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鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ肉の天丼 敵国の劣等感たれ付き
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第六話 施しコイン

…俺は何をしているのだろうか?


白い霧があたり一面に発生しており、腕より先の視界が完全に見えなくなるほどの霧の世界でカモ君はどこを目指すわけでもなく進んでいた。

遠いところから誰かが自分を呼んでいる声が聞こえた。聞き覚えのある、しかし、嫌気しか沸いてこない声が進む先から聞こえてきた。


こっちだ。こっちだよ。


霧の中を進んでいくと人影が見えた。全体に丸い人影が二つ。

その一つはカモ君だった。前世の記憶を持つカモ君ではなく、ゲームのシャイニング・サーガに登場してくるいわば『原作』のカモ君だった。

彼が着ている服は、元は綺麗だっただろう豪勢で上質だったのだろうが、目の前の『原作』が着こんでいる服のあちこちは汚れていたり、穴が開いていたりとボロボロだった。

そのことにカモ君が驚いていると、更に『原作』の後ろにいた人影の正体が見えてきた。

そこにいたのは怨敵かつ毒親のギネだった。『原作』同様にボロボロになった服を着て丸々と太ったその体を揺らしながら、こっちにいやらしい顔をして向かって手招きをしていた。


こっちだよ。お前もこっちだよ。


ギネがそう言いながらカモ君に言葉を投げかける。

その光景に本来なら殴りかかるか、この場を去るはずの自分の足が止まらず、彼らに向かって歩いていく。

腕を振り上げようとしたが、その瞬間、有刺鉄線がカモ君の肩から腰に掛けて巻き付いた。そのせいもあってか上半身から痛みが走る。特に腰の部分が痛く感じる。

思わず視点を腰に移すとそこにはいつの間に移動したのか『原作』のカモ君が腰に張り付いていた。


お前は俺だ。俺はお前だ。だからお前もこっちに来るんだ。


『原作』がそうつぶやいた瞬間に、あれほど濃かった霧の世界が晴れる。

そこはどこまでも炎が広がる戦場だった。

兵士も平民も奴隷も王族も。

冒険者から魔法使いまで。

リーラン王国すべての職種と人種の人たちがその場で倒れていた。

それを理解すると同時にカモ君の腰の痛みが強くなっていく。


お前はこっち側だ。お前の未来もこっちだ。


その声を聴いて再び視線を上げると、ギネがすぐそばにいた。殴りつけたいが腕が動かない上に腰の痛みがどんどんひどくなる。

ギネの顔のすぐそばには『原作』の顔もあった。ならば、今の腰の痛みは誰がやっているのか。

カモ君が視線を下に下げる。そこにはピンクの髪が見えた。整った容姿の少女がそこにいた。


そうだ。『原作』の。シャイニング・サーガのカモ君の死がイラストされた光景には確か、敵国リーラン国の篭絡。諜報員であり、隠しキャラであるお前が『原作』を。カモ君を。俺を




「はっ。…がぁっ」


「よかった。意識が戻った」


ミスリルタートル戦で気絶していたカモ君の意識が腰の痛みによって再び起動する。

中腰のまま気絶していたカモ君だったが、その事態を正しく把握していないシュージがカモ君の腕をつかんで前後に揺らして意識を取り戻させたのである。

カモ君が気絶していた時間は約1分。

その光景は投資に失敗した商人のようにすすけていたとも、性的暴行を受けた婦女子が棒立ちしているようなものだった。普段のカモ君ではまずないだろうその状態にシュージは思わずカモ君の体を揺さぶった。

それによりにぎっくり腰を患っていたカモ君は痛みによって目を覚ましたのである。はっきりいって今のカモ君にとってこれ以上ないくらいの起こし方である。

現にこれ以上ダメージを負わないように無意識でも中腰の状態をキープしたカモ君の姿勢が気絶してからずっと変わらない。まるで石化の魔法を受けたかのように体が硬直している。

シュージはその姿勢を保っているカモ君を不思議がっていたが、これまでのダメージの所為で動けないことを正直に伝えられるとばつの悪そうな顔をしてカモ君から離れる。

ミスリルタートルを倒し、ダンジョンコアを破壊できたと聞いた時は助かったと思ったが、あと半日もしないうちに自分たちがいるダンジョンは土に戻る。今いる場所も地中に埋まるのだ。


あれ?動けない俺も埋まらない?

