表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

異世界 生存研究会

作者: 朔夜 伸影

「では、第219回『生存研究会』会議を始めたいと思います。

 議長はいつも通り私、A夫です」


飾り気は無いが、シンプルな背もたれのついた白いイス。

色を揃えた白テーブル。

ここはA夫のスキルで出した『シェルター』の中だ。


「まぁ、この閉鎖空間で他にやる事ないからねー」


「将棋も、リバーシも、飽きた」


「トランプ作るって話は?」


「木の板で何枚か試作をしたけど厚さ3mmだとすぐ折れる。

 5mmなら折れないがこうカードとしてもてない。

 ブラックジャックやポーカー辺りならいいが‥‥やっぱりやりたいよなぁ、大貧民」

 

「ジョーカー二枚入れて54枚。

 裏からも解らないように同じに作るのも俺たちには無理だ」

 

「それで新素材を求めて『副会長』が暗躍中だ」


「ああそういえば今日か。

 副会長が食料補充と定期報告に来る日だったな」


「『副会長』を待つ? 始める?」


「始めよう、どうせ前置きの現状報告が長いんだ」


「毎日やっても変化がないけどね。

 頼んだB之」


「あいよ。

 まず『クラス召喚』により異世界に来た我々は、例によって神様からスキルを貰った。

 戦闘系や回復系ならともかく、俺のような生産系、A夫のような非戦闘系スキル、C助のように『ここの神様頭おかしい』スキル‥‥を持つものがハブられて行く中。

 まだ8ヶ月も経ってないのに、失踪者、行方不明者、死亡者とクラスの半分ほど居なくなるデスゲームになった。

 そこでA夫の『シェルター』に避難して生活しているわけだ」


「それにしてもここは本当に快適だよね。

 風呂もキッチンも冷蔵庫もトイレも元の世界と変わらない。

 おまけに石鹸やシャンプー、タオルもついてる。

 洗濯物は部屋の洗濯籠に放り込んでおけば1時間くらいで洗濯されて帰って来るし。

 一日中部屋で寝込んでるとかで無いなら、部屋から離れた隙にシーツなどが交換されてる。

 カプセルホテルより遥かにマシな個室寝室も8部屋ある」


「最初はうまく行ってたのに、そのうち取り合いでギスギスどころか喧嘩になったよ。

 ダンジョンや屋外で見張り無しで寝れるってだけで、アドバンテージだったのになんでここまで快適に?」


「ある意味パーティクラッシャーな地雷スキルだよな。

 50人近く居て本人入れて8人しか入れないってのは」


「最初は4人だったからまだマシになったともいえる。

 C助も最初はハブられて無かっただろ? 知識チートも持ってたし」


「正直『会長』の下位互換にすらなってないよ。

 『カレー粉(缶入り)召喚』で、そしてウチは定食屋だ。

 さらにここには米が無い。

 作れるのはカレースープとカレー味の何か、わさびやしょうがなんて現地料理人に覚えられて終わりだったからな。

 ぴったりかみ合ったのが『会長』だろ。

 うどん屋3代目で『あごだし(ボトル入り)召喚』って何だよ」


「そのせいで『会長』は休憩挟んで昼夜4時間づつうどんと天ぷら製造マシーン扱いだけどな」


「うどん足捏ね美人メイドさん同伴で軟禁生活だが、独立して店を持つと言う願いは叶った訳だ」


「それがそうも安泰とは言えないでござる」


「「「『副会長』!」」」


「『会長』は厨房で熱中症と脱水症で倒れて、しばらく療養中でござる。

 C助殿に伝言『ビシソワースを差し入れて欲しい、途中で味変えるからカレー粉も付けてくれ』と」


「材料は‥‥胡椒と牛乳以外全部あるな。

 『副会長』会議が終わったらひとっ走り頼む」


「しかし厨房は先日、風の魔道具導入したばかりでは?」


「胡椒と牛乳でごさるな、任された。


 それでも今は夏な上に、こちらの建物は石造りで窓が少なく機密性が高い。

 換気が追いつかないでござる」


「夏か‥‥またコ○ケ逃したなぁ。

 ところで『副会長』その新衣装の調子はどう?」


「おおD美殿。

 この衣装はいつもの格好と同じくらい動けていいですな。

 しかしいつもの格好に比べると、やはり少し機動力とか落ちます」


「かと言って、いつもの『裸褌』で歩き回られると困る。

 特に『私』が。

 もし私が下着姿でここを歩き回ったら困るでしょ?」

 

