『電車の中』
野球をやった事がない少年が、メジャーリーガーを目指すッ!!(本編とはほぼ関係ありません)
夜九時頃の駅のホーム。俺たち二人の他には誰も居ない。
「いや~、高校に入ってからさ、長かったような短かったような、そんな三年間だったよな」
こんなベッタベタな事を言っているのは俺の友人森智也、まあ付き合いの長さから言うと親友ともいえる存在であるのだが、それを素直に認めたくはない。
何故かと言うとこの友人、ありていに言えば「変人」であるからだ。何人かのクラスメイトに二人で居る時に「類は友を呼ぶってホントなんだね」、と言われた事は気にしない。俺は普通、大丈夫、まだ大丈夫。
「俺にとっては長い三年間だったかな、特に三年。何あの勉強漬けの日々。テストを一夜漬け……、もしくは朝漬けで乗り切ろうという俺にとっては苦痛でしかなかったわ。あんなん」
俺は基本的に頭は良い。自分で言っちゃうのもなんだが。まあ数学は死んでるけど……、良いのだ。俺は文系だからな! 国語万歳! 英語万歳! ついでに万博万歳!
「それで数学以外いい点数取ってるんだから、むかつくんだよなぁ……。海山なんて実力の時、諦めてテスト用紙の裏に絵を描いてたんだぜ?」
コイツが言う海山とはアレだ。クラスに一人はいる絵が上手いヤツをもう二回りぐらい絵が上手くしたヤツ、と想像してくれれば伝わるだろうか。授業中も暇さえあれば絵を描いているので、隣の席に座ると授業中楽しいらしい。頼めば好きなキャラクターも描いてくれるいい人だ。文化祭などのうちのクラスのポスターはすべて彼女が手掛けた。
「描くのはまあいいとしてせめて消せよ……」
いやテストに絵を描くのもいけないけどさ……。
「うん……。そのキャラが上手くかけたので消せなかったらしい……」
俺の知らぬ間に訂正ノートにパラパラ漫画を描いて提出して、反省文も沿えるよう言われ、再提出訂正ノートがさらにブ厚くなったという伝説に継ぐ、新たな海山伝説が生まれていたのか……。
「アイツどこ行くんだ……大学」
成績的にほとんど行けるところはないのではなかろうか……?
「大学じゃなくて専門学校に行くんだってさ、そこでイラストレーターに成るための勉強をしたいんだそうだ」
イラストレーターねぇ。確かに絵は上手いから向いてるかもしれないな。
「俺売れた時の事考えてサインもらっといたぜ! すぐ終わるかと思ってたら、30分かけて可愛いキャラクターまで描いてくれたぜ。もう智ちゃん感激!」
自分で智ちゃんとか言ってるぅ。ふぇぇっ……、何コイツきもぃよぅ。
「まあアイツならなれるだろ」
根拠のない言葉が口をつく。それはきっと絵を描くことに真剣に向き合ってない人にしか言えない言葉なのだろう。
「ああ、なれるよ。海山なら」
だけどコイツが言うと、なんだかできそうな、そんな気にさせてくれる。
▲ ▲ ▲ ▲
昔、海山と初めて喋った時の事を思いだした。それは一年の夏ごろの事。
「みーやーまぁー! コイツがお前に絵を描いてほしいんだとよっ」
俺を無理やり連れてきた智也はやたらと高いテンションでそういった。
「へっ!? おれそんな事一言もいってn」
「つべこべ言うなぁ! 黙って描いてもらえ! そして海山の才能に打ちひしがれろ!」
そう言われると海山は少し困った様に笑いながら
「才能なんて言葉でハードルを上げられてるけど、私で良ければなんか描くわよ? 漫画のキャラからラノベやアニメのキャラ、なんなら君たち二人のホモ的な絡みを創作しょうかしら? 愚腐腐腐」
と言った。今思ってもヤバいな! 場を和ませるジョークだよね!? ジョークも言ってくれるこの子天使!
