第一話 ねえ、どんな気分?NTRな気分?
シュージがライツという少女知り合ったのは夏季休暇を終えてすぐの事だった。
隣国。ネーナ王国からやってきた商人から成り上がった貴族と自己紹介してきた転入生は自分のような平民に近しい人間だと感じたが彼女の容姿としぐさを見てその考え方を改めた。
全てが整っていたと言えばいいのだろうか。
彼女の一挙手一投足、すべてが可憐かつ美しく見えた。
すぐに自分とは違う世界に生きる人物だと考えた。
しかし、そのイメージはすぐに打ち崩されることになる。
ホームルームで自己紹介が終えると教師に促される前に彼女はシュージの傍まで駆け寄るとその手を取って言葉を交わした。
「あの武闘大会で苛烈な火の魔法を放ったお方ですよね。私、感動しました。ぜひ仲良くしてくれればうれしいです」
ライツは少し前に遭った武闘大会の観戦に訪れており、その時に見たシュージの魔法のファンになったのだという。
確かにシュージの扱う魔法はあの大会メンバーの中で一番派手な光景を作り出していた。
カモ君という速攻を決め込んだ相手出なければシュージは準優勝していたのではないかという目測も飛んでいる。
優勝候補はもちろん白騎士。シルヴァーナを装備した姫騎士のマウラ。
だが、そんな彼女より注目を浴びていたのはシュージである。
魔法学園の初等部一年生であり、平民出身の特待生。そんな彼の成り上がりストーリーの序盤を見せられたかのような出来事に心惹かれたのだと。
そんな事をクラスメイトの前で告白されたことにシュージはさすがに焦った。
さっきまで遠くの存在だと感じていた存在が、こちら側に食いつくかの如く迫ってきたのだ。しかも美少女のお嬢様然としたライツから目をそらしながらもどうにかあいさつを交わしたシュージ。
そんな彼を恨みがましくにらみつける男子生徒。武闘大会からシュージに目をつけていた女子生徒はライツを睨む。キィはというと慌てふためいているシュージが面白いのかにやにやと笑いながら見ているだけだった。
それからカモ君が学園に戻ってくるまでシュージについていくように彼と共に学園生活を過ごした。
座学や魔法の実習を難なくこなし、周りにいる同級生の中では確実に上位クラスに入るほどの実力を見せるライツはシュージ以外の男子生徒にも言い寄られたこともあった。
だが、彼女は少しもなびかなかった。彼女が好ましく思うのは強者であると公言している。
そして、言い寄ってくる男子生徒はシュージ以上に魅力を感じないということだ。
その理論ならカモ君の方が彼女の好みに合うのではないかと思ったが、ライツ曰くシュージの方に将来性を感じたのだと言う。
そんな彼女にシュージは苦笑して言った。
自分はカモ君に比べればまだまだだと。
魔法も体力も。知識に経験。その人格の器の大きさに前へ突き進むという気概まで、何もかもが劣っているという。
もし自分を魅力的に見えるというのならそれはカモ君に精一杯追いつこうとしているからだと。
もちろん、このままでいいわけがない。
カモ君はこの魔法学園に来る前からダンジョンに挑み力をつけてきたという。
だから自分も魔法学園で行われるダンジョン攻略のアルバイトがあれば積極的に受けるつもりだと伝えるとライツは悪戯好きの子供のように頬を緩めるとシュージにしか聞こえないように耳元に口を近づけて囁いた。
「なら、私と一緒に行きませんか。近々ダンジョンができる予兆が見られるので」
理性を溶かしに来ているとしか思えない蠱惑的な声にシュージは思わず顔を赤くしながら距離を取った。
幼馴染のキィにも悪戯を思いついた時は同様の事をされていたので幾ばくかの耐性があった。
これが女性との交友が少ない男だったらその場で腰が砕けていたかもしれない。少なくても同学年や年の近い学生はその場でYESと了解を示していただろう。
ダンジョンは周期的に自然発生するとはいえこの日だと断定することはできない。ある日突然ダンジョンコアが発生して、それを破壊しない限りその場から迷宮が作られていく。
光の魔法で定期的に浄化している王都ではまずないが、浄化が間に合わない田舎地方でよく発生する。そんな閑散としたところでダンジョンが生まれるから、発見しづらいという点もある。
そんなダンジョンが発生するということを予期できるというのか。シュージには信じられなかったが、ライツは小悪魔的な笑みを浮かべながら「内緒ですよ」と、シュージの唇に人差し指押し付けるように触れた。
カモ君が魔法学園に戻ってくる三日前の出来事だった。
シュージは一応秘密だと言われたのでダンジョンの予期の事は伏せたが、ネーナ王国の領地内でダンジョンの噂があり、そこに行きたいということを昼休憩の男子トイレで二人きりになったシュージはカモ君にそう伝えた。
カモ君はこれまでの情報をまとめた結論を出した。
思いっきりハニートラップじゃねえかぁあっ!
