第五話 OHANASIしようか
混沌の森での強化合宿、三日目。
カモ君の手腕(物理)もあり、かつてないほどやる気に溢れたシュージ達。だったが、
「…もう、無理」
そう言って、カモ君とシュージに何とかついてきたウェインが白目をむいてその場に倒れこんだ。
混沌の森に入って五百メートル。時間にして二時間のモンスターとの戦闘だったが、体力と魔力の両方を使い切ったウェインはあまりの疲労から倒れ伏した。
ギリは30分。ネインは1時間20分。そして、今、ウェインが倒れ伏した。
まだダンジョンで言えば、上層。これから奥に進むほどモンスターも強くなっていくが、ドロップするアイテムも強力になる。のだが、いつまでもこのままでは強くなることもアイテムを入手することも出来ない。
教師の援護も考えたが、それでは生徒達の成長を阻害してしまうのではないかと極力手を出さないでいたのだが、これでは成長は出来ずにただただ疲弊するだけだと考えるようになっていた。
「…仕方ない。シュージ君。エミール君。君達だけで先に進むことにするか」
そう発言したのは魔法学園の教師の一人だった。
その表情にはありありと先輩達の力不足を痛感している物だった。
混沌の森は直径5キロ以上のジャングルだ。
一応、人が通るような道は均されているが、少しでも道を外れれば遭難もするかもしれないうっそうとした森林地帯に生徒だけを行かせようとするのは間違っている事だが、強くなるためにはこうするしかない。
ネイン達。先輩一人に教師一人がつきっきりでダンジョンに挑ませる。これまでも誰かが脱落する度に教師が一人ついていったため、撤退はすぐにできた。
だっが、教師の数は三人。先輩達の撤退で教師もいなくなるのだ。
「…それしかないですね」
「それなら、私もついていく。足手まといにはならない」
コーテは常に携帯していた不渇の杖を握りしめてカモ君達の会話に参加した。
彼女は今もメイド服なのでとても場違いに見えたが、こんなこともあろうかと動きやすいジャージ数着を準備している。
カモ君やシュージとしても見知った中。特に回復魔法の使い手がいるのは助かる。その上、水魔法の攻撃も出来る上に、連携も取りやすいから助かる。
「だったらっ、だったら私も行きますっ。行きまーすっ!」
同じくコーテと同じメイド服を着ているキィも参加に名乗り出る。
彼女はメイド服といった支給された着替えしか持っておらず、自分もダンジョンアタックに参加する事にはならないだろうと思っていたため、何の準備もしていない。
メイド服故にジャングルでの活動には不向きな服装はさぞ足手まといになるだろう。
カモ君やコーテはそれ以上にキィがトラブルメーカーだと知っている。その上、連携も崩されがちだから困る。
「貴女はここで先輩達のお世話をしていないさい」
「何言っているのよ。私はここに来たことがあるのよ。しかも最深部まで行って無事に戻ってきたんだからっ」
それは、ライナの実力もあるが、一番はそのライナが魔物除けの聖水の効果を絶えることなく使い続けたおかげだろう。
でなければライナがキィを含めた実力不足の女生徒たちを引き連れて常夜の外套を手に入れることも出来なかったのだから。
そんなことも知らないキィは胸を張って威張る。
彼女はそれを自分の実力だと勘違いしている。
「「………」」
「それが本当なら心強いのだがね。…生憎と装備一つから準備できていない君は参加させられないな」
そもそもこの混沌の森に来たのは、出場選手の強化が狙いだ。そこを勘違いしては困る。
それもわかっているからカモ君とコーテは視線だけで余計なことはすんなと念を押しているのだが、察することが出来ないのがキィである。
「…それに。私の方が先輩達よりも強いわ。レベルが違うものっ」
そう高らかに宣言したのは理由がある。
キィもシュージ同様に相手のレベルを見ることが着る。そして、彼女のレベルはレベル26。
確かにネインといった先輩達のレベルは上回る。だが、
「…君には実績がない。力は強いようだがそれを活かせる能力がないのだよ」
