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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
先立つ不安のカモのミートパイ。プリセンス仕立て
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第二話 超常存在からのラブコメ

コハクの自己紹介が終わり、彼女の席を指定しようとした教師だったが、それより先にコハクが動いた。

周囲の視線など気にした様子もなく、むしろ知覚すらしていないのだろう。貴族が殆どの雰囲気など気にしていない。

コハクのその容姿・雰囲気から様々な思惑がある。

姫と言っていたから彼女の地位を利用しようと考える輩。その美貌から下世話な欲望を持つ輩もいれば、人間ではありえない角の生えた容姿と彼女の着こんでいるドレスから来る雰囲気に畏怖を感じている輩もいる。

だが、そのどれも彼女には届かない。向けられたとも思っていない。彼女にとってこの場にいる人間すべてが地を這う虫。落ちている小石。それくらいにしか感じられない。

だから、前もってカモ君と話し合っていたことを実行する。


恋愛テクニックその1。

恋愛対象と仲良くなりたかったらまず笑顔で接する事。


コハクとしてはシュージに向かってにこりと笑ったつもりだが、彼女はドラゴン。その口の形は細長い三日月を横にした形になった。そのため、その笑顔は嗜虐的なもので猟奇殺人鬼のような笑顔だった。

しかも、その時に抑え込んでいた魔力がこぼれたのか威圧感がマシマシだった。


「「「ひぐぅっ?!」」」


子核の笑顔の斜線射線上にいたシュージを含めた数人がその威圧感にやられて小さな悲鳴を上げながら身を竦ませた。中には気絶する者まで現れた。


「? エミール。皆が変なんだけど」


コハクは表情そのままでカモ君の方に振り返った。

その笑顔の射線上に入っていしまった生徒達はその凶悪な笑顔を見て怖気づく。

いくら美少女とはいえ、命の危機を感じるほどの威圧感を感じればビビる。内情を知っていたため、冷静を装っているカモ君ですらもちょっぴりビビっていた。


(リハーサルって大事だよなぁ)


まさか、コハクの笑顔がここまで威圧感がある物とは思わなかった。

超常存在の笑顔がここまで怖いとは思わなかった。絵面では嗜虐的な笑顔のコハクはそれでも絵になっている。だが、そこに感情が乗るだけで雰囲気がガラッと変わる。

二次元(壁画)から三次元(目の前に殺人鬼)レベルで変わる。


さすがカオスドラゴン。ぱねぇわ。


「ありがとう」


思考をサラッと読まないでほしいです、お姫様。


「癖だから難しい」


コハクは今まで思念。テレパシーで過ごしていたため、自分に向けられる思考を拾うことなど息をするように簡単だ。

今はカモ君にのみテレパシーを拾うようにしている。いつでも彼と連絡できるように。

カモ君以外の人間にすると、テレパスしているコハクの存在感が強すぎて、並の人間なら倒れる。もしくはショックが強すぎて精神崩壊か脳破壊(物理)されるかもしれない。


そんな危険性があるテレパスを受信していたんだよな俺。よく無事だったな…。


「破壊しても組み直すから」


それは正しく改造人間なんよ。ある意味死ぞ。


「貴方は三つ(兄バカと外面と下っ端精神)はあるから一個くらい壊れても大丈夫なんじゃない?」


どれも俺の大事なファクター何で勘弁してください。


それよりも目と目で通じ合っているかのようにカモ君に言葉を投げかけるコハクだが、それを止めて、シュージの隣の席にいた女子学生を押しのけてそこに座る。


「どいてくれる?」


彼等が使っている席は西欧文化にあるような長テーブルに長椅子といった具合の席のため、寄せれば座れないことも無いが、強引だ。しかし、それに逆らうことは出来ない。

よその国の者だとか、姫とか関係なく、生物レベルで格が違う。

コハクがそこを通れば人垣がモーセの海割りのように避けていく。そうでなくても彼女の膂力はアイム以上であり、力尽くで押しのけられてしまう。

シュージの傍にいた一般生徒はコハクに押しのけられ、彼女のいた場所にコハクが座る二人の距離感ゼロセンチメートル。既にお互いの太ももがくっついているほどの横並び。


恋愛テクニックその2。

恋愛とは、出来るだけ対象と密着すべし。


それに倣っただけなのだが、コハク以外からするとそれはライオンに寄りかかられているウサギの構図にしか見えない。現にシュージは冷や汗と細かい息切れのような症状で顔色が真っ青だ。

そんなシュージの反応が気に食わないのかアースの気配がこぼれだし、周囲に更なる威圧がかかる。既にこの教室はライオンが放り込まれたウサギ小屋状態。

誰か一人でもパニックに陥れば連鎖的に全員のパニックが起こるだろう。

その爆心地ともいえる場所であるシュージもなんとか正気を保ってくらいだ。


頑張ってシュージ。負けないで主人公っ。屈してもいいけど発狂はしないで!


これがTRPGであったのならシュージはこの短い時間で三回はSUNチェックをしているだろう。成功判定でクリティカルを出していることも付け加えてだ。

カモ君の祈りと主人公としてのスペックのお陰か。どうにか正気を保っているシュージに追い打ちがかかる。


「私、コハク。よろしくね」


「…は、はい。よろしくお願いします。オレハシュージデス」


端から見れば美少女が鼻先にまで顔を近づけての挨拶。

実は捕食者を超えた超常存在からの挨拶。

そんな瞳に写るシュージは憐れ以外の感情は出てこないほど怯えていた。


コハクの行動を止める生徒はいない。教師すらも彼女のすることは全部黙認しなさいと学園長から言われているため何も言えない。というか、そんな命令が出されていなくても、教師は何もできなかっただろうが。


そんな戦慄中の教室で授業が始まる。

自己紹介という名のプレッシャーゲーム。しかも続行しながらの授業だから生徒達にこの時の授業内容など頭に入らなかっただろう。それは教師も同じである。何を教えたか覚えていない。これまでの教師経験で体を動かしていたにすぎないのだから。

そんな中でもコハクは授業を物珍しそうに見ながら魔法使った。


レベル4の光魔法。セーフエリア。


任意の範囲に透明なドームを作り上げ、そのドームの内外の行き来を遮断する結界魔法。

ゲームで言うのなら、防御魔法に属する魔法はシュージとコハクの周りに展開して『二人だけの空間』を作り出した。

シュージという生贄が出来上がり、コハクからの威圧が薄れたクラスメイト達は少しだけ冷静さを取り戻した。


恋愛テクニックその3。

恋愛対象とは出来るだけ二人きりになりましょう。


ミカエリやカモ君。シバから聞いた恋愛術を試しただけなのだが、どうしてこうも違った効果が表れるのか。カオスドラゴンって、本当に怖い。


授業時間を終えてコハクとまた話し合いをしようと、授業を終えたカモ君が彼女の方を振り向くとそこには青い顔してこちらに向かって手を伸ばすシュージの姿があった。

隣にいたコハクはシュージの教科書とノートを見て、先ほどまで受けていた授業の内容を復習していた。シュージの変化に気づいていない。

そのギャップにカモ君は数秒遅れて現状を理解した。


「………あっ」


セーフエリアは密閉されたシェルターのようなものである。つまり、外界との空気の交換も行われない。

セーフエリア内の酸素は普通に減って、今や無酸素状態に近い。

カオスドラゴンの耐久だからかコハクは何ともないがシュージは明らかにやばい。


人とドラゴンの格差。

それを思い知りながらもカモ君は全力でコハクの作り出したドームに攻撃をした。


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