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24、紫奈、優華の本心を知る②

「さあ、分かったら帰ってちょうだい。

 私は紫奈を利用して親友のフリをしていただけなの。

 平気で親友の旦那さんに告白するような女なの。

 紫奈は心優しい優等生って思ってたかもしれないけど、本性が分かったでしょ?

 ずるくてあざとい人間なのよ。

 あなたにも那人さんにももう会わないわ。

 それでいいでしょ?」


 優華は立ち上がって、出口を示すように部屋のドアを開いた。


「優華……」


「なあに? もっと言って欲しい?

 そうよ。私はいつだって紫奈が羨ましかったわ。

 自然体のままで人に愛される紫奈が……。

 きっとそんなあなたから那人さんを奪いたかったのよ。

 あなたに一度でいいから勝ちたかったのよ。

 嫌な女でしょ? もう二度と会いたくないでしょ?」


「優華……」


「分かったら出て行ってよ!

 これ以上惨めにさせないでっ!!」


「優華……」


 こんな優華を見たのは初めてだった。

 いつだって完璧で一つのほころびもなかったのに。

 いつだって正しくて強くて優しい人だった。


 私と違っていつも信念を持って行動していた。

 私がひどい事をしても、困っていたらいつも助けてくれた。


 あれがすべて嘘?


 本当に?


 すべて嘘の人が本当にあんなに人に尽くせるの?


 ううん。


 嘘だらけの人に出来るはずがない。



 だったら……。



 だったら優華はきっと……。




「病院で……目覚めた後に看護婦さんが言ってたの。

『いいお友達ね。ずっと泣きながらどうか目を覚ましてって祈ってたのよ』って」


 優華は、はっと私を見つめた。


「ずるくてあざとくて嫌な女が、そんな事するの?」


「それは……、あのまま死んじゃったら後味が悪いから……」


「それからこうも言ってたわ。ごめんね、私を許してって何かを謝ってたって」


 那人さんを奪った事を謝ってたのだと思ってた。


 でもきっと、万が一那人さんが優華を受け入れたとしても、いざとなったら身を引いてたんじゃないかという気がする。

 だから、勢いで告白してしまってから、怖くなって逃げ出した。

 自分の罪が怖くなって逃げてしまった。


 そんな優華だから……。



「私を裏切るような事を言ってしまった自分を責めてたんでしょ?

 ずっとずっと、そんな自分を許せなかったんじゃないの?」


 優華は驚いたように私を見下ろしていた。


「いつも信念を持って正しく生きてきた優華だから、たった一度のささやかな過ちを、自分で裁き続けていたんじゃないの?」


「な、何言ってるのよ!

 ささやかなんかじゃないわ!

 絶対許されない過ちでしょ?

 だって私は……。

 だって私は……紫奈を……裏切って……。

 私は……親友を裏切って……」


 優華はそこまで言って、崩れるように床に突っ伏した。


「私が……私があんな事を言ってしまったから……。

 ばちが……ばちが当たったんだと……うう……。

 紫奈を失うんだと……うっく……うう……。

 私のせいで紫奈がいなくなっちゃったんだって……ううう」


「優華!!」

 私は駆け寄り、床に泣き崩れる優華を抱きしめた。


「バカね。何年の付き合いだと思ってるの?

 優華の嘘なんて丸バレなんだから。

 あなたに上手な嘘なんてつけると思ったの?」


「紫奈……」


 優華はわあああ……と私に抱きついたまま慟哭した。


「紫奈……。怖かったの……。

 あなたを失うんじゃないかと思ったら、怖くなった……。

 那人さんは自分のせいだと責めてたけれど、一番悪いのは私だと思ってた。

 もしかして私のせいで紫奈は那人さんを道連れに自殺しようとしたんじゃないかと……。

 でも怖くて……口に出せなかった……」


 病院で、私はてっきり心が通じ合って見つめ合っていたのだと思っていた。

 でも、優華はただ懺悔の気持ちで、那人さんに詫びていたのだ。

 那人さんは何も悪くない。

 悪いのはすべて自分だと……。



 私は泣き続ける優華の背をさすりながら呟いていた。


「ねえ、優華。

 私達はもっと早くにお互いの役割を分け合えば良かったのね」


「お互いの役割?」

 優華は泣き腫らした顔を上げた。


「人に与えてもらう事ばかりを望んでた私と、人に与えてばかりで与えられる事に慣れてなかった優華。

 失敗ばかりで手のかかる私の面倒ばかりみていたせいで、優華は弱音を吐いたり、人に甘える事が出来なくなっちゃったのよ。

 私がいつも優華は完璧なのが当然って目で見てたせいで、自分を崩せなくなっちゃたんでしょ?

 そういう自分でいなきゃって、無理してたんでしょ?」


「紫奈……」


「大丈夫。完璧じゃないからって優華を嫌いになったりなんかしないわ。

 むしろ、優華にも泣いたり後悔したりする事があるんだって分かった事で、優華をもっと好きになったわ。時には弱音を吐いてよ。だって……」


 私は言葉を切って、優華としっかり目を合わせた。



「だって……私達は親友でしょ?」



「!!」



 優華は目を丸くしてから、私に小さな声で尋ねた。


「紫奈……。こんな私が親友を名乗ってもいいの?」



「あたりまえじゃない。

 優華以上の親友なんていないわ」



 ああ……。



 25年も一緒にいて、初めて心が通じ合えた。


 もっと早く……。


 もっと早く、こんな風に心が通じ合えていたなら……。




 ごめんね、優華。


 これからは、あなたの弱音も聞ける私になりたかったけれど……。


 もう……。




 もう時間がないの……。


次話タイトルは「紫奈、再度霊界裁判に召集される」です

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