「なによっ、力こそ正義でしょ!国の一大事なんだから一番強いやつを出すのが当たり前でしょ!」
キィのいう事一理あるどころか大正解だ。
本来ならセーテ兄弟という最強のカードを切って決闘を行えばいいのに、負けを恐れて被害の少ない子どもに押し付けた事はカモ君も大いに賛同したい。
だが、そう上手くいなかないのが常である。
「君の場合、力を発揮する前にやられてしまうだろうな。その上、想定も拙い。そんな君をこの森に連れて行ってみろ。すぐにモンスターの餌になるぞ」
何より魔法を使うには詠唱という一工程を要する。
カモ君でさえ、ニ、三秒の詠唱が必要になるのにシュージやキィが魔法を使うには五秒以上の詠唱が必要になるのだ。
森という前後左右からモンスターが現れる恐れがあるダンジョンに飛び込むのはあまりに無謀。
カモ君の魔法というレーダーを使えばある程度は対処できても、とっさに動けるのは実戦慣れしているカモ君。そしてめきめきと力をつけているシュージくらいだろう。
そんな二人だからこそ、この二人だけで混沌の森の奥へ行っても大丈夫だと踏んだのだ。
「大丈夫よ。どんなモンスターも私の魔法を三発当てれば死んじゃうわよ」
キィの魔法は確かに強力だ。もしかしたらシュージに次いで二番目の火力を出せるかもしれない。
だが、発生するまでが長い。魔法を当てるまでに時間を稼がなければならないのだ。
それをキィは理解しているのだろうか?
していないとシュージでも言い切れる。だから、諦めてもらおうと説得に出ようとしたシュージだったが、意外な人間からキィに助け船が出る。
「こちらの指示に絶対従ってもらう。魔法を使うのはこちらの指示があってから。番犬のようについてくるなら来てもいい」
「…コーテ?」「…先輩?」
厄介だと思っているのはコーテも同じはず。それなのにキィを連れていくことに賛同する理由が分からない。
わけではない。
この混沌の森は多種多様のモンスターが出てくる。
今はフォレスト・エイプやジェネラル・スネークなどジャングルの生態に関与したモンスターが出てくるが、この奥にはフォトンバグという魔法とを使ってくる虫に、植物なのに火を履いてくる巨大食動植物。稀にドラゴンに近い生物のワイバーンや、何でいるかわからない、体が獅子。尾は蛇。蹄は山羊。頭がワニといったちぐはぐな肉食獣のキメラまで出てくる。
そんな時、頼りになるのはカモ君の魔法ではなく、シュージの魔法の火力だけだが、そこにキィが加われば攻撃手段は得られる。
カモ君やコーテの魔法の火力ではこの森の奥地にいるモンスターに太刀打ちできない恐れがあるのだ。
「…確かに攻撃力のある魔法使いは欲しい」
そう考えたカモ君は言葉を零すが、珍しく渋い顔をして躊躇っている。
だが、それを好機と見たキィが畳みかける。
「大丈夫っ。ちゃんという事をきくわ」
「なるほど。…で、何が目的かを述べよ」
早速コーテがキィに命令した。
「勿論お金!じゃなくて、純粋にシュージのサポートを」
「嘘をつくなら連れて行かない」
「う、嘘じゃないわよっ。この森には換金アイテムがたくさんあるけど、それ以上にっ。あの黒いマントよりシュージを強くするアイテムがあるんだからっ!」
黒いマントとは常夜の外套の事だろう。
だが、それの存在をキィが知っているのはおかしい。
なぜならば常夜の外套というアイテムをみずみず持っていかれたという国の痴態をわざわざ平民であるキィに教えることはしない。
ライナはスパイの容疑を受けて、取り調べる前に姿をくらませた。
これが公式発表の知らせだ。
だが、キィもなぜスパイ容疑がかけられたか心当たりがあるからそう言ったのだ。
カモ君とコーテは常夜の外套が奪われたことをセーテ侯爵から知らされている。ならばキィはどこでそれを知ったのか。
問い詰めなければならない。
キィの小さな肩にカモ君とコーテの手が重くのしかかった。
「もうちょっと詳しくお話をしようか。キャンプ場に建てられたログハウスで。じっくりと」
二人の放つ圧にさすがのキィも、「私何かしちゃいました?」と転生キャラみたいセリフを零しながらカモ君とコーテに引きずられていくのであった。




