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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

召喚悪魔の残業手当

 とある童話作品を読んで、童話調な作品を書きたくなったのに、何故かファンタジー的内容に。けれど、初志貫徹ッ!

 昔々のその昔。それはどこかの世界、とある王様が治める国のお話。


 その王国はあまり大きくありませんでしたが、王様と、王様を助ける人達の頑張りで、王国は少しずつ栄えて行きました。


 しかし、平和な時も、長くは続きません。


「申し上げます!北の渓谷の要塞が、陥落いたしました!」


 隣の帝国が、攻め込んできたのです。王国が栄え始めたので、帝国は、多くのものが奪えると思ったのでしょう。


「軍を集めよ!迎え撃つのだ!」


 王様は命令しました。けれど、不意を打たれた王国の軍隊は、すぐに追い詰められてしまいます。







「王よ、このままでは国が滅びてしまいます。ご決断を」


「そうです父上、今ならまだ、降伏しても命は助かるやもしれません」


 王の間には、王様を始め、大臣など重要な立場の人たちが集まって、会議をしていました。


 中でも大臣と王子は、降伏を勧めて来ます。しかし、王様は諦めませんでした。


「いや、かくなる上は、あれを使うしかあるまい」


 こんな時のために王様は、大臣たちにも内緒で、最後の手段を用意していたのです。







 数日後、王様たちは、広場に集まっていました。その王様の横には、ローブのフードを目深に被り、曲がりくねった木の杖を持つ、怪しげな男が立っています。


 王様は、全員が集まったことを確認すると、(おもむろ)に立ち上がって話し始めました。


「皆の者、良く集まってくれた。これより、我らが国を野蛮なる帝国から救うための、儀式を執り行う!魔術師よ、準備は良いな」


 魔術師と呼ばれた、怪しげなローブを着た男は、王様に向き直ると、フードを取ることもせずに答えます。


「はい。この召喚陣の力により、悪魔を呼び出し、願いを叶えることが出来る…コホン、出来ます」


「えー、ただ、召喚陣の力で、悪魔が我々を傷つけることは出来ませんが、不用意な願いにより、街一つ滅ぼした者の伝承もございます。くれぐれもご注意を」


 それは、悪魔を召喚する儀式。悪魔の力で、押し寄せる敵を打ち倒そうというのです。


「分かっている。だが、もう時間が無いのだ。罪人どもを引っ立てよ!」


 ただ、悪魔を呼び出すには、生贄が必要でした。そして、生贄に選ばれたのは、地下牢に捕らえられていた、罪人たちでした。


 広場には続々と、騎士たちに追い立てられるようにして、手枷を付けられた人たちが集められてきます。


「お、俺たちをどうするつもりだ!?」


「俺はケンカをして何人か殴り倒しただけだろうが、早く家に帰せ!」


 そこには連続殺人のような重い罪を犯した罪人から、ちょっとした盗みを働いた程度の人まで、様々な罪人が集められていました。


「お前たち罪人に、国の危機を救うという、最大の名誉を与えよう。この儀式が終わった時、お前たちの名は、罪人としてではなく、救国の英雄として刻まれるのだ。感謝するがよい!」


 罪人たち全員が、地面に描かれた不思議な紋様の上に移されると、王様は、広場中に響くようなよく通る声で、言い放ちました。


 その場にいた人たちは、皆一様にざわめき始めますが、魔術師はそんな事を気にもせず、王様の隣に立って、何やらぶつぶつと唱え始めます。


 すると、急に地面の紋様が光り始め、ついに目を開けていられないほど光が強くなった次の瞬間、紋様の上にいた人たちは、全員姿を消していました。


 代わりに立っていたのは、一人の細身の男、黒い礼服のようなものを身に纏っています。


 ただし、その目は真っ赤に輝き、頭からは山羊のような角が伸びている--そう、悪魔です。


「おやおや、ようやく召喚されましたか。さて、今宵の召喚主はどなたです?」


 悪魔は、大仰な動きで周りを見渡しながら言いました。


 その声は、力強いながらも楽器の奏でる音のような澄んだ響きを持ち、そしてどこか艶やかさを感じる、まさに魔性の声とでも言うべきものでした。


「あ、悪魔よ、よくぞここに現れてくれた。余の願いを聞き入れてもらいたい」


 王様は、少し驚きながらも、なんとか威厳のある声で悪魔に話しかけました。


「あなたが召喚主ですか?いいでしょう、それで、願いとは?」


「この王国に仇なす者たちを、滅ぼしてもらいたい!」


「ふむ、それでは少々曖昧ですし、規模も大きすぎますね。とりあえず、()()()、この都と周辺にいる、この国に()()()()()()()()を、打ち倒す、という程度でしょうか?」


