第十一話 そこのお前。カモ君を倒した時に得られる経験値は四天王一人分だぞ
カモ君とマウラの模擬戦後は筋トレや瞑想と言ったクールダウンのような特訓をこなしたシュージ達はそこで一日の修練を終えた。
カモ君とマウラの戦いに己の力量の無さを感じた彼等は、夕食とシャワーを済ませ、設けられた部屋へ戻ると、その疲労からすぐにすぐにベッドに倒れこんでいたのだが、各々そうはしなかった。
あの二人は、強すぎる。
同年代。しかも一番年下であるはずのカモ君が王族のマウラに対してあそこまで戦えていたにもかかわらず、今回の決闘に一番焦りを感じていた。
自分の領地が掛かっているからだと思うが、あれは違う。明確に自分と戦う相手を。自分達の予想以上の敵を想定していた。
はっきり言ってそんな存在に自分達が勝てるかどうかわからない。
訓練後、シィは爽やかにカモ君達と別れていたがカモ君との力量差に悔しさのあまり握っていた拳から血がしたたり落ちるほど力を込めて悔しがっていた。
ネインはカモ君の力量を知っていたと思っていたが、自分の浅慮さを恥じた。彼ほど強い同世代を見たことも無いが、それは決して才能だけで培ったものではない。あれほどの斬撃の応酬。
今まで努力をしてきた。しかし、カモ君のように『必死』に努力したことがあるだろうか?
そう考えると、今までの自分を叱り飛ばしたくなった。
イタは、自分ではこんな戦いは無理と判断し、きっぱりと実戦は諦めて彼等の補助に全力を注ごうと魔法の訓練だけを行った。
あの模擬戦の力・素早さ・技の冴え。そのどれもがカモ君よりマウラが上だった。しかし、それに食い下がっていたカモ君の様子を見て、考えを再度改める。
カモ君は知っている。血を吐くほどの激痛を。涙を流すほどの屈辱も。
それにどれだけの時間を費やしただろう。どれだけの代償を払ってきただろう。
隻腕。顔に残っている火傷の後。どれもが一般人の話ではない。鉄火場を経験した事がある貴族。いや、戦争を経験した貴族以上の難関辛苦を超えてきた人間だ。
そんな彼と同列扱いで決闘に参加して本当にいいのだろうかと悩んでいた。
それは『主人公』であるシュージにも言えたことだ。
彼は確かに強くなれた。カモ君のお陰で。自分にだけ備わっている『主人公』の力で強くなったという自覚はある。
だが、その強さを十全に使えた事があっただろうか。
カモ君は言った。お前は俺よりも強くなっていると。
確かに瞬間火力は彼をも上回るだろう。だが、その力を発揮できるだろうか。彼を相手にして。戦えるだろうか?彼の戦う敵に通用するだろうか?
今のままでは無理だと断言できる
その理由がカモ君とマウラの戦いだ。あれに比べるといかに自分の力を出し切れていないかが分かる。
あれはまさしく己の実力を十全に扱った勝負だと言ってもいい。
魔力量だけならマウラをも上回るカモ君だが、その魔法の効果はマウラに劣る物だった。
二つ以上の魔法を同時に使用するカモ君の消費魔力はマウラの倍以上だ。それではいくら魔力量があっても底をついてしまう。
次に身体能力。これは両者とも同じ力量に見えた。力ではカモ君が上回るだろうが、マウラはそれを剣術やそこからくる体さばきで対抗した。そのため、一進一退が続いた。
次に戦闘の経験値。ゲームで言う経験値ではなく、どれだけ多くの戦いを経験したかの実績。経験。これに関しては恐らくカモ君の方が多くこなしてきたのだろう。そうでなければあの切れ味の鋭いシルヴァーナを持つマウラに立ち向かえない。
いくら強力な防具・武器を持っていてもたった一度の攻撃で霧散すれば、普通は怖気づく。だが、カモ君は笑みを浮かべながらマウラに挑んでいった。
恐らくカモ君が負けたのは装備の性能の差だろう。
夕食時に彼から聞かされた搾取の腕輪の効能で、カモ君の魔力総量は水増しされていると。しかし、彼には攻撃力を上げる装備・マジックアイテムは無い。シルヴァーナの威力はそれを無に帰すほどである。カモ君が同等の装備を持っていたら彼が勝っていたのではないかと思う。
シュージはベッドの上で自分が持っているマジックアイテムを広げて、考え直す。
施しコインは決闘では使えないアイテムだから除外する。
火の指輪。火のお守りは正に自分に加工されたかのような装備品だ。これをカモ君に渡せば解決するかと思ったが、彼の火の魔法のレベルは1。そこからいくら水増ししても自分よりは効果が薄い。
