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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ肉の天丼 敵国の劣等感たれ付き
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第十四話 イケナイお誘い

カモ君が無事帰ってきた。

その事を知ったのは午前最後の授業になってから。この時間帯になるまで学園長を含めた関係者に説明してようやく授業を受けることが許されたのだ。

カモ君はふらりとやってきて普通に授業を受けていた。あまりにも自然だったのでシュージ以外は誰も気付かなかった。

気が付いたのは昼休憩直前にカモ君とは別で学園関係者に無断外泊の詳細を説明していたライツがようやく教室に戻ることが出来た。

彼女が来たことでシュージのクラスはちょっとした騒ぎになった。

彼女が美少女という事もあるが、暴漢に襲われて行方不明になったと知らされたクラスメイト達は心配もあった。

ライツはその人気から一部の女子には反感を買うこともあったが、持ち前のコミュニケーションと偽装した商人上がりというステータスを使ってネーナ王国の流行りの香水や化粧水を配ることで反感を買っていない女子からの人気もある。

そんな人気者を気遣いながらあわよくばという願望を持つ男子たちを押しのけて、ライツはカモ君とシュージの前まで歩いていき、勢い良く頭を下げた。


「先日は私のせいであんなことになってしまい申し訳ございません」


「いや、俺は大丈夫だって。被害らしい被害も受けていないし。それよりそっちは大丈夫なのか」


「はい。エミール様のおかげで何事もなく帰ってこられました」


あんな事とは暴漢に襲われたという事だ。

ライツはこのようにシュージに直接お詫びをすると同時にカモ君とは何もなかったことを彼はもとよりクラスメイト達にも知らせるべく行動した。

対して、カモ君はというと内心苦虫を嚙み潰した気分になった。


やられた。こんな場面だとこいつを糾弾することが出来ないじゃねえか。


カモ君は今回の事件をネタにシュージに近づかないようにライツを責め立てるつもりだった。しかし、彼女が公衆の面前でこのような行動をとることにより、その謝罪を認めるしかない状況になった。

ここまでさせて彼女を責めるようなことがあればカモ君自身はよくてもコーテの評判が悪くなる。もしかしたら将来この学園にやってくるかもしれないクーの評判で落とすかもしれない。

この二人にまで迷惑はかけられない。だからこそカモ君は謝罪を受け取るしかほかなかったのだ。


「…気にするな。俺がもっと強ければあんな事にもならなかっただろう」


そういって、カモ君は表面上ではクールに。内心では嫌々、ライツの謝罪を受けた。

だが、そんな彼の隣にいたシュージに変化があったことをカモ君は知らなかった。


強ければ。


カモ君は意図して使った言葉ではないが、その言葉はシュージの心に強く突き刺さった。

元はと言えば、自分があの時自分が足を止めなければ二人が姿を消すなんてことはなかった。

ライツに促されるまま逃げていれば、あんなことにならなかった。カモ君のように強ければあのアイテムを発動させる前に燃やすこともできた。

前のダンジョンでもカモ君の足を引っ張ってしまったシュージにとって、カモ君が自身を責める事は間違いだという事だ。本当に責められるべきは自分だというのに。


そんなシュージの心境の変化はカモ君と違い、すぐに顔に出てしまった。

怒っているような、責め立てているよう、それとも泣きそうなのか。そんな様々な感情が混ざった表情に気が付いたカモ君とライツはシュージに話しかけようとしたが、シュージはトイレに行ってくると言って、その場を走り去った。

こりゃただ事じゃないぞ。と、カモ君もシュージの後を追ったが完全に彼を見失い途方に暮れた。どこで何をミスったかなと思いながらカモ君はシュージを昼休み中探したが午後の授業になるまで彼を見つけ出すことは出来なかった。

対してライツはすぐにシュージを見つけ出すことが出来た。彼女はカモ君と違いいろんな生徒とコミュニケーションを取っている。そのため、シュージが行きそうな場所を把握していた。自分に言い寄ってくる生徒達を後腐れが無いように適当に振り切って運動場の隅にある体育道具が収められている小屋の前までやってきた。そこにシュージはいた。


「…俺がもっと強ければ。エミールに心配されないくらい強ければあんなことにはならなかったんだ」


シュージがよくここに来るようになったのは武闘大会以降から。

カモ君に憧れて、彼の言うように魔力と体力を鍛えるトレーニングを行ってきたため入学前に比べると大分スタミナ、魔力の総量はアップした。だが、それでも足りないと思い、この道具部屋にやってきては、収め切れていない鉄アレイやバーベルといった筋トレ用具を用いてトレーニングを行い、体力アップを図っていた。