いや、主人公のシュージさんがそんなことはしないと信じていますよ?

見捨てませんよね?俺たちの友情はそんなに薄っぺらい物じゃありませんよね。


せめて回復魔法が使えるほど気絶して魔力を回復できていれば良かったのだが、シュージにすぐさま叩き起こされたのでそんなことはなかった。

せめて、回復ポーションかマジックポーションがあれば回復できたのに。

カモ君の財政は火の車。なんてものじゃなく借金だらけ。回復ポーションや希少なマジックポーションを買うお金もないため、所持などしていない。

そもそも一桁階層のダンジョンだと思っていたからコーテからお金を借りてポーションを買うこともしなかった。そんな慢心がこの状況を作り出したのだ。

そんな後悔に苛まれているカモ君にシュージは救いの手を差し伸べた。


「エミール。良ければこれを使ってくれ」


以前、学園長からもらったマジックポーションをシュージはカモ君に差し出した。

マジックポーションは希少な物だとカモ君は彼に伝えている。使い時を間違えるなとも教えている。

カモ君も最初は戸惑ったが、シュージは今こそ使い時だとカモ君にマジックポーションを渡した。


こういうところが主人公なんだよな。


問題は、カモ君はシュージの仲間にはなれないという事。

もしカモ君がシュージの仲間になれば彼はカモ君を大事にするだろう。しかし、それはカモ君という莫大な経験値を持ち腐れさせることになる。

だからこれは借りだ。といってカモ君はもらったマジックポーションを飲み干した。

独特の苦さを持ったポーションだが、カモ君の枯渇していた魔力が満ち溢れていく。

はっきり言ってこのマジックポーション。そんじゅそこらのマジックポーションではない。その中でも最上位の効果を持つものだろう。

すかさず、カモ君は回復魔法を使う。

たった一回では間に合わないので三回も中級回復魔法を使うことになったカモ君は腕や腰を動かして体調が回復したことを確認した。

食いちぎられた左腕の一部も回復したところを見て、改めて魔法の凄さと有難さをかみしめているカモ君の元に今まで黙って見守っていたライツが声をかけてきた。


「シュージ君、エミール様。力が及ばずに申し訳ございません」


ライツは申し訳なさそうに、己の力不足を悔いているように見えたが、実際は違う。

ミスリルタートルに殺されなかった瀕死のカモ君と、そんな彼に回復の術を与えたシュージに内心悔しがっていた。


なんであそこから勝てるんだよっ。シュージのやつも何であんなに効果のあるポーションを持っていやがるっ。クソがっ!


その可憐な容姿と比較できるほど内心毒づいていた。

だが、舞踏会といった社交辞令で身に着けた笑顔の仮面でそれを完全に隠す。

生まれてからこれまで鍛えてき猫かぶりだ。シュージはもちろん、内情を知っているカモ君ですら少しだけ本当に己の無力に嘆いているのかと思わせるくらいだ。

確かにライツは嘆いていた。

シュージよりも先に自分が持っている毒薬をポーションだと偽って、気絶していたカモ君に飲ませれば殺せていた。死因もモスマンの鱗粉の所為にすればごまかしきれた。

それに気が付いたのはカモ君が完全に回復しきった後。すべてが遅かった。

だが、これから先。カモ君と共にダンジョンに潜る機会はいくらでもある。シュージを篭絡する機会もだ。

今回の失敗を経験にして次に生かそうと、薄暗い事を考えながら表面上ではシュージとカモ君を労わるライツ。

それからダンジョンの最奥という場所から地上へ戻ろうとする三人の前で、ダンジョンコアのあった場所から光がこぼれだした。

その光に気が付いた三人は思わず戦闘態勢に入る。ダンジョンモンスターの出現かと警戒していたが、光は数秒もしないうちに消えた。

その光と共にまるで蜃気楼のようににじみ出てきたのは掌に乗りそうなほどの小さな箱。そして、人の頭ほどの大きさを鈍い白い光をはじく金属の塊だった。


ダンジョン攻略報酬とボスドロップが同時に起こるとか。本当にシュージは主人公だな。


本来ならダンジョンコアを破壊しても、宝箱が出現することは滅多にない。だが、シャイニング・サーガというゲームでは主人公がダンジョンを攻略するとほぼ確実に出現するのは、主人公補正とやらが味方しているのだろうか。