「何?だが、また帝国に攻められでもしては困る!」


「ですが、大きすぎる願いには、それ相応の対価が必要になりますよ?貴方は何を用意できるのです?」 


 王様は考えます。悪魔はお金を欲しがりませんし、これ以上生贄を用意するには、罪も無い国民を悪魔に差し出さなくてはいけません。


 この時、王様は魔術師の言葉を思い出しました。不用意な願いで、街を滅ぼした者がいる、という話です。


 王様は、街が滅びたのは、大きすぎる願いのせいで、街の人々が魂を奪われてしまったからだと思いました。


 けれど、再び帝国から攻められれば、成す術もありません。そこで王様は、一計を案じます。


「ならば、それでよい。ただし、くれぐれも、攻め込んできた敵を滅ぼす際、この王都もまとめて吹き飛んだ、などという事が無いように…そうだな、しばらくの間、国の守護もしてもらおう!」


 帝国を滅ぼせないなら、悪魔に守ってもらえばいいと考えたのです。


「国の守護ですか、まあいいでしょう。では、こちらの願いについては、この私の力により、召喚主殿が死ぬまで、この都の無事を保証する。これでいかがですか?」


 悪魔はあっさりと承諾しました。


 ですが、この悪魔の言葉に、王様は悩みます。死ぬまで、という言葉から、もしかしたら、悪魔に自分が殺されてしまうのではないかと、不安になったのです。


 しかしそこで王様は、召喚陣のことを思い出しました。この力で、悪魔は自分を傷つけられないのです。


 安心した王様は、一刻も早く、帝国軍を倒してもらうことにしました。


「よいだろう。では、早速願いをかなえてもらいたい。もう、敵はすぐそこまで迫っておるのだ」


 そう、既に帝国の大軍は、王都の目と鼻の先、城壁に登れば見えるような距離まで迫っていたのです。


「契約成立ですね。ご安心を、()()()遂行してご覧に入れますよ」


 そう言うと、悪魔は真っ赤な舌を出して唇を舐め、怖気が走るような笑みを浮かべながら、溶ける様に消えていきました。


 すると突然、帝国軍が慌ただしく動き始めたとの報告が、王様の所へ届きました。


 王様が急いで城壁に登って見てみると、帝国軍の動きは、王都に攻め入ろうとする動きではなく、まるで何かと戦っているかのよう。しかも、かすかに怒号のようなものも聞こえてくるではありませんか。


