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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

当方、滅亡寸前の王国。 募:勇者


端的に言って人類は滅亡寸前だ。

人族と魔族の争いにより、人族の生存圏は限りなく縮小。

大陸の中央に位置する王国のみが、人類種に残された最後の砦となった。


そんな中。この国の王族であり、この国に伝わる伝承の巫女である姫は、儀式を行なっていた。


場所は城の離れの神殿。

真っ白い神殿の中には姫以外誰もおらず。

姫が紡ぐ祈りの聖句のみが響いている。


その聖句が紡がれるにつれ、神殿の中は清浄な光で満たされてゆく。

姫含み、城の全員も半信半疑の最後の手段ではあったが、伝説は......予言は本当だったのだと姫は確信し、留まらないように句を続ける。



この国に伝わる『勇者伝説』

曰く、国が滅亡の危機に瀕した時。

高貴なる者の祈りによって、救いの主たる勇者が神の使いとして齎されるであろう。


という伝説。


本当かどうかも分からない。

そんなモノに縋るしかないくらい、王国は追い詰められていた。


度重なる魔族の襲撃によって疲弊してゆく国。それに比例するように衰退していく国力と士気。

さらに、原因不明の病により床に伏した国王(姫の父)


人間が滅ぶまでは秒読みだ。

そんな、諦めと怒りが混じった声がそこかしこで囁かれる。


そんな状況。



だが勇者様が、救世主が齎されればこの状況もきっと変わってくれるはず_______!


か細い願いを託しながら、姫は遂に最後の一節を唱え終えた。

それと共に上がり続けていた光量も限界に達し、姫は思わず目を逸らしてしまう。



そして。その目も眩むような光が収まった後にあったのは。



「うーん。ここは.......」



まさしく伝説の救いの勇者............



「唐揚げぇ!!???!??」


ではなく唐揚げであった。

とてもジューシーで美味しそうな唐揚げであった。


「あ、どうも。こんにちは」


しかも喋る唐揚げであった。


唐揚げは喋らないから唐揚げである条件を満たしている訳ではないが、喋ってしまうとそれは唐揚げとは言えるのか?そもそも唐揚げって.......


そんな諸々の、未知との接触にも似た疑問を脇へ押しやり、姫は無理やり話を進めます。


「私はこの国の姫。今、我が国が滅亡の危機なのです。なので私が貴方をお呼びしました。いきなりこんな事を頼んでしまうのは私としても心苦しいのですが、どうか神に授けられた力で我が国を救ってくれないでしょうか、勇者様」


姫は今の状況を簡潔かつ出来るだけ丁寧に説明します。

普通の小説なら、ここで主人公の

「(これは......異世界転移ってやつか!?)」

なんて都合のいい心理描写が挟まったりするのですが、相手は唐揚げ。

いくらなんでも........


「唐揚げに出来る事なら、全力を尽くそう」


どうやら都合のいい、勇気を持った唐揚げだったようです。


そこから場の主導権を握ったかのように唐揚げは喋ります。


「まずはどうするか。とりあえず詳しい状況を共有しよう。俺は唐揚げです」


報連相も出来る唐揚げだったようです。

と言うかそれはもう唐揚げなのか.......?


「唐揚げです」


唐揚げでした。

しかし、勇者とは言え唐揚げ。

一体何が出来るのか......

姫がそう考えた時です。


「おっと姫さん。俺が信じられないって顔だな。ならば確認して安心するがいいぜ!俺を食ってな!!」


そう言って唐揚げは、その艶やかな肢体を姫に差し出します。

まぁ確かに、今し方揚げ上がったばかりのような唐揚げのテカリ具合は確かに食欲をそそります。


ですが唐揚げはさっきから床に付いています。国法にも記されてるサンビョウ・ルールの基準では、唐揚げは既に可食的性質を著しく損なっているはずです。


「勇者だから大丈夫だ」


勇者でした。大丈夫らしいです。


「なるほど、それなら安心ですね」


何を安心したんでしょう。

姫には国の行く末を心配して欲しいのですが、取り敢えずは姫の安心は唐揚げには向けられました。


安心したとなれば実食です。

そう言わんばかりに、姫はあーんと口を開けた唐揚げを迎え入れます。


「そ、それでは。失礼して......」


ザクリ!と小気味のいい音を響かせ、姫の歯が衣を破り中の肉を咀嚼する。


なるほど。言葉に違わぬ美味しさだ。

ただ良い材料を使っただけではこうはならぬ。最高の食材を使用し、尚且つ長年の修行により極められた調理のみが為せる、正しく神がかった味だと言えるだろう。

思わず服が弾け飛んでしまいそうなほどだ。



だが一体、それが滅びゆく王国を救うのにどう役立つと言うのだろう。

御伽噺に存在する神の食材アカシアの様に国を救ってくれるとでも言うのだろうか。

しかし、魔族は飯を食う必要は無い。


姫の心は再び絶望に囚われ、もう一度唐揚げの名(名詞)を呼んだ。


「唐揚げさん......」


しかし、返事は帰って来ない。

耳を澄ませば、聞こえるのは唐揚げの弱々しい呼吸音(?)だけ。


コヒュー、コヒュー。という、弱々しい息遣いだけが、唐揚げの微弱な生(?)を保証していた。


「唐揚げさん!どうして!?」


姫の疑問に、唐揚げはこう答えた


「姫さま...グフッ.............。体を、齧られたら......。誰だって、死にそうにはなる...ぜ........!」


考えてみれば、当たり前の事である。

唐揚げとはいえ、生きている(?)。

体が液体で構成されたスライムですら、刺されれば活動を停止するのだから、いわんや唐揚げなど。道理であった。

姫は咄嗟に患部(唐揚げ)に回復魔法を使うが、それも効き目がない。

何故なら唐揚げだから。


「どうして.....どうしてそんなッ!!」


無駄な事を......!

そう言おうと姫を、唐揚げの腕(?)がスッと制した。


「無駄なんか。じゃあ、無いぜ.....姫さま。

俺は姫さまに教えてやったんだ........!

絶望なんて、飯を食えば吹き飛んじまう........。ちっぽけな.....モノ、だってな......」


だからな......

一拍おいて、唐揚げの口(?)は紡ぎます。

最後の力を絞り出し、自身の全てを姫へ託すかの如く。


「だからな、止まるんじゃねえぞ...。」


それを言い終わるや、唐揚げはがっくりと項垂れ、物言わぬ冷たい食べかけの唐揚げになってしまいました。


冷えたことにより、肉も硬くなり衣のベチャついた唐揚げには、生前の艶やかさなど微塵も感じられませんでした。



........しばらくして、呆然とする姫の耳に、一つの足音が聞こえます。


それは姫のいる神殿の外から。

ドタドタという落ち着きのない足音は、姫の頼れる付き人のものでした。


そして乱暴に神殿の扉を開け放ち、息も絶え絶えこう言うのです。


「魔族軍が撤退しました!!」


理由は不明ですが.....」

と。


そこまで言って、付き人は酸欠でドサリと倒れ込みました。


それを聞いて姫は............


「何だか分からないけどヨシ!!」



取り敢えず良かったようです。

魔族軍はお昼時なので帰りました

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