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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
先立つ不安のカモのミートパイ。プリセンス仕立て
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第六話 ドラゴン的には小さい

初日から飛ばすなぁ。


カモ君は肩で息をしながらも暢気な事を考えながら小休憩を兼ねた瞑想を行っていた。


準備体操とは名ばかりの怒声が飛び交うストレッチ&剣や槍を持った素振り100回。

全力疾走で運動場ランニング10周。

三十回連続模擬戦。


これらを行った後にコーテ達が用意してくれたスポーツドリンクを飲み干し、五分間の瞑想を行う。

キヤラの訓練内容はマジカル(魔法)な強さよりもフィジカル(身体)的に強くしようという物だった。

確かに、今から魔力を上げようと言っても百体近くのモンスターを討伐しないといけない。しかもシュージの『主人公』の恩恵がないのでそれ以上の労力を必須とする。

それをするぐらいならまだ若い体のカモ君達はスタミナをつけたほうが決闘に有利に働くはずだ。それに対人戦はモンスターと戦うだけではつかない度胸もつく。

しかし、それでも過剰すぎる気がする。

いや、日ごろ身体を重点的に鍛えているカモ君的には合っているかもしれないが、ネインには厳しすぎた

女性という事もあってかランニングの時点で息が上がり、組手の時はしばらくして倒れ伏した。そのまま休まされているが、今も復活できていない。


「休憩終了!次、腕立て伏せ・腹筋・背筋・スクワット1000回!」


「はいっ」


たった10分の休憩時間の後にこれだけのトレーニングを課すとか拷問かな?と、思ってしまうがまだ見ぬ相手との決闘にはこれくらいしないといけないだろう。

むしろ、四天の鎧を作り出すことが出来る技術力。シュージのことに目を付けた諜報力。そして、モカ領に侵入してきた刺客の腕前を見る限り、これでも足りない気がする。

しかし、これ以上を望むとネインが壊れてしまう。

もうこれ以上レベルが上がらない自分とまだ将来性のあるネイン。どちらを優先すべきかは明白だ。


カモ君が出来ることはこれ以上筋力と魔力を衰えさせない事。そして、自分の体を今まで以上に使えるようにすること。

ゲームで言うなら格闘ゲームで、そのキャラ(自分)をうまく使いこなす事だけだ。


厳しい筋トレを課されたカモ君だが、それを黙々とこなす。

その姿を見てキヤラの部下達は感心する。

魔法学園の出身なのにここまで体を鍛え上げ、スタミナも対人戦闘もこなしている。何よりキヤラの拷問に近いメニューをこなしているカモ君に好評価を抱いていた。

逆にキヤラは面白くなかった。

自分を低評価したコハクはもちろんだが、まだ十五にも満たない少年と同列にされたのが気に食わない。尻の穴が小さい男だった。


「次っ、実践組手だ!」


「はいっ」


筋トレが終わった後は再びキヤラの部隊の人間と組手を行うカモ君。

既に全身からは汗が噴き出ており、更には肩で息をしている。明らかに疲弊しきっているのにその目には先を見据えているように見えた。

カモ君からすれば、命の危険がないトレーニングなど生ぬるいとまでは言わないが、これまでの苦境を考えるとどうしても見劣りしてしまう。

カモ君は自分の事を低スペックだと考えているが、今のリーラン国の一般兵士と同等かそれ以上の実力を有している。

戦争時には兵士たちも急ピッチで鍛え上げられカモ君よりもステータスが上の兵士もちらほら出てくるだろう。

しかし、カモ君のこれまでの経験がそれらを上回るのだ。しかも、この男は弟妹の事が係わるとステータスに上方補整がかかる。それら全てを加味すると将軍補佐レベルまでになるだろう。

つまり、現時点でのカモ君はキヤラを上回っているという事だ。それを理解しているからキヤラはカモ君の組み手の相手はしない。もし、それで負けてしまえば己の小さなプライドにひびが入るからだ。やるとしてもカモ君がもっと疲弊してからだ。そうすれば勝てると考えていた。


小さいね。


そんな言葉が不意にキヤラの頭に響いた。

自分の近くで組み手をしている部下はこっちを見ていない。勿論カモ君も見ていない。

少し離れたところでネインの介抱をしているコーテ達がいる。

未だに回復しないネイン。彼女の名誉のために言うが、彼女は魔法にも力入れている人間で、接近戦5:魔法5の器用貧乏なキャラなのだ。かといって、カモ君達の通っている魔法学園ではそのどちらも上位にある生徒だ。断じて劣等生というわけではない。

そんな彼女達の会話が聞こえる距離ではなく、また、カモ君達の訓練の声で聞こえる状況でもない。しかし、一瞬だけ。キヤラとコハクの視線が合った。

コハクの目に炉端の石を見ているかゴミを見ているような視線を見逃さなかった。

それにキヤラは内心激怒した。

出来る事ならその冷静な顔を殴りつけたい。そう思った瞬間、自分の体が巨大な岩にすりつぶされる光景がよぎった。

と、同時に全身から噴き出る冷や汗。そしてまるで巨大で長大な氷の槍に体を刺し貫かれ続けているような気配をコハクから感じた。

彼女はもうこちらを見ていない。彼女の興味は仰向けで倒れているネインの大きすぎる胸をつんつんと突くことになっている。

それなのにキヤラは自分が今、『あえて生かされている』という状況にようやく気が付いた。

コハクがその気になれば自分など簡単に死ぬ。遺体も残るかわからない程に消し飛ぶと今になってようやく気が付いたのだ。

なぜ、自分がまだ生きているのかはわからないが、キヤラはもう二度とコハクを邪険に思う事は無くなった。


「…う。…ちょう。隊長、どうかなされましたか?」


「あ、ああ。どうかしたかね」


「いえ、組手を一通り終えましたが、次はどうなされますか?」


「う、うむ。もう暗くなってきているから室内での訓練に移るとしよう。そこにあるトレーニング器具を用いた修練をしよう」


いつ頃から自分に語り掛けてきたのだろうか、部隊の副官が自分に話しかけていることに気が付いたキヤラは枯れ切った声を出さないようになんとか指示を出す。

もう、自分を貫いていた気配は感じない。だが、それでも自分の中にある小さなプライドがふつふつと燃えている。

これまで以上にカモ君とネイン。そして、これから来るだろう魔法学園の生徒に八つ当たりで厳しい訓練を課すことにした。


小さいなぁ。


その姿をチラリと見たコハクは小さなため息を零した。


コハクの心情。

カモ君はもっと追い込まないと鍛えられないよ。


カモ君の現状。

生存が確約されている分、気は楽だけど、スタミナがもうないんですが…。


ネインの状況。

運動過多で過呼吸寸前。


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