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▽+Yの関係

魔法と恋愛の両方で問題を抱えたキズオ。

一方その頃。シルヴァリアは、

 俺が彼女を見つけた時には、もう大事になっていた。


 剣の広場を二分するように、二つの団体さんが睨み合っている。

 シルヴァレアは間に立って、すべて諦めたような顔をしていた。

 どうやら彼女の考えた正規ルートは、

 『剣の広場で腕の立ちそうな人に声をかけること』

 だったらしい。

 そして、俺が見ていなかった三日の間に何か事件が起きたのだろう。

 無理難題の気配がする。

 それでも、俺は仕方なく広場に足を踏み入れた。

 

 彼女は俺を見つけて駆け寄ってくると、まず申し訳なさそうに頭を下げて、

簡単な状況説明をしてくれた。

 一日目。

 彼女は剣の広場を訪れて人を集めようとしていたらしい。

 報酬は『ダンジョン内部のお宝を山分けすること』。

 その程度の報酬で集まるのか?

 と思ったが、俺の予想に反して約100人が集まったそうだ。

 それが、西に陣取る『剣の広場常連さん軍団』らしい。

 そして、二日目。

 シルヴァレアの人員募集に、騎士の人間が応じ始めた。

 要は、彼女のために王国軍を辞めてまで募集に応じる者が出たのだ。

 その一人が行動したことで、十人が呼応した。

 シルヴァレアは元同僚でもある彼らを受け入れたそうだ。

 この時点では十人。

 それが、東に陣取る『シルヴァレア親衛隊』である。

 三日目。

 親衛隊が新たな親衛隊を呼び、人数は約100人に膨れ上がった。

 両者の戦力が拮抗してしまったわけだ。

 常連と親衛隊の間に小競り合いが起きて、

 衝突、分離を繰り返すうちに二分して、今に至る。

 もはや手遅れだ。

 両方とも、できれば手に入れたい戦力ではあったが、

 自分達の場を荒らされた常連さんは面白くないだろうし。

 彼らより強い、という自負が見え隠れする親衛隊には引く気配がない。

 こうなった以上は、どちらか一方を取るしかないだろう。

 しかし、

 シルヴァレアの目には希望のようなものが見え隠れしていた。

 どうにかしてください! という心の声が聞こえるようだ。

「さて」

 どうしたものだろうか。

 親衛隊は、これからも増える余地がありそうだった。

 常連さんはここにいるだけで全員だろうが。

 しかし『とある可能性』が眠っている。

 腕は立つのに王城へ招かれない人々の就職先は裏の世界に多いはず。

 スラム街。地下競売場。街の外には盗賊団。

 裏の世界は狭くないし。

 特に、この段階で盗賊団との繋がりが切れてしまうことは避けたい。

 親衛隊の策敵能力を疑うわけではないが、やはりダンジョン攻略で言うところ

の『サーチ』は、騎士より盗賊の方に頼みたい。

 攻略の成功率を上げるなら、一職業のワンマンパーティーより、バラエティー

豊かな混成部隊の方がいいだろう。

 親衛隊を前衛に据えて、盗賊団と魔法使いを状況によって動かしていきたいと

思っていたのに。

「おい、アンタ」

 思考が中断された。

 声をかけてきたのは強面の男だ。

 短い黒髪がすべて天に向かって逆立っている。上は黒のランニングシャツ。

下はジャングル迷彩というヤツか。先端がブーツに隠れる丈の長いものだ。 

 おそらく常連軍団の代表者だろう。

 男は不機嫌を隠さず、言った。

「この子の何だ? どんな関係だ?」

「関係性は、とりあえず仲間、だな」

 相棒とか、同士でも可。

 そう言うと、男は納得のいかない顔でもう一歩、踏み込んできた。

「その割には気を使わせてるよな? 謝らせたしな?」

 男の顔が近い。たぶん二十センチと離れていない。

 俺は自分の心臓の音が大きくなるのを感じていた。

 警戒感。そして緊張感が、全身を強張らせる。

 そんな俺を見て、男は「はん」と鼻を鳴らした。

「アンタさ。俺様の目には、そんな凄いヤツには見えないんだわ」

 こちらの怯えを敏感に感じ取っているようだ。

 完全になめられている。

 が、無理もない。

 実際に俺は怯えていて、怖気づいているのだから。

 戦ったら勝てないだろうなー、と思う。

 男の腕はかなり太い。

 皮膚の下に仕込まれた筋肉の盛り上がり方が異常なのだ。

 鍛えていない人間と違って、ここに『入ってますよ』と言わんばかりの筋肉

は、その見た目だけでも人を威圧する。

 男は、俺に飽きたようにシルヴァレアを見た。

「その点、超銀はすごかった。強かったしな。

 そんな超銀とアンタが同格で、俺らの上に立つって言うならそれなりのもん

見せてくれなきゃ納得できねえよな。そういうもんだろ?」

「つまりは『俺と戦え』って言いたいのか」

「やれるよな? 男なら」

 男は挑発するように笑って、

 俺は男から目を逸らした。その先に、親衛隊の代表らしき男がいた。

 体型はスマートで、力押しな感じはしない。騎士服には未練があるのか。

