第十二話 すごく、すごいです
無知とは罪だ。だが、知ること自体が禁忌というのもわかる。
リーラン王国の軍隊と、そして姫であるマウラの特別指導というおそらくリーラン王国では最高の環境を与えられたシュージ達は一回り成長できた気がする。
マウラが来てから六日間。シュージはマウラに鍛えられたからこそそれを実感していた。
特に対人戦闘の経験は得難いものだった。
その達人染みた動きは見ているだけでも鍛えられる。それが肌で感じられ、それを死動作してもらったシュージ。今の彼なら中堅の大剣使いや素早く動く魔法使いが相手ならすぐにはやられないだろう。
いや、環境は良かったんだよ。ただ、相手が良くなかった。
別にマウラが悪いというわけではない。だが、強くなるという一点を見るなら相手はカモ君の方が良かった。そちらの方が効率いいのだ。
だが、そんな事を言えば、まともに受け取ってもらえずに変人扱い。まともに受け取ってもらえれば決闘後はサンドバックに就任する羽目になる。
シュージはキリリ。と、少し凛々しくなった。シィやネインと言った先輩達とキィも雰囲気が変わった気がする。イタは少し疲れた顔をしていたが、魔法の精度が少し上がった気がする。
だが、カモ君が欲しているのは確か強さだ。雰囲気や外見など二の次、三の次。
というか。マウラ姫、シュージを拘束しすぎ。
休憩時間は最低限。シュージと言葉を交わす暇もなく六日間を過ごしてしまった。
シュージには自分がまだ、転生者であり、『踏み台』であることを話せていない。
キィ経由でそのことが伝わっているらしいが、カモ君がシュージと模擬戦を行わなければ意味がないのだ。
決闘に必要なものは何か?それは圧倒的なステータスだ。
どんなに技術を磨いても、心を律せても、力が無ければ意味がない。
スポンジで岩を砕けるはずがない。
逆にどんなに稚拙でも一発でもあたれば勝てる力があるのならそれを鍛えたほうがいい。
百発。千発と打ち込まれてもノーダメージなら勝てなくても負けることはない。
どのような凶悪な攻撃も全て回避できれば問題ない。
そのどれも自分達は手に入れていない。
これから決闘が行われる五日後。決闘の舞台となるのは、リーラン王国に隣接するネーナ王国の領土の端に設置されたコロッセウム。リーラン王国の武闘大会で使用された舞台に似た造りになっているらしい。
その舞台、何か細工されていませんかね?マウラの口からは建設にはリーラン王国の建築士も携わっていると言っていたが…。買収されていそうだ。舞台の一部に罠を仕掛けていた理、観客席から毒の吹き矢とか飛んできそう。
地の利。人の利がネーナ王国にある。天の利?
こちらの戦力は天候にはあまり左右されない。シュージの火の魔法も台風レベルの悪天候でもない限り威力は変わらないだろう。それくらいになれば相手側もデメリットになるだろう。
だが、決闘とはそんなものだ。
盤外戦術なんか当たり前。試合の前にバフを受けるのはOK。魔法の詠唱。事前準備もOK。ドーピングもOK。デバフ魔法はNG。マジックアイテムガン積みはOK。試合中やその前後にポーションや決闘参加者。補欠からでもの回復魔法で回復。補助魔法を受ける事もOK。
だが、今回の決闘で死亡しても文句は言えない。自己責任。
決闘している者が気絶。もしくはリタイア宣言すればその試合は負け。チームメイトがもう戦闘続行は不可能と思った時、チームリーダー。大体は最後の選手。大将がタオルを舞台に投げることで負けを認め、試合を終わらせることも出来る。
と、様々ルールがある。それに反すれば反則負けも言い渡されることもある。
だが、ばれなければ問題ない。買収など生ぬるい。暗殺だってありうる。正々堂々なんて物はない。これはある意味戦争だから。勝てばよかろうなのだ。
「私が結界張ってあげようか?」
「…え?本気か?」
訓練を終え、魔法学園へ戻る馬車の中でいろいろと考えていたカモ君にコハクが声をかけてきた。
