第十四話 史上最高の爆弾姫、来訪!
「我が校への編入を希望。…ですか」
「そうなる」
カモ君を連れてきたスフィアドラゴンの雰囲気を放っていた白い少女。
彼女の目的はこのリーラン魔法学園への入学らしい。
魔法学園。学園長室まで足を運んだ白い少女とカモ君。その道中で国王の親衛隊副隊長のティーダが駆けつけてきたが、どうすることも出来なかった。それだけのプレッシャーがあり、屈するほかない。
このプレッシャーにあらがえる人間はリーラン王国には三人しかいない。
カヒー。ビコーといった超人兄弟。そして、この異常事態で王のそばから離れられない親衛隊隊長のコーホ。
それ以外の人間が出来ることはただこの白い少女が歩いていく様を見ているだけであった。
そんな彼女が辿り着いた先がカモ君の案内でやって来た魔法学園の学長室。
そして突きつけた要求が魔法学園の編入だった。
分からない。
上位存在の思考が分からない。
城門前での地獄を作り出した白い少女は上の空。というわけではないが、何かを考えているわけでもなく、淡々とまるでメモを読み上げている様だった。
「これが吞めないならこの国を吹き飛ばす。そうです」
「やめてください。お願いします」
まるで冗談を言っているようだが、カモ君はそれを冗談とは思えないでいた。
なにせ、この白い少女はカオスドラゴン。
裏ダンジョンのラストフロアに佇むボスキャラの娘である。その目的が魔法学園で文献を広めながら、この世界の『主人公』のシュージを婿にするという目的がある。
どうして、裏ボスが目の前にいる?!
スフィアドラゴンの一睨みから意識が回復したカモ君が目にしたのは、魔法で人の形に変化した裏ボスのエルダー・カオスドラゴンだった。
その佇まいはただそこに立っているだけなのに平伏してしまいそうになるほど濃厚で重圧なプレッシャー。
更には今もなお、裏ダンジョンがある島。そこからあふれ出る毒で体を蝕まれたカモ君には呼吸するのが精いっぱいだった。
『その毒を回復せよ』
脳に直接響いてくるような声。
間違いなく目の前の裏ボスが発したのだと理解したカモ君は解毒の魔法を使い、解毒を行うが、魔法を使い終えると再び毒を取り込み苦しむことになった。
その様子を見たエルダー・ドラゴン。
エルダーは自分の顎を少しだけ上げるしぐさをするとカモ君の体中から様々な光があふれ出てきた。
光魔法。レベル5。王級魔法のゴッドブレスという身体能力を最大値まで引き上げる魔法であり、それは魔法への抵抗力から毒や麻痺といった状態異常への耐性を引き上げる最強の補助魔法だった。
その魔法の恩恵を受けて、ようやくカモ君は目の前のエルダーとまともに会話できるようになっていた。
どうやら、エルダーの周りにいるドラゴン達からのプレッシャーにも耐性が付いたようだ。
『それで毒にかかることはあるまい。では話をしようか。エミール・ニ・モカ。いや、カモ君』
再び響いてくる声にカモ君は片膝をつき、頭を下げた。
目覚め直後。そしてプレッシャーと毒に蝕まれていたので取り繕う余裕がなかったが、それからも回復したことで取り繕う姿勢が出来るようになったカモ君。
むしろそうしなければエルダーはともかく、周りの巨大なドラゴン達に殺されると感じたカモ君はこの世界では最敬礼の姿勢でエルダーの話に耳を傾けることになった。
もはや、エルダーが自分の事をカモ君と知っていることに疑問は持たなかった。
『貴様の記憶を見させてもらった。
転生者。踏み台。主人公。原作。
色々と興味深いものが見ることが出来たが、貴様がラスボスと評している『魔王』にも詳しいとは思わなかった』
目の前の存在は裏ボスと呼ばれるほどの強者であり、回復魔法以外の全ての魔法が使えるという設定の最上位モンスターだ。記憶が覗けても不思議ではない。
だが、これによってシュージといった『主人公』への対策が練られてしまう。
ストーリー上攻略する必要がない裏ダンジョンだが、それでも自身を脅かす存在がいると知れば主人公のシュージもろともリーラン王国を吹き飛ばそうとしてもおかしくはない。
それだけの力を有しているのが、目の前のエルダーだ。
目の前の存在に対して対応を間違えるわけにはいかない。聞き逃すわけには行けない。
カモ君はただただ必死に間違えないように己を律した。
間違えられない。間違えきれない。
既に『主人公』のシュージの事が知られてしまった。どうにかして、彼等の矛先を彼に向けないように説得せねばならない。そうしなければ…。
『弟妹と恋人に害が及ぶ。か』
そうエルダーが呟くと、カモ君は頭を下げたまま、唇を強くかんだ。
そうだ、記憶を読まれる魔法が使えるなら、考えていることもわかるテレパスのような魔法が使えてもおかしくない。
不埒なことを考えれば即座に殺されてしまう状況にカモ君はひたすらに心を落ち着かせようと無心になろうとした。
『案ずるな。今はまだ貴様らに牙を向けようなど考えてはおらぬ』
