表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
先立つ不安のカモのミートパイ。プリセンス仕立て
153/205

第九話 戦闘経験が足りません!

ゼェゼェ。ハァハァ。


リーラン王国第三軍事訓練場で息を荒くしている少年少女達。彼等は慣れない肉体づくりのトレーニングを受けることでまだ日も高いうちから体力の殆どを使い果たし、息を荒くしていた。

魔法を主にしている魔法学園の生徒のため、こういった体力を使う行動が苦手なのだろう。

そんな中でも比較的に体力が残っている人物がいる。カモ君である。

彼は魔法的には強くなれないと知っていたからこそ幼い頃から体力面でカバーしようと鍛えてきた事が活かされた。より効率的な体の動かし方を知っているとも言ってよい。

時期が真冬という寒いのは当たり前だが、カモ君達は皆体を動かし続けたので体温は上がり、汗をかくほど動いていた。これが夏なら熱中症になるのではと思うくらいに汗をかいていた。そんな中でも震えるほど寒がっていた人間がいた。イタである。ダジャレではない。

体力がない彼女は始まって30分もしないうちに倒れ伏して早々にリタイアした。その後宿舎に戻り汗をシャワーで流し終え、厚着をした後、見学という形でカモ君達を見守っていた。

彼女の傍にはカモ君達の補助をするために同行したコーテが、メイド服を着てホットティーを差し出して補助している。だが、その主な奉仕はリーラン魔法学園の学生服にドレスを羽織っているコハクへの物であり、イタへの奉仕はおまけのようなものだ。


いや、もう少し頑張れ。


確かにイタは軍師タイプだが、それでも最低限のスタミナは保持してほしい。

決闘もそうだが、ダンジョン攻略。果ては喧嘩や普段のコミュケーションでも人は苦手なことに直面すると知らないうちに体力を削る生き物なのだ。そこに緊張、恐怖や慢心といった精神的な弱みを抱えているのが人間だ。

実力を100%発揮するなどそれこそ熟練の冒険者や兵士。魔法使いにしかできない。

経験0でそれらが出来るとしたらそいつは狂人かサイボーグだ。普通の人間じゃない。

だからこそカモ君は何度もダンジョンに挑み、ボコボコにされるとわかっているアイムとの訓練をこなしてきた。


例え、戦闘力が100あっても発揮できるのが3割の30しか出せないこともある。

そいつが相手なら戦闘力が60でも40発揮できるカモ君が勝つことが出来る。


発揮できる力を1でも引き上げるのがこの訓練の内容であるのだが、イタは早々にギブアップした。

向き不向きはあるだろうが、本当にもう少し頑張ってほしい。今の状況では彼女が決闘した際には戦闘力が例え100あっても10も発揮できずに一分でやられてしまうだろう。

かといって、ここでも無理をして体を壊されても困る。

決闘まで二週間もないのだ。訓練は残り三日。その後、一週間の休憩を取り決闘に挑むスケジュール。

今の状態では決闘時にはイタをアンカー。大将に据えて補助魔法を先鋒から副将に使ってもらうしかない。もし、彼等がやられてしまった場合、彼女は決闘を棄権する事しかできないだろう。


そんな先行きが不安な戦術が容易に思い浮かぶカモ君は再度ため息をつく。

事実上戦力は一人減った四人で、ネーナ王国の五人選手を相手することになる。

相手が並みの相手ならシュージだけ。後詰めにカモ君で事足りるだろうが、そう上手くいっていないのがカモ君の人生だ。


自分達と同年代で最高レベル。モカ領を襲ってきた刺客レベルがぶつけられると考えれば、主人公補正で強くなっているシュージが強力な魔法とゴリラの心得をうまく使って、二人までは仕留められるだろう。だとしてもそこからの疲労から三人目で敗退。

おそらくまだシュージの仲間と認識されていないネインではおそらく歯が立たない。シィも今までの訓練で動きを見たところネインと大差ないと見ている。おそらく二人掛かりで対戦相手の三人目を倒せるかどうか。

そして、カモ君。ネインとシィが弱らせた選手を倒すことは出来るかもしれない。四人目までは倒せるかは微妙だ。運よく勝てても最後の五人目相手に疲弊した自分が勝てるか怪しい。

しかもこれらはイタに補助魔法を使ってもらったうえでの希望論だ。そんな彼女はネーナ王国とつながっているかもしれないというのが現状だ。

補欠のキィも戦力考えたが、彼女も今ではイタ同様に体力を使い切って、カモ君達のトレーニングの邪魔にならないように訓練場の隅でイタと一緒に見学していた。

キィはまだやる気なのかジャージから着替えないで体力がある程度回復するのを待っているようにこちらをうかがっていたからまだイタよりもやる気はあるのだろうが、彼女も。というか彼女の闇属性の魔法は強力だが詠唱が少し長い。その間に距離を詰められて殴られ場終わりだ。彼女も耐久力そんなにない。イタより少しマシくらいだろう。つまりは戦力にはならない。


デバフ。阻害魔法に期待したが、あれは意外と有効範囲が狭い。発揮するには決闘の舞台に立たなければならないだろう。

バフ。補助魔法は対象に使えば時間経過で効果が消えていくが、それでも一度効果を発揮すればその魔力を消したりしない限りすぐには消えない。


無い知恵を絞り、戦い方。戦う順番を色々考えてはみるがどれも上手くいかない。そもそも最大戦力のシュージが負けても敗北濃厚なのに、『踏み台』の自分が負ければ勝った相手を大幅に強くしてしまうのだ。その時点で敗北確定である。