カオスドラゴンの結界とか、誰も突破できないと思う。出来る存在はラスボスくらいだ。
嬉しすぎる発言だが、どうしてそうしてくれるのかと尋ねれば、コハクはカモ君が気に入ったからである。そんな存在を下手な策略で失うのは惜しいと考えた。
もう少し好感度が高ければシィやネイン達を押しのけて決闘に参加すると言い出すところだった。まあ、そうなれば勝ちが確定する。
カオスドラゴン(オリハルコンドレス装備)に勝つとか無理ゲー過ぎる。相手が可哀そうになる。勝てるのはきっとカンストレベルまで鍛え上げられたシュージとその仲間達だろう。
「安心して。百年は誰も手が出させないすごいものを展開するから」
「それは封印っていうんだよ」
強固すぎる魔法を止めるように注意するコーテ。そんな事になれば不戦敗になる上に、餓死。もしくはシュージのように窒息するかもしれない。
程よく強固で出し入れできる結界をお願いしたい。
馬車の中にいたのはカモ君とコーテとコハク。そして、ようやく釈放されたライツの四人が客室に載せた馬車の中で、話についていけないライツは混乱していた。
(え、なに、この白いガキは。カモ野郎も妙な信頼を寄せているし、変な角も生えているし。まさか歴史上でも滅多に出てこないハイエルフ?それとも精霊の化身か?)
「あんな細い精霊じゃないよ。私は」
コハクの意識がライツに向くと、向けられた彼女は思わず姿勢を正した。正確には全身に力を張って身構えたに近い。
絶対に勝てない。逆らえない。意見も出来ない。
そんな存在が自分を見ている。ライツは常に張り付けていた笑顔の表情を強張らせた。更には周囲の空気が冷たく、重く感じられるほどの緊張感を植え付けられていた。
「おおい。どうしたんだっ。落ち着けっ」
客室の外。馬車を引いていた馬の悲鳴が上がり、暴れ出しそうな馬をどうにか制御する魔法学園教師の声が聞こえる。馬からすれば自分の後ろにいきなり飢えた獅子が現れたように感じたのだろう。
コハクはそれを察してすぐに意識の波を抑えた。そうする事で沈んでいた雰囲気と圧迫感が消えた。だが、ライツは圧迫されていた時は思わず呼吸が止まり、解放された瞬間、体が酸素を求めて何度も深く呼吸を繰り返すことになった。
馬車がしばらく揺れるが、どうにか落ち着かせた後。それからしばらくしてカモ君が口を開く。
「あまり失礼なことを考えるなよライツ。彼女は察しがいいんだ。次は消されても文句は言えない」
「な、なんなんだよ。あんたは…」
カモ君の忠告を聞きながらもライツはコハクの正体を知りたがった。だが、知ったところでライツにはどうしようもない。それが、
「私はカオ「が、とっても強い力をもつ某国のお姫様」、…です」
一応、コハクの事は秘密にするように言われていたのでコーテがコハクの言葉を遮ってフォローを行う。これが失礼に当たるかどうかのギリギリのラインだが、どうやらセーフらしい。
コハクは仕方ないなと眉尻を少し落としながら、馬車の窓の外の風景を眺めることにした。
彼女はワイルドカード。もしくはジョーカーになりうる存在だ。
ドラゴンの気まぐれでリーラン王国は生かされているが、いつ吹き飛ばされてもおかしくはない。それはネーナ王国も同じである。
そんな存在が若干でもカモ君側についているとしたらどんな手段を取るかわからないのだ。それこそ後先考えないような無茶で甚大な被害を生み出す作戦を出すかもしれない。
そして、そんな彼女を味方に出来たと勇んで戦争を行うバカがリーラン王国からも出てくるかもしれない。
そんな輩を感知すればコハクが我慢しても、彼女のドレスに変化したスフィアドラゴンが許さない。そこにあった街並みごと馬鹿を吹き飛ばすことがあり得るからカモ君達はコハクを決闘の参加者には勧誘できないのだ。
そんな時、何かを思い出したかのようにコハクがまた口を開く。
「すごい補助魔法もかけてあげようか?体が爆発したみたいに強くなれるやつ」
「それって、実際爆発しませんか?」
こうして、カモ君達の強化訓練は幕を閉じた。