「いいのか?」
色々な意味で。
「いいわよ。個人的にお勧めはホモ(ry」
ジョークだと信じたい……。
「まどマミのマミーさん好きだろ。お前、それ描いてもらえよ」
智也が言う。そんな事早々にばらされたら、私もう何も怖くない! つか何! 財布につけてるキーホルダー見られてたの!? 恥ずかしい……。イヤン///
「ちっ……。ノンケか……」
ボクナニモキコエナイヨ……。
「まあいいわ。マミーさんね。首は付いていていいのよね?」
「はい……五体満足でお願いします……」
まどマミとはスピンオフ作品で、本編で首をカプッってやられて死んだマミーさんがスピンオフでまさかの主人公化というとてつもない作品だ。たまに生首で登場する。
「家で描いてくるから、明日取りに来なさい」
それを聞いて俺は、海山は良い奴なんだなと思った。
次の日、海山にもらった作品の出来栄えは、それはもう素晴らしいものだった。
▲ ▲ ▲ ▲
海山の話をしている内に目当ての電車がアナウンスと共にやって来た。僕らは電車の車内に乗り込んだ。
まあこんな時間なので車内の人は少ない。背格好から見るに塾帰りの中学生だろうか? が一人、あとは七十歳程のおばあちゃんが一人、会社員の様なスーツ姿の女性一人だ。
「さて、海山の話はしたから……、内藤は家の酒屋継ぐってのは聞いたか?」
内藤くん、彼は英雄だった……(※男子の間でのみ)。内藤くんは男の欲望に忠実だったゆえに、修学旅行の時に女風呂を覗こうとして体育教師の磯山に肉体言語により阻止された事で有名な残念なイケメンである。
だまってりゃ顔は良いのに日頃の変態発言、変態行為の数々から女子に養豚場の豚を見るような目で見られている(彼曰く、それもご褒美)。
「結局継ぐのか、さんざん嫌だって言ってたのにな……」
なんだかんだで優しいからな。ホントに嫌がってる人には変な事言わなかったし。――まあ、覗きの一軒は彼の理性が欲望に負けたのだろう……。あと磯山に負けたのだろう(肉体的に)。
「親御さんが歳だしな。よく店も手伝ってたし元々継ぐ気だったんだろな。」
天邪鬼だなぁ……彼は。
「あとはなぁ、卜部は貧乳の都、埼玉県へと旅立つそうだ……」
「尊師が遂に旅立つのか……」
ヒンニュー教徒の彼は遂に理想郷へと旅立ったのか……。埼玉県の女性の平均カップはAカップ。マメ知識が増えたよ。やったね! まめしばー
内藤くんが英雄であれば卜部は教祖であった。どちらも女子からは嫌われていたが。まあ、卜部は実害がないので許してあげて。うん。
「町谷は――」
「知ってる。イケメン社会人と結婚するんだろ」
噂では子供も身ごもってるとも……。これは計画的犯行ですかね……? 女って怖い。ガクブル。おめでたいのか、それとも俺らの頭の中がおめでたいのか、たぶん両方だろうな。
くだらない話が一区切りつくと次の駅で止まり、会社員の女性が下りていった、それと入れ替わりの様に誰かが乗ってくる。こんな時間に珍しいなと見るとそれは女の子だった。ちょっと好みだなぁなんて事を横目で見て確認。彼女は僕らの反対側のシートに座った。あっ、確認するだけだよ? ナンパなんてする度胸も、ルックスもありませぬゆえ。
「結婚ねぇ。俺たちにはよくわからんなぁ」
先ず、お互いにお付き合いしている女性もいない訳ですし。非リアたちの悲しい話になるだけなのでは……。
「あ~ぁ、青春したかったなぁ……」
俺の心からのコメントである。
「大学になればキット……」
いやーどうだか……。どうせ、明日から本気出す! を繰り返すだけになりそうだよ……。
「まあ、お互い一緒の大学なんだしこれからも仲良くやろうぜ」
野郎どうし仲良くしときましょーや。
「それなんだけどさ。お前は、春山国立大で良かったのかよ? お前ならもっと上行けただろ」
春山国立大。まあ地方の国立である。
「いやー、俺は智也と違ってもうちょい良い所余裕で入れたけどさ、あんましレベルの高い所いっても大変だしさ、地元の国立でいい成績で卒業すれば就職先も楽に決まるしさ」
そう、俺。先を見据える男。ヒューカッコいい! やべ、これ自分で言うとすごく虚しい!
