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25、紫奈、再度霊界裁判に召集される

「あれ? なんで?」


 昨日は優華とじっくり話し合って、初めて心の通じ合う会話が出来た。

 昔のアルバムを見ながら、実はこの時こう思っていたとか、お互いの本音を赤裸々に語り合って、時折(そんな事思ってたの?)とショックを受けたり、時折(そんな風に感じてくれてたんだ)と心温まったりしながら、本当に楽しい時間を過ごした。


「ねえ、紫奈。

 あなたって本当にバカがつくほど素直で、すぐに人に心酔して、すぐに人に影響されてしまうのよ。

 それは人の長所を心から認めて憧れる事の出来る純粋さでもあって、そんな紫奈の尊敬の眼差しに、人はみんな心地よくなってしまうの。

 自分を心から認めて好いてくれる紫奈だから、みんなに愛されるのだと思うわ。

 そしてね、紫奈が大好きだから、みんな失望させたくなくて頑張っちゃうの。

 私が、必死で優等生であり続けようとしたのも、紫奈に嫌われたくなかったから。

 推測だけど、那人さんももしかして、私と同じだったのかも……」


「優華と同じ?」


「そう。カッコ悪い自分を紫奈に見せたくなくて、無理してたのかもしれないわ。

 あなたに失望されたくなかったんじゃないかしら」


「そんな……。

 那人さんに失望する事なんてあるはずがないわ」


 離婚を切り出された時も、浮気していたと知った時も、ショックだったけれど那人さんに対する信頼や尊敬は少しもなくならなかった。

 ただ、自分がダメだからそうさせてしまったのだと思った。


「そう。あなたって、人を好きになったら何があっても信じてくれるのね。

 私も今なら分かるわ。

 等身大の自分でいいんだって思えるようになった。

 でも、那人さんはまだ等身大の自分を見せる勇気がないんじゃないかしら」


「等身大の那人さん?」

 好き過ぎて、尊敬し過ぎて、那人さんにそんな不安があるなんて考えた事もなかった。


「帰ったら、那人さんとよく話し合ってみて。

 きっと違う那人さんが見えてくるわ。

 そしてきっとね、私のように分かり合えると思うわ」



 優華はそう言って、私を送り出してくれた。


 そして実家で由人と共に穏やかな眠りについた。


 それなのに……。


「え? なんで?」


 またしても霊界裁判の円卓の中にいた。


「どうじゃ、リベンジは進んでおるかの? 芥城あくたぎ紫奈」

 赤翁あかおきなが赤い帽子をかぶって微笑んでいる。


 そして青翁がメガネの裏を読んで報告する。

「芥城紫奈は、この僅かな日数で許す事と許される事の大切さに気付いたようです。

 そしていろんな形の愛に近付く事が出来たようです」


「うむ。許す事の先に愛は落ちているものじゃ。

 人を許して初めて、落ちている愛に気付き、拾う事が出来るのじゃ。

 許しが深ければ深いほど、同じぐらい深い愛を見つける事が出来る」


「は、はい。良くも悪くも多くの人に愛されていたと気付きました。

 明日は家に帰って那人さんと話をしようと思っていた所です。

 それなのに、なぜ今霊界裁判に召集されたのですか?

 も、もしかして時間切れですか?」


「す」



 す?



「すす」



 すす? これはまさか?



「すすすす。時間切れなどないわ。すすすす……」


 『し』と『そ』で笑うなと言ったから、『す』で笑ってる……。

 だからなんでさしすせそで笑うの? 


「『す』で笑わないでもらえますか! 

 気持ち悪いんです!」


「なんじゃ、そなたが『し』と『そ』で笑うなと言うたのではないか」

 翁達は気分を害したように笑顔を消した。


「そ、それで、何でここにいるのですか?

 まさかまた漬物石の転生とか言うんじゃないでしょうね!」


「うむ。喜べ、芥城紫奈よ。

 そなたが次も人間がいいと贅沢を言うもんじゃから、空きが出るのを待っておったのじゃ」


「空きって、キャンセル待ちじゃあるまいし……」


「それじゃ。キャンセルが出たのじゃ」

 赤翁はその通りと、紫奈を指差した。


「キャ、キャンセルってありなんですか?」

 どういうシステムだ。

 なんかアバウト過ぎじゃないか……。


「うむ。魂はチャレンジを望んでおったが、土壇場になって腰が引けたようじゃ。

 やっぱりこんな人生は嫌だとドタキャンしてきたのだ」


「そ、それって……」

 ドタキャンしたくなるような人生なのか……。


「なに、簡単に言うと、悪役令嬢じゃ」


「悪役令嬢? 