ゴリラの心得をカモ君に譲るのはどうか?それも駄目だ。彼曰く自分のステータスはおそらく広く薄いものであり、身体による攻撃力と魔法による攻撃力はそんなに変わらないだろうと言っていた。それなら振れ幅の大きいシュージが持っていた方が、より効果があるとも。
友人から薫陶を受け、恩も受け、何度も助けられた。
そんな彼のピンチを救えない。手助けすることも出来ない自分はなんて情けないのだろう。
だが、シュージはそこで終わらなかった。諦めなかった。
一度自分のマジックアイテムを片付けると、ベッドに入りながら眠りで意識を失うまで瞑想した。
彼を直接手助けすることは敵わない。だが、間接的になら。少しでも決闘の勝率を上げる為に魔力の総量を引き上げる瞑想をしながら就寝した。
それは十万という膨大な数に1を加えるというかすかな成果だが、それだけでも勝率は上がる。
何故ならキィ曰く、自分は世界を救う最強の『主人公』なのだと。カモ君もそれを知ってか知らずか、期待してくれている。
ならば答えてやる。幼馴染に。友人にここまで期待してくれているのに応えきれなかったら『主人公』以前に一人の友人として終わりだ。
訓練で体は疲弊。カモ君達の模擬戦で精神は自信消失。
それでもシュージの闘志は消えてはいなかった。
体を早めに休めて、翌日の訓練に備える為にシュージは瞼を閉じた。
「彼は。彼等は勝てると思いますか?」
コーテ達同様に用意された別の大部屋で、マウラは自分の護衛達。その中で最も強い女性、ティーダ・ナ・ホートーに質問を投げかけた。他の護衛達は部屋の外と中を見張っている。
王族を除けばリーラン王国で5本の指に入るほど強いと称される彼女は片眼鏡。モノクルを指先で上げ直し、カモ君達の評価を思ったままに述べた。
「難しいでしょう。エミール少年以外の生徒達は圧倒的に戦闘経験が足りません。あれでは彼だけで決闘を行えと言っているようなものです」
手厳しい。だが、それは現実だ。その証拠にカモ君以外の生徒はマウラに十秒も持たなかった。イタは明らかに実践向きではない性格と体力。キィは好戦的だが魔法が発動するまでに時間がかかる。
今回の決闘を魔法だけの大会ならばまだ勝ち目はあった。しかし、決闘は別だ。これまでの経験と技術がものを言う。その両方を兼ね備えているのはカモ君だけだとティーダは評した。
それにマウラも異存はない。いや、いっそあってくれたらどれだけよかったか。ティーダは更にダメ出しをする。
「更に相手が一対一の勝ち抜き方式。そして、舞台となる戦場は何の遮蔽物もない舗装された平地というのが駄目押しです」
せめて集団戦ならカモ君が相手の注目を集め、耐えている間にシュージの圧倒的な火力で薙ぎ払うことも出来た。キィの妨害魔法も活かしきれただろうが、場所と方法でかなり不利だ。
「うちの外交官は何をしていたのか…」
マウラがため息をついた。
彼女もわかっている。これでも相手からかなり譲歩してもらっている。それが決闘という形になっただけ。そうでなければ国同士の全面戦争になっていたかもしれないのだ。
しかもこちらが負けたとしても失うものは、敗戦したと思えば大分安上がりで済む。
貴族の地位を廃嫡された少年と平民の少年。そして、モカ領。王国という視点から入ればそんなに広い領地でもない。
だが、失われる人材が大きすぎる。
マウラとまともに殴り合いが出来るカモ君。あの戦闘能力を差し引いても彼との間に出来る子どもはほぼ魔法使いだ。これは未来の戦力になる。
次に平民のシュージ。これはカヒーから報告だが、十二。いや十三かもしれないが、そんな年齢で上級魔法が使えるという逸材。
そして、モカ領を奪われるという事はそこに関与する人材も引き抜かれる可能性がある。
つまりはまだ八歳という幼子であるにもかかわらず、レベル4。特級の魔法使いであるクー。この国に三人しかいない超人をも超える可能性を持つ彼がネーナ王国にとられる可能性があるのだ。
この三人がネーナ王国に持っていかれるだけでもまずいのに、将来的にこの三人がリーラン王国の敵になったら絶望しかない。王宮に通う貴族の一部には今回は負けても安く済んでよかったとほざく輩がいたが、それは奪われる彼等の可能性が見えていないことだ。
「相手側の選手の情報は?」
リーラン王国もお粗末ではない。
相手国のネーナ王国の情報を集めている諜報員はいる。
せめて、彼・彼女等が持ってきてくれる情報に期待したいところだが現実はどうだ。
