第十一話
さっきまで煌びやかだった街は、打って変わって、今では地獄と化している。街は炎に包まれ、どこからともなく現れた魔物達は狂ったように暴れ回っていた。そうか、ここが本当の地獄なのか。
「さぁ、余興はこれからだ...そうだろ?」
エルメはそう言うと、僕を広場の中心へと立たせた。
「皆の衆!よく聞け!この事件の首謀者はこの人間だ!私達魔族を陥れに来たのだ!」
エルメがそう言うと、さっきまで暴れ回っていた魔物達が、広場に集まり出す。その目は怒りを通り越して、殺意に塗れていた。
「しかも!この人間は現魔王のお抱えだ。魔王はこの魔界を人間共に明け渡すつもりだったのだ!」
広場に集まった者が皆困惑し出す。そんな馬鹿な、魔王様が...しかし全員が何かを思い出したかのように、納得し始める。
「今ここでコイツを処刑する!」
エルメがそう言うと、そこら中から雄叫びが上がり始める。もう今となっては、全てがエルメの味方なのだ。僕の味方などどこにもいない。
そんな事を考えていると、エルメが剣を手に取る。あぁ、そうか。僕は殺されてしまうのだ。
「じゃあな、クソ人間」
エルメをそう呟くと、僕の首を目掛けて、切っ先を下ろしていた。みんな、先立つ不幸をお許しください。
カンっという音とともに、剣が振り降ろされた光景が目に入る。あぁ、人間って首を切られても意識があるのか、などと考えていると、声をかけられる。
「王妃様大丈夫ですか」
そこにはアルバが立っていた。
「ア、アルバさん!無事だったんだ…」
アルバは僕の前へと立つと僕を後ろへと庇った。彼の手はとても頼もしく、信頼の置ける強い手をしていた。
「おいおい、そいつは反逆者だ。それを手助けするって事は...分かってるな?」
「どの口が言うか。もう既に騎士団は動き出している。お前の悪行がバレるのも近いだろう」
アルバはそう言うと、強く剣を握る。その剣には怒りが満ちているようだった。魔王に対する反逆。それは騎士団長にとっては、何よりも重い罪なようだ。
「まぁ、御託はいいよ。既に民衆は私の味方だ。さぁ、かかってこい」
「言われなくとも」
先に動いたのはアルバだった。固く握られた剣が、エルメへと切っ先が向く。しかし、その剣も空振り音と共に、エルメの頭上へと虚しくも空を切る。エルメは重心を深く落とす事によって、アルバの素早い剣さばきを交わしたのだ。
続いて動いたのは、エルメの方だった。剣をかわした後は、素早くアルバの懐へと飛び込んだ。その行動はとても素早く、目で追いかけるのがやっとだった。そして懐へと入ったエルメが、小さく呟く。
「チェック、1」
そう呟くと、小さくアルバの左腕へと触れる。何かを感じ取ったのか、すぐさまアルバも後ろへ下がる。するとまたエルメが呟く。
「無効」
「!?」
アルバの左腕が、力なく下へぶら下がる。それは、まるで動く事を辞めてしまったかのように。
「そうか、そういう事か...貴様『祝福者』か…」
「さぁね。さて、その左腕はもう使い物にならないだろう。王の命令は絶対だ」
僕もやっと理解する。そうか、あれがエルメの能力なのだ。あくまで僕の中の考察でしか無いが、あの言葉と行動は、能力を発動するための必要事項だったのだ。
「いとも簡単に殺せてもつまらないから私の能力を教えてあげる」
「き、貴様舐めてるのか」
「舐めてる舐めてる。もう大舐め」
「貴様ァ…」
「まぁまぁ、聞いて損も無いし聞いときなよ。私の祝福は『王の器』。能力は至って簡単。触れた物資に干渉する能力。チェック1、無効。そう唱え私が触れたモノを無効にする能力。ただ、これだけ。さぁ、その片腕でどうす?」
「...なんだ、その程度か。タネが明けた手品ほど、つまらないものは無いな。せめて右腕を奪うべきだった。」
そう言うと剣を右手だけで握り直す。
「さぁ、再開しようか」