これが他の魔法使いや冒険者が知ればシュージを誘拐・拉致といった物騒な手を使ってでも手に入れようとする輩は必ず出てくるだろう。

ライツも研究者のライムから聞いていたが、実際目にしてしまえば驚きよりも恐怖が勝った。


こんな豪運で異常成長する人間。確かに何が何でも引き込みたい。あいつが言っていたのも頷ける。いや、むしろこいつ一人いるだけで国を興せる可能性を秘めている。


異性としてはあまり魅力を感じないが、シュージの特異性に惹かれたライツは、その瞳の奥で爛々と輝く野心を必死に隠していた。

その彼女をよそにカモ君は現れた金属の塊と小さな宝箱に鑑定魔法を行う。

九割はダンジョン攻略報酬だが、残り一割はえげつないトラップだったり、ミミックという宝箱の形をしたモンスターだったりする。

魔力にまだ余裕があるカモ君は慎重になってそれらを調べた。

結果。小さな宝箱には罠はない。金属の塊もカモ君が探しているミスリル。それも10キログラム相当だと判明した。はっきり言って喉から手が出るほど欲しい。

だが、ダンジョンでのドロップアイテムは基本、ラストアタックを決めた人間に所有権がある。つまり、宝箱もミスリルもシュージに所有権があるのだ。

ここで自分も活躍したから分け前をくれと言えばシュージはくれるかもしれない。だが、そんな乞食まがいの事をしたと実家。愛する弟妹たちの耳に入ればどうなるか。


『うそでしょ。にぃに、そんな物乞いみたいなことしたの?』

『マジで?にー様がたかりみたいなことをしたって?』

『『縁切るわ。二度とモカ領領地に足を踏み入れないでください』』


なんて事になったらたまったもんじゃない。

そうなったらカモ君はその勢いでドラゴンの口の中に突撃していく。

いくら勝利に八割貢献したとはいえ、シュージから貴重なマジックポーションを受けとり回復した。

ダンジョンで即席パーティーを組んでいるとはいえ、マジックポーションはやりすぎだ。貢献度もこれに比べれば安いものかもしれない。

もちろん、あまり役に立つことが出来なかったライツもここでシュージにねだる事はできない。そんな事をすれば彼からの信頼を失い、二度とパーティーを組んでもらえないどころか交流も出来なくなる。

そんな思惑が交差する中、シュージは小さな宝箱をカモ君に進められるがまま開けるとそこには少女の絵が彫られた灰色のコインが一枚入っているだけだった。


「なんだこれ?エミール、これが何かわかるか?って、どうしたその顔は、もしかして、これってやばいのか?」


「…ああ。やばい。絶対に他の奴らには見せるな。冒険者はもちろん、魔法学園のクラスメイトや教師にもそれを持っていることは知らせるな」


カモ君の表情が若干ひきつっている。だが、内心はその20倍は荒れていた。

それは比較的に階層が浅いダンジョンで手に入っていいものではないからだ。


施しコイン。それがこのコインの名称だ。

モンスターとの戦闘終了後、そのモンスターのドロップアイテム獲得率を5%引き上げるというマジックアイテムであるコイン。

5%とみれば低いように思えるが、どんなモンスターでも5%の確率でアイテムを落とすと考えればその恩恵は計り知れない。

一般冒険者や魔法使いでも倒したモンスターのドロップアイテムにありつけるのは100回に1回あればいい方だ。

それが20回に1回になればどうなるか?答えは簡単。中堅冒険者でも三年で豪邸を立てられるくらいに儲けを出すことが出来る。

マジックアイテム枠になるからこれは装備品扱いされるが、レベリングや討伐依頼などをこなしている時にこれを持っているだけで、副産物のドロップアイテムの売却だけで目標の金額に到達することもできる。


まじでふざけるなよ、主人公!

そのコインはラスボスのいるエリアでもドロップするのは稀。裏ダンジョンでようやく手に入るかもしれないアイテムだ!

…そういえば魔法殺しなんて物もこいつは手に入れていたよな。

こいつ、容姿やレベルだけじゃなくて、幸運までぶっちぎりとかなんなのっ?!

真面目に暗躍を企てている俺の努力をすぐに飛び越えていきやがるっ!

