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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ出汁の策謀スープ。ジャングル風味
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第十三話 言葉よりも溢れた物

カモ君を残して逃げ帰ったシュージ達は失意の底にいた。

カモ君がスフィアドラゴンの気を引いている間に王都まで逃げ切った後、カモ君を見捨ててしまったという罪悪感よりも、生き延びることが出来たという安堵。そしてスフィアドラゴンから逃げ切った事により、これまでにないほどの緊張感から解放刺された彼等は糸の切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちて動けなくなった。

すぐさま調査達と救助隊を出してもらいたかったコーテだけは崩れ落ちるまではいかなかったが、震える足のまま王都の警備をしていた兵士と学園にいるシバへ緊急連絡を送った。

それから遅れて、ミカエリにも連絡を入れた。

正直言って、並み居る兵士ではスフィアドラゴンの前に立つことすら難しい。スフィアドラゴンと対峙し、カモ君を救い出すことが出来るのはカヒーとビコーだけだと思い立ったから。

未だに恐怖で震える体を必死に押さえつけて連絡が来るのを王都の入り口にある兵舎の待合室で待つ。それから一時間後やって来たのは学園長のシバ。少し遅れてミカエリが駆け込んできた。


「コーテ君っ!無事か!」


「コーテちゃんっ!首のないドラゴンが出たってどういうこと?!」


やって来た二人に詳細を語ったコーテ。

とはいっても彼女もそんなに多くの事を知っているわけではない。

砦のように大きい生物はドラゴンしか当てはまらないからそう伝えただけで正確にはドラゴンではないかもしれない。だが、あのプレッシャーを放てる生物などドラゴン以外に考えられなかった。

そう伝え終わったコーテは、とうとうその場に崩れ落ちた。

あのプレッシャーから解放されたこともあるが、それよりも確実に異常事態という場面でカモ君を置き去りにしてしまった事に後悔が襲ってきたのだ。

涙が、嗚咽が止まらない。

自分は確かに強くなれた。

目の前のミカエリに作ってもらった不渇の杖でやっとカモ君の傍に並べたと思っていた。

だが、そんなカモ君すらも圧倒的な実力差で屠れる存在が現れた。

その場で動けたのはカモ君だけだった。

隣に並べたと思っていた彼だけしか動けなかったのだ。

それが悔しくて、空しくて、悲しかった。

そう、彼はずっと自分とは格上の存在と、未来と戦っていた。

彼に並ぶことは出来ても彼と共に戦えるかは別である。


後に分かるスフィアドラゴンが何かの気まぐれで見逃してくれたら、と、祈る事しかできない。だが、そうだとしたら今頃カモ君を見たという知らせが来てくれてもいい。

だが、そんな報せは丸一日経ってもやっては来なかった。




例え崩れ落ちても意識だけは保っていたコーテは兵舎の一室でカモ君の報せを待ち続けていた。

そんな彼女に休むように伝えたミカエリ。

ドラゴンの。それもおそらく上位種と思われる存在からのプレッシャーに当てられただけでもショックで死ぬかもしれないのに、それを受けて一日中、眠ることなく意識を保って待つ。

それだけカモ君が心配なのだろう。だが、コーテの体力も限界を迎え、とうとう意識を手放しそうになったその時に感じた巨大なプレッシャー。

このプレッシャーは間違いない。あのスフィアドラゴンのものだ。


彼を返せ。エミールを私に返せ。


恐怖を怒りで抑えて、コーテは兵舎の外に飛び出した。

兵舎の前にもドラゴンの出現を受け、交代を行いながら外を警備していた兵士たちがいたが、彼等もまたプレッシャーに押しつぶされて、殆どの兵士がその場に蹲っていた。

そして、その兵士たちの前にいたのは一人の少女だった。

白よりも白。銀よりも光をはじく銀。

そんな高級感ではなく、神秘的な甲冑のようなドレスを着た長く美しい髪を持った少女がいた。

その黒い瞳はまるで洞窟のように光を吸い込んでいる様にも見える。だが、そのこめかみから伸びた角のように伸びた虹のように見る位置から色を変えるそれが彼女を人間ではないと示している様だった。


「か、はぁっ」


見た目はただの美しい少女。どこか人間離れした美しさを持つ少女だ。

恐らく15前後の少女にしか見えない。そのはずなのに、スフィアドラゴンのプレッシャーを彼女から感じる。

コーテはその場に倒れそうになりながらも、不渇の杖を支えに何とか立ってみせた。

正直、しっかりと睡眠も食事もとっていないため体力が全然回復していない。

意識を保つのが精一杯。少しでも気を緩めれば沼に沈むように意識を失い、眠ってしまうだろう。

そんな状態で白い少女を睨みつける。おそらく彼女はあのスフィアドラゴンの関係者だ。

だったらカモ君の事を知っているはずだ。それを問い詰めねばと、言葉を発しようとした瞬間。

白い少女からのプレッシャーが増大した。

もはや王都の門越しにも伝わるだろうその巨大なプレッシャーは容易くコーテをその場に抑え込んだ。


「…っ、……っ!」


言葉どころか身体そのものを上から押しつぶしてくる、意識すら閉じそうなプレッシャーにコーテは抗った。

もはやうつ伏せに倒れた自分に出来ることは白い少女を睨みつける事だけだった。


何もわからないままで終わるのか。何も果たせないまま終わるのか。


「ちょちょちょ、ちょーっと待って!アースさん!そのプレッシャー抑えて、人間はか弱い生き物だから!貧弱だから!」


そんな悔しさの中で意識を手放しかけた時に聞こえてきたのは、愛しの人の声だった。

白い少女の後ろ。コーテから見て白い少女の後ろにいたカモ君が必死になって白い少女に向かって何度も頭を下げながら声をかけていた。


何が何だかわからない。だが、確かなのはカモ君が自分の目の前にいるという事だけはわかった。

その次にカモ君はすぐさまコーテの近くまで駆け寄り彼女を背にして、その場で膝をつき白い少女に許しを請う。


「お願いします。そのプレッシャーを止めてください。周りの兵士はどうでもいいですが彼女は俺の大事な人なんですっ。どうか、それをお納めください」


普段の取り繕っているカモ君ではない。

余裕がない時出てくる素のカモ君の口調で白い少女に何度も頭を下げていると、少しだけプレッシャーが薄まった。


「…やめてあげて」


やけに透明感のある声がコーテの耳に入ってきた。

恐らく白い少女の声なのだろう。彼女の声が聞こえた瞬間に、自分達に向けて放たれていたプレッシャーがなくなったのだ。

それを感じ取ったカモ君は、もう一度頭を下げると振り向いてコーテを抱き上げた。


「遅れて本当にすまなかった」


短い言葉と共に彼に抱きしめあげられたコーテはプレッシャーから解放されたこともあるが、こうしてカモ君と触れ合えることに歓喜して涙を流した。

彼の胸に自分の顔を押し付け、声をあげて泣いた。


「あ、あああ、あああああああっ」


出来る事なら彼の名前を呼びたかった。だが、それよりも先に感情があふれ出る。

彼は生きて帰ってきたのだ。肌で感じる彼のぬくもりと鼓動。それが夢ではないと証明しているようでコーテは幼子のように声を上げて泣き、疲れて眠ってしまうまで、カモ君の胸の中で泣き続けた。


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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字報告しましたが、作者さんの意図と違うように報告していたらすみません。
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