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権力欲

四層が存在するかもしれない、という可能性に気付いたキズオ。

今回は、

「本当にやるのかよ?」

 モイトの言葉に俺は頷く。

「第三層の施設をすべて壊す。

 そのついでに、第四層があるのかどうか、確かめよう」

 通算では三度目の爆破になる。

 三層中央の床に爆弾が置かれ、全員が離れて、 


「『フ、ハ、ハ、ハ、ハハハ!』」

 

 妙な震えを含んだ声が響き、床からスーッと、何かが浮かび上がってくる。

 ボロマント。

 それを支えるように持つ骨の手と、髑髏の面。

 ボロボロのマントが羽衣のように骨身を包んでいる。

 誰もが呆然と『ソイツ』を見ていた。

 行き止まりの迷宮にはふさわしい主だろう。

 地面の中だろうが、お構いなしに移動できるヤツなのだから。

「ゴーストか」

 第四層の実在を疑うものは、もういない。

「爆破しろおーッ!」

 全員が心を一つに爆破の時を待つ。その一瞬に、浮遊感が襲ってきた。

 第三層の床が抜ける。

「なッ!?」 

 ここに来て、トラップだ。

 落とし穴というよりは、全面が落下する床だった。

 閉じ込められる、出られない等々の罠は予想していたが、まさか、攻略者を

自ら吸い込んでしまうとは。

 ゴーストは相当の自信家であるらしい。

 

 第四層に招かれ、最初に俺の視界へ飛び込んできたものは影の女神だった。


 一つや二つではない。

 壁一面に存在する影の女神。

 一瞬、ひやりとしたが、大量の、という事実に違和感を覚え、確信する。

 さすがに、偶然や奇跡ではないだろう、と。

 照明の位置に気を遣い、障害物を置いて影の女神を再現したもの。

 つまり、ここは影の女神を祀っている祭壇というわけだ。

 他に見るべきところは、敵影か。

 中央にゴースト。

 それだけだ。

「生存確認」

「落下距離約5メートル。怪我人多数です」

「そうか」

 これが、もし三倍の高さなら『落下防止ネット』を使う余裕があったはず。

 怪我人ゼロも有り得たわけだが、中途半端な罠であるがゆえに、被害が甚大

になったと言えるだろう。

 一撃必殺の罠を警戒する余りに、致死性のものではない普通の罠にてこずる

とは、皮肉なものだ。

 しかし、

「敵はゴースト一体だ! 全力で押し切れ!」

「「おおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーッッ!!!」」

 俺は、恒例となった士気底上げの言葉を放つ。

 そして、今回こそ自分が誰かのためになると意気込んでいた。

 意識して先頭に陣取る。

 誰よりも先にゴーストの懐へ飛び込んだ。

 「馬鹿!」「止めろ!」という言葉を背中で聞きながら、熱刀ヒクナギを腰

から抜き放ち、

「りゃああ!!」

 ゴーストの腕に切りかかる。

 しかし、手応えがない。

 体勢が崩れて前のめりにこける。

「ほぐ!?」

 顔面から床に突っ込むほど、痛い空振りだった。

 硬そうな骨は目の前にあるのに。

 掠りもせず、引っかかりもしない。

 見上げると、そこにドクロの細面があった。


 ゴーストの腕に頭を撫でられた途端、俺の意識は暗闇に落ちた。



 肉体の感覚はなく、意識だけが戻る。

 ゴーストに魂を盗られてしまったのだろうか?

 俺は死んだのか?

 どちらにしても、言わんこっちゃない、という感じだ。

 足軽としての俺の力は、こんなもの、なのだろう。

 敵と一撃を交わすこともできず、カウンターで訳のわからない攻撃を貰い、

一発退場。

 当たり前だった。

 たとえ王様であっても、最前線に剣一本、鎧一式を纏って出たのなら、俺と

まったく同じ結末を迎えるだろう。

 個々に能力の違いがあると言っても、それは、

 『一撃でやられるか』『百回、打ち合った後にやられるか』

 くらいの差でしかない。

 最前線に出てやられることのなんと、つまらないことか。

 他人が成功するための失敗。

 他人のためになるだけの死。

 他人のためになりたいと思っていたはずなのに、無念だった。

 俺が生き残っていたのなら、対処法を考え付いたかもしれない。

 俺ではない人間に、作戦が考えられるのだろうか。

 俺は、生き残るべき人間だったのかもしれない。

 

 生まれて初めて、自分の『欲望』を自覚した。


 死にたくない。

 そして『偉くなりたい』。

 偉くなってはいけない、なんて縛りはない。

 力を鍛え、勉学に励み、脳みそを振り絞って考える。

 そのことによって到達する極みを目指すこと。

 一歩、階段を上がるごとに安全な場所へ行くこと。

 

