第八話 これまでもこれからも困難が尽きることはないらしい
強化訓練二日目の朝。
カモ君とネインが走り込みをされている時に負傷から復帰したシュージと付き添いのキィ。そして、決闘に参加する新たなメンバーが訓練場に現れた。
「シィ・ナ・パット!高等部一年で風紀委員長っ、属性は風っ、上級まで使える!シィ先輩と呼んでくれ!」
緑色の髪を角刈りで決めた細マッチョな爽やかにカモ君達に挨拶をする爽やかな青年。
「…イタ・ナ・メーダ。中等部一年。属性は光です。中級までしか使えません。生徒会書記を務めています。…なんで、私が決闘なんて物騒なものに参加するんですか。…恨みますよ会長」
そして、灰色の長い髪を結ったりした一つの三つ編みでまとめ、グルグル眼鏡をかけた文系女子が小声で恨み言をぼそぼそ言いながらカモ君達と言葉を交わした。
イタはともかく、シィは爽やかなスポーツマンを彷彿させてくれるほどの好感を持たせてくれるが、シャイニング・サーガというゲームを知っているカモ君は内心シィよりもイタ少女の参加を喜んでいた。
主人公の仲間来た!しかもバッファー!これで勝ち目が見えてきた!
イタはシャイニング・サーガではヒロインの一人にカウントされる少女であり、眼鏡を取ると美少女というコテコテな設定の少女。
戦闘力は素の状態では子供にも力負け、スタミナもないというもやしキャラだが彼女の真価はその豊富な補助魔法とその振れ幅である。
カモ君が使うブーストはあくまでそれを使った本人しか効果を発揮しないが彼女はそれを他人に付与できる技術を持つ。
カモ君が30強化できるなら彼女なら70強化できる。
その上、彼女は策を練る軍師タイプ。カモ君やシュージのような戦士をどのように配置するかが上手いはずだ。
「はいっ。よろしくお願いしますシィ先輩っ。イタ先輩っ」
カモ君はシィと固い握手を交わしながら、イタにも握手を求めようとしたが彼女はそれをシュージの後ろに隠れて拒否した。
「…筋肉は趣味じゃない」
その仕草を見てカモ君は以前図書館で会った文系女子を思い出した。
コーテの紹介で名前を教えてもらおうと思ったが、あの時はカモ君を怖がって出てこなかったうえに、今ほど身ぎれいにしていない状態だったから彼女の事を思い出せずにいた。
証明写真を撮る前に社会人が身綺麗にするような物か。
まあ、そうだよな。この後姫殿下も来られるんだから失礼のないように整えるのが貴族だ。
「イタ。筋肉は噛みつかないぞ。怖くない怖くなーい」
「怖い人は大体そういうことを言う」
カモ君やシィに比べてまだシュージの方が華奢な方だからか、声をかけてくるシィから逃げるようにシュージの後ろから前に出ようとしないイタ。それに苦笑するシュージ。
お前、もう好感度稼いでいるのかシュージ。
そんなシュージはコハクを視界にとらえると若干震えて、顔色を青くする。
息をするように女性との縁を広げる『主人公』にカモ君は感心した。
これは卒業するまでにはハーレムを築き、子供もこさえているんではないだろうか。
しかし、忘れてはいけない。この中で一番マッスルなカモ君だが、ゴリラの心得というアイテムを装備したシュージが一番マッスルになるという事を。
カモ君 マッスル ビルダータイプ
シィ 細マッチョ フィジークタイプ
シュージ ゴリラの心得 ゴリラ
魔法学園…。とは?
