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劇場化

シルヴァレアを支援する者の座を巡る争いに巻き込まれたキズオ。

常連軍団VS親衛隊。

決闘の結末は、


 決闘、当日。

 具体的な場所を決めていなかったので、全員が剣の広場に集まった。

 現在、正午。

 俺は常連軍団と親衛隊がにらみ合う中。決闘場所を発表した。

「決闘の場所は、東門から街の外へ出て、外壁沿いに北へ。あとは目印の赤色

丸印を辿れば着くから」

 俺のホームグラウンド。プランター家の畑へ向かった。


 三時間後。


 首都ダンゴルザの北東。街の外にある畑に到着した。

 常連軍団、親衛隊の両軍も、無事ではないが到着した。

「おい! ごらーーー!」

 早々に咆えたのは常連軍団長だ。

 しかし、元気なのは彼だけで、他の団員達はぐったりしていた。

 決闘用に気合の入った武器一式を身に着けて三時間の行軍は体力と気力を

同時に奪い去る。

「戦う前から全員へろへろじゃねえか! どうすんだ!?」

「いや、自己責任だろ。気負って装備を増やすからだ」

 軽く仕向けたことは認めるが。

「決闘のルールは、俺が説明する。

 それぞれ一名の代表者を出して一対一で戦い、勝ったヤツにシルヴァレアを

任せる。

 武器の使用は自由だが、殺しはナシ。

 制限時間は特にないが、ギブアップはアリ。

 逃亡を防ぐために、決闘範囲は動物避けの柵より内側とする。

 以上だ。何か質問は?」

「ねえな。俺が常連代表だ。さっさと始めようじゃねえか」

 軍団長はやる気マンマンだ。

 対する親衛隊長さんは、ずっと大人しいが、

「騎士代表は私だ」

 短く、吐き出すようにそう言った。

 どうやら行軍が効いていたらしく、呼吸を整えているようで。

「少し待った方がいいか?」

「必要ない!」

 気を遣ったつもりが、逆効果だった。

 彼は憤慨をエネルギーに変えて、いますぐに始めろ! とばかりに相手を

睨んで、腰の西洋剣を抜き、両手持ち、正面に構えた。

 対する軍団長さんは片手持ち、湾曲刀。

 普通に戦えば、なかなか良い勝負が見られそうだったが、

「決闘、開始!」

 俺の掛け声と同時に、二人は剣を交わすべく駆け出して、

「ワンワン! バウバウ!」

 と、飛び込んできた我が家の番犬達に飛び掛られた。

「なにいいいーーーーーーーーーー!?」

「馬鹿なああーーーーーーーーーー!?」

 番犬は二人の絶叫に反応して押さえ込みに掛かる。

「ど、どういうことだ!? こりゃあ!」

「せ、説明を求める!」

 いまさらだな。とは思いつつも、説明はしよう。

「今回の決闘は実践形式だ。

 これから立ち向かうダンジョンを想定して、色々な罠を仕掛けてある。

 番犬もそのうちの一つだ」

「聞いてないぞ!」

「問わないからだろ。

 ちなみに、殺しはなしだからな」

 湾曲刀を振り上げようとしていた軍団長の動きが止まる。

「くそが、どうしろってんだ! こんなもん!」

「自分は敵じゃないことをアピールするんだ。

 たとえば、餌をやるとか」

 親衛隊長が犬の下敷きになりながらも、部下に向かって手を伸ばしていた。

「だ、誰か犬の食べそうなものを持ってないか!?」

 親衛隊があわあわと持ってきた荷物の中身を確かめる。

 しかし、決闘の場に犬のオヤツを持ってくるような人間はいないだろう。

 一方、軍団長の方は早くも犬地獄から脱出していた。

「すまねえ、クスグリ」

「いいえ。大丈夫?」

「ふむ」

 軍団長を助けたのは、赤く長い髪の女性だった。

 犬が人を襲う条件を逸早く察して進言したか。あるいは、番犬が働く条件を

最初から知っていたか。

 前者なら切れ者。

 後者なら、野菜泥棒。つまりは盗賊団とのつながりに期待が持てる。

 どちらにしても、あのクスグリさんは要チェックだ。