 それは明らかに『権力欲』だった。


 意識が肉体に戻る。

 目を覚ますと、戦場は様変わりしていた。

 崩れ落ちたはずの床が外壁の方から、じわりと復活していく。

 第四層の天井が中央に向かって閉じていく。

 このままでは第四層は完全なる密室と化してしまうだろう。

 そうなれば、いずれ酸素が尽きる。

 敵を倒したとしても脱出できないことが予想される。

 不安材料ばかりが増えているようだ。

 敵も増えている。

 人間サイズのゴーレムが、数え切れないほど。

 他にも、ゴーストの配下なのだろうスケルトンが、たくさん。

 絶望的な状況の中。

 俺は攻略団にとっても頼みの綱であるレアを探して、

「!」

 ゴーストに捕まっている彼女の姿を見つけた。

 すでに剣を手放していて、反撃する余裕もない様子だ。

 意識だけはあるのだろう。必死に立ち上がろうともがいてはいるが、彼女の

手足は震えていた。

 ゴーストは彼女を見張るように突っ立っている。

 立ち上がろうとするレアの頭を、骨の腕が撫でた。

 見た目には何の変化もない。

 しかし、

「うあああああああッッ!!」

 レアの口から苦しげな悲鳴が上がり、頭を抱え、また地面に沈んだ。

 そしてそのまま、地面の上でのた打ち回っていた。

 全身の毛が逆立つ。

「マジ、か」

 一瞬で意識を失った俺は、むしろ幸運だったのだろう。

 レアは倒れても、意識を失っていないようだった。

 常人に比べて遥かに丈夫であることが今回ばかりは裏目に出ている。

 助けなければ、と思う一方で、

 助ける方法を確定してからでなければ、とも思ってしまう。

 おそらく、先ほど抱いた欲望のせいだろう。

 一も二もなく助けるべき場面であるはずなのに、レアが耐えられる範囲で、

様子を見るべきだ、という汚い算段があった。

 卑怯な手段だ。

 卑劣な手口とわかっていて、放置することはできなかった。

「レアから離れろ!」

 熱刀ヒクナギをゴーストに向かって投げつける。

 ボッ!

 と、音がするのではないかと思うほど、ゴーストの肉体に大きな穴が空いて

いた。

「え!?」

 攻撃を加えた俺の方がビックリする。

 しかし、ゴーストの肉体は変幻自在なのだろう。

 肉体の四分の一を削るような大穴も、霧が空間を埋めるような感じで素早く

元通りになっていた。

 そうだよな、と妙に納得する。

 俺が一撃で敵を倒すなんてありえないことだ。

「レア!」

 遅れたがレアの救出に向かう。

 ゴーストの足元から掻っ攫うように、お姫様抱っこで持ち上げる。

 走って逃げ、ゴーストの姿を遠ざける。

 幸いなことに追ってくる様子はなく、何とか離脱には成功した。

 体を鍛えておいて、本当に良かったと思う。

「レア? 大丈夫か?」

「………」

 顔色を見ようとして、レアと目が合う。

 彼女は少し微笑んで、すぐに意識を失った。

 限界だったのだろう。

 様子を見ようなんて思っていたら、危なかったかもしれない。

「危ない!」

「え?」

 半透明の肉体を持つスケルトンが剣を振り上げていた。

 騎士の誰か、知らない人が盾で守ってくれている。

「あ、ありがとう」

「怪我人は端へ!」

「ああ」

 あちこちで剣が振るわれている。

 剣と剣がぶつかり合い、盾を打つ音の分だけ攻防がある。

 戦場に取り囲まれていた。

 戦場で、迷子だ。

 無意識のうちに喉が震える。 

「ゴドリー! ジレイ!」

 親を探す子供のような声で、頼りなく、情けなく。

 泣きそうになりながら、見つけた。

 筋肉で構成されたような肉体。天を突く逆立った髪。

「ゴドリー!」

 思わず叫んでしまったが、こちらに気付いた様子はない。

 レアを抱いたまま駆け寄り、

「ゴドリー! 聞いてくれ!」

「ああん!?」

「!」

 初対面の時に向けられたような怒気に晒されて、足が止まった。

 見下ろされる。

 いや、見下されているのか。

 ゴドリーの目が、ひどく冷たい。

「無謀な突撃命令なんか出しやがって!

