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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
主人公の感情三色丼。カモの苦労チップス添え
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第三話 オール フォ ワン

ライツに誘われて四日が経過した頃。シュージは殆ど一日中つけていた目隠しを取ると夕暮れ時であり、秋も終わりごろという事もあって肌寒い。吐く息が白いこと目隠しを取ったことで初めて気が付けた。そんな肌寒い時間帯だった。

そこはどこか寂れた感じがする村。民家が十軒ほどで、その入り口から村の全貌がうかがえるほど小さな村だった。

目に入る民家はどれも寂れているが、ぽつぽつと明かりが灯っていた所を見るととりあえず人はいるようだ。そしてライツに促されるまま足を運んだのはこの村で一番大きな建物であった。

その玄関前には大きな看板があったが、この村の名前が彫られていただろう文字はカンナやノミで削ったのか判読が出来ないでいた。

中にいたのは明らかに堅気の人間ではないオーラを放つ人だかりだった。


カモ君の使っていたレザーアーマーで装備を固め、顔には幾本もの傷のある剣士。

薄汚れたローブ。フード付きのそれを頭からかぶって入るが隠しきれない大きな鼻が見える魔法使い。

全身を分厚いフルプレートで固め、自身よりも長大な槍を持った戦士。


他にも多種多様な冒険者がいたが、その誰もがシュージからすればまともな人間はいないようにも思えた。

これまでの経験からいろいろな冒険者や魔法使い出会ってきたが彼等には人として超えてはいけない一線をわきまえている様にも見えた。しかし、目の前の彼らはそれを超えている。自分の欲を満たすため非道も行えると肌で感じ、理解した。

彼らは笑いながらこちらに近づき、その手にした剣や槍。魔法で自分達を簡単に殺しに来ることを。

ライツに言われるがまま自分達もフード付きのローブを羽織っている。これはこの状況にビビっている自分を悟られないためだろう。そんな弱みを見せればシュージのような子どもは絡まれるだろう。

そんな物騒な輩の視線を浴びながらもライツは店の一番奥にあるカウンターに腰掛けて、そこにいたウエイターに注文を付けた。


「娼婦のステーキを二人分お願いします」


その言葉を聞いたウエイターと冒険者達は揶揄う視線を辞めて、息をのんだ。


この店には娼婦のステーキというメニューは無い。

これは合言葉だ。

娼婦は隠れた。ステーキはダンジョンを指す。

この場にいる関係者。そして近くにあるダンジョンの関係者しか知らない裏社会の人間がこの時期にしか使わない暗号。


「…サイドメニューは?」


「王宮サラダ。ドレッシングは黒唐辛子たっぷり」


王宮サラダは王国を指し、サラダを台無しにする黒唐辛子はサラダに対する宣戦布告。もしくは離反を指す。

それを理解しているのか。というウエイターからの視線を軽く受け止めながらもライツは微笑みを崩さない。


「…お嬢ちゃんたちみたいな小さい子供にも知られるなんてね。うちの稼業もお終いかね」


「いいえ。これからももっと繁盛しますよ。きっと」


ウエイターはため息を零しながらもライツに水の入ったコップと一緒に一本の鈴色の鍵を渡した。この店の最上階。三階部分に当たる個室の鍵だ。

だが、ライツはその鍵をすぐに水の入ったコップに入れた。

コップの中でシュワシュワと炭酸飲料のように泡を出すコップの中に入っていた水には毒があり、鍵にも毒が塗布されていた。

これはにわか。もしくは王国の密偵や正規冒険者ギルドへの罠である。それを回避したという事は少なくても目の前でハンカチを使い手についた毒を拭っている少女は本物だという事だ。

ウエイターは慣れた手つきでコップの中にあった水と鍵を流し場に落とす。そして、改めてくすんだ銀の鍵を渡した。


「…ごゆっくり」


「ええ。明日の朝まで休ませてもらいます」


本物の鍵を受け取り、再び荒くれ者。いや、無法者の人込みを進んでいくライツに手を繋いで連れていかれるシュージの様子を見ていた彼等は、汚い笑い声をあげながらも彼らを歓迎した。


ようこそ愚か者。この掃きだめの宝物庫へ。




用意された部屋は質素な造りをしていたが、最上階。この寂れた村と比べると明らかに上等な造りをしていた。

そこには部屋の奥に大きなベッドが一つ。部屋の中央には一組のテーブルとソファーが一つずつ配置されていた。

そこに腰掛けたライツは隣にシュージを座るように促す。彼もそれに促されるまま座る。その様子にいたくご満悦のライツは笑顔のままシュージにテーブルに置かれていたメニュー表を渡す。


「移動で疲れたでしょう。何か注文しますか?」


ライツは上機嫌だった。無法者の視線で疲れ切った表情を見せるシュージのご機嫌まで吸い取ったかのように。

ここまでシュージを連れてこられれば彼はもう自分の手中だ。今更後戻りはできない場面まで来ている。今の彼の様子から自分を置いて戻ろうなんて考えもしていないだろう。


「なあ、ライツ。お前は一体何者なんだ?あんなやり取りができるなんて普通じゃないぞ」


明らかに離れしているライツはシュージの目から見ても堅気の人間には思えない。今回の養殖ダンジョンの誘いを受けた時から感じていた違和感をどうしても解消したい彼は笑顔の彼女に問いかけた。


