第十話 愛する人達(約3名)
ぶっちゃけマウラが出場してくれればなぁ。
飛び級とかして入学。シィかネイン。もしくはキィと入れ替える形で彼女に参加してもらえれば大分勝率が上がるんだけどなぁ。
カモ君はそんな事を考えながらネインを鉄腕で押しつぶす形で組み伏せていた。
マウラの言った強者との戦い。その強者にカモ君も含まれていた。いやぁ、自分はどう頑張っても強者(笑)でしょ。
マウラの登場からすぐさま行われた模擬戦。マウラと一対一。決闘方式で戦うという物だったが、いやぁ、彼女強い強い。強すぎて笑いがこぼれる。
王族というスペックとシルヴァーナの恩恵が混ざることで最強に見える。
本当にそのシルヴァーナ壊れている?前よりパワーアップしている様にも見えるんですが気のせいですかね?
シィを開始一秒。一気に近づいて首筋に剣先を触れさせる。
ネインをたった一合。左下から右上の切り上げで彼女の持っていたサーベルを弾き飛ばす。
先輩達がやられたのを見て、素の身体能力では勝てないと悟ったシュージはゴリラの心得を装備して挑んだが、五秒で叩き伏せられた。
その上、この三人にはイタの補助魔法で能力をブーストしているにもかかわらずにだ。
シィは魔法学園という環境なので、接近戦の経験が少ない。というか魔法使いはその性質上接近されればほぼ詰みなので仕方ない。とはいえ、魔法の詠唱もまともにできないで終わった。
ネインも武芸をたしなむものだ。常人の数倍の握力を保有しているのに己の命ともいえる武器を弾き飛ばされた。
シュージは魔法が主で剣術や体術と言ったものは苦手としているものの、ゴリラの心得で身体能力は上がっているはずなのに五秒でやられた。
模擬戦開始時は両者の距離は十数メートル以上あったにもかかわらずだ。
「皆さんはあまりにも剣士。接近戦を得意としている人間との戦闘経験が少ないようですね。確かに魔法は強力ですが発動させなければ意味がない。近すぎたら自爆する恐れがある。その事を今一度、その頭に刻んでおいてください」
風紀委員。魔法学園の荒事に関与する役職に就くシィは改めて戦士のステータスの恐ろしさを考えさせられた。
サーベルやレイピア。武芸を嗜んでいるネインは改めて剣術の冴えを。格上との技術の稚拙さに己を恥じた。
シュージはカモ君と何度も模擬戦やトレーニングを行ってきたのに、それらを活かせなかった事を悔しがった。なにより、ゴリラの心得というアイテムに頼りすぎていた。慣れない体を使い切れていないなどとマウラから言い渡されたりもした。
イタは自分じゃ絶対に無理と諦めた。王族に立ち向かうのもそうだが、戦闘スタイルがまるで違う彼女ではどうやってもマウラに勝てる未来が浮かばなかった。
「今までのものは剣術と魔法の併用で実現させたもの。剣術だけでは勝てる。あるいは魔法だけでなら勝てる相手でも、それらを合わせれば最悪の戦力になりえます。魔法だけで挑むならば常に距離を取るように。そのための体力づくり。基本が大切なのです」
それを具体的に表しているのがカモ君である。
魔法と体術。時には剣術も使うが、カモ君の強みはマウラが言った戦力の総合力にある。
魔法と体術が合わさると最強に見える。
と厨二っぽくみえるが、そうでもしないとシュージを指導できない上に、下手すればこの場にいる誰よりも弱くなるかもしれないのがカモ君だ。
マウラに叩き伏せられた三人はまだまだ経験が、基礎が足りないと言われ、マウラが相手していない間はカモ君と模擬戦をさせられていたが、カモ君が鉄腕を発動させると駄目だった。
鉄腕は宙に浮かぶ強固で巨大な二本の腕であり、武器でもあり、盾にもなる。
マウラよりも時間がかかったが、鉄腕を発動からのその身体能力を活かして接近。鉄腕で相手を組み伏せる。
カモ君の鉄腕は地属性が上級レベル。レベル3から作り出されたものであるため、そこらの武器や魔法ではなかなか歯が立たない。
相性がいいシィの風魔法でもカモ君の鉄腕に大きな切り傷をつけるだけに終わった。
「口で言ってもわかりにくいところもあるでしょう。ですので、見本を見せましょう」
そう言って、マウラはカモ君の方を見た。
「大会の時のリベンジをさせてもらえますか、カモさん」
そう言ってカモ君が武闘大会で使っていた偽名をあえて使って彼との模擬戦を申し込むマウラ。
王族からの申し出を断れるはずもない。その上、彼女との模擬戦は見学しているシュージ達にもいい勉強になるだろう。
そう考ええたカモ君は腹をくくって頭を下げた。彼女が大会で使っていた偽名を使ってそれを了承した。
「お手柔らかにお願いします。白騎士様」
マジでな!俺も五秒でやられるかもしれないから!そうなったらシュージ達に示しがつかないし!
『踏み台』、逝きま、じゃなかった、行きまーす!