カモ君からしてみればそれは妄想した甘言のようにも思えたが、今はその言葉に縋るしかない。
『我にも守りたい未来というものがある。それが脅かされないうちはむやみに暴れようとは思わぬよ。だが、脅かされれば別だがな』
目の前の上位存在の目的が分からない。何が狙いで自分に話しかけているのか。
『まわりくどい事はやめよう。単刀直入言う。貴様には『主人公』と我が娘の仲を取り持ってほしい』
「………は?」
命を差し出せとか。その体を食わせろと言われると思いきや、エルダーが望むことは『主人公』との縁談だった。
エルダーの思惑はこうだ。
人間という弱い種族にはときとして『主人公』のようなドラゴンや魔王を滅ぼすことが出来る存在が生まれることを。そんな存在と戦えばどちらもただでは済まない。
だからこそ争うのではなく仲良くしたい。だが、それは人間とではない。
魔王すらも単独で滅ぼすことが出来る『主人公』と仲良くなりたいのだ。
人間とはしつこく、しぶとく、狡賢い。どんな手段でこちらを害してくるかわからない存在だ。だからこそ、『主人公』を自陣に迎え入れ、自分達の陣営を強化する。
「…人間を、恨んではいないのですか?」
カモ君の記憶を見たならわかるはずだ。
人間は自分たち以外の種族を排除する傾向がある。
ドラゴンといった上位存在ならなおの事排除したがるだろう。現に何度かドラゴンを討伐した歴史もあるのだ。
カモ君は顔を上げて、エルダーの意向を感じ取ろうとした。
『言ったであろう。我らに脅かされなければどうしようとも思わない。それに初戦は弱肉強食。殺されたのは弱かったからだ。我らも戯れに人を食う故にな。だが、それでは、我の至宝を守り切れぬ。だからこそ『主人公』を手に入れたいのだ』
確かにシュージなら。
ラスボスすらも倒せるまでに成長した『主人公』なら。弱肉強食の頂点に立てる『主人公』ならどんな未来でも優位に立てる。
そんな存在と深い関係になれればその栄華は存命している限り続く。
『理解できたようだな。言っておくが『主人公』だけに目を向けているのではないぞ。それに準ずる『超人』も敵に回したくはない』
あのチート兄妹。
セーテ兄妹の総力を結集すれば『主人公』に並ぶかもしれない。
『だから、貴様には仲を取り持ってほしい。我らを知り、『主人公』を知り、魔王を知り、原作とやらを知る貴様ならうまく取り持ってくれるだろうと、な』
そう言ったエルダーの後ろから肌着に近い一枚の服を着た格好の少女だ。
白い髪に黒い瞳を持った美しい少女。だが、そこからあふれ出る雰囲気から人間ではないと判断できる。何より見る角度を変えるだけで七色に変化するこめかみから伸びた角から感じ取れる様々な魔力の波動。
『私の娘だ。名を琥珀という』
裏ボスに娘がいたなど聞いたことも無いが、カモ君はそれをただ了承するしかなかった。
『コハクと『主人公』の仲を取り持ってほしい。無論、娘に何か危害が及ぶようならすぐにでもリーラン王国を吹き飛ばすがな』
すまないシュージ。
俺はお前の未来を売り飛ばしてでも目の前のコハクとの縁談を組まなければならないようだ。そうしないとリーラン王国に未来はない。
『万が一もある。護衛にはアースを。お前たちがスフィアドラゴンと呼んでいた奴をつける。そちらも上手く取り持て』
そう言うと、エルダーの後ろに控えていたスフィアドラゴンの姿が急速に縮んでいきながらコハクの服の上に装着されていく。
最終的にはコハクの体には鈍く光る豪華ではないが神秘的なローブへと変化した。
オリハルコンドレス。
それはシャイニング・サーガ。
裏ダンジョンでゲットできる。ゲーム上、最大の恩恵をもたらす女性限定の装備品へと変化した。
しかも、このドレスにはスフィアドラゴン。アースの意思がある。
コハクに危険があればアースが勝手に魔法を使い対象を押しつぶすだろう。
『出来る事なら、恋愛結婚だったか?娘には青春?も味わってほしい。頼んだぞ』
そう言われたカモ君はこの世界最大とも言ってもいい危険人物のかじ取りを任され、オリハルコンドレスに変化したアースの手によってリーラン王国付近に転送されることになった。
カモ君が転生者。『踏み台』。『主人公』の事はぼかしながらも、白い少女。コハクの要求が通らなければリーラン魔法学園だけでなく王国が滅ぶことを説明した。
冗談だと思いたかったが、琥珀の装着しているオリハルコンドレスから放たれた魔力が嘘ではないと表現していた。
それを聞かされた学園長のシバとティーダ。後からこの場にやって来たミカエリはコハクの目の前だから頭を抱えるなどといった失礼な態度は見せなかったが、こう叫びたかった。
訳が分からないよ!!
安心してください。説明しているカモ君も同意見ですから。
そんな事を知ってか知らずか、当のコハク嬢はというと、
お腹空いたな。
と、のんびりと人間が作る料理というものに想いを馳せていた。




