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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
先立つ不安のカモのミートパイ。プリセンス仕立て
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第五話 ドラゴン基準

リーラン王国のシンボルがすぐ近くに見える位置にある軍事施設。

主に王国兵たちのランニングや魔法訓練場となっている平野。

ここでカモ君達は一週間戦闘訓練を行い、一週間休んで決闘に出向くというのが今のスケジュールとなっている。

そこにカモ君達を乗せた馬車が到着すると出迎えてくれたのは七人の兵士とそれをまとめ上げているだろう隊長らしき人物が彼等を歓迎してくれた。


「キヤラ・ノ・ハイケだ。この部隊の隊長をしている。そして、同時に君達を鍛え上げる教官も務めている」


失礼ながら、カモ君からしたらパッとしない一般モブ兵に髭と頬の切り傷が付いただけのような男性がカモ君達を王城近くの訓練場で出迎えてくれた。が、彼がここの責任者らしい。

彼からは主人公の仲間になる強キャラの雰囲気はない。正直、彼の指導でも自分は強くなれるか怪しいところだ。


だって、

キヤラ・ノ・ハイケ

キャラ、の、はいけー

はいけーのきゃら。

背景のキャラ。


なんだぜ。期待もへったくれもない。

ただ、その兵士としての経験は豊富だと思う。三十代後半の男兵士。おそらく対人戦闘の心構えや教訓を教えてくれるのだろうけど。


それならアイム先生で間に合っているんだよなぁ。


同じ三十代の男性で、仲間キャラ。冒険者として第一線で戦ってきた彼のほうが学ぶことは多そうだ。なんなら今からでも交代してくれたらうれしい。

魔法の鉄腕の練習にもなるし、既知の仲なのでやり取りもスムーズにいくと思う。


「私もそう思う。この人よ「確かに厳しそうだよな。よく見ると体のあちこちに傷があってただものじゃなさそうだもんな」…うん」


頼むからこちらの考えをジャックして会話するのはお控え願えないでしょうか、お姫様。

こちらが頼む側だからあまり失礼な事を言えないのよ。


「はは、確かにあちこちに傷はあるが、この傷は国民を守った証。兵士の勲章なのですよ」


コハクが失礼なことを言おうとしたので何とかセーブして、キヤラ隊長からの好感度を下げるのを防いだ。


「ご主人様の傷が多い気がしますね」


「俺はまだまだ弱いからね。これから強くなればいいさ。どんなに厳しい特訓でも受けきってみせるさ」(レベル:MAX)


ライツが皮肉めいた事を言ってくる。


…やだ、俺のステータス低すぎ。

というか、レベルMAXでこの低スペック。

最低でもレベル4。特級の魔法が使えるようになりたかった。

でもなぁ。今までの事を考えると器用貧乏なレベルの上げ方じゃないと死んでいたからなぁ。


「回復と補助は任せて」


うん。コーテには期待している。というか、彼女がいる前提での訓練に挑む予定だから、多少の無茶は出来る。これは厚い絆があってこそだ。…だよね?

よく失敗をしている気がするけど、愛想が尽きたりしていないよね?

俺達、友達以上恋人以上だよね?


「それって夫婦っていうんじゃ」


「そうなったら私はネイン先輩とも婚姻を結んでいることになる」


コハクとコーテの会話にはなにか棘を感じてしまう。主にコーテだけだが。コーテは全方位に棘を出しているように感じられて雰囲気を悪くしているような気がする。

確かに、ネイン先輩は以前のダンジョン探索の時に少しばかり怪我をしていたのでコーテが癒していた記憶がある。

でも、あれぇ?コーテさん。ここは肯定すべきではなかろうか?一応、俺達元が付くとはいえ婚約者であったのだから。

…あ、そっかぁ。俺ってば一応貴族の地位を取り上げられたような状態だった。

やべぇよ。信頼と癒しの存在。将来への希望でもあるコーテとの将来も確約されていないんだった。

そんな状態なのに見ず知らず女の子(裏ボスの娘)と仲良くやっている。かつ、何の説明もないのに彼女を優先していたら好感度は下がるというものだろう。

まずい。どうにかしてコーテのご機嫌を取らないと。


キヤラがこれから行う訓練内容を説明してくれているがカモ君は別の事を考えており、ただ相槌を打っているだけだった。

訓練も大切だが、コーテも大事なのだ。

それを感じ取ったのかコハクがコーテに向かってこう言った。


「私とカモ君の信頼関係は普通じゃないよ」


コハクさーん!?言い方ぁ!言葉が足りないんよ!それだと誤解されちゃうから!


