意味を見出すために必死に足掻いている姿はとても興味深い。
今も飲んでいるジュースの味がワンランク上がった気がするほどコハクは上機嫌だった。
カモ君は自分に向けられている負の感情を跳ねのけながら(心身疲労度:中)、ルストの手袋を拾い上げてその決闘の申し入れを受けた。
「いいでしょう。その決闘を受けます。その代わり、俺が勝ったら今後口出し無用という事でお願いします」
「では、僕が勝ったら君はコーテ嬢に一切関わるな!彼女にこれまでの非礼を詫びたうえでだ!」
毎回毎回詫びているんだよな、これが。
よく、愛想が尽かれないよな俺。
カモ君の内心を、自分に酔っているルストに読み取れるはずがなかった。
「では、これからすぐに決闘を行う!幸いなことに決闘場は空いているはずだからね!」
年末パーティー最後のイベントだと周りの生徒達の声で会場は盛り上がった。
まあ、そうなるわな。
カモ君達はもうすぐ国家間の決闘を行う。それは生死が関わるものだから、下手したらカモ君が死んでしまえばルストとの決闘が出来ない。後顧の憂いなくカモ君を叩きのめすには今しかない。
タイミング的にはカモ君が疲弊したところを狙うという好機を逃さないところとか、いかにも貴族らしいというか、嫌らしい所を突いてくるもんだ。と、思いながらもルストを含めたカモ君達はパーティー会場を出る。
先ほどまでいた闘技場にUターンしている気分だが、これも必要経費だと思い、決闘手続きを受け、それぞれに割り振られた待機室へと向かう。
そこで自身の装備品を確かめながらカモ君は十分にストレッチを行う。
カモ君の装備品は長袖ジャージの上にウールジャケットと搾取の腕輪といった簡素な見た目。
細かい怪我や火傷は待機室までついてきてくれたコーテに治してもらったが、それでも疲弊した体力と魔力は少ししか回復していない。が、相手は伯爵家の先輩だが、実力的にはこちらが上だろう。
なにせ、シバ校長が五日後の決闘に推薦していた生徒の中にルストの名前はなかった。おそらくは強くても中の上。もしくは上の下あたりだろうと辺りをつけているカモ君。
学生最強と言われている公爵家の生徒会長なら勝てる可能性は皆無だが、それ以外ならカモ君にも勝機はあると。
伊達に何度もダンジョン等で死にかけた自分ではない。アイムに何度も鍛えられた上に王族のマウラ。現役軍人との訓練を積んだ自分が負けるはずがないと。
そして、決闘の準備が出来たと闘技場関係者から連絡をもらい、カモ君は闘技場である舞台へと向かう。
カモ君の反対側からの入り口からやって来たルストは大きなマントで自分の体を隠すように出場すると、闘技場の観客席から真冬で雪も降っているというのにほぼ満員で歓声が上がっている。
主に女生徒からはルストが登場すると更なる歓声が上がる。ルストはアイドル的な立場なのだろう。
だが、人気が実力に反映されるのは部隊長や王族と言った人を率いる人間だけだ。個人の実力左右されることはほぼない。
カモ君とルストは舞台に上がりながら言葉を交わす。
「よく逃げずに僕との決闘を受けてくれたね。そこだけは評価しよう」
「…あそこまでされたら拒否できませんから」
お前、分かっていてやっただろうがっ。
と、毒づきたいがカモ君はクールに笑って返す、
立場的にも雰囲気的にも断れなかったが、実力は自分が上なのだ。こいつを打ち負かせた時、『ざまあ』と、愉快な気分になれるだろう。
「そこまでわかっていながら女性の好意を無下するとは理解できないね」
「これでも応えられるだけは応えているんですがね」
「そこさ。君は彼女達にあまりにもふさわしくない。だからこそ僕がそれを正そうというのだ!」
「御託はいい。叩き潰す」
その綺麗な顔に拳を叩きこんでやるよ。
そう意気込みながらカモ君は左手を握り直しながら構える。
カモ君の実力を知らないまでも国の代表に選ばれていることを知らないわけではないだろう。その時点で強者だとわかっているというのにルストは笑みを崩さない
「君は確かに強い。しかし、僕には僕を支えてくれる仲間がいる!その力を今、見せてあげよう!」
そう言って、ルストは自信を包んでいたマントを派手に脱ぎさると同時にカモ君とは違う構えを取ってみせた。
そのマントの下にあった。ルストが装備していたアイテムが露見する。
シルフブレスレット。翡翠色の宝玉が埋め込まれた腕輪。地属性の魔法ダメージを軽減し、風属性の魔法攻撃力を少し上げる。
シルフブーツ。黄緑色の少し可愛らしい靴。移動速度の上昇と飛行能力を装着者に与える。
護身の札。致命的なダメージを肩代わりする。発動した際、舞台から強制退場させる。
・・・こ、こいつっ!メタ装備をしてきやがった!?
格闘術が主なカモ君に対しての飛行能力は否応が無く、中~遠距離戦を強いられる。
そして、カモ君の主力ともいえる魔法は地属性の魔法であり、それにより様々な属性の中でダメージを最も負う魔法が風魔法。
カモ君の攻撃を軽減し、防御を貫くための装備と言わんばかりの品ぞろえにカモ君は思わず、ちょっと待った。と声に出そうとした。が、それが叶う事はもちろんない。
「審判、決闘開始の宣言を!」
「決闘!開始ぃいいいいい!!」
待てって言ってんだろうがぁあああああ!!(言っていない)
内心困惑しているカモ君とルストの決闘を、観客席から見守っているシュージやコーテ達がカモ君の勝利を願っている中、コハクだけは今まで見たことが無いくらいの良い笑顔でぶどうジュースを飲んでいた。