あ、あのピンクの悪魔。強くなったシュージの引き抜きに来やがった。
その慧眼にも恐れ入る。しかし、シュージを育てたのはある意味俺だということをわかってやっているのか。だとしたら恐ろしい。あの寝取り悪女。シュージは俺の(国の)ものだぞっ!
表面上は冷静さを崩さないカモ君だが内心は大荒れだった。
トイレを済まして食堂へと出向くとそこには既に問題の悪女がいた。
周りにいた男子生徒。中には三年以上先輩の中等部の生徒もいたが、こちらがやってきたことに気が付いたライツは周りの男子生徒に向けていた微笑みを絶やさずシュージのすぐ傍まで駆け寄ってきた。
「シュージ君。待っていましたよ。一緒にご飯を食べませんか?」
自分たちのアイドルが離れて行ってしまったかのように恨みがましい視線を容赦なくぶつけてくる男子生徒達に若干押され気味だったが、それらはすぐに解消された。
「エミール様もご一緒しませんか?」
視線が散らばったのはシュージの傍にカモ君(歴戦の戦士風の魔法使い)がいたからである。
貴族はある意味空気を読まなければやっていられない生き物だ。
自分達よりも強者であるものの平民という立場で自分たちに逆らえないだろうと踏んでいるシュージはともかく、自分達より強者であり、立場が上であるはずの自分の親を殴り倒すカモ君にはそのうっとうしい視線をぶつけるわけにはいかなかった。
下手すれば、立場が上だろうと関係ねえ自分も殴り飛ばされるのではないかと恐れているのだ。
そんな思惑を知ってか知らずかライツはこちらに近寄ってきた。
これはわかってやっているなとカモ君は思った。
ギネという毒親とのやり取りで培ったディスコミュニケーションは伊達ではない。相手の考えていることも大体わかる。
周りの雑魚に時間を取られずシュージを篭絡するにはカモ君を巻き込んだ方が効率いいと判断したのだろう。
正直に言えばカモ君もいらない。シュージと二人きりになれればもっと都合がいいのだろう。それをおくびに出さないのはさすがとしか言えない。
だが、カモ君もライツの動向を知りたい。どこまで話が進んでいるのか知りたかった。
「じゃあ、並ぶか」
食堂のおばちゃんたちが作ってくれる三種類ある日替わり定食を受け取るためにカモ君とシュージ。ライツは並んで食事を受け取る順番を待っていた。
そこでカモ君は気が付いた。
金にがめついキィがいない。ここの食堂の日替わり定食(無料)を一日の楽しみにしている節がある彼女の姿を午前の授業を終えてから見ていないのだ。
「シュージ。…キィはどこ行ったか分かるか?」
カモ君の質問にシュージは苦笑しながら、遠くを見つめる表情で言った。
「あいつなら、今頃学園の外で飯食っている」
「…珍しいな」
ここの食事は無料とはいえ、貴族に出す食事を提供しているのだ。そこらの食事処や酒場より美味しい料理を出すことが出来る。
それなのにわざわざお金のかかる外食に行くなどほぼあり得ない。
「上級生のクラスにも転校生がいてさ。そいつがなぜかキィを気に入ってあちこちに食事に誘っているんだ」
シュージ曰く、毎日のように高級レストランに出向いているらしい。もちろんここの食事のように大量生産されるものではなく、一つ一つ丁寧に作り上げられた食事を食べているとキィ本人が喋っていたらしい。
…まさか?
と、思っていたカモ君の不安は現実になる。
「私の兄が申し訳ありません」
そう言ってライツが謝罪をしてきた。
彼女と同じ篭絡工作員。白銀の髪を有した中等部一年の先輩。
ライナ・マ・アンナ。
緩い雰囲気に所々髪の毛がはねており、手のかかる近所の美形のお兄さんの雰囲気を醸し出し、その雰囲気からダメ男が好きな女性プレイヤーを虜にした男性キャラ。
シャイニング・サーガで男性主人公を選ぶと悪女のライツ。女性主人公を選択するとろくでなしの女たらし、ライナが登場する。
どちらも主人公を誑かして裏切らせるという重要ポジションを担ったキャラが両方出てきたのだ。
カモ君は思わず鼻で大きく息を吐いた。
NTRキャラが二人も出てくるんじゃないよっ!
声を大にして言えたら少しは気分が晴れただろうカモ君はこの前途の多難の大きさに眩暈すら覚えるのであった。