強者のやり取りのようにも見えるが、まさかカモ君の内心がここまでビビっているなどコハク以外誰も知る由もなかった。
あまりの彼のギャップに幾分表情を柔らかくして微笑んでいるだけのコハクだが、結構笑うのを我慢してのものだった。
それはまさしく銀と光が入り混じる美しいと思わせるような戦いだった。
カモ君とマウラはお互いに補助魔法を発動させているからか互いの体からは白い光の粉が吹き荒れていた。
模擬戦から開始一秒。
模擬戦の開始と同時にマウラは剣を上段に構えながら前へ直進しながら魔法を詠唱。
カモ君は大きく左へとステップしながら魔法を詠唱していた。
開始三秒。
カモ君が己の進行方向にいなかったがまだ軌道修正は容易い距離だったが、マウラが接敵するときには既にクイックキャスト(笑)で発動させた鉄腕が両者の間に生まれようとしていた。
開始四秒。
鉄腕は発動すると同時にマウラの上段切りが放たれたあとであり、鉄腕の右腕は効果を発現する前に霧散した。しかし、もう左腕は無事に顕現できた。それが出来たのもカモ君が常にマウラから距離を取ろうと未だに足を動かし続けていたお陰だ。
開始五秒。
鉄腕の左腕でマウラを殴りつけようとしたカモ君の攻撃をマウラはシルヴァーナの腹で受け止める。
鉄腕はその質量から人より大きな鉄球をぶつけられた威力があるにも関わらずマウラは少し後ろへ押しやられる形になったが、マウラは自分から後ろへと飛び威力を殺すと同時に距離を取った。
開始七秒。
お互いに少しの距離を取らされる形になった再度カモ君へと切りかかるマウラに対して、カモ君も鉄腕を振るうためにマウラに向かって殴りかかる。
お互いに魔法の詠唱をしながら。
開始九秒。
マウラは己の身体能力を上げる魔法。ブーストを使い更なる威力を持ってカモ君の突き出してきた鉄腕を斬り捨てた。
シルヴァーナとマウラの魔力を受けたからか鉄腕はすぐにも霧散させたが、そこでカモ君のクイックキャストも完遂。鉄腕が再び出現し、それをもってマウラを殴りつけようとするが、マウラはそれを斬り捨てる。もしくは受け流して後ろへ飛ぶといった形で距離を取る。
カモ君が鉄腕を顕現。その片方をマウラが斬り捨てる。その間にカモ君が残った片方で攻撃。マウラがそれを対処する。
それの繰り返しの応酬が繰り広げられていた。
お互いに位置取りやタイミングをずらして相手の不意を突こうとしたがお互いの戦闘経験が同等なのか、攻撃の手法は変わらず。まるでそこで踊っているかのような模擬戦は両者の魔法の光で文字通り輝いていた。
…ずるいなぁ。
その場にいた誰も固唾を飲んでいるように見えたが、二人の少女だけは違った想いで見ていた。
一人はコーテ。
カモ君とは戦闘スタイルが違うがゆえに彼とはどうしても距離を取って戦うしかない彼女は彼と真正面からそしてあれだけ接近して戦えているマウラが羨ましかった。
二人の戦いは本当に踊っているかのように、楽しそうに互いに笑顔で斬りあい、殴り合いをしている。
自分ではカモ君を笑顔で戦わせることが出来ないだろうと思うと彼と同じ戦闘スタイルであるマウラが羨ましくて仕方ないのだ。
実際、マウラは実力の近い者と戦えるのが嬉しくて笑顔になっているが、カモ君はあまりの余裕のなさからくる笑顔だという事をコーテは知らなかった。
ずるいなぁ…。
もう一人はカモ君や周りの人間の思考が読めるコハク。
彼女はカモ君の表面上の態度と内心のあまりのギャップに笑うのを必死に堪えていた。
ここで自分が大笑いをすれば、抑えていた笑いの感情が一気に漏れ出す。その感情の波が周囲の人間に伝わり騒然とするだろう。
アースの放っていたプレッシャーほどではないが、それでも王城が近いこの訓練場でそんな事をすれば王国の兵士どころか平民たちまでパニックになる。それはやっては駄目だとカモ君に言われたので抑えていたのだが、それもいつまで持つか。
「さすがですね!私もペースを上げます!」
「では、私もお答えしましょう」(初めっから全力だけどねええええっ!!)
マウラは更に口角を上げ、魔法の放出量を上げて、出力を引き上げた。
それに対して、カモ君もクールに見える笑みと言葉で返したが、もう彼はいっぱいいっぱいである。彼の魔法の出力は常に全力全開である。
これだ。カモ君のやせ我慢がいけない。
頑張っているのに現実に追い付けない。全力を尽くしているが、思い通りの展開にならない。
それに苦悩し、認めたくない。だからこそ、みっともなく諦めきれないのにそれをおくびに出さない。
だが、それがコハクには。カオスドラゴンには感じ取れてしまう。それがおかしくて、面白くてたまらない。
しかもだ。カモ君はここぞという時は全力以上の力を発揮してくれる。その期待感からコハクはカモ君から目が離せないのだ。
「これが、私の、全力、です!」
「なら、ば、私も、全っ、力っ、で、お、答えっ、ま、しょう!」(うおおおおっ!この先にクーとルーナの輝かしい未来があるんだ!愛する皆!おらに力を分けてくれ!!)
人からすれば見ごたえのあるぶつかり合いも、コハクからすれば児戯。だが、カモ君の必死さがまるで字幕のように透けて見えてしまい、それが面白くて仕方ない。
出来る事なら思うが儘笑い転がりたいが、そうすればこの模擬戦に水を差すことになる。そうなればこの面白い事態も終わってしまう。
まるでゲームをする子供のように楽しく、しかして慎重に見ているカオスドラゴンであった。
この模擬戦の結果はお互いの魔力が同時に尽きたことにより、シルヴァーナを持っていたマウラが疲弊の色を残しながらもカモ君の首筋にその刃を触れる寸前。寸止めにより、マウラの勝利となった。
時間にして20分以上の戦いだったが、シュージ達にとっては見ごたえがあり、学べる戦いであった。
模擬戦後のコメント。
マウラ「もうちょっとテンションが高かったら寸止めできなかった」
カモ君 Σ( ̄□ ̄|||)




