第一話
大きな花束に大きな歓声。そして綺麗なドレスに美味しい料理。すごく豪勢で本来であれば誰しもが羨むような結婚式。これにはゼ〇シィもビックリだろう。あくまでも本来であれば、だ。僕が女の子か、もしくは魔王が女の子ならば問題は無かった。贅沢を言えば人間であればなお良かった。しかし、事はそう簡単な事では無いようだ。
「こ、子供って僕の子供ですか?」
「それ以外に誰が?」
「え、そ、それは魔王様との子供ですか?」
「当たり前だろう」
開いた口が塞がらず、このまま顎が外れてしまうのではないか。そんな不安がよぎる程にアホ面をしていただろう。
「あ、あの~、僕一応男だった記憶がぁ」
「なに、心配せんでもよい。王族にオスやメスなどの概念は無いからな」
いやいやいやいや。魔王が妊娠するならまだしも僕は生身の人間だから。どうやったら男が妊娠するんだよ!
「そもそもなぜ僕が…」
「何故って、お前があんなにも求めてきたのではないか。俺もちょいとハッスルしすぎたか」
ガハハハハと笑う姿を見て僕は意識を失いそうだった。いや、意識を失ったといっても過言では無かった。開いた口は既に地の底までいっていた。
僕はもしかしてそういう趣味があったのか?見た目は完全に厳ついオッサンだぞ?実は僕は野獣先輩だったのか?野獣先輩どころか野獣魔王じゃあないか。既に性癖の方位磁針が狂ってやがる!!
「なに心配するな。人間だからといって差別はせん。俺はしっかり責任をとる男だ。ちょうど嫁もおらんかったしのう」
さっきより大きな声で笑う魔王。なに粋な計らいだろ?見たいな顔でドヤ顔してんだよ…いい迷惑だよ…
「で、でもまだ子供が出来たかどうかは…」
「安心しろ。王族の種は1発だ」
安心どころが発狂しそうですけど。
「それに王族の子は1ヶ月で生まれてくるからな」
安心させてください。出来てますよ。
「さて婚姻式の準備でもするか。綾汰よ、お前も早く支度をしろよ」
なんで名前を知っているのかとも聞けずにエルフに引きづられていく。あぁ、話がややこしすぎて何も分かんないよ。
部屋に連れられると、そこには今よりも豪勢な、キレイなドレスがかかっていた。
「さぁ王妃様。お着替え下さいませ。」
化粧道具を持ち、エルフはニコニコ笑っている。
あぁ、やっぱり僕の扱いは女なのね。
「第138代王位継承者、ジルブの使徒魔王ルドルフよ、貴殿は神染綾汰を、同じくジルブの使徒とし、王妃として迎えるのだな?」
「はい」
「神染綾汰よ、貴殿は自らをジルブの使徒とし、魔王ルドルフを夫と認めるのだな?」
さっきから訳が分からない単語がいくつも出てくる。ジルブがどうの、王妃がどうの、夫がどうの、本当に辞めていただきたい。いつになったら夢から覚めるのですか?
「綾汰よ、聞こえておるのか?」
「ふ、ふぉい!」
突然を声をかけられ謎の返事をしてしまう。やばい、怒られるか。
「良い返事だ」
どうやら良い返事だったようだ。この世界で返事をする時はふぉいを使おう。
「それでは両者よ。婚姻の印として、ジルブの指輪を交換するのだ」
そう言うと魔王が僕に指輪を差し出す。まず魔王の名前ルドルフって言うのね。そこからだよね。名前も知らなかった人と結婚って。いや、人じゃないけどね。
気づけば僕の指に指輪がハマっていた。しかも全然取れる気配がない。どんな物質でできるんだよ。
「さぁ、はやく」
そう急かされ手元にあった指輪を手に取る。何が嬉しくて男に指輪をあげねばならぬのか。悔しさで涙より鼻水が止まらなかった。
「綾汰よ。嬉しさで涙する気持ちも分かるが早く指を付けてさしあげなさい」
嬉しくねーよと心で思いつつも、魔王ルドルフの暗黒笑みが怖すぎて指輪をルドルフの指につける。そうすると笑顔がもっとふにゃふにゃな顔になった。うわ、こっわ。逆に恐怖だ。
「それでは、皇族院のバルザが立会人とし婚姻の儀を終了とする」
良かったぁぁぁぁぁぁ!あっちの世界とは違ってキスとかは無いのか!助かった。いや、助かってるのか?この状況。
どんどん状況が悪化しているような…
「キレイだぞアヤタ。今日はもう疲れただろう。部屋へと戻るといい」
「は、はぁ」
そう言われ部屋へと戻る。