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結末と仮定の話

第四層を攻略したキズオ。

今回は、

 俺は連結馬車の最後尾に、一人で引き篭もっていた。

 いつも通りの自分を見せることは、もうできないのだ。

 

 ゴーストにトドメを刺した時、ほとんどの人間が意識を失った。

 電気の塊である敵に剣を突き刺せば、持ち手に負荷が掛かり、体を痛める

のは当然だ。

 死人が出なかったのは、まったく不思議でならない奇跡だった。

 影の女神が助けてくれたのだろうか?

 どうして俺を、という気がしないでもないが。

 とにかく、これでダンジョン攻略は終わったのだ。


 クローレン王国へ帰還する前に、やっておかなければならないことが一つ

だけある。

 レアの父親を探すことだ。

 俺も彼女と一緒に、何でもいいから探したいところだが。

 恐怖政治を敷く独裁者となった今、それは叶わない願いだった。 


 誰もいない馬車の中で出発を待つ。



 コンコン、というノックの音で意識が浮上した。

「誰だ?」

「私です。

 父について、色々と報告したいことがあります」

「入れ」

「? 失礼します」

 一瞬、戸惑うような沈黙を挟んで、レアが馬車の中へ入ってきた。

 しばらく俺の顔色を伺うように黙っていた彼女だが、

 俺が睨むと、席に座った。

「父の遺骨を発見しました。

 装備も先ほど回収してきたところです」

「そうか」

 結末としては妥当なところだろう。

 国王軍が遠征から帰還する最中にダンジョンを発見。

 レアの父親が調査に派遣されるも、返り討ちにあった。

 剣の使い手として優秀であったこともあり、スケルトンとして最下層の防衛

に回されたと、そんなところだろう。

 レアの脇には、抱えて持つサイズの箱があった。

 骨と装備を入れているのだろうか。

「父は、現国王の裏切りを示唆する発言をしていました。

 現国王はモンスターを利用して、父を陥れたものと思われます。

 私とエーハン王子の婚約について詳しい秘密を知る父の存在が邪魔になった

のでしょう」

 その理屈だと、レアの身も危うい。

 現国王の意図がわからないからだ。

 レアの父親が、色々と干渉してくるから邪魔になったのか。

 婚約そのものが邪魔になったのか。

 後者だった場合には、婚約を破棄した直後、事情を知るレアを殺す暴挙に出る

かもしれない。

 やはり、手を打つ必要があるのだろう。

「他に報告は?」 

「ありません。

 失礼します」

「レア」

 席を立つ彼女に、思わず声をかけてしまった。

 大丈夫か?