さて、誤魔化してばかりいないで少し真面目な話をしておくと、実を言うと俺は智也に感謝している。それもちょっとやそっとの部類では無く。
俺は最初、学校にあまり行っていなかった。どうにも学校の雰囲気に馴染めなかったんだ。別になにかいじめを受けた訳じゃない。ただどうにもクラスの雰囲気に馴染めなかった。それだけの理由でだ。
俺はテストの日だけは学校に行きテストを受けていた。そこで智也に目をつけられた。いきなり話しかけられた。喋りかけられた。趣味を語られた。んで、例のとおりに何故か海山の所に連れられた。
マミーさんのイラストが欲しいから、しょうがなく次の日も学校に行ったら今度は内藤に紹介された。女の子の好みを喋らさせられた。内藤はロッカーから颯爽と好みに合ったグラビアアイドルが載っている写真集を貸してくれた。エロ本を渡すときの彼の顔はいい笑顔だった。
それを返す為に学校へ行くと卜部のヒンヌー教に入団させられかけた。俺はキョヌー派だと主張するとしぶしぶ引き下がってくれたが、卜部はまだあきらめていなかった。
また次の日には智也に、かわいい子を紹介してやると言われて学校に行ったら町屋だった。確かに可愛かったけど、心が真っ黒だった。女って怖いと思った。
こういった感じでクラス全員を紹介された。俺は途中でクラスに溶け込んでいた。
だから俺はコイツに、この変人に感謝している。
ありがとうなんて照れくさくて絶対に言えないけど。
少年side
俺は中学二年生です。もうそろそろ三年生です。三年生になったら受験と言うものをしなければなりません、ちなみに私の名前は、松井吾郎です。将来メジャーリーガーになる予定なんで覚えといてください。なので地元で野球が強い青春高校に行くための勉強をしています。正直勉強よりも野球がしたいですがちゃんと計画的に勉強しています。塾が忙しくて野球はまだしたことないですが、未来のメジャーリーガーになる俺ならすぐにできるようになるでしょう。
おおっと、青春高校の制服を着た高校生らしき人が電車に乗ってきましたね。……ふむ。野球と関係ない話しかしませんね。なら興味がありません。勉強の続きしましょう――。
おばあさんside
私は……今年で七十歳前半……になる池上ふねと申します。
なにやら同じ電車に乗った少年たちが「青春したかった……」と申しておりますね。私からしてみればあの年代の日々すべてが青春と言うものですのに。それを彼らが気づくころはいくつ歳を重ねたときなのでしょうかねぇ。そして、青い春が過ぎても、青い夏がやって来るだけですのに。青い夏の方が、響きは青春っぽいじゃありませんか。
女性会社員side
私、黒沢真咲はもう30歳前半とは言えない年齢を迎える。
少年たちがうるさい。30過ぎてからめっきりイライラするようになった。イライラは美容の敵だというのに。あぁ、若さが羨ましいわ……。私だって青春したいわよ!
少女side
私、この近くの春山国立大学に進学するために一人暮らしを始める事になった、九条茜です。実家は大学から遠かったのでこちらに知り合いが一人もいないのです……、すごく寂しいです……。電車に乗るのも手間取りました……。田舎にはこんな人混みも、迷路のような地下鉄も無かったので……。
おっと、なにやら前の方に座って居る人たちから春山国立大学の名前が聞こえてきましたな――。これは……、勇気をもって話しかけるべきでしょうか? 友達になってくれますかね? 逆ナンと勘違いされませんかね?
むむっ……。すこし格好いいですねあの男の子。勘違いされても別にいいかも……なんて?
くだらないことをしたり、それで盛り上がったりできるならば
それはいつまでも青春である(適当)