魔法の始まり、魔法の終わり
仲間が増えた。
しかし、増えた仲間にも色々と事情があって、
俺はすぐにでも酒場を出てシルヴァリアに勝利と味方増員の報告をしたい所、
だったが、
魔法使いのオッサン改め、エイシンさんに呼び止められてしまった。
酒場の雰囲気は元通りだ。
マスターが看板を出すと新たな酔っ払いが現れ、今は自慢話をしている。
それを横目に、奥まったテーブルで今後の話だ。
オッサンは開口一番、 弱気なことを口にした。
「協力するとは言ったが、力になれるとは限らねー」
「は?」
嘘を吐くな、と言う話だ。
「エイシンさん」
「ザラでいいぜ?」
「いや、呼び捨てはちょっと」
「なんだ? 年功序列国家の生まれか? 信条か?」
「これから聞くことにも関係があるんで、言いますが。
『ウッドオクトパス』
歩く巨木の化け物ですよね?」
「正確には切り株なんだが。
見上げるほどでけーんだ。しかも根がうねるんだぜ?」
「強くないですか?」
「そりゃメチャクチャ強いに決まってんじゃねーか」
「だったら」
エイシンさんも強いはずだ。
サバイバルライフカードゲームはこれまで生きてきた人生をゲーム化する。
倒していないものは、討伐カードにならない。
もし出会っただけなら『ウッドオクトパスから逃げ切れ』というような、
仕事のカード。あるいは運命のカードになっていたはずだ。
モンスターが倒せて、力になれない、なんて有りえない。
「いや、まあ、オレは実際に強かったが、そりゃ昔の話だ」
「よる年波には勝てない、と?」
「違う」
彼は深いため息を吐いて「そんなんじゃねーよ」と嘆いていた。
「魔法は、もうダメだ」
絶望が声に滲み出す。
「一昔前まで、魔法はすげーもんだった。
杖をかざせば大砲が撃てる。おまじないをすりゃ傷が治る。
天候も自由自在だ。
敵なんかいねーと思ったが、今はもう、見る影もなくなっちまった」
「魔法が弱くなっている、って、どのくらいですか?」
「いま使えるのは、対人用のせせこましい魔法だけだ。
モンスターには通用しねー」
言葉が徐々に弱ってきた。
無理もない。
絶対の自信を持っていた力を失いつつあるのだから。
これも、何とかしなければならない問題か。
「どうして、魔法は弱ってるんですか?」
「あ? なんで、って。俺に聞かれてもな」
「原因に、心当たりはないんですか?」
「心当たり、か?
頭の良いヤツが増えたから、とかか?
最近になって法則学とか、錬金術とか、合理科学とか、すげーから」
「それ、ぜんぶ魔法なんじゃ」
「魔法と科学は違うもんだぜ?
魔法は産み落とされた時の完成度が一番高かった。
あとは腐るだけだ。
なのに科学ってヤツは時間が経てば経つほど完成に近づくんだぜ?」
同じもののはずがねーだろ、とエイシンは言う。
そして、弱っていくものが負け、強くなるものが勝つ。
「魔法は今でも魔法のままだし。
科学は最初から、科学のままだ」
「じゃあ、魔法は弱る一方ってことですか」
「今の魔法に許されたことは、心への干渉。魂への干渉。
そんで、時間への干渉くらいのもんだ」
「ふむ」
戦力を強化したいのは山々だが、解決策が見つかるだろうか。
「俺も、少し考えてみます」
「何を考えるのかは知らねーが、まあ、頑張ってくれ。
とにかくそういうことだから。
オレとアイツには、そこまで期待しねー方がいい」
「わかりました」
魔法の強化が出来なければ、戦力にはならない、か。
それでなくとも、エニルはお姫様だ。
一応、確認しておいた方がいいだろう。
「ダンジョン攻略には、エニルも参加するんですか?」
「あ? ダメなのか?」
「いや、王族なんですよね?」
「おげっ! げほげほッ!?」
エイシンさんが盛大にむせていた。
口にするのはまずかったか。
誰にも聞かれていないとは思うが、
「オマエさんな。正体がバレたら命に関わるんだぜ?」
「すみません」
「参加は、まあ、するんじゃねーか?」
「いいんですか?」
「まあ、いいんじゃねーか?」
「アレなのに」
「そこは、まあ、なんつーか。もういいんだと」
「?」
もういい、とは、どういう意味だ?