「選出されたあちら側の生徒ですが、皆が皆。ダンジョン攻略を何度もこなした実績あり。対人戦闘も軍事学校だけあって豊富。その上、彼等の装備品はミスリルを使用していると思われる防具や武器も持っていたそうです。更に選手候補に挙がっている生徒の殆どが上級の魔法を使えるとの報告も上がっています」
生徒の質も。装備の質もあちらが上となっている。更には魔法ランクも上。
なるほどこれは難しい。というか無理に近い。
相手選手が油断しない限りこちらに勝ち目はないだろう。
生徒=将来の国力。
いつからネーナ王国の国力はここまで引き上げられたのだろう。そんな兆候が見られたのは三年ほど前からだという。
ネーナ王国ではそれまでに比べ、ダンジョンがよく発生するようになった。
剣術や騎兵と言った物理戦から、魔法の訓練をよくするようになってきた。
今ではメジャーになった冒険者の引き抜き。まるで大成することを知っているようなことから、廃嫡や領地没収された各国の貴族を取りこむなど様々だ。
先見の目どころではない。まるで未来を見透かしているようなそれは恐怖を覚えた。
現に彼等の手によって、常夜の外套を奪われたこともある。
「どうやら、こちらの選手達にも、直接・間接問わず接触している恐れもあります」
つい先日の報告にそんなものもあった事を思い出したマウラは再びため息をついた。
何も考えず、モンスターに突撃して、シルヴァーナを振り回して暴れたい。
マウラはもともとそんな性格だったが、ここ近年のリーラン王国の異変の対処で忙しい家族の姿を見て、考え方を改めるようになった。
だが、基本は突撃思考のマウラにこれ以上難しい事を考えるのはやめた。
「はっきり言って。このまま私が彼等を鍛えた場合。こちらが勝てる可能性は」
「10%。それも最高の成果を出せたらの話ですが」
ティーダも諦めたように即答した。
だが、それで終わらせたくない。
マウラにとってカモ君はちょうどいい対戦(遊び)相手。彼を持っていかれるのは国の損害になる。だが、マウラ個人でもカモ君を手放したくない。そのためにも。
「一番伸びしろのある生徒を鍛える」
「それがよろしいかと」
出来る事ならあのコハクという底知れぬ少女にも決闘に参加してほしい。そうすれば勝利は確実だろう。だが、彼女の機嫌を損なう事はご法度と父親。国王からも言われている。
せめてシルヴァーナを持つ自分が参加できればよかったが、王族を死ぬ可能性がある決闘に参加させるなどあってはいけないとも言われている。
「あの平民。シュージ・コウンを姫様が徹底的に鍛える」
武闘大会から成長速度で勢いがあるのはシュージだ。
逆に伸びしろが無いのはカモ君だ。まるでそこが自分の限界だと言わんばかりに強くなっていない。努力も功績も積み重ねてきているはずなのにまるで呪われているかのような…。
ティーダがそう考えていると、マウラの小さな口から年相応のあくびが出た。
明日も早い。訓練もあるが、その美貌を保つためにも就寝時間はある程度取ってもらわなければならない。
その考えの元、ティーダは他の護衛と共にベッドで横になる戦闘姫にシーツをかぶせるのであった。
別室ではカモ君もマウラと同じような事を考えていた。
だが、結論は少し違っていた。
シュージを集中的に鍛えんといけない。俺が。
他の誰かと模擬戦させている暇なんてねぇっ!
少しでもシュージと戦い、負けて、彼のレベルアップを促さないといけない。
カモ君が打てる手段はこれくらいしかなかった。先輩達やキィのレベリングも考えたが、時間がない。と、カモ君は焦っていた。
俺を殴った方が効率いいんだから!
誰にも文句は言わせねぇ!文句があるやつはぶっ飛ばしてやる!
というわけで、今日はもう寝る!おやすみ!
そして翌朝。
マウラがシュージを鍛える発言をしたので、カモ君は額に手を当てて俯いた。
「ぶっ飛ばすんだよね?やらないの?」
なぜか昨晩のカモ君の決心を知っているコハクからヤラナイカ?と、尋ねられたが彼はNOと言える魂の持ち主だった。
やらないよ!ていうか、出来ないよ!
王族に手を上げたらその場で処される。本末転倒どころか少しも前に進まず終わってしまう。余計な決定をしてくれたとカモ君は泣きそうになるのを堪えてマウラにボコボコにされるだろうシュージに向かって手を振った。
頑張れよ!主人公!
空いた時間で俺とバトルだ!
「うーん。せっこいなぁ」