そんな事を考えながらも筋トレのスケジュールをこなしているカモ君達にキヤラが急に声を大にして筋トレを止めるように指示した。


「訓練中止!マウラ王女のお見えである!全員、頭を垂れよ!」


その指示にこの場にいたコハク以外の人間は片膝をつき、頭を垂れた。

カモ君とコーテはもちろんだが、ネインやシィといった貴族にとって王族は絶対の存在だ。無礼を働けば打ち首も免れない。それは更に下の立場にいるシュージ達も同様だ。リーラン王国の国民なら決して同じ立場で話せる立場ではない。

いきなりフレンドリーに話せるどっかのチート主人公や俺TUEEEな主人公がおかしいのだ。

それほどまでに身分というのは、いや、王族は特別だ。人間としてのレベルが違う。カモ君のレベル上限が50なら王族は80まで上がる。しかも同レベルタイでもステータスが倍近く向こう側が大きい。

『主人公』に関与しない人間の中では最強種と言ってもいいだろう。

セーテ侯爵?あれは変異種だ。人間の形をした何かだ。単身でドラゴンに立ち向かえる人間なんて人間じゃねぇ。


カモ君がマウラに勝てたのは奇跡。対抗できたのはまぐれ。同じ戦場に立てたのが間違い。


頭を垂れて、視線が下を向いているのにすぐ傍にマウラが。王族という最強種がいることを感じ取れるそれに緊張しない人間など滅多にいない。


「面を上げよ」


顔を上げるとそこにいたのは五人の護衛に警護された銀の髪と翠の瞳を生まれ持った少女だった。

着込んでいる赤のドレスが彼女の髪と瞳を強調するかのように鮮やかな赤。ところどころに宝石をあしらったドレスは一般人の平民どころかカモ君のような下っ端貴族でも円がなさそうな高級感を放っていた。が、一番迫力があるのは彼女の腰につけている覇王の剣。シルヴァーナ。

正確には壊れたシルヴァーナが完全に修復されたように見えるだけの紛いニア

魔力回復機能を失い、逆に抜刀しているだけで魔力を消費していくというプラス効果がマイナスに変化したかのような一見したら劣悪品のように聞こえるが、それ以外の効果。


身体能力が向上。耐魔法防御能力向上。体力の自然回復。そして武器そのものの攻撃力。マウラの腕があれば中級魔法ならいとも簡単にぶった切ってノーダメージ。


はっきり言ってぶっ壊れ装備と言われてもおかしくない。

三大チート武装。将来のシュージが装備するかもしれない強力な武器。

ただでさえ強い王族に強力な武器。鬼に金棒とはこのことだ。


…よく勝てたな、俺。


あの時は事前情報があったからこそ何とか勝てたが、二度目はない。

相手もこちらの手札を知っているだろうから対策は取られるだろう。しかもこちらは隻腕だ。鉄腕という魔法を手に入れたカモ君だが、鉄腕ごと自身をぶった切られる未来しか思い浮かばない。


「此度の訓練、一部を除いて実に素晴らしいものです。見ているこちらも身が引き締まる思いです」


そう口を動かすマウラは少女ではなく、正しく人の上に立つ者。その下にいる人間がそれを否定することも、反対することも、拒否する事すらも許されないと思わせる言霊だった。


これで、自分より一つ下とか…。人間としての格の違いを思い知らされる。


カモ君は一筋の冷や汗をかいた。

武闘大会では非常事態。倒すべき相手ともあってどうにか相対できたが、今は補助してもらっている立場だから文字通り頭が上がらない。


実力も、立場も違いすぎる。…これが王族か。


そんな風に冷静に考えていられるのもカモ君がこれまで遭遇してきた経験。その最たるもの、後ろにいる存在がそうさせてくれる。


「でも、まだ足りないと思っているよね」


最強の人間種の王族。この世界最強の存在になれる主人公。

そんな存在に対抗できる最強の怪物。ドラゴンの頂点。カオスドラゴン。その姫、コハク。

コハクの物言いにマウラの護衛達に表情が強張った。

マウラに意見するなど無礼も甚だしい。だが、それが許される。それがカオスドラゴンだ。

マウラも護衛達もコハクの事は知らされているのだろう。だからこそコハクの意見を受け入れ、会話を続けた。


「…ええ。貴女の言う通りです。認めるのは悔しいですが、ネーナ王国の実力は著しいまでに成長している。その度合いを見る限り、今の貴方達では勝てない。それが、私の見解です」


だよなぁ。やっぱ、そう思うよなぁ。


シルヴァーナと同じチート武装。四天の鎧。その残骸を回収することなく撤退したと思われる国。それがネーナ王国だ。

武装技術だけならおそらくリーラン王国以上だ。それに比例するように兵力も練り上げられているだろう。

そんな相手が決闘に出てくるかもしれない。

決闘はあくまで学生という少年少女が出動するものだが、それに四天の鎧が持ち込まれることは十分に考えられる。

踏み台キャラでもある自分でも想定できることを王族が相続できないはずがない。


「今の貴方方に必要なのは自分よりも強い者との戦闘経験。それを、私が担うことになりました」


決闘に負ければモカ領がネーナ王国に奪われることになる。それを防ぐために、私は来たとマウラは言葉を続けた。

自国の領土の防衛。それも王族の仕事である。と、


そっかぁ。自分より強い者との戦闘経験かぁ。

…魔法学園に入学してからずっと経験してきたような気がするんですが。自分、まだ足りませんかね?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