 しかし、しばらくすると騒ぎは収まり、周囲に静けさが漂います。


 王様たちは、敵兵が全滅したのかと思いましたが、それも束の間、帝国軍は、再び王都に向けて進み始めました。


「ど、どういうことだアレは。魔術師!悪魔の力を借りれば、なんとかなるのではなかったのか!?」


「あー、おかしいですね、悪魔がそう簡単にやられるはずが無いんですが」


「そんな事は聞いていない!ええい、早く何とかしろ!!」


 破竹の勢いで迫ってくる帝国軍。もはや、成す術もないと思われたその時、再び紋様が光り輝き、そこから一本の光の柱が現れました。


 そのあまりに強い光にショックを受けたのか、その場に集まっていた人が、次々と地面に倒れ伏してしまいました。


 光が収まると、その中心には、先程の悪魔が立っていました。


「貴方の1つ目の願いは、たった今叶えられました。どうぞご確認を」


 悪魔は王様にそう言うと、恭しく礼をしました。


 その言葉に驚いた王が、帝国軍の方を振り返ると、今まさに王都へと殺到しようとしていた兵士たちは全てそこに倒れ伏し、事切れていました。


 周囲からは歓声が上がり、王様も笑みを浮かべます。そして、王様が勝利を宣言しようとしますが--


「きゃああああああああ!」


 突然、広場の中から、悲鳴が上がりました。


「し、死んでる…!」


 声のした方に目を向けると、そこでは王子付きの侍女が蹲って、王子を指さしています。


 王様は急いで駆け寄りますが、王子が起き上がることはありませんでした。


「一体、一体何があったというのだ!?」


 悲痛な叫び声を上げる王様。それに答えたのは、薄く微笑み続ける悪魔でした。


「今更何を言っているのです?彼もまた、王国の敵だった、ただそれだけの事ですよ」


「何だと!?」


「彼は王国を裏切り、次の王を自分にしてもらう約束で、帝国に情報を流していたのですよ。なのにまだ、ここに留まって。私に気付かれないとでも思ったのでしょうかね、なんと愚かな」


「そんな、バカな…」


 王様は、涙を流しながら、天を仰ぎます。きっと、愛する息子が自分を裏切り、この戦争を起こしたと思ったのでしょう。


「ああ、彼が裏切ったのは、戦争に勝ち目が無いのが分かってからのようですよ。彼がどうしようとも、戦争は起きていたでしょうね」


 とめどなく涙を流し続ける王様に、まるで心を読んだかのように、悪魔が無慈悲な一言を放ちました。


 悪魔にしてみれば、ただ事実を述べただけ。しかし、王様には、これが全く違ったものに聞こえました。


『つまり、余がもっと上手くやっていれば、いや、息子ともっと話し合っていれば、こんなことにはならなかったと言うのか?』


 そんな考えが、王様の脳裏を過りますが、後の祭りでした。王子は死んでしまい、もはや話を聞くことも、何かを伝えることも出来ません。


『ああそうだ、余がもう少し、息子の話を聞いておけば、こんなことには…』


 王様が考えに耽る間も、悪魔は広場で倒れた人について、その理由を次々と説明していきます。


「そこで倒れている騎士たちは、王子の裏切りに協力した配下です。隣の男は、帝国のスパイですね。それから…」


 そうして一通り説明し終えたのか、悪魔は居住まいを正して、再び王様に問いかけました。


「以上です。他に何か、お聞きになりたいことはございますか?」


「いや、無い…もう下がってよい。しばらく一人になりたい」


 王様は、しわがれた声で答えました。まるで、突然10歳は老け込んでしまったかのようです。


 ですが悪魔は、城に戻ろうとする王様を遮るように、王様の前に立ちました。


「どうした?もうよいと…」


「いいえ、願いの対価を支払って頂きませんと」


「何…?生贄なら、お前を呼び出すときに捧げたであろう」


「それは、"道"を開くためのものですよ。我等悪魔を()()()()()()の対価と、()()()()()()()()の対価は、全く別物なのです」


 王様は、目を見開きます。そして、口をぱくぱくとさせるものの、そこから音が出てくることは無く、それを見た悪魔は、ぞっとするような笑みを浮かべ、その口を開きました。


「ククク、では願いを叶えましたので、対価を頂戴しましょう」


 悪魔が王様に手をかざすと、王様から輝く何かが出て行き、そして悪魔の体に吸い込まれていきます。


 それが終わると、王様はその場に倒れこみました。


「貴様!王に何をした!?」


 騎士の内何人かが悪魔に切りかかりますが、まるで見えない壁でもあるかのように、弾き飛ばされてしまいます。


 うめく騎士を尻目に、悪魔は、その真っ赤な目を見開きながら、周囲へと宣言しました。


「ハハハハハ!願いの対価として、王の魂は頂いた!不服ならば、かかってくるがいい、命が惜しくないのならばな!」


 考えても見れば、帝国の大軍をたった一人で壊滅させた悪魔。それと戦おうという者は他に現れず、悪魔はそのまま笑いながら、悠々と城の中へ消えていきました。







 それから何日か過ぎたある日、城では大臣が、王様に代わり、執務に追われていました。恰幅のいい体を礼服に包み、額に汗しながら必死に働いています。


 王様がいなくなっても、その仕事まで無くなるわけではありません。むしろ、仕事は増えていると言えます。しかし、以前よりも格段に忙しくなったのに、大臣は明るい顔で仕事を進めていました。