いや、まあ、決闘だからね。それなりに体も鍛えていないといけないから。これが普通だから。
…普通だよな?シャイニング・サーガの仲間キャラの七割は魔法タイプでこんなに厚みのあるキャラじゃない。
ネインもある意味厚みがあるから、細身のイタはその分厚い肉に囲まれるわけで…。
「…うう。今からでも選手交代してくださいよぅ。会長ぅ」
すでに気分が悪そうに顔を青くするイタ。そして助けを求めている生徒会長は王族の血筋にもつながる公爵家の人間だったはず。
だが、そんな重要人物を命の危険がある決闘に出場させるわけにもいかない。だからこそ身分が低いだろうシィとイタを選出したのだろう。そしてこの二人がシバ校長の出せるギリギリの戦力なのだろう。
まあ、その生徒会長もフラグを立て、回収すれば仲間になってくれるんだろうが、まだ魔法学園生活を一年も過ごしていないシュージに出来るはずがない。
え?まだ一年も経っていないの?もう五年近く戦いに身を投じた気分なんですがそれは?
「俺たちの戦いはこれからだ」
カモ君が哀愁を漂わせているとカモ君達の後ろからそんな事を言いながらやって来たコハクと彼女を連れてきたコーテがやって来た。
ライツはいない。昨晩の侵入者と同じように取り調べを受けているところらしい。おそらくカモ君達の強化訓練が終わるまでは出てこられないだろう。
やだなぁ、デンジャラスな日々が続くなんて。
というか、もはや思考ジャックが当たり前になっていますね。コハク姫。もう、ドヤ顔しないの。可愛い。
そしてコーテさん。俺とコハクが目と目で通じ合っているように見えているようだけど、誤解だから。コラ(お叱り)顔しないの。可愛い。
擦り切れすぎた日々を思い出したカモ君にとって目の前の少女達の外見は癒しでしかなかった。ただし片方は取り扱いを間違えると即死するので注意されたし。
比較的に華奢かつ小柄で知人でもあるコーテを見つけたイタはコーテ達の傍に駆け寄ってほっと胸をなでおろした。
彼女的には自分と同じタイプというる方が落ち着くんだろうが、落ち着いて聞いて欲しい。いや、聞かないほうがいい。
おそらくこの王都内で一番の物理攻撃力を持っているのはあなたの傍にいる白い少女であることを。
そこにキヤラとその部下達もやってきて、一度その場の雰囲気を感じ取ってから口を開いた。
「む、これで決闘参加者全員が揃ったか。補欠メンバーも来ているようだな。では向こうの宿舎で運動着に着替えた後、準備運動を行い、実践的模擬戦を行ってもらうっ。駆け足ぃっ」
「はいっ」
「は、はいっ」
「わ、わかりました」
「ひぃ、筋肉が増えた」
シィは活発に、シュージとキィは気後れしながらもすぐさまキヤラの指さした兵舎に向かって走り出した。それに比べてイタはというと、キヤラの風貌と声に怯えてしまい一番近くにいた小柄なメンバーの中では一番大きいコハクの後ろに回ってしまう。
おい馬鹿やめろ。そのドラゴン娘を防波堤に使うなっ。きっと世界一高性能な防波堤だからっ。人類が到達してはいけないやつだから。使用料金もべらぼうに高いから。
見ろよ、キヤラの奴、コハクの気配を直で感じて震え上がっているじゃないか。
「と、とにかく。決闘をするにしても何をするにしても体力は必要になる。君も出来るだけ急いで、しかし、慌てず準備するように」
「は、はいぃぃぃ」
イタもここに来るときには覚悟をきめてきた身だ。恐る恐るといった具合でコハクの後ろから出てくると、シュージ達が向かっていった宿舎へと走っていった。その途中で転んでしまったが、まあ、彼女のステータスを考えれば仕方のない事だ。
彼女はパーティの最奥で味方にバフを配り指示を出す司令塔が一番向いているのだから。
カモ君。カモ君。
そんな優しい目でイタを見送ったカモ君だったがそこにコハクの念が飛ばされる。コハクにとって思考の送受信などお手の物なのだ。当然内心毒づくことも裏を突くなど今のカモ君には出来ないのだから。
コハクからのテレパシーを受信したカモ君は何だろうと視線を移すとコハクは表情一つ変えずにこう伝えた。
彼女、ネーナ王国と繋がっている疑いがあるよ。
…嘘やん。
ちなみにキィが補欠メンバー。