 彼女の手を借りて立ち上がった軍団長は、俺の視線に気づいて舌打ちした。

「武器を持ってこさせたのはこのためか!」

「そうだな」

 我が家の番犬は、モンスターなら容赦なく襲え。

 人なら武装していたら襲え。

 武装していない人も畑を荒らしたら襲え。

 と、三段階で仕込んである。

 今回は非武装の俺とシルヴァレアを除く全員が、二番に該当するわけだ。

 そして、罠は番犬だけじゃない。



 落とし穴。肥料を保存する地下倉庫に直行だ。

 避雷針と、そこから広がる電撃線。

 根を絶つために設置しておいた極細繊維をトラップに改良したものなど。


 そこらじゅうで悲鳴が上がるようになり、もはや決闘どころではない。 

「これが、決闘だとーーーーーーーーー!!!」

 先にキレたのは、親衛隊長だった。

「私はこんなもの認めないぞ! 正々堂々、一対一で勝負しろ!」

「わかりました」

 憤怒に応えたのは、俺ではなく、シルヴァレアだ。

「現ダンジョン攻略団、団長シルヴァレア・レイフォート。

 キズオ・プランターほか数名の協力者を代表し、参加します」

「ちょ」

「おいおいおい! 本当かよ!」」

 シルヴァレアは無手のまま、親衛隊長に正面から突っ込んでいった。

 彼女は右手を弓のように引き絞り、

「うわあ!」

 親衛隊長はそれを出迎えるように拳を振るった。

 しかし、シルヴァレアには当たらない。

 彼女は腕を引き絞る力を緩めて、隊長の拳を避けるように体を半回転。

 伸びきった腕に、腕を絡めて、親衛隊長の背中に圧し掛かった。

「ぬあう!?」

 腕を極められて、情けない声を出す親衛隊長。

 だが、これでもすごいのだ。彼女の拳で制圧されなかったのだから。

 軍団長も、彼女が動けない今が好機! とばかりに襲い掛かり、拳を繰り

出した。

 しかしアッサリと、彼女の片腕に挟み止められる。

「ぬ!? この」

 引き抜こうとして失敗し、逆の手を振りあげる。

「おらあ!」

 シルヴァレアは冷静そのものだ。

 親衛隊長の腕を三秒ホールドして反抗心を折ると、今度はゆっくりと立ち

上がりながら、軍団長の拳を受け流していく。

 拳が走る前に払い、突き上げ、叩き落す。

 軍団長が苦々しい笑いを口の端にのぼらせ、拳の回転数を上げた。

「おらおら! おらおらおらおらおらあ!」

 それでも、彼女の手はすべての打撃を、打撃になる前に叩き落していた。

 敵の一撃に対して、二度の掌打を与える。

 完全に逸らして、服にすら掠らせない。

 もし、この二度のうち片方でも攻撃に転じたら、

「圧倒的だ」

 親衛隊長が、地面に伏しながら呆然と口にする。

 女が格闘技で男を圧倒するなんて、普通は見られない光景だ。

 男は何をせずとも、女性の倍は強い肉体を持って生まれてくる。

 軍団長は筋力を鍛えて、普通の男と比べれば倍の力を手に入れた。さらに、

技術を手に入れて四倍。武器を手に入れて八倍と。

 倍々ゲームのように力を増してきたはずだ。

 それが、シルヴァレアには通用しない。

 彼女の力を支えているものは、

「素晴らしい。もはや芸術的とも言える圧倒的なスピードだ」

 親衛隊長に遮られた。

 だが、

「違う」

 たしかに、彼女の動きは速い。

 しかし凄いのは速さじゃない。

 彼女が他人とは違う時間軸で動いていることだ。

「基本的なバトルクロックの違いが、凄いんだ」

「?」

 親衛隊長さんが疑問符を浮かべていたので、説明しよう。

「普通の人間は武器を振り下ろしてから戻すまでに一秒かかると仮定して

考えた場合、彼女は一秒間に四度、それを行うことができるらしい」

 つまりは、行動力四倍だ。

 軍団長のコンビネーションパンチも速いが、二度のパンチに対し、四度も

対処されてしまっては、さすがに攻撃を通すことも難しいだろう。

 それは、一歩を踏み出す間に、二歩前へ行かれているようなものだ。

