表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鴨が鍋に入ってやって来た  作者: さわZ
カモ鍋。勘違いの味覚添え
1/205

序章 俺も屑だった

これは(ブラコン&シスコンに)目覚めた男の物語


ハーメルンにも投稿しています。

 とある分娩室に繋がる廊下で一人の少年が尻もちをついていた。

 原因は自分が持ち込んだ果汁入りの水が入ったコップの中身を零し、それに足を取られて尻もちをついた。その痛みと尻に感じる冷たさで脳の奥に眠っていた何かが刺激を受けて、呼び起こされたのは前世の記憶だった。


 「・・・・・・・・・は?」


 少年の体格はずんぐりむっくりというか、言うなればマトリョーシカな体型に栗色の髪に金の瞳。薄っぺらい笑顔の下には碌な事を考えていない事が感じられる。

 そんな少年、自分が転んだ瞬間に呼び起こされた記憶を感じ取るのは一瞬。しかし理解するには数秒の間があった。その時だけは年相応のきょとんとした顔をしていた。

 何を感じ取ったのか?それは自分のいる世界が前世でよく好んで遊んでいたゲームの世界に似ている事だった。


 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はい?」


 シャイニング・サーガ。

 そんなタイトルのゲームは王道ファンタジーRPGの学園シュミュレーション。

 主人公とその仲間達で繰り広げられる英雄譚。

 そして自分は『踏み台キャラ』で『カモ君』と称されたキャラクターに転生したようだ。


 「・・・いやいや。いやいやいやいや」


 頭を振りながら立ち上げるカモ君。

 自分が主人公達の経験値になる、やられ役『踏み台キャラ』と決まった訳ではない。

 確かにこの世界には王族・貴族・平民・奴隷の身分がある。

 次に魔法が扱える中世ヨーロッパを思わせる世界観。

 そして自分の家名が鴨。もといモカ家。

 ワンアウト。

 廊下と待合室を繋ぐドアに映る自分の体形。茶髪のぽっちゃり。

 前世らしき記憶が蘇るまでの自分は他人どころか自分の両親すらも見下していた性格。

 普通の魔法使いが使える魔法の系統は地水火風に光と闇のどれか一つだけなのだが、自分はこの世界では物凄く稀な魔法使い。全属性の魔法が使えるエレメンタルマスター。

 ツーアウト。

 まだだ。まだ否定する材料はある。そう期待しながら否定材料を記憶の中から引っ張り出そうとしていると分娩室から赤ん坊の声が聞こえてきた。

 そうだ自分はここで自分の弟か妹が生まれてくるのを待っていた。最初はただ事務的に赴いていたのだが前世の記憶を確かめる為にも知っておかなければならない。

 聞こえてくる赤ん坊の声は二人分。どうかどちらとも弟。もしくは妹だけでお願いします。弟妹のワンセットは嫌です。

 しばらくすると分娩室の扉が開きそこから現れ女性看護師が笑顔で伝えてきた。


 「おめでとうございます。可愛らしい双子の赤ちゃんですよ。男の子と女の子ですよ」


 おいおいマジかよ。姉ちゃん。嫌な予感がぬぐいきれないカモ君だったが、看護師の後ろから出産に立ち会いの為に入っていた父親が出てくる。

 口ひげを生やし丸い顔に短く切りそろえた角刈りの頭にカモ君と似たぽっちゃりボディ。三十代後半の男性。モカ家の現当主が出てきた。

 スリーアウト。ゲームセットである。


 「赤子が生まれたな。では俺は仕事に戻る。エミール。お前も会っていくといい」


 冷たく言い放つこの男に人の情というのはないのか?出産と言う大仕事を終えた自分の妻をほっといて仕事に戻るとか。

 無いんだろうな。こいつ分娩室にその人の魔力を調べる虫眼鏡『魔法のルーペ』持ち込んでいやがる。きっと生まれたばかりの双子の魔力の質を見たんだろうな。俺と同じ全属性の魔法使い。エレメンタルマスターの素質があるかを確認して、無いから仕事に戻る。こいつから仕事を取ったらただの屑なんじゃねえの?何でもかんでも仕事優先。しかも自分に都合のいい事ばかりで悪い物はよそに押し付けるという噂をまだ五歳の俺でも聞くんだぜ。


 「…はい。父上」


 ここで何やっているんだクズ親?自分の嫁さんを労わってやれよと言えば普通に全力で横っ面を殴る親だ。うんクズだわ。まあストレートにそういう風には言わないけど、力つけたら逆襲してやる


 「いいかエミール。お前は次期領主だ。その魔法の才能を育て、この私。ギネの役に立て。今度産まれてきた双子もそれなりの才能持ちだが、お前のように生まれながら全属性の才能を持つ者に比べては劣る、これからも励めよ」


 エミール・ニ・モカ。 えみーる に もか。 並べ替えると鴨に見える。それが俺の名前。

 ギネ・ニ・モカ。 ぎね に もか。 並べ替えると鴨にねぎ。それが俺の父親。


 「分かっております父上。生まれてきた双子の立派な兄として精進します」


 お断りじゃボケー!なんで毒親の言うことを聞かなければならないんじゃい!俺は王都で活躍して良家の娘さんの婿になって養ってもらわれつつてめえを上から命令すんだよ!と言えたらどれだけ胸をすく事か。