昼休憩や放課後といった時間の空いた時には決まってここにきてトレーニングをするシュージの姿をいろんな生徒が目撃していた。その中には不良と言われる人間もいたが、シュージの魔法の威力を知っている彼らは突っかかるようなことはせず、その場を去っていった。

何より真剣にトレーニングをしているシュージに魔法でも素手の喧嘩でも負けるかもしれないと思っての事だ。

そんな慎ましい努力をしてきたシュージだが、それだけでは足りないと悔しそうに壁を殴った。この場にライツがいる事すら気が付いていないようだった。


「ひゃっ」


「っ。ら、ライツか。どうしたんだこんなところに来て」


ライツは気付いてもらうためにわざと悲鳴を上げた。

それで気が付いたシュージは慌てて取り繕いながらライツに話しかけるが、その顔は不甲斐なさを隠せていなかった。それを見たライツはこれを好機と捉えた。シュージが零した言葉を余すことなく聞き取っていたから。


「今より強くなりたいですか?」


「…なりたいさ。今よりもっと。あいつの隣に立てるようになりたい」


初めは憧れ。次第に友人。そしてライバル心を抱いていた。だが、現状はどうだ?

何度も何度も助けてもらっている。

カモ君にとってシュージはまだ保護対象なのだ。ライバルなんて上等なものではない。仲間なんて短慮すぎる。そう言われている気がした。

カモ君としてはシュージに何かあればこの国が終わるので死守しなければならない。いわば国の軍隊が自国の王族を守るような物。さらに言えばおんぶに抱っこしてもらおうという寄生心たっぷりなものであり、先行投資でもあった。

しかし、カモ君がそんなことを言えるはずもなく、またそう言ったところでシュージは信じてくれないだろう。それほどまでに彼の中でカモ君は崇拝に近い何かになっていた。

苦悩する美青年はとても絵になっていた。それは勇者の覚醒フラグの一つにも見える光景だ。そこに差し伸べるべきものは救いの手でも、補助の手でもない。彼の成長になるための試練だ。

だからライツはシュージに試練を課すことにした。彼の成長を促すために。


「シュージ君。以前、言いましたよね。とある場所にダンジョンが出現しそうだと」


「前のダンジョンじゃないのか?」


「ええ。正確には既にそのダンジョンは出現しています。まだこの国が把握していないだけです。あえてダンジョンの深層を増やすために放置しているものがあるのです。理由はそこに現れるレアアイテムを入手して強くなるために」


ダンジョンの放置は国を揺るがす事態でもある。それが国でも把握できていないのにどうして一貴族の。しかも他国の令嬢の彼女が知っているのか不思議に思えた。

だが、深層になればなるほど強力なアイテムが出土する。それがダンジョンである。

それはリスク100に対してリターンが3という程かなり分の悪いものだ。


強力なアイテムが出るかもしれない。という期待値に対して、

凶悪なモンスターやトラップは確実に出てくるのだ。下手すればあたり一帯が滅ぶ。そうでなくても定期的にモンスターがダンジョンから出てくる現象、氾濫が発生。周りの被害がものすごいことになる。

だから基本的にはダンジョンは即つぶすに限るのだが、そうはしていないのだという。強力なレアアイテムを手に入れるというためだけにその労力を払っている。いわばダンジョンの『養殖』。

勿論、これは違法であり、他国でそんなことがあったとしても隣接している国にも被害が出るので基本的に他国でもダンジョンの『養殖』している事がばれれば処罰される。

それはリーラン王国の貴族だけでなく平民。奴隷に至るまで周知の事実である。


「それって、違法じゃ」


「ばれなければいいんですよ。それにダンジョンには交代制で常時攻略済みの状態。ダンジョンコアは確保していつでも破壊可能な状態になっています」


だが、そんなリスクを背負って入手する強力なアイテムの中には魔法殺しといった強力すぎるアイテムもある。それを入手することが出来れば一つの軍隊並みの戦闘力を得ることだって可能なのだ。


「強くなりたいのでしょう?」


シュージに手を伸ばしたライツ。この時の彼女は正しく天使のような悪魔の笑顔だった。

自分がダンジョンの『養殖』を誰かに喋ったらどうするつもりなのか。いや、喋ったとしても問題がないのだろう。

ダンジョンという巨大すぎる物証をこれまで隠していられる手段を持つライツの関係者ならリーラン王国の関係者が嗅ぎつける前にダンジョンコアを即座に破壊してダンジョンを潰すことも出来る。

なにより、力を欲しているシュージは彼女の手を取ることに躊躇することは出来ても、払いのけることは出来なかった。


「一緒に、イケナイ事。やっちゃおうか」


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