辞めたというのにそのままだった。

 中分けの髪型のせいか、整った顔が良く見える。

 目を合わせた途端に、顔がキリッと引き締まった。

 何か言いたいことがありそうだが。

「この人の次は、そっちか?」

「一緒にしないで貰おう」

 一刀両断であった。

「しかし、私も君の心構えは問いたい。

 彼女の置かれている状況を踏まえて、これからどうするつもりなのかを」

「状況か」

 彼女からは何も聞いていなかった。

 巻き込まれる形で、彼女から求められるままにやっているだけだ。

 俺には主体性というものがない。

 状況や人に流されるまま、その時々で出された条件をクリアしていくだけ。

 問題が出る。クリアする。

 また問題が出る。それもクリアする。

 この繰り返しだ。

 それさえ出来れば、今日まで生きてこられた。

 それ以上のことをする気はなかったのだ。

 黙る俺を見て、親衛隊長さんが繭をひそめた。

「まさか、何も知らないのか?」

 そうだ。知らない。

 彼女が話したがらないこと(問題にしないこと)について、俺から聞くこと

はなかった。

 親衛隊の人間は俺と違って、彼女の過去を知っているようだが。

 全滅に近い状況を生み出した指揮官であることも承知の上で、彼女と一緒に

戦いたいと言うほどの『何か』があったのだろう。

 それがダンジョン攻略の動機かもしれないし。

 答えが返って来ないとしても、俺から質問するだけで良かった。

 なぜ聞かなかったのだろうか?

 無意識のうちに、彼女と深く関わることを避けていたのか。

 それとも、確定的に嫌な記憶を思い出させることすら嫌ったのか。

 自分のことになると、途端にわからなくなる。

 ここでテキトーなことを言って、もし適当でなければ、立場がないし。

 何を言われても、今は黙るしかなかった。

「もういい。君には、彼女を任せられない」

 だろうな。

 親衛隊長さんはシルヴァレアの手を取ろうとして、

「おおい、待て」

 常連軍団長さんに手を掴み止められていた。

「こっちの話がまだだ。まだ終わってねえ」

「手を離したまえ。君にも彼にも、話すことは何もない。

 ここから先は、私にすべて任せるべきだ」

 元の木阿弥か。

 どうやら二人とも、俺は敵じゃないとわかってくれた、わけではなく、敵と

認定するまでもない男、と思われたようだ。

 俺はシルヴァレアの反応を見る。

 これで彼女が「どうして戦わないんです!」という顔だったら、俺はすべて

を投げ出して、一抜けたとばかりに逃げ出したかもしれない。

 彼女の魅力で人は集まるだろうし。放っておいても平気だろうし。

 だが彼女は「どんな作戦です?」と言わんばかりの真面目な顔をしていた。

俺の視線から、アイコンタクトの意味を探ろうとしている。

 自分では解決できないと丸投げするような問題なのに、俺なら解決できると

思って、いや、解決を諦めないだろうと信じているわけだ。

 嬉しいが、重い。

「わかった」

 俺は睨み合う二人の間に割って入った。

「ああ? テメーはすっこんでろ!」

「君に何がわかったと言うんです?」

 ひどいことを言う。

 ただ、無視されるよりはマシな反応だった。

「どちらの集団にシルヴァレアを任せるか。勝負で決めよう」

「!」「!?」「プランターさん!?」

 さすがにシルヴァレアも驚いて声を上げたが、

「明日の正午。街の外で決闘を行う。武器は各自で自由に用意してくれ」

 説明が終わる頃には、納得の表情に変わっていた。


 親衛隊も、常連軍団も駆け足で去っていった。

 明日の決闘に備えて、各自で武器を手入れするか。あるいは新しい武器を

調達しているのだろう。

 広場に残った俺とシルヴァレアは、とりあえず剣の稽古をすることに。

 常連軍団長と、親衛隊長さんの強さを彼女から教えてもらうためだ。

 目標は、決闘に参加して勝つこと。

 そのために知るべきことは、たくさんあった。

 移動速度。腕力。戦い方の癖から、勝負所の見極めまで。

 一回や二回では情報が足りないし。

 結局は、ボコボコにされながら体で覚えていくことに。

「この感じは、なんだか久しぶりで。懐かしいです」

 俺は覚えてないが、彼女は嬉しそうに笑っていた。

 負けて。負けて。負け続けた。

 強すぎる彼女に腹を立て、弱い自分に腹が立つ。悔しく思って立ち上がり、

もう止めたいと弱気の虫が泣き出して、諦めようぜと自分を説得する。

 彼女には絶対に勝てない、という絶望的な認識が生まれる。

 しかし、それでも稽古を続けた。

 

 数分後、俺は尻餅を付いて倒れていた。


 俺を見下ろすシルヴァレアの呼吸が乱れている。

「これで、明日はバッチリ、です」

 彼女は太鼓判を押してくれた。


 これなら、あの二人と正面から勝負をしたとしても勝てる、と。

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