「質問を質問で返さないで欲しいですね。…まあ、少しなら答えてあげてもいいですよ。じつは私、やんごとなき地位の娘なんです。そして貴方の強さを是非取り込みたいんですよ」


シュージの問いに答えながら、彼の頬に手を当て、顔を近づけるライツ。

先ほどまでの笑顔と違い怪しげな笑みを浮かべる彼女には妙な色気が感じられた。そして二人の影が重なる寸前。


ガタリ。と、窓枠で音が鳴った。


その瞬間、ライツはシュージから弾かれるように離れると窓に向かって隠し持っていたナイフの一本を投げつけながら窓枠まで駆け寄った。

窓枠に刺さったナイフから一秒経つか経たないかの時間で窓を勢いよく開く。


ここは裏ギルドの管轄している建物だ。そんな上等な建物で不意に音が鳴ることは滅多にない。しかもあのタイミングでなるという事は誰かがついてきているという事だ。

自分達を狙う不審者は一階フロアにいる無法者達も当てはまるが、この部屋を利用する人間はこの裏ギルドで上位に値する人間だ。そいつに盾突こうなどいくら無法者でも躊躇われる。ここで反感を買えばここでは食っていくことが出来ないからだ。

ここで邪魔してくる人物と言えば、もう一人しか思い浮かばなかった。


開け放った窓の左右。上下。そして駄目押しに今まで隠していた自分のもう一つの魔法特性である風の魔法を使い、周囲を探索した。

これは熱探知機のようなものでいくら迷彩効果があるマジックアイテムや魔法でも滅多に隠しきれない体温を感知することが出来るものだ。妙な熱源があればそこを攻撃する手はずであったのだが、…それらしき反応は無い。どうやら本当に、タイミングよく窓枠が鳴った。


とは、どうしても考えられない。


ライツはカーテンを閉めて、外からこちら側を覗けないようにした上で、彼女と組織的につながっている人物をこの部屋にある備え付けのベルで呼んだ。

そこに現れたのは長身細身の色白な肌を持った笹のような耳を持った若い執事。魔法が得意とされる種族。エルフだった。

一見すると従者然としたこの男性はこの裏ギルドのマスターであり、ネーナ王国にリーラン王国の情報を提供する内通者の一人でもある。


「辺りにネズミがいるかもしれないからくまなく掃除してくれないかしら」


「畏まりました」


恭しく頭を下げたギルドマスター。彼はライツがネーナ王国の姫だという事を知っている。内通者であるから当たり前だ。養殖ダンジョンの情報も彼の伝手で知ったことだ。そしてシュージを篭絡することも伝えている。

そんな彼は落ち着いた様子で階段を下りて行った。おそらく今も酒を飲んでいる無法者達に情報漏洩者探しを命じるつもりなのだろう。

仮にもリーラン王国に仇を、ネーナ王国に従っているギルドの長だ。しっかりと探し出してくれるだろう。最悪、それが出来なくても、これから養殖ダンジョンに関わるという重罪を犯すシュージの凶行までは時間を稼いでくれる。

そう考えながらライツはシュージに振り向く。そこには懐疑的な表情を浮かべるシュージの姿。ここからさらに彼を曇らせるのだと思うと興奮してきた。

力ある者を己の掌の上で踊らせるという支配欲に満たされていくライツ。しかもその相手はドラゴンをも簡単に屠る可能性を持つシュージ。容姿も美少年と言ってもいい。

今のシュージは食虫植物に捕らわれた哀れな獲物のようにも見えてきた。

そんな彼を確実に手に入れるためにも不安要素は可能な限り取り除く。


「明日は早いですからもう寝ましょうか」


ライツはまるで市街を散歩するようにベッドに移動して、腰掛けると挑戦的な表情をシュージに向けて微笑んだ。


「一緒に寝ます?」


「い、いや。俺はここでいい」


照れからの感情もあったかもしれないが、それよりも危機感を感じたシュージは羽織っていた外套を布団代わりにソファーの上で寝転がった。それではしっかり休めないだろうと思ったが、それならそれで構わないとライツは思った。

疲れていれば万全の時に比べて正確な判断。もっと言えば善悪の判断もつかないだろう。


「そうですか。では、おやすみなさい」


彼を篭絡させ、凶行に及ばせて、リーラン王国を裏切らせ、ネーナ王国へと迎え入れる。


全てはこのために。


ライツは自身の邪な感情を隠すように部屋の明かりを消した。




その頃のカモ君は、スカイドラゴンとの戦闘中。正確にはビコーとスカイドラゴンの戦闘の余波。魔法の流れ弾から必死に逃げていた。

ビコーの部隊の人間は手慣れているのかカモ君より素早くその余波から避難していた。


いや、言えよっ!危ないから早く逃げろって言えよぉおおっ!


カモ君の心の絶叫はその場にいた誰にも届きはしなかった。


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