カモ君が内心絶叫した後どうにか言いくるめようとしたが、それより先にコハクが動いた。

彼女はカオスドラゴンである。人間のカモ君よりも高い頭脳と解析の力を持つ。

カモ君の内心絶叫をくみ取り、こう言った。


「私たちは人には言えない間柄。だからカモ君は私が(サポートとして)使う。シュージをゲットするために」


コハクさん。人はそれをキープ君というんよ。ある意味間違っちゃいないけど言い方ぁ!。俺のフォローをしてくれているつもりらしいけど、その言い方だとあなたビッ〇発言なんよ。


「…あら、それはいささか卑しい考えではありませんかコハクさん。貴方も淑女ならその考えは改めたほうがよろしいかと」


コハクがシュージの名前を出すと今度はネインがコハクに突っかかる。と、同時に彼女の装備品であり保護者であるアースからプレッシャーが放たれる。

以前にあった時に比べてだいぶ控えめだが、それでもこの場にいる全員が目の前に猛獣がいるかのような感覚に陥る。


ヒエッ。あまり、コハクを。というか、アースさんを刺激しないでくれよ。

毎回毎回この緊迫感を味わいたくはないんだって。絶対体に悪いから。過剰摂取はいけないんだから。


カモ君の不安通り。カモ君を含め、キヤラ含めた王国兵士達。カモ君をここまで運んできてくれた業者たちはすくみ上り、馬車を引く馬なんかは怯えて今にも駆けだしそうなくらいに暴れていた。というか、業者の操縦を聞かず、そのまま馬車を引いてその場から走って逃げて行った。


「それは早計というもの。早すぎる力技というのは愛想尽かれること。きちんと相手の弱みを握らないとそれは効果を発揮しない」


「経済的にも相手の主導権を押さえないと貴族の娘としてやっていけないですから」


え、それって本当?そうだとしたら貴族の娘怖すぎなんだけど…。

と、同時にすごいなこの二人。アースのプレッシャーを見事に弾いて、ないな。

ネインはまるで長距離マラソンを走った後のように、コーテは座禅で痺れたかのように足をプルプルさせている。それでもすごいけどね。コハクに意見できるのが。


「………あ、これ。威嚇されているのかな?私、そういうの初めてだから新鮮かも」


「威嚇はしていない」


「注意しているだけです」


今になってコハクがカオスドラゴンなのだと思い出したのだろう。

コーテとネインは青い顔をしながら、しかし、しっかりと彼女が目を逸らさずに答えた。


「そっか。じゃあ、気を付けるね」


「まあ、分かってくれたならいい」


「私も強く言いすぎましたわ」


ある意味箱入り娘なコハクだからこの場は水に流せた。しかし、コハクが純粋では無かったらこの二人は消し飛んでいたかもしれない。そうなる前にカモ君は土下座もするし、靴だって舐めてコハクを止めに入るだろう。

というか、エミールの事をカモ君と呼んでいるのにそれを受け入れている状況にカモ君は物申したい。

確かにコーテには原作の事や自分の事は知らせているから伝わっているとしても、ネインやキヤラには伝わらないだろう。もしかして、エミール・ニ・カモと誤認しているのではないだろうか。


