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キズオの結末

現国王を殺し、国王になることを決めたキズオ。

今回は、

 ダンジョンを攻略した者として、しなければならない仕事がある。

 

 迷宮封印だ。


 まずは、野良モンスターが入り込まないよう土で埋める。

 簡単には掘り返されないようにフタをする。今回はフタがあるので、それを

流用する形となった。

 最後は、ダンジョンが攻略された証「ダンジョンシール」を刻む。

 人の手に負えない者は知能が高いため、人類の目が届く場所にダンジョンを

作ろうとは思わないのだ。

 攻略団のシンボルマークは、胸に傷のある『傷男』のマーク。

 ダンジョンシールを刻んでしまえば、ここでやることはもうないだろう。

 あとは、攻略の後始末として、初期にあふれ出たモンスターを討伐しつつ、

クローレン王国に戻るだけだ。


 戻って、国王の命を貰うだけだった。


 クロアケダンジョンを後にする。

 連結馬車が走り始めると、ようやく、俺は緊張を解いた。

 次の目的地は、温泉の町アガリスト。

 ダンジョンから最も近い町でもあるため、被害も大きかったことだろうと

予測される場所だ。

 攻略団に対する指示は、すでに終えている。

 怪我人は療養。

 軽傷であれば、ゴドリー部隊。ジレイ部隊に混じってアガリスト奪還任務に

参加してよし。

 予備部隊。混成部隊は町の外を巡回。モンスターと遭遇すれば、これを排除

する。

 レア隊は待機。

 臨機応変に対応すること、とした。


 俺は馬車の最後尾に篭りっぱなしだ。

 オーザを呼びつけて、お茶汲みをさせていた。

 無言でも苦にならないオーザとの二人きりは、意外と心地よい。

 そのうちにコンコン、と馬車の扉がノックされた。

「誰だ?」

「私です」

「レア。なぜそこにいる。

 待機と命令しておいたはずだ」

「お話があります」

「後にしろ。いまは待機だ」

 レアは沈黙し、気配は動かなかった。

「わかりました」

 しばらくして返事を残し、レアは持ち場に戻った。

 オーザが慌てている。

「い、いいんですか?」

「いい」

 そう言い切る。

 罪悪感はあったが、レアだけを特別扱いすることはできなかった。

 それに、レアは貴重な戦力だ。

 最後の切り札として、どこにトラブルが生じてもいいよう待機していること

が、全員の安心に繋がる。

 しかし、

「プランターさん」

 レアの声。

 またコンコンと、馬車の扉がノックされていた。

 「しつこいぞ!」と、怒鳴るべく扉を開ける。

 が、そこには着飾ったレアがいた。

 羽衣のような薄絹を全身に纏い、羽衣を金糸が飾る。

 それは、金色の髪と相まって、足元まで髪を伸ばしたかのようだった。

 いつもの強気や元気も失われてはいないが。

 大人しい雰囲気だ。

 凛々しさよりも、艶やかさが際立つ姿。

 俺は、あんぐりと口を開けたまま、言葉が出ない。

「私も中に入れてください」

「な、なんで?」

 思考回路は完全に停止している。

 演じることも忘れて、素の返事をしてしまった。

「プランターさんの荒んだ心を鎮めるために来ました」

「は?」

 そこに爆弾発言が投下され、意識は真っ白になった。

「二度も言わせないでください」

「あ、ああ」

 彼女の裸同然の格好を見れば、目的は明らかだった。

「オーザ。窓の布を下ろしてくれる?」

「は、はい!」

 オーザには目の毒だろう。

 彼は顔を真っ赤にして、レアから目を逸らしていた。 

 

 レアは馬車の中へ乗り込んで、すぐに俺へと寄りかかる。

 早急だ。

 無手丸腰を印象付けるための薄絹。

 彼女らしくない積極的な誘い文句。

 そして、強引な手口。

 目隠しのような窓の布が、俺に何かを悟らせていた。

「どうして裏切る?」

「………」

 俺の言葉に、レアは反応を示さない。

 無言で俺の服を剥ぐために手を伸ばしてきた。

 俺は腰の裏から熱刀ヒクナギを取り外して、

「預かっておいてくれ。オーザ」

「は、はい」

 オーザを呼んで、短剣を預けた。

「それと、少しだけ席を外してくれ」

 オーザが耳まで真っ赤になりながらも、こくこくと頷いて外に出る。


 二人きりになった途端、レアは俺の唇を奪った。

 目的は明らかだ。

 お互いの精根が尽き果てるまで抱き合って、秘密も壁もなく盲信できる関係

に戻りたい。

 そういう思いが伝わってくる。

「国王様の殺害計画を練っている、という噂は本当ですか?」

「………」

 レアの質問に、俺は答えない。

 彼女は俺の反応から真実を見抜こうと肌を寄せてくる。

 細かな仕草も見逃さないよう上目遣いで、俺の表情を確かめていた。

「それは、私のためですか?

 エーハンとの婚約を破棄させるためですか?

