第六話
「隣いいか?」
「別に良いけど…」
外で夜風に触れていると、ルドルフが隣へ来る。
静かなこの城に溶け込むような静けさが、僕達を包んだ。
「少し、昔の話をしていいか?」
「僕でよければ相手に。」
何から話そうなどと、ルドルフは昔を懐かしむように話をしだす。
「あれは10年程前だったかな。俺がエルメの村を滅ぼした。」
それを聞いて驚きを隠せなかった。滅ぼした?それもそうか。だってルドルフは魔王なのだ。僕は優しくされて何か勘違いをしていたのかもしれない。
「ほ、滅ぼしたって…」
「すまない。今だけは最後まで聞いていてくれないか」
「うん」
その言葉に僕は口を噤む。
「しょうがなかったとは言わない。しかしあれは戦争だ。こちらが降りればこちらの民が死ぬ。それ程の戦いだったんだ。その時にエルメの一族を全て私が亡き者にした。」
その目は悲しく、何かに懺悔しているかの様だった。もしかしたら、ルドルフもそんな事したくなかったのかもしれない。いや、そんな事を考えるのは辞めよう。
「それで村の殆どを始末した頃、家から1人の女の子が出てきた」
「それがエルメちゃんですか?」
「そうだ。俺達に残されたのは全員を殺す事だけだった。本来であればエルメも切らなければならなかった。しかし、それができなかった。今更善人ぶった所で遅いかもしれない。しかし、俺に子供を切ることは出来なかった。親の死体を抱えた子供を切ることは出来なかった。」
ルドルフとエルメちゃんとの過去にそんな事があったなんて…それなのに、今はあんなに普通にしているのは何故だろう。
「俺は小さい頃のエルメには殺される覚悟だった。せめて復讐の相手を自分で殺させる。それが一番の懺悔だと思ったんだ。そしたらアイツなんて言ったと思う?」
「なんて言ったの?」
「私の村で一番強いのはあなただからあなたと結婚するって。それが村の掟だからって。俺を殺すどころか歪んだ愛情を向けていたんだ。」
「それでルドルフはどうしたの?」
「俺は逃げたんだ。殺されれるって考えてたのに、これは使える、このまま懐柔してしまおうと。それで俺の兄弟として受け入れる事にしたんだ。幻滅しただろう、綾汰。」
「大丈夫です元からそこまで信頼していません」
「そ、そうだよな…」
そう言うとルドルフは悲しそうな顔をする。この顔がまた可愛くて虐めてしまう。っていやいや、別にそういう意味ではないが。
「だから過去の事なんて関係ないよ。これから僕の信頼を勝ち得てください。ね?」
そう言って微笑みかけると、ルドルフもそうだなと小さく笑った。
2人で随分と長いこと話し込んでしまった。そろそろ部屋に戻ら無くては。
「さ、そろそろ…」
「エルメ様!お待ちください!!」
「うるさーい!ルドルフはどこなのにゃー!!!」
「エルメ様ー!」
近くでエルメとメルの声がする。どうやらルドルフを探しているようだ。
「ふっ…バカが俺を探しているようだ。バレる前に帰るか」
「そうだね」
そう言って帰ろうとするとエルメとメルが外にやって来る。
「やっぱり外にいたのにゃー!ルドルフーーー!ふんがぁぁぁ!!!」
「いたい!痛いってこのバカ!」
「あらあら、ウフフ」
「アハハ、ルドルフはバチが当たったんだよ」
「そんな事で言ってないで助けてくれ綾汰ー!」
「すみませんが僕先に帰りますね」
「ま、まってくれ!まってくれ綾汰ーーー!」
綾汰ぁぉぁぁぉぁぁぁ!
ルドルフの声が城中にこだましていた。