 無能に構ってる暇なんかねえんだよ!!」

 俺のことを俺と認識していて、そこまで言うのか。 

 酷い、と思う。

 しかし返す言葉がない。

 俺は今日まで頑張って積み上げてきた信頼を自ら壊してしまったのだ。

 もう信頼を取り戻すことはできない。

 おそらくジレイを探し出しても、ゴドリーと同じ結果に終わるだろう。

 クスグリやワタボシ、シオネラも同じ。

 エイシンは戦闘が終わるまで出てくんな、とか言いそうだ。

 なぜか今、実感した。

 俺は本当に信頼されていたのだ。

 信頼が壊れてしまった後に、信頼を知る。

 何とも空しい話だが。

「ここはもうダメだ」

 本陣のある第二層の床を見上げた。

 こちらを不安そうに覗き込んでいるリジーとオーザがいた。

「リジー! オーザ! 柱梯子を下ろしてくれ!」

「わ、わかりました!」

 オーザが柱梯子を取りに行く。

 四角形の筒に、四つの梯子が組み込まれている柱梯子なら、四人同時に、

上り下りが可能だし。

 レアを背負っていても大丈夫だろう。

 問題は持ち上がるかどうか、だ。

 しかし、リジーは柱梯子を取りに行かず。

 穴の端から身を乗り出していた。

「キズオ! 戦えし!」

 俺も、リジーの言う通り、戦い続けなければいけないと思う。

 戦時雑用の奴隷ッ子達は多くない。しかし、居ないわけではない。

 友人のために。仲間のために。俺は戦うべきなのだろう。

 しかし、それを諦めてしまった。

 攻略団を結成した最初期からの人員であるゴドリーにあんな態度を取られた

というのに、それでも仲間を信頼し続けることなどできない。

「仲間のために戦えし!」

 リジーの言葉が、胸に刺さる。

 もう仲間ではない。

 俺が彼らを見捨てたんじゃない。

 俺みたいな無能な指揮官を、彼らが見限ったのだ。

「り、リジー、どいて」

「キズオ! キズオ聞けしッ! 頑張れ!」

 オーザが柱梯子を持ってきたが、リジーは退かない。

 リジーの言葉に必死なものを感じる。

 俺を信頼してくれているのだろうか?

 無様に逃げ帰ることを許さないと言うのなら、頑張るしかないのだろう。

 オーザの邪魔をされて、逃げ道がなくなっても困る。

「わかったよ。

 音札をくれ! リジー!」

「! わかった!」

 リジーが用意していたように投げた音札は、俺の手の中に納まった。

 そして、オーザが投げ落とした柱梯子も三層の床が完成する前に、ギリギリ

間に合って道を繋いだ。

 柱梯子に駆け寄って逃げ帰ることもできたが、

 俺の中に、その選択肢はなくなったようだ。

 考えること一秒。

 失った信頼を取り戻す方法はない、と結論した。

「『全員、聞けええええええええぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!』」

 声の限りに叫ぶ。

 信頼がないのなら、言うことを聞いて貰う手段は一つしかない。

 演じるのだ。

「『今より俺が命令を下す!

  命令に違反した者は、死の罰を与えられると覚えておけ!』」

 戦場には親しい者の顔があった。 

 俺を知っている人間の多くが、驚いている。

 しかし、俺のことをよく知らない者達は震え上がっていた。

「『何も聞くな! 疑問にも思うな!

  ただ俺の言うことを聞け!

  いま、すぐ、剣を地面に突き立てろ!』」

 髑髏の顔が俺に向く。

 ゴーレムは空を走り、通り道に弾けるような雷電を残す。

「カマかけ。成功だ」

 一瞬のうちに髑髏は目の前にまで迫ってきた。

 まるで『雷のような速度』がヤツの正体を示していた。

「『せえーのおー!』」

 俺の合図に、応える声はない。

 しかし、恐怖に駆られたのだろう全員が、剣を振り上げていた。

 スケルトンと戦っている者も、ゴーレムを抑えていた者も、

『ヤメロォオオオオオオオオオオオオオオ!!!』

 そして、髑髏の絶叫が聞こえた者も、剣を地面へと突き立てた。


『ヒイイイイイイイイイイイイイイイイィィィィィィ……』

 

 細っていく悲鳴。

 確か、レアが言っていた。

 地磁気には、人に幻覚を見せるものがある、と。

 ゴーストが本体ではなかった。

 人の手に負えない者の正体は、大地の一部に宿る『地磁気』と、滞留する

『電気』だったのだ。

 それが、無数の剣を突き立てることによって霧散した。

 ゴーストが操っていたのだろうスケルトンと小型ゴーレムも次々と倒れて、

沈黙する。


 クロアケダンジョンの主は、今、討伐されたのである。

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