「私の好みは妹属性です」

「拙者、地球に二次元嫁がいるでござる」

「貧乳教徒なのでB以上はちょっと‥‥」

「二次元以外は興味ない」


「ありがと。

 みんなのそう言う『紳士』なところ、好・き・よ」

D美は紅一点の『裁縫』スキル持ちだ。

装備は布系と皮系が作れる。

一見有用そうに見えるが。

戦士系は金属装備、魔法系は魔法布装備と別系統に変わって来るので今は殆ど出番が無い。

貴族相手にドレス作ってた時期もあったが、貴族やお針子とトラブってここに逃亡している。


「他に変わったことは?」


「‥‥S恵が死んだ。

 弓の罠にかかって、ヘッドショットで即死だそうだ。

 蘇生魔法も失敗した」


「そうか‥‥」


「とはいえ、俺達戦闘能力皆無だし。

 代わりに肉盾になって死ぬくらいしかできないぞ」


「ちなみにE治は無事でござる。

 『俺は大丈夫だから、気にせず脱出しろ』って相変わらずだ」

 E治は私達と同じクラス内では下層だったが、図書館の主らしく『賢者』スキルを得て最前線に出ている。


「『会長』もそうだけど、向こうでつるんでた奴を見捨てるのはな‥‥」


「それ以外は割りとどうでもいいけどな」


「やっぱり。

 B之の『解体』は、やはり生きている相手には駄目なのか?」


「『死んでいれば』どこを切ったら『血抜き』にいいか解って、解体用の刃物もスッと入るんだけどな」

B之の『解体』は、そのまんまだ。

獲物を肉と皮と骨、有用な部位に切り分ける。

内臓の後処理も正確だ。


「ソンビとかアンデット系はどうなる?」


「あったこと無いからわからん」


「そうだ。今日の食料でござる」

影から野菜の詰まった大きな木箱が2つ。

そして大イノシシと大嘴と呼ばれるダチョウっぽい大きい鳥が2匹ずつ取り出した。


「今回は『会長』が心配だから、しばらく留まって城の様子を偵察でごさる。

 なのでその間拙者の分の飯もお願いしたい。

 あと久々にB之殿が処理した焼きホルモンが食べたいでござる」


「了解した。

 解体自体は直に終わるが、臭み取りの処理は明日の午前中くらいまでかかる。

 その後C助に引き継ぎだな。

 それでC助、今日の夕飯イノシシと鳥どっち使う?」


「ならイノシシだな。

 折角だから一番良い部位で、トンカツか冷しゃぶ風がいい」


「わかった。

 イノシシから先に捌こう」


「じゃ、解体待ちでその間に『ビシソワース』のジャガイモの処理を始めるか」


「となると、拙者は街に買出しだな。

 他に何かついではあるか?」


「これをいつもの服屋に納品お願い。

 注文書あったら受け取って来てくれる?」


「心得た。

 他に無ければダッシュで行って来るでござる」


「待った。

 無理を承知で頼むんだが、蜂蜜以外の砂糖類を見つけたら頼む。

 それがあったならレモンやライムのような強い酸味のある果物も」


「経口なんとかを作るでござるな」


「『経口保水液』、わかりやすく言えばポ○リだ。

 熱中症・脱水症の特効薬だ。

 できたら『会長』届けたい」


「街に無ければ城の厨房からでも掠め取って、何とかするでござる。

 でわっ」


そして『生存研究会』は各自の活動を始めた。


「なぁ、やっぱり私役に立ってなくないか?

 居てくれるだけでいいってニートみたいじゃないか?」


「「「お前が一番役に立ってる!」」」


「おかげでこうやって、敵地のど真ん中で潜伏できる」


「風呂とトイレは本当に助かってるよ。

 ここのは‥‥ねぇ」


「衣食住で、衣はD美、食はB之とC助、住はA夫だ。

 だから安心しろ」


「そうなると『副会長』は?」


「「ヘンタイ裸忍者」」


「諜報と調達かな」


「『副会長』がE治みたいに最前線に出るってのは?」


「『潜伏』がアップグレードして『忍術』になって色々できるようになったの、つい最近だからなぁ」


「『潜伏で敵の背後に接近し、一撃で首を刎ねる』。

 ソロ特化過ぎてパーティ戦できないとか。

 でもオークの上位種をそれで仕留めてるんだよな」


「あれは美味かった」


そうしていつも通りグダグダで会議はおわった。



◇◆◇◆◇



S恵には悪い事をした。

やはり、狙った奴を仕留めるには直接殺るしかないのか?

とはいえ戦士系はネックガード付きの金属鎧付けてるから、一撃で首撥ねるのは難しいな。

いっそ寝込みを襲うか?


デスゲームの主犯は王国。

それに乗っかったのが『副会長』であった。


そりゃ訓練3ヶ月で、普通の高校生が化物退治なんてできるわけがない。

戦闘系スキルの恩恵があったとしても運が悪ければ死ぬ。

そうでない奴は養殖で鍛えるべきなのに、役立たずと決め付けてそれすらしない。

『足りない分は勇気と努力で補えばいい』とかどこの勇○ロボか!?


お調子者でいつも俺たちを弄ってた、M太達のように『ラノベで食ってるの見た』とB之の静止も聞かずに、ワイバーンの毒肉食って勝手に死ぬケースもあったが。

そいつらを除けば、『副会長』が手を下したのは2人。

残りはは本当に逃げ出したり王国に消されて居なくなった。


そもそも王国がおかしい。

魔王軍を撃退できるアイテムがダンジョンの最深部にあるのはいい。

『なぜ王国の傍』のダンジョンなんだ?

どう考えても持ち出し禁止品を目の届くところに封印したヤバいブツだろう。


「世界がピンチって割には宴会パーティー開きまくりで、街の商品も潤沢でござるからな」


もちろん『帰れる』のも嘘だろう


『会長』がある程度回復した辺りが奪還のチャンスか?

『シェルター』に連れて来て『会長』の完全回復を待って脱出がいいかもな。

『会長』が不在になれば『和食』を作れる者がいなくなる。

『最前線組』と『王国』の間に亀裂が生まれる。


「これでいこう。

 運がよければもう一人くらい俺たちを目の敵にしていた奴を消せる機会も生まれるかもしれない」


こんな物騒な事を考えながら、『副会長』はお使いを済ませるのために駆けるのだった。



※あごだし:麺つゆの一種でなぜか自販機で売っていると言うあれ

 『会長』のスキルは醤油的なものを世界で唯一入手可能。


※ワイバーンの肉:毒腺を除けばフグ的に食える世界もあるが、ここのは肉も毒


※スキルのアップグレード:するものとしない物がある。

 しかもスキル使っていれば上がる物と、戦闘でしか経験値的なものが上がらない者がいる

 当然Wikiや攻略本はなく、内部パラメータ的なものも見れない

 ある日突然定員が増えてたり、カレー缶のサイズが大きくなったり、スキル名が変わってたりとかそんな感じ



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