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21、紫奈、優華に会いにいく

「ねえ、次は優華を無視しよう」


 あれは中二の時だったか……。

 クラスで無視するのが流行った時期があった。

 影ボスのような意地の悪い子が牛耳ぎゅうじっていたクラスだった。


 影ボスの気に触るような言動をした子が順番に無視された。

 影ボスの『お告げ』がくだると、クラス一斉にその子を無視する。

 逆らって次に自分の番になるのが怖くて、みんなは言う通りにした。


 最初は気の弱そうな暗めの子が標的にされていた。

 でもやがて、一人だけ無視しようとしない優華に影ボスの意識が向かうようになった。

 次第に優華に影響されて無視をやめる子が出てくるようになる。

 影ボスは苛立ったが、優華は簡単に標的に出来る相手ではなかった。


 影ボスが影のリーダーなら、優華は先生全員を味方につけている表のリーダーだった。


 影と表のリーダー対決は、拮抗するようにクラスを分断した。


 影ボスは優華を失墜させる機会を虎視眈々《こしたんたん》と狙っていた。

 そして優華側の人間を順番に言いくるめて根回しした。


 やがて影ボスの手は私にも伸びてきた。


 そして「次は優華を無視しよう」と告げられた。


「え、でも……。私と優華は親友だし……」


「バカねえ。親友なんて思ってるのは紫奈だけよ。

 優華はあんたの事、心の中でバカにしてるのよ」


「優華はそんな子じゃないと思うけど……」

 強く否定は出来なかった。

 もしかしたらそうなのかもしれないと思い始めていた。


「紫奈は引き立て役にちょうどいいから仲良くしてるだけよ。

 だってほら、優華が紫奈に相談した事なんてある?

 なんにもないでしょ?

 信頼してないからよ」


 確かに優華に相談を持ちかけられた事なんてない。

 優華はいつも自分で解決したし、相談する必要なんてなかった。


 いつも何かやらかして、どうしようと泣きつくのは私ばかりだった。

 優華はそのたび親身になって解決策を考えてくれた。


 普段はバカをやる友達とつるんでいるくせに、困った事があると優華に泣きつく。

 私はそういう人間だった。


 それなのに優華はいつも全力で私のために奔走してくれた。

 だから鼻につくだの何だのと黒い感情を持ちながらも、私は優華を親友と呼んでいた。

 困った時だけ利用する、調子のいい友情だった。


 私には自分の立場が悪くなっても親友を守ろうなんて気概もなければ、優華のために何かをしようなんていう強い意志もなかった。


 

「知ってる? 優華は影で紫奈の悪口を言ってるのよ。

 困った時だけ親友ぶって近付いてくるって」


 だから影ボスの言葉をあっさり信じてしまった。

 自分でもそんな風に思ってるんじゃないかと勘ぐっていただけに、言われてみると間違いないように思えた。


 だから私はその日から優華を無視した。


 想定外だったのは、私が優華を無視すると他の子達まで無視し始めた事だ。

 それまで優華の側についていた子達まで、一斉に寝返って私と影ボス側についてしまった。

 拮抗していたはずの勢力が一瞬にして影ボス一色になってしまった。


 優華はクラスで孤立してしまった。


 私はただ、自分一人が優華に腹を立てて無視するだけだと思っていた。

 まさか、こんな私の行動にみんながついてくるなんて思いもしなかった。


 私一人が無視した所で、優華に大した打撃を与えるはずもないと思っていた。

 だから内心私は慌てていた。


(どうしよう。そこまでするつもりじゃなかったのに……)


 人は残酷な生き物だ。

 いつもすまして上から見下ろしてる人間が、一瞬でも自分より下になっていると実感するのは、快感なのだ。


 後味の悪い快感なのだ。


 優華が何も悪くない事はみんな知ってる。

 でも自分の立場を悪くしてまで助けようとする人は誰もいなかった。


 いつも自分は優華に助けてもらっているくせに……。

 あの優等生が、たまには痛い目に合う所を見てみたい。


 真っ先に助けなければいけないはずの私が、その快感に流されていた。


(もしかして、私に助けを求めてくるかもしれない。

 そうしたら皆にこんな事もうやめようと言おう)


 初めて私が優華を助ける側に回るかもしれないとワクワクしていた。


 でも結局優華は先生を味方につけて、保護者も巻き込んで話し合いの場をつくり、自分一人ですべて解決してしまった。


 優華はいつも強くて正しくて、私の力など必要ではなかった。


 私は優華を救う救世主どころか、真っ先に裏切った嫌な女で終わってしまった。


(そんなつもりじゃなかったのに。本当は助けたいと思ってたのに)

 やろうともしなかった言い訳だけが宙を彷徨さまよった。


 そしてその何ヶ月か後、私が無視される番になってしまった時、優華は過去の私の裏切りを何一つ責める事なく、当然のように助けてくれた。


「私は紫奈の親友だもの。こんな理不尽な無視ごっこ、絶対許さない!

 どんな時も私が味方だから安心して」


 みんなに無視されて、学校に行くのが怖くて仕方なかった時に掛けてくれたその言葉に、どれほど救われたか分からない。


「優華、ありがとう……」

 私は過去に自分がした仕打ちも忘れて、優華に泣きついた。


 この一言で過去の優華がどれほど救われたか分からないのに、私はどうして何もしなかったのだろうかと、反省した。


 その時は……。


 喉元を過ぎれば私はすぐにそんな感謝を忘れ、完璧な優華が鼻につくのだ。

 その繰り返しだった。


 ◆ ◆




 目が覚めると、私は優華に会いに行かなければと強く思った。


 優華と那人さんが浮気していると聞いてから、ずっと会ってなかった。

 そして脳死から目覚めた病院で会ったのが最後だった。


 優華の口からは何も聞いていない。


 あの完璧に正しかった優華が、本当に不倫なんかしたのだろうか?

 親友の私の夫を奪うようなマネを本当に?


「優華の家に行こう」

 私は実家に泊まった朝、決意と共に起き上がった。



 由人をお父さんに任せて、最上階の優華の家を訪ねてみた。

 

 エレベーターを降りると、最上階はワンフロアに二軒しかない。

 インターホンを押してみたが、返事はなかった。


 優華のお母さんは華やかな人で、週末はいつも友達と遊びに行っていた。

 おじさんもたいていゴルフに行っている。

 優華は……離婚の話が出るまでは、休日は友達と出掛けるか、私の家に由人を見に来るかのどちらかだった。


「留守なのかな……」


 後でもう一度来ようと立ち去ろうとした所で、エレベーターから出てくる優華とばったり会った。


「紫奈……」


 優華は驚いた顔をしてから、逃げるように顔をうつむけて私の横を通り過ぎた。


「優華っ!」


 呼び止める私の声も聞かず、家の鍵を慌てて開けようとしている。


「優華! 待って! 話があるの!」

 私は必死で鍵をさす優華の手を掴んだ。


 ビクリと優華の体が跳ねる。


「優華!!」


 もう一度名前を呼ばれて、優華は引きつった笑顔で私を見た。




「話ってなに? 私をわらいに来たの?」


次話タイトルは「紫奈、浮気の真相を知る」です

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