 「レナには期待していたのだがやはり駄目だなこれだから男爵の娘は…」


 レナ・二・モカ。 れな に もか。並べ替えると鴨になれ。それが俺の母親。

 二十代後半の子爵婦人のはずだが出産で疲れ切っている以外にもこれまでの気苦労の事もあってか痩せきった四十代にも見える銀髪の女性がいた。

 自分はそれからたった一つ上の子爵じゃねえか。たかが階級が違うだけでダメとか。本当に父親はクズ。

 そう思いながら心の中で中指を立てるカモ君だが、最後に確認したいものがある。それによって自分が踏み台になるかが分かるのだ。


 「ところで双子の名前はどうするおつもりですか?」


 「…ふん。お前の予備として名前ぐらいは考えているさ。男はクー。女はルーナだ」


 クー・二・モカ。 くー に モカ。並べ替えると鴨肉。それが俺の弟

 ルーナ・二・モカ。るーな に モカ。並べ替えると鴨になる。それが俺の妹。


 豪速球に空振り三振。カモ君は諦めるしかない。自分の立ち位置に。

 外的要因と魔法使いの適性。そして家族模様から自分の立ち位置が完全に『踏み台キャラ』だという事に。

 少し太った鳥の紋様が刻まれたモカ家の家紋入りの馬車に乗り込む父親を見送りながら分娩室に向かうとそこには未だに息を荒くした母親。レナと赤ん坊を清潔な布でくるんでいる助産師と看護師がいた。


 「お疲れ様です。母上」


 「ありがとう、エミール。・・・あの人はもういってしまったのですね」


 「父上もお忙しいひとですから」


 「そうね。…でもあの子達を抱いてほしかったわ」


 母の視線の先には鳴き声をいつの間にかやめてすやすやと眠る双子の赤ちゃんがいた。

 というか必死になって出産した妻も子供も抱きしめもしなかったんかいあのクズ。死ねばいいのに。

ああ、前世で見てきたゲームが示す未来が見える。家系こそ立派だが、家族に何の関心を持たない父親をきっかけに冷えていく親子間。やさぐれるように増長したカモ君がいずれ出会う主人公に八つ当たりのように突っかかるも返り討ちに会い、それをきっかけにさらに冷え込む親子間。カモ君が決闘なんか持ち出し、当然のように負けて、賠償金を払うことによりモカ家は衰退し、破産する。

 逃げなきゃ。ゲームの主人公から。もっと言えばこの家からも。でないと人間性が腐ってしまう。


 「エミール。せめてあなただけでもあの子達を抱いてくれないかしら」


 「そんな事言わないでもいいですよ母上。むしろそちらから言わなければ此方からお願いするところですよ」


 「・・・少し意外ですね。あなたはあの人に似ているからそんな事を言わないと思っていたのに」


 ま、まあ。前世の記憶を取り戻す前の俺だったら言わなかっただろう。現にこの領に唯一の病院まで足を運ぼうとしなかった。むしろ屋敷でふんぞり返りながらメイド長のモークスに言われるまで肉を食っていた。腹が満たされたことで気まぐれで仕事をしていたクズな父親と一緒にこの病院まで来たのだ。…うん、今までの俺もクズだな。出産に立ち会うどころか前世の記憶を取り戻すまで心配もしてなかったぞ。

 ありがとうモークス。お前の渡してくれた果汁入りの水筒のおかげでクズにならずに済んだ。あ、いや俺も母上の心配の前に自分の今後を心配していたわ。俺もクズだわ。

 い、嫌な所で血の繋がりを感じてしまった。気をつけよ。

 内心自分自身に苦笑いをしながら助産師さんから弟さんですよと言われながらのクーを受け取る


 「かわっ!?…うんん。可愛らしい弟ですね」


 軽く咳払いをしながら平静を装いながら弟をしっかりと抱きかかえる。

 まるで中級レベルの風魔法。サンダーを受けたかと思った。それほどまでの衝撃を受けるくらいに可愛らしい赤ん坊だった。前世では一人っ子だったからそう思えるのだろうか?

 いや、なにこの弟。顔はまだしわくちゃなのにこの愛くるしい丸顔に俺や父親に似た茶色がかかった金の髪。小さく開閉している唇。可愛い。もし美少年コンテスト何かがあったら確実に優勝しているだろうお前。

 危うく落としそうになった弟を抱え直してからしばらく眺めていると、今度は看護師さんが妹さんですよとまだ五歳の俺の視線に合わせるように屈んで自身が抱いている妹のルーナを見せてくる。


 「んっっ?!ういっ、初々しい妹だね。お兄ちゃ、じゃない兄上だぞ」


 もし視線だけで人を石化させる魔獣バジリスクがいたとするならきっとこんな感じで人の意識を持っていくんだろう。まるで心臓を止められたかのような心境だぞ。可愛い。とても可愛い。アイドルの中に放り込んでもなお輝かんだろうその綺麗な母親譲りの白銀の髪。まるで計算しつくされたかのように赤らむ頬。お前が天使か?

 助産師にクーをなくなく早々に返すことにした。これ以上抱っこしていたらブラコンになっちゃう。これ以上ルーナを見つめていたらシスコンになっちゃう。

 俺はいずれこの家を捨ててどこかの裕福な領地の娘と結婚してニート生活するんだ、これ以上しがらみを持ってはいけない。いけないのに・・・。

 弟妹達の小さな手が虚空を弱々しく開閉していた。そこに両手の人差し指を伸ばしていた。そして、掴まれた。


・・・・・・・・・ま、まあこの領地を見捨てるのはもう少し後でもいいかな。




 これがゲームとの違いの第一歩である。

 本来のエミールは自分の弟妹を邪険にしていた。しかし、前世の記憶を思い出した彼はこれを機に弟妹達には『格好良い兄貴』として見せたくなったため、生活習慣を変える。

 体を鍛え、魔法に磨きをかけ、人付き合いの良い人間になろうと努力をし始めるのであった。

ぽんぽこ太郎さんの踏み台が己を自覚した結果ww に影響されて勢いで書いてみました。

面白かったです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