 永遠に、絶対に追いつくことはない。

「ああくっそお! 勝てねえわあ!」

 無駄口を叩いた瞬間を狙ったように、シルヴァレアの拳は彼の顔面を打って

いた。

 盛大に吹き散らされる汗。口から霧を吹いたようにも見えた。

 両軍団の代表は、ともに完全敗北である。

「ふう!」

 良い汗をかいているのは、シルヴァレアだけであった。

「容赦ないな」

「ちょっと力が入ってしまいました」

 彼女の顔には「あー、すっきりしたー」と書いてあった。

 

 頬を腫らした軍団長も、腕を抱く親衛隊長も、しぶしぶだろうが、

「悔しいが、俺らの負けだ」

「戦略では君が上手だったと認めましょう」

 俺のことを認めてくれたようだ。

「しかし」「でもよ」

「わかってる」

 両軍とも、このまま引き下がるわけには行かないだろう。

 こちらとしても、引き下がってもらっては困る。

 ようやく俺にも出番が回ってきた。

「俺も戦いたいとは思ってたからな」

「マジでか? やれんのか?」

 心配された。

「戦略を認めはしましたが、頭の良い選択とは思えませんね」

 バカにされた。

「とりあえず親衛隊長さん。アンタからだ」

「ふ。いいでしょう」

 彼は先に選ばれたのが自分であることに、少々、怒りを感じたようで。

「手加減はしませんから」

 と、拳を握り締める。

「決闘、開始!」

 誰かの合図と同時に、俺の目の前から親衛隊長が姿を消した。

 猛烈なダッシュで俺に近づいてきたことはわかる。

 しかし、視線を彼へと向けた時には、こちらを見上げる彼の顔を隠す

ように、拳が下から吹き上がるところだった。

「へぶふ!?」

 自分の口から、妙な悲鳴があがる。

 脳みそが揺れて、景色がゆがんだ。

 心配そうな顔をしたシルヴァレアが目に入り、

 俺は一回目の負けを、自覚した。


 空を見上げて、あと何百回負けるのだろう、と思った。


 シルヴァレアに負けるのとは、また違う悔しさがあった。

 同じ男として、単純な力比べに負けたという悔しさ。力を持っている彼らに

対する嫉妬にも似た感情が渦巻き、自らの内側から、反則を誘う声がする。

 武器に頼れ、という甘言が脳髄をくすぐる。

 しかし、それでも負け続けた。

 

 意識が遠のく。


 気づけば、俺は劇場にいた。

 目の前で上映されているのは、愚にもつかないような決闘のシーンだ。

 映像は主人公の視点で、血まみれの袖で口元の血を拭っていた。

 視点は地面から上の方へ。

 ブーツ、マント、騎士服と。男の姿が順に登場した。

 しかし、最後に現れた彼の顔には怯えが走っている。

 もう戦う気はなさそうだ。

 そんな騎士服を押しのけて、凄い筋肉の男が獰猛な笑みを浮かべながら

前へ。

 目にも留まらぬ拳。素早い腕の振りぬき。

 主人公の腹を叩いたのか。

 一瞬、視点が浮いて、地面に落ちた。

 悶絶する主人公。

 やけに弱っちいヤツだ。

 もっと早く動けよ、と思う。

 俺なら、相手の側面に回り込む。

 相手が速いなら、その以上の速さで動けばいい。

 (左のふくらはぎに鈍い痛みが生まれた)

 それでもって、拳を打ち出すのだ。

 

 ばたん。

 と、人が倒れるところだった。

 倒れたのは軍団長で、倒したのはおそらく俺だ。

「俺は、勝ったのか?」

「はい」

 シルヴァレアが答えてくれた。

 勝つまでに、たぶん百回くらいは負けたと思うが。

 これを言わなければ話が進まないし。ここまでやった意味がない。

「今回の決闘で、みんな一回は勝った」

「?」「!?」「!」

「これで全員にシルヴァレアを任せられる。ってことで、よろしく」

 俺はそう言って、そのまま地面に向かってぶっ倒れた。


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