 と、優しい声をかけることはできなかった。

 俺に聞くことができるのは、ここまで来た目的を果たしたのかどうか。

 それだけだった。

「父親には、褒めて貰えたのか」

「………」

 彼女は沈黙を返してくる。

 悲しませたか。

 あるいは泣いているのか。

 俺は顔を上げて彼女の表情を確かめる。

 と、そこには笑顔があった。

「私を褒めてくれる人が見つかりました、と報告だけ」

 そう言って、彼女は馬車を降りた。


 馬車の扉が開く。

 車内に押し入ってきたのはフルスだった。

「ハロー」

「ここに立ち入っていいと、誰が許可したんだ?」

 最後尾の馬車には、俺以外の誰にも入らせる気はなかった。

 レアも、リジーも、オーザも、だ。

 フルスはさすが、年の功というべきか、俺のような手合いにも覚えがある

のだろう。

 扱い方は心得ているのよ、とでも言うようにビシッと背筋を正していた。

「影の女神について、お話したいことがあります」

「わかった。聞こう」

「ありがとうございます」

 彼女は扉を閉めようとして、ガッと、男の手に阻まれていた。

 ゴドリーだ。

「キズオに話が」

 と、そこまでしか言わせなかった。

 鞘に入ったままの短剣、回収された熱刀ヒクナギでゴドリーの頭を打つ。

 手加減なしで、思い切り打った。

 ゴドリーの体が扉から離れ、ステップからも転げ落ちる。

 俺はゴドリーを見下ろしていた。

 額から血を流して呆然とこちらを見る彼を、見下していた。

「あの戦場で俺の命令に逆らったのはオマエだけだ。

 本来なら死の罰を与えるところだが、これまでの功績に免じ、命だけは

助けてやる。

 ただし、二度目はない。

 それがわかったら、さっさとこの場から立ち去れ!」

 叫んで、扉を閉めた。

「はあ」

 大きく溜め息を吐いて。

 それをフルスに目撃されていた。

「下手な芝居をするのね」

「用件を言え」

 取り繕うように、横柄に言った。

 それが滑稽であることは理解していたが。

「終わったら、オマエもさっさと出て行け」

「はいはい」

 彼女は呆れたように言って、しかし口調は真面目だった。

「影の女神を探しているのよ」

「誰が? 何のために?」

「モンスターが。自らの創造主を助けるために」

「意味がわからないな。

 どうしてオマエに、そんなことがわかるんだ?」

「私が事の顛末を知っている唯一の人間だから、でしょうね」

 フルスは語りだした。

 事の顛末、とやらを。


 昔々、とある王国に一人の女の子がいました。

 たいそう綺麗な女の子だったそうです。

 才気に溢れ、果ては学者か、魔法使いと言われていました。

 女の子は周囲の期待に応えようと、勉強に励みます。

 そして、女の子は願われた通りの錬金術師になったのです。

 しかし、その後は無理難題が女の子を襲いました。

 研究のためにお金を出してくれた三人の男性が、それぞれ、欲しいもの

がある、と言い出したのです。

 労働力を求める者は『人工の命を作って欲しい』と。

 貴重品を扱う者は『金塊が必要だ』と。

 人の上に立つ者は『永遠の命について研究せよ』と女の子に言いました。

 しかし、いくら女の子が才気に溢れると言っても、作れるものは限られて

います。

 三人は望みが叶わないことを悟ると、女の子に言いました。

 あと一年だけ待つ。

 それでも望みが叶わない時は、相応の対価を払ってもらうぞ、と。

 一年間、女の子は研究に没頭しました。

 しかし、それでも一つとして完成するものはなかったのです。

 約束の日、女の子は忽然と姿を消してしまいました。

 彼女の家に残されていたものは、

 ひっくり返された錬金術の釜と、床に焼きついた美人の顔だったのです。


 そうして、とある女の子の物語は終わった。

 しかし、終わらなかったこともある。

「その女の子は天才だった。

 不老不死の研究も、人工生命の研究も、賢者の石の研究も、その錬金術の釜

に存在していたのよ。

 釜から零れ落ちた中身は、練成を続けた。

 モンスターを産み出し、

 世界を作り変え、

 女の子を不老不死の女神に変えた。

 これが、影の女神に関する物語のすべて」

 フルスは俺に向かって、掌を差し出して見せた。

「?」

 そこには、見たこともない指輪が一つ。

 俺は自分の左手、薬指をさすって、何もないことを確かめていた。

「現実の練成は終わらないわ。

 現在を基点にして、過去と未来を変えてしまう。

 世界の矛盾を嫌う修正力は、より力のある『世界』に働くものよ。

 このまま練成された世界の比重が大きくなれば、世界は『練成された世界』

を、より正しい物として認めてしまう。

 そうなったら、すべてが終わるわ。

 アナタには影の女神を探し出して欲しいのよ。

 そして、元通りの世界を取り戻すの」

 彼女の必死さは伝わってくる。

 しかし、

「俺にはフルスが何を言っているのか。意味がわからない」

 俺が正直にそう言うと、彼女はフッと自嘲気味に笑った。

 前のめりになっていた自分を改めるように、椅子に深く腰掛けている。

「もしかしたら、と思ったんだけど、やっぱりダメなのね。

 いまの台詞はぜんぶ忘れてちょうだい」

 彼女の言葉に頷く。

「話が終わったのなら、出て行け」

「アナタはどうするの?」

「とりあえず、クローレン王国現国王の首を取る」

「そう。って、ええ!?」

「そして、俺が王になる」

 フルスの苦笑いが、俺の表情を見て引き攣った。

 俺が本気で言っていることを、彼女も理解してくれたのだろう。


 出発の準備は整った。

 これは凱旋ではない。

 出陣なのだと、一人気合をいれながら、その時を迎えようとしていた。

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