「…と、思ったけど、面倒だから全部私のものにする」


やだ、男らしい発言。

俺の心が女の子になっちゃう。


「…このドラゴン脳っ。全然わかっていない」


「一度はっきりとお話ししいないといけませんわね」


ドラゴンの群れの長はオスならハーレム。メスでも逆ハーレムを作ることが出来る。

一説ではボスが決まると残りのドラゴンはボスに合わせて性転換が行われるという。


あれ、だとしたらコーテやネイン先輩もオスになっちゃうのか…。


「変わるのはカモ君達だよ?変えることは結構簡単」


やだ、本当に女の子になっちゃうんか。本当にやだなぁ。

というか、コハクさん美少女に見えてオスだったんか。


「私は両方あるから」


「…エミール。…いつ、弱みを握られたの」


…命と今後の将来を握られているんだよなぁ。

コーテには惚れた弱みを。ミカエリにはマジックアイテムと言った経済面を。

わーい♪俺、いろんな女の子ににぎにぎされているぅ~♪迫られている~♪

て、コーテ以外はぜんぜん嬉しくないわっ!

もうっ、本当に何なの俺の人生。試練を与える戦神だってもうちょっと手心加えてくれるはずだよなっ!主に報酬面!


「成功した暁には私たちが守ってあげるよ。多分」


「あら、仕える相手を間違ったかもしれませんね」

(ただ者じゃないわね、この娘。威圧感が半端ない。もしかしてお父様より強いんじゃないの?)


俺の三歩後ろにいるライツの言うとおりである。

でかすぎる報酬でした。

ドラゴンに守ってもらえるという報酬があるなら一族が五十年おきに末娘を生贄に差し出すくらいの報酬になる。

あ、いや、俺の場合、ルーナになるから俺が生贄になるわ。

…あれ、今の状況、わりと妥当なのか?


「悪くない取引だと思う」(カオスドラゴン陣営が)


「人間はそんなに弱くはありませんわ。死力を尽くせば困難を乗り越えることが出来る生き物ですの」


いや、弱いよ。

現状、少なくても俺より弱い人じゃ、この先の戦争でステータス的に生き残れないからな。

ドラゴンに守ってもらえるのならぜひ守ってほしい。


「ちょっと(五十年ほど)借りるだけも駄目?」


「思春期の若者はちょっと(三日ほど)でも駄目」


ドラゴンの『ちょっと』と人間の『ちょっと』には大分差があると思うんだよなぁ。


と、カモ君達がわちゃわちゃし始めたのでキヤラが軽く咳払いをして、場の主導権を握り直した。


「ではこれからエミール君とネイン君を鍛える。二人はすぐに向こうの兵舎へ行き、ジャージに着替えたらこの運動場を三周。その後は我々と実践式の訓練を行う。では、始め!」


しばらくの間、コハク(アース)からのプレッシャーに押されて黙っていたキヤラだったが、国王伝手でカモ君達の訓練をするように賜わったのだ。


「では、お嬢さん達は向こうで手伝う準備をしてきてくれ」


ただならぬ気配を発するコハクをしり目に厳しめな視線で、兵舎を指さし、カモ君達を送り出すと残されたコーテ達に笑顔を向けて、休憩所へ赴き、カモ君達のサポートをするための準備をするように言い聞かせた。


「まあ、仕方ないよね。貴方達(ドラゴンと比べると)弱いし。鍛えないとこの先大変だから」


びしりっ。

と、場の雰囲気が固まった気がした。

カモ君が言ってはならぬと押さえていた言葉なのに、彼がいなくなるとすぐにポロっと喋ってしまうコハク。

カモ君がここにいれば「せっかくフォローしていたのにっ!」と嘆くだろう。


「は、ははは。お嬢さんも口がお達者で荒らされるな。しかしながら我らも精鋭部隊。多少なりには自信はありますよ。あの二人を訓練前とはくらべものにはならない程鍛え上げて見せますよ」


コハク。白い少女の機嫌を絶対に損なうなとの通達でキヤラは怒鳴り散らしたい衝動を必死に抑えた。上からは彼女は王族と接する以上に礼儀正しく、従順に接しろと言われている。

こめかみから白い角が生えているから何かしらの獣人か亜人かと思っていたが、先ほど発せられたプレッシャーはただ者ではない。部隊長どころか将軍。もしくはそれ以上の存在だ。