俺が欲しがりそうなものは全部こいつが持っていくなっ!これでクーやルーナ。コーテまで持ってかれたらさすがに自殺を考えるぞ…。

この時点でシュージの幸運値はカンストしているどころかバグっているんじゃないかと思わんばかりの数値をたたき出すだろうな。


カモ君が荒ぶる内心を抑えながらもシュージに施しコインを握らせ、絶対に無くさないように。そして売らないようにきつく言い聞かせる。これはある意味で魔法殺しを上回るアイテムだ。これは誰でも装備できるコインである上に、これといったデメリットもない今のシュージには最上のアイテムだ。


それなのに。


「なあ、エミール。これを受け取ってくれるか」


シュージはそれをカモ君に渡そうとしてくる。

これは主人公が持っているからこそ最大限に生かせるアイテムだ。

あまりにもレアなアイテムだからライツにもこれがなんだかわからないのだろう。わかってしまえばシュージとの縁が切れても欲しがる代物だからだ。


「正直欲しいが、それはお前の物だ。ボスモンスターを倒して、ダンジョンコアを破壊したお前の所有物だ。ここでは教えられないが強力なアイテムだ。そう簡単に他人に渡すようなものじゃない」


正直に言えばものすごくほしい。

このコインがあればカモ君が王家から受けている依頼もだいぶ楽になるからだ。

だからこそ、シュージにはこれを手放してほしくない。このコインはシュージを間違いなく強くしてくれる一因を担うから。


「簡単じゃないさ。エミールのその顔を見れば本当に強力なコインなんだろう。…これまでの借りをやっと返せそうなんだ。ここで一つくらい返させてくれ」


シュージにとってカモ君は友人であり、ライバルであり、恩人でもある。

魔法学園で平民だからといじめを受けることがなかったのはカモ君という実力者が不穏な輩を間接的に押さえつけていたから。

魔法学園。貴族が受けるような学問についていけるのもカモ君が何かと教えてくれたから。

幼馴染のキィをよく注意してくれるコーテとカモ君のおかげで、彼女も今のところ好きに学園生活を送っている。

そして、ダンジョン攻略の時もそうだ。

前回の攻略の時でも色々助けてもらった上に、今回は直接命を救ってもらった。

マジックポーションを渡したこともあるが、それでもこれまでの恩と命を救ってもらった事をなかったことに出来るほどシュージは面の皮は厚くない。

そんなシュージの意思を理解したカモ君は少し考えた結果。やはり、施しコインはシュージが持っているべきだと結論付けた。

しかし、シュージの想いも無下にしないためにカモ君は一抱えあるほどのミスリルの塊を抱える。


「じゃあ、コインじゃなくてこれをくれ。ちょうどミスリルが欲しかったんだ」


一応、このミスリルの塊も高価なものである。金貨200枚はあるだろう魔法金属を加工すれば強力な武器や防具になる。ミスリルを扱える職人が少ないため、その技術料の方が高くつくのだが、ちょうどその職人に当てがあるのだ。依頼をこなしつつ、自分専用のアイテムも作ってもらおう。

王家からの依頼や職人の当ての事は伝えずにミスリルの価値だけを教えて来た道を引き返すように促したカモ君。

ダンジョンにあまり長居するものではない。地下空間という事もあるが、既に出現したモンスターに襲われるかもしれない。そうならないためにもダンジョンからの脱出をした方がいいとカモ君は先頭を歩いてボスフロアを出ていく。

シュージもこれ以上カモ君に言っても受け取ってくれないだろうと理解したのかコインを胸ポケットに収めてカモ君の背中を追うようについていく。

その時、ライツを置いていかないように声をかけてから、彼女の手を取ってボスフロアを出ていった。

魔法学園の一年生がダンジョンボスを倒したという大偉業に誰も気が付かないまま。カモ君の索敵魔法で余計な戦闘をしないまま彼らはダンジョンから脱出を成功させた。

その間、ライツはシュージが手に入れた施しコインの事を何度か尋ねたが、その都度カモ君が邪魔したのでその正体を最後まで知ることはなかった。カモ君とシュージの会話は聞いていたが、どうしても気になるんです。と、己の容姿を最大限に生かして尋ねたが、シュージ。というか、カモ君が邪魔した。

カモ君からライツ。ライツからカモ君への信頼度はダンジョン攻略前よりも悪化することになる。


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