『王が崩御し、世継ぎもいない。これは、私にも王になるチャンスがあるかもしれん』


 そう、心の中でほくそ笑んだ大臣は、一区切りついたのか、椅子の背もたれによりかかると、大きく息をつきます。


『あまりの忙しさに嫌気が差したりもしたが、これはこれで、なかなかに悪くない。他に気になる事といえば…』


 そうして大臣が目を向けた先には、隣の応接室で寛ぐ、一体の悪魔の姿がありました。王様と契約し、魂を奪ったあの悪魔です。


 大臣は、悪魔は消えたと思っていたのですが、気付くと悪魔は、何故か応接室にいたのです。そして悪魔に、どうしてここにいるのかと聞いても--


「残業ですよ」


 と、意味の分からない答えを返すだけでした。かと言って、悪魔を追い出すことも出来ず、困った大臣も、結局悪魔の事は放置することにしたのです。


『魔界にでも帰ったものとばかり思っていたが、考えてみれば、国の守護とか言っていた気もするし、律義に契約を守っているという事か?』


『王を殺すなど許されることではないが、悪魔が相手では裁くことも出来ん。まあ、機嫌を損ねん程度にせいぜい利用して…』


「大臣、大変です!」


「どうした、騒々しいぞ」


 考えを巡らせる大臣の元へ、息を切らせた兵士が走りこんできました。


「は、反乱です!先日の件の情報が、一部から誤って伝わったようでして、悪魔に魂を売った者たちから城を取り戻せと…」


「何だと!?そんなバカな!首謀者は誰だ!?」


「悪魔に、妻や友人を呪い殺されたと訴えている貴族が、中心となっているようです」


「クソっ、その死んだ奴らは、どこかで国に反逆していた奴だろうに!ええい、なぜ理解できんのだ!?」


「しかし、反逆の証拠などが見つかっていない者もおり…しかも、城の者は悪魔に唆され、恐怖政治を敷こうとしていると訴えている者もおります。そのため軍からも反乱に加担する者が出ているとの事です」


「くっ、手勢を集めろ!急げ!」


 兵士が慌てて執務室を出て行くと、大臣はそのまま大股に応接室へと入り--


「おい悪魔!貴様は契約で国を守るんだろう、ノンビリしていないで、反乱を止めてこい!」


 と、乱暴に言い捨てました。ですが、悪魔はそれに、嘲るような視線を向けるだけです。


「おい、何か言ったらどうなんだ!」


 詰め寄る大臣に対し、悪魔は、ふう、とため息をひとつつくと大臣に向き直り、見下したような口調で話し始めました。


「まさか、私の目的に何ひとつ気づいていないとは。本当に人間は愚かしい」


「な、なに!?」


「あの契約は、とっくに期限切れですよ」


「だが、貴様は国を守護する契約を、結んでいたではないか!」


「ええ、確かに。召喚主が()()()()は、都の無事を保証するという願いを、受け入れましたね」


「む?そういえば、そのような事を言っていたような…まさか、王が死ぬまでだったと?だ、だが、王はお前のせいで崩御されたのだぞ!そんなことが許されるというのか!?」


「おや、少しは頭が回ると見える。ええ、殺すどころか、危害を加えることも出来ませんが…今回は例外です」


「例外、だと?」


「はい。我々召喚されし悪魔は、召喚陣の力により、召喚主に危害を加えることは出来ないのです。しかし、対価を徴収する際は、例外ですからね。その結果召喚主がどうなろうと、契約には何ら問題ありません」


「貴様、初めからそのつもりだったのか。ならば、なぜここに残って…いや、それよりも、貴様がまだここにいるということは、契約は可能という事だな?待っていろ、適当な反乱軍の人間を捕らえて、その魂を対価に契約してやる、文句は無いだろうな」


「大変興味深い提案ですが、無理でしょうね。何故なら」


 悪魔が大臣に背を向けると、その瞬間、ヒュッという風を切る音とともに、開け放たれた窓から矢が飛んできました。


 くぐもった声とともに、悪魔の背後で、大きなものが倒れるような音が響きます。


「契約する前に、あなたは矢に…。ああ、少し言うのが遅かったようですね、失礼致しました」


 悪魔が窓から外を見下ろすと、その先には背丈ほどもある弓に矢をつがえた、反乱兵の姿がありました。


 悪魔はクツクツと笑いながら振り返り、大仰な礼をします。その間、悪魔に何本もの矢が降り注ぎましたが、それらは全て、まるで見えない壁でもあるかのように弾かれてしまいました。