エイシンさんは酒のせいではなく、普通に頬を赤くしていた。
左右を確認して、前後を確認して、忙しく視線を周囲に巡らせて、
「王族としての責任は果たせるからだとよ」
「祖国への帰還とか、国家の再興とか?」
「いまアイツの祖国は属国になってて、王族はみんな殺された。
のこのこ帰るわけにはいかねーし。生きてる間には帰れねー。
だから、その、なんだ。
王家の血を途絶えさせないためにも必要で。
アイツも承知してたし。
逃避行の雰囲気みたいなものも手伝って、な」
「つまり?」
「ガキを作ったんだよ」
「は?」
「わかるよな?」
「な? じゃないだろ」
要するに、あのお姫様に手を出していたのか。
このオッサンはどうしようもないな。
『さん』を付ける気は、いまこの瞬間をもって消え失せた。
「で? エイシンはこれからどうするつもりなんだ?」
「アイツはもちろんだが、オレも顔が売れてるからな。
遠くない未来に見つかって、殺されるのは避けらんねー。
だからこそ、子供は三人ともヘイゼンに任せて、アイツらが小さいうちは
静かに暮らそう、とか思っていたわけだが」
「ヘイゼン?」
「酒場のマスターだよ。
そもそもが『こういう事態』に備えて、他国でしっかりした生活基盤を持つ
ことが任務、って男でな。
王家にゆかりの品と、王家の血を守りてーらしい」
エイシンは目を細めてマスターを見ていた。
おそらくは、彼の後ろに子供達の姿を見ているのだろう。
「まあ、そんなわけだからよ」
「エニルについては問題なし、と」
これで二人か。
仲間を集めるのって、思っていたより大変だな。
苦労を顔に出したつもりはないが、エイシンの視線が生暖かい。
「オマエさんも、オレと同じような感じか?」
「一緒にするな」
少なくとも、俺は逃避行の最中に護衛対象を身ごもらせるような真似はしない
と思う。
「なんだ。あのお嬢ちゃんとデキてねーのか?」
エイシンの言葉に、そういえば、と思う。
彼女のことを女子として意識したのは、待ち合わせでそれっぽい格好をして
いた、あの時だけだ。
ほぼ9割9分、ダンジョン攻略のパートナーだな。
「しかし、てことは、アレは『憧れ』か」
「? 何の話だよ」
エイシンはニヤリと笑って、俺の背後を指差した。
「そこで、すげー顔してたんだぜ。あのお嬢ちゃん」
「カードゲームの一回目か」
「普通は『墓場に置かれたら死亡』なんてルールを聞かされたら、な。
何か言うだろうが。
『私のカードは使わないでー』とか。
『絶対に負けないでよー』とか」
「言われてみれば」
背中が妙に静かだった。
そのおかげで俺は、卓上に集中できたのだ。
「シルヴァレアは、どんな顔してたんだ?」
「負けはない、って感じの顔だぜ。
絶対的な信頼は、要するに憧れってヤツだ。
オレにも覚えがあるから、オマエさんの気持ちがよくわかる」
エイシンはニヤニヤと笑い続けていた。
俺のもやもやは、急速に溜まっているが、
「憧れは、期待の表れだぜ?
求めるものがあるから、ちーっとばかし重い。
自然体で、その要求を満たせるくらいに凄いヤツなら、問題なんてないが。
そうじゃねーとツライよな」
オレも昔は、エニルに憧れられていてな、という自慢話へ。
そこから先は聞き流したが、なるほど。と納得の話だ。
シルヴァレアの俺に対する評価は、不当に高い。
期待値が大きい分、できて当然の雰囲気になりやすいのだ。
それが原因で、これまで男女の関係を意識する暇がなかった。
恋をしようにも、愛情を抱こうにも、相手の期待を裏切ってばかりでは、
先を考えることができない。
好感度も、最初がマックスで、あとは落ちるだけ。
魔法と同じ結末を辿りそうな気がした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