 それとも、プランターさん自身のためですか?」

 疑問は尽きないようだ。

 しかも、けっこう良い所を突いてくる。

 レアの質問は大きく的を外さず、包囲するように核心へ近づいていた。

 俺は何も言っていないのに、答えを搾り取られそうだ。

「答えてください」

 彼女はいつしか馬乗りになって、俺を押さえつけていた。

 このまま攻められるままにしていたら、喉元まで出掛かった言葉をあっさり

白状してしまうことは確実である。

 俺は立場を入れ替えて、質問する側に回った。

「まずレアが、俺の質問に答えてからだろう。

 どうして俺を裏切った?」

 経験的に弱いとわかっている正論でチクチクと攻撃する。

「………」

 彼女は嘘が吐けないタイプの人間だ。

 答え辛いことは答えないし。

 図星を突かれると眉間にシワを寄せ、唇を噛んで、黙ってしまう。

 今回も明らかに不機嫌そうな顔だが、そこで畳み掛けるように言った。

「俺を裏切るのは何のためだ?

 クローレン王国のためか?

 それとも、俺のためか?」

 急所を的確に突く俺の言葉に、彼女はキッと睨みを返してきた。

 頬を涙が流れていく。

「アナタが普通の人であることを、私は知っています」

 彼女は、ついに本音を漏らしてくれた。 

 国王になれる器ではない、と。

 それが嬉しくて、俺も本音を言いたくなってしまった。

「俺に王様が務まるわけないだろ。

 俺が王様になりたいのは、レアのためになるからだ」

 一度でも本音を漏らしてしまえば、もう止まらなかった。

「二人の婚約が破棄されても、レアが危険に晒されるだろうし。

 婚約が破棄されなくても、レアがエーハン王女と結婚して、一生独身とか

嫌だからな」

 まるで告白のようだ。

 台詞の甘さと、羞恥心のあまりに彼女の視界から消えたくなる。

 いっそ俺の顔が見えないように、とレアのことを抱きしめた。

 

 小さな違和感が胸に突き立つ。


 ヌルリと、胸の中から何かが抜ける。

 それは、彼女の手に握られていた。

 俺の血が滴る小さなナイフだ。

「おい。どこにそんなもの隠してたんだ?」

 自分の武器ですらレアに奪われたら事だと思って手放したのに。

「どうやった?」

「私には創剣の魔力があります」

「それって、一生かけてナイフが一本できるかどうか、って話じゃ」

 ナイフを観察するように見て「ああ」と納得した。

 とても細く長いナイフ。

 生まれてから十数年の月日を感じさせるものの、まだ太くはない。

 背中にアザとして発生するものであれば、それは『生えてくる』のではなく

『浮かびあがってくる』方が自然だ。

 レアの背中にも、ナイフの原型はあったのか。

「気付かなかったなー」

 何度も抱き合って、何度も確かめ合ったのに、わからなかった。

「どうして、こんなことを?」

「どちらも正しいと思うなら、より上手くやった方が己の意見を貫き通せる。

プランターさんが私に教えてくれたことです」

「今回は、意見がぶつかったからな」

 王様になって、彼女を救いたい俺。

 俺が王様になることを嫌がる彼女。

 そして、今回は彼女の方が、俺よりも上手くやった。

 コレはやりすぎだろう、とも思うが。

 ぎこちない台詞も、大胆すぎる衣装も。

 計略が得意ではないレアが頑張って考えたものだったのだ。

 さすがはレア、と言ったところか。

「天下一まで、あと少しだったのにな」

 馬車の中が焦げ臭い。

 レアが窓を開けて、外を見る。

 そこには紅蓮の炎があった。

「馬車が燃えて、燃えてます!」

 命を狙っておいて、火事に驚くはずがない。

 やはり、

 『重傷を負わせて、しばらく静かにしていて貰おう』

 という狙いがあったのだろう。

 俺はニヤリと笑って、馬車の床に突き刺さる熱刀ヒクナギを見た。

 オーザに預けたのはダミー。

 こっちは、椅子の下に隠しておいた本物だ。

「俺が火を付けた」

「え!?」 

 動揺する彼女に上着を押し付ける。

 ついでに、馬車の外へと押し出した。

「あ!」

 いつもなら、俺の一撃など簡単に避けられるだろう。

 しかし、レアを助けようとして放たれた一撃は、彼女の体を的確に捉えて、

突き飛ばしていた。

「プランターさん!」

 開いた扉の向こう側で、彼女が馬車に戻ってこようとしているのが見えた。

リジーがレアの腰に飛び付いて、止めている。

 ズラリと馬車を囲んだ剣士達。

 周囲に敷き詰められた魔法陣と、俺に向けられた機械杖。

 全員が敵だった。

 それはそうだろう。

「好きな人のためとはいえ、国家を転覆させちゃダメだよな」

 レアが俺のところまで辿り着くよりも早く、巨大な火柱が馬車を包んだ。 


 馬車は炎に包まれ、灰になるまで燃え続けた。

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