 あ、それって今はやりのヒロインをいじめる役だけど、実はヒロインの方が性格が悪くて悪役令嬢がリベンジするっていうあれですね?」


「うんにゃ。悪役令嬢は悪役令嬢じゃ。

 死ぬまで悪役じゃ」


「そ、そんな……。

 でも誰しも幸福と不幸の量は同じって言いますよね。

 少しぐらい希望が……」


「うむ。生まれはいいぞ。令嬢と言うぐらいだから大金持ちの家に生まれ、10才までは何不自由なく、自由奔放、わがまま放題に育つ。じゃが、10才で父親の会社が倒産し、親子で路頭に迷い、引き取られた親戚の家で10才まで自分より貧乏だとバカにしていた、心優しき少女と共に育つ。そして、美しく心優しい少女を妬んだそなたは、彼女をいびり倒し、恋人を奪おうと画策し、ついには犯罪まで犯し、結果すべてが露見して刑務所に入るという筋書きじゃ」


「ひ、ひど過ぎる……。

 それって何の救いもないじゃないですか!」


「うむ。他者に課題を与えるために、時にヒール役も必要じゃ。

 みながいい人では修行の場にならぬからな。

 いわゆる慈善活動じゃ」


「じ、慈善活動? 善じゃないじゃないですか!」


「善なる人物を育てるために自分は悪人となって尽くす、慈善活動じゃ」


「そ、そんな辛い慈善活動って……。

 それじゃ悪役令嬢の次は幸せな人生を選べるんですよね」


「うんにゃ。

 悪人なんじゃから、その心は黒く汚れておる。

 次は更にひどいヒール役になるかもしれんのう」


「む、むごい! 

 慈善活動をしたのにそれって酷くないですか?」


「何を言うておる。

 慈善活動とは見返りを期待せぬものじゃ」


「なんて非情な……」


「そうは言うがな、ここで人生を選ぶ段ではそんな悪人になるのは嫌だとみんな敬遠したがるが、いざ現世に下りてみると、頼みもしないのに自分から進んで悪人を演じる者のなんと多い事よのお。

 悪いヤツに言葉の鉄槌を? 

 自分が正義の使者となって罵詈雑言を吐いてやる?

 誰がそんな事を頼んだ? 

 わしらは頼んでなどおらぬぞ。

 ネット社会が広がり、自分と分からなければどれほど人を傷付けても、他人に罵声を浴びせてもいいと思うておる慈善活動家のなんと多いことよ」


「そ、それも慈善活動なんですか?」


「誰にも分からなければ悪意の垂れ流しも構わぬと思うておるかもしれぬが、その黒い心は魂におりとなって染み付いておるわ。

 その澱を消すために、本来その者に用意されておった課題は澱の分だけ重くなる。

 結果、課題を達成できずにここで地獄行きが決まるのじゃ。

 この霊界裁判では、どんな誤魔化しもきかぬ。

 いい人ぶって人を貶め、現世でバレなかったとしても、それは黒い澱となって丸見えじゃ。

 そして我らはただ一点、心の汚れだけを見て裁判を行う。

 それなのにそなたらは自分の心の汚れについてだけ、寛容過ぎになってはいまいか?

 一番律しなければならぬのは心のあり方だというのに」


「じ、じゃあ……、悪役令嬢は次もまた悪役になるしかないのですか?」


「いや、どんな人生にも救いの道は用意されておる。

 人生の終盤で自分の深い悪を悔いて、心が千切れるような反省の日々を過ごしたならば、悪の深さだけ高く飛躍する可能性も秘めておる。

 じゃから敢えて悪役や辛い人生を選んで、起死回生を目指す魂もいるのじゃ」


「ひ、飛躍出来る割合はどの程度あるのですか?」


「正直なところ、最近は非常に低い。

 どんどん堕ちていく者もいる」


「い、嫌です! 無理です! 

 飛躍出来る側になれる気がしません!」


「ふうむ。仕方がないのう。

 せっかく人間になれたというのに」


「そのドタキャンした人はどうなったんですか?」


「うむ。土壇場で悪役令嬢より猫のぷくちゃんになると決めたようじゃ」


「ぷ、ぷくちゃん……?」


「まあ、人間ではないが、飼い主に愛される黒猫じゃ」


「わ、私も悪役令嬢よりぷくちゃんがいいです!」


「なんじゃ、人間がいいと言うたり、猫がいいと言うたり。

 せっかく召集してやったというのに……。

 ぷくちゃんはもう先約済みじゃよ」


「そ、それに……、もう少しだけ時間を下さい。

 まだ一番大事な人の話を聞いていません」


「ふむ。もう少しリベンジしてみるか」


「はい。お願いします」



「では行くがいい。

 最後のリベンジに向けて……」


次話タイトルは「紫奈、那人さんに抱き締められる」です

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