キヤラはこめかみを震わせながらも少女達に笑顔で接していた。

この時点でカモ君達に八つ当たりすることを決め、その内容を1.5倍はきつくしてやろうと考えていた。


「…強くなりたいなら、カモ君と特訓していた方が成れるんじゃないかな?」(踏み台効果を期待して)


「は、はは。な、なぁに我々との訓練で決して損はさせませんよ」


「すいません。休憩所に行ってきます」


声を震わせて何とか体裁を保とうとするキヤラをしり目に淡々と喋るコハクの手をコーテが取り、ライツも引き連れて休憩所へと向かっていく。

コーテはカモ君が疲れているのはこのコハクの天然なところなのではないかと考え、これ以上話を続けると場の雰囲気が悪くなると思い、急いでこの場を離れることにした。


ちなみにこの時点でカモ君達への訓練の厳しさは2.3倍に引き上げられることになった。


「駄目だよ。あんな風に言っちゃ。あの人にも立場というものがあるんだから」


「大変だね、下の立場って」(絶対上位からの物言い)


「まあ、貴女からすればそうかもしれませんわね。ところで貴女様の事をお教え願えませんでしょうか?」


「私?カオ」


「とある筋では顔が広いお姫様。…貴女が知る必要はない」


エミールはカオスドラゴンだというのは秘匿しておくべきだって言っていた。ここでうかつに流布されても騒ぎを大きくするだけ。

特に敵国のスパイでもあったライツにこの情報を渡すとどうなるかわからない。ミカエリさんは何を考えて彼女をよこしたんだろうか。


コーテがコハクのフォローを行う。

このドラゴン。純粋すぎる。

お菓子なんか持って近づいたらほいほいついていくんじゃないだろうか。まあ、ドラゴンだからどうしようもないんだが。

私がしっかりしないと。いろいろとやばい。最終的には国が滅ぶ。そう思うとカモ君が常に抱えている心労はこういう物なのかと理解したくないものを分からされた気がしたコーテ。


「…貴女とカモ君って似ているね。結構面白いかも」


コーテの思考を読み取ったのかコハクは少し嬉しそうに微笑んだ。

その微笑みはなんというかずるかった。どことなく守ってあげたくなるような、見ていると嬉しくなるような幼児の雰囲気を持った微笑みだった。

コハクからすればカモ君が自分に対する接し方や考えは奇抜でしかなかった。表面上と内面では全くという程違っているのに方向性は同じ。しかも喋り方が自分の周りにはいなかった芸人気質なので興味をひかれまくっていた。

対してコーテはカモ君が関係していなければ冷静に接してくるのに、彼が係わるとそこに様々な熱がこもる。裏ダンジョンがある島では自分が何かを欲したら周りのドラゴン達が用意してくれる。だが、コーテはそれが駄目だと理由をつけて注意してくれる。

それが面白くてつい悪戯心が沸いてしまう。

正直、『主人公』よりもこの二人が欲しくなるコハク。お兄ちゃんとお姉ちゃんが欲しい一人っ子のような心境だった。

だからついこの二人困らせたくなった。ついでに本音も零した。


「でも、強くなれるかは微妙じゃない?あの人弱いし」(ドラゴン視点)


「それは…。貴女からしてみれば皆弱いけれども。言っちゃ駄目。聞こえたらどうするの」


キヤラとはだいぶ離れたけれど集中すればこちらの声が聞こえないわけでもない。

そして、ばっちり聞こえていた。


「本当なのに。私、どこも間違っていないのに」


「まあ、確かにご主人様達が特訓するよりも、ご主人様と特訓したほうが(踏み台効果)効率は良いですからね」


「真実だからって、正しいからってそれがいい方向には向かわないこともあるの」


少女達の戯れはカモ君達が訓練場に出てくるまで続いた。

それまで、少女たちの話声はキヤラの耳に届き、彼の神経を逆なでする事になっており、そこから課せられた訓練は当初の3.2倍。

それこそ遅刻や規則を守らなかった兵士に課せられる体罰染みた苛烈な訓練だった。




一番割を食らったのはコハクの第一関係者であるカモ君。ではなく、一緒に訓練することになったネインだった。


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