「代わりと言っては何ですが、私の目的を教えてあげましょう。勿論、それは魂ですが、実は、願いを叶える時に集めた魂は、全て魔王様に献上しなければいけないのです」


「しかも、初めの贄は"道"担当が全部持っていきますし、願いに関係無く殺して回るのは、魔王様に禁じられている。全く、喜んで担当を譲られた理由が分かるというものですね」


 悪魔は(かぶり)を振り、足に伸ばされた大臣の手を振り払いました。


「ですから、こうして残業をして、私の分の(給料)を確保しなくてはいけなかったのですよ!幸い、人間同士が勝手に争い合った分については、特に定められていませんでしたからね。ああ、これでようやく帰れそうです」






 悪魔は、大臣をその場に残し、部屋を出ました。


 するとそこに、立ちはだかる人物がいました。魔術師です。


「悪魔、悪いがこのまま帰すわけにはいかないな」


 魔術師は、手に持った杖を悪魔に突きつけ、堂々と言い放ちました。


 それを見て、悪魔は不愉快そうに眉を顰めます。


「私に戦いを挑む気か?人間の魔術師如きが、身の程を知れ」


 言うが早いか、悪魔は手から爪を伸ばし、魔術師に向けて振り下ろしました。対する魔術師は身じろぎひとつ出来ず、その場に立ち尽くします。


 そしてその爪が、まさに魔術師を切り裂かんとしたその時--


 ガギィンッ!


 と、金属同士がぶつかるような、硬質な音が響きました。


 立ち尽くす魔術師の目の前に不思議な紋様が浮かび上がり、悪魔の爪を受け止めたのです。


「バカな!たかが人間に、こんな力が!?」


 悪魔は、驚きに目を見開きます。しかし、それも束の間。今度は浮かび上がった紋様を睨みつけ、何やら考えるようなしぐさを始めました。


「この紋様、どこかで…ハッ、私を召喚した魔法陣か!?どういうことだ!」


 その悪魔の言葉に、魔術師はニヤリと口元をゆがめます。


 魔術師はただ立ち尽くしていたのではありませんでした。自分が傷つけられることはないと分かっていたため、動く必要が無かったのです。


「その通りだ、悪魔。実は、お前の召喚主は()だ。お前の契約は、まだ続いているんだよ」


「ま、まさか…」


「召喚主が()()()()この都を守る、だったか?王が死んだところで忠告を生かせなかっただけだし、他の奴らが死んだところで知った事じゃない。だが都が潰れると、俺の研究室も潰されてしまうかもしれないから、困るんでな。実に助かる」


「お、おのれ!人間ごときが、私を謀ったのか!?」


「ちゃんと召喚主の確認もしないで契約したのは、お前だろう、悪魔。残業手当代わりに、反乱軍の魂はくれてやるから、しっかり働けよ。あんな奴ら、どうせどこかの国に踊らされてるだけの馬鹿共だしな」


「ふざけるな!第一、願いによって集めた魂は、私の物にはならんのだ!」


「それこそ俺の知った事か。こちとら城に呼び出されてから、慣れない敬語やら丁寧語やら使わされて、いい加減飽き飽きしてるんだ。早く静かになってもらわないと、おちおち研究も出来やしない、早くしろ」


「ぐうっ、契約の強制力だと!?わ、私の、私の魂がっ、おのれぇぇぇぇぇぇっ!」


 そのまま悪魔は、何かに突き動かされるようにして、部屋から飛び出していきました。


 戦いの音で騒がしかった城も、時間が経つにつれ、少しずつ静かになっていきます。


 それを見届けた魔術師は、満足そうに研究室へ戻っていきました。


 その後この都は、数十年に渡って、世にも珍しい悪魔が棲む都として、世界中にその名前を知られるようになるのでした。


 めでたしめでたし?

 良いこのみんなは、くれぐれも悪魔にお願いなんてしないようにね!


※2020/8/11 一部の表現を修正しました。

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