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クロアケダンジョン第三層

大量に湧き出したモンスターを見事に撃退した攻略団。

今回は、


 クロアケダンジョンの第一層に閉じ込められているというエニルの捜索中

に、閉じ込めておいたサンドマンの大量死が確認された。

 何気に酷い仕打ちである。

 その後、北部通路にてエニルを発見。

 たいした怪我はないのに、エイシンがやたら心配そうにしていたことが、

印象に残った。


 クロアケダンジョンの第二層は丸ごとゴーレムの格納庫だった。

 他には何もない空間が広がっているだけ。


 そして、開きっぱなしだった秘密の階段を下り、到達した第三層は、贅沢な

暮らしをしていたのだろうな、と察せられる巨大な浴室が広がっていた。

 おそらくキマイラの住居だろう。

 内部の詳しい調査に一日を費やした結果、

 『クロアケダンジョンに存在していたすべての戦力は排除されている』

 という結論に至った。


 宝箱の運び出しや、迷宮の封印が始まる中、誰かが言い出した。


「お風呂、入りたい」 


 まさか、水中戦のために用意しておいた水着が、このような形で役に立つと

は思わなかったが。

 俺は休憩のため、水着に着替えて風呂に入っていた。

 キマイラの湯、というのがマイナスポイントではあるが、それでも特に問題

はなく、普通に綺麗なお湯だった。

「毎日、取り替えているんだろうか」

 それとも源泉かけ流し、というヤツなのか。

 どちらかはわからないが。

 湯船の広さは数十メートルという単位だ。

 私室よりも風呂場の方が大きい辺りに、こだわりを感じさせる。

 攻略団の中で風呂に入っているのは、というか、入ることが可能な人間は、

かなり少ない。

 基本、怪我人は風呂に入れないからだ。

 ゴドリーとジレイは普通に入っているし。

 なぜかエイシンも普通の顔をして入っている。

 戦闘の最中は、全身ズタボロ、みたいな雰囲気を漂わせていたが。

 雰囲気だけの男だったようだ。

「しかし、不思議なもんだなー」

「んー?」

 エイシンの独り言に、声を合わせる。

 反応するヤツが居ないとしゃべり辛いだろうし。

「一度にこれだけの人数が入ると、ぜんぜん混浴って感じがしねーな」

「ああ」

 軽く100人はいる。

 男女が入り混じりすぎて『そういう』雰囲気もない。

「それもこれも、オマエさんの用意が良すぎるからだぞー!」

 エイシンに非難された原因は、入浴の際に使う『円筒の洗衣』だ。

 無数のヒラヒラした薄い布に、石鹸の成分など練り込んである。アレを着て

湯を被り、体を擦れば手間なく簡単に体を洗える、という代物だ。

 使い捨ての高級品だが。

「女性には必要かと思って」

「男子の敵めがー!」

 激昂するエイシン。それを止めたのはゴドリーだった。

「まあ、いいじゃねえか。

 そういう細かい気配りはキズオのいいとこでもあるんだぜ」

「言われんでも知ってる。でもそれじゃ面白みに欠けるぞー!」

 「なんのための混浴なんだー!」と叫ぶエイシン。

 そんなものは、高まった仲間意識を『男女が入浴順を争う』というイベント

によって霧散させないためのものに決まっているだろう。

「まったく、このオッサンは」

 呆れつつも、悪い気分ではない。

 普段の俺は一人静かに湯を弄び、ボーっとして過ごすタイプの入浴家。

 なのだが、

 今日ばかりは大勢で一緒に、というのも悪くないと思えた。


「よお、クスグリ! こっちだぜ!」

 ゴドリーがクスグリさんを呼ぶ。

 おまけのように、ワタボシとシオネラの二人も付いてきていた。

「テジエリーはどうだ?」

 確か、戦闘中にキズを負った女騎士か。

「意識が戻りました」

「本当か!?」

「はい。

 ただ、後頭部のキズは残るかもしれません」

「やっぱ、そうか」

 ゴドリーが悔しそうな顔を見せる。

 おそらくテジエリーさんに庇ってもらったのだろう。

 俺も、何となく気持ちはわかる。

 他人を盾にして生き残ってしまったから。

「気にすんじゃねーよ、ゴドリー。

 オマエさんは常連軍団の頭だろうに。

 偉いヤツは庇ってもらって当然なんだぞー」

「そんなことないだろ」

 俺は思わず、口を挟んでしまった。

 エイシンは「ニヤリ」と笑みを浮かべる。

 まるで「釣れた、釣れた」とでも言いたげな顔だ。

「キズオ」

「な、なんだよ」

「オマエさん。いつまで『普通の男の子』でいるつもりだ?」

「最初から最後まで、だ。

 俺は普通の男、のつもりだけど」

 言外に『子』は止めろ、と伝えてみる。

 しかし、エイシンは相変わらずニヤニヤしていた。

 ゴドリーとジレイは、微妙な顔になる。

「はあ」

 と、ゴドリーが溜め息を一つ。

「なるほどな。

 俺様くらいになれば、庇われるのも仕事のうちってことかよ」

 なぜかゴドリーの方が、俺よりも早く納得していた。

「それでいいのか?」

「人のフリ見て我がフリ直せ、ってな感じじゃねえか」

「俺は悪い見本なのか」

「担ぐ御輿が低姿勢じゃ、やっぱ物足りねえもんだぜ」

「そうか」

 俺には自覚が足りないのだろうか。 

 いつの間にか、知らない間に、色々な属性が付いている気がした。

 ヤラレ形。組織の功労者。攻略団幹部。ゴーレム討伐者。

 自分では普通の男だと思っているだけでは、やはりダメなのか。


「キズオ・プランター」

「言いたいことがある」

 声をかけてきたのは、ワタボシとシオネラだった。

 すすすーっと近くに寄ってきて、視線の据え所に少し困った。

「な、なにか?」

「感謝している」

「とても感謝している」

「そうじゃなくて」

「感謝する」

「ず、ずるい。シオネラ姉」

「ワタボシこそ」

「?」

 途中まで息がピッタリ合っていたのに、なぜか喧嘩に。

「ワタボシが言って」

「シオネラ姉の方が」

「止めなさい。貴女達」

「「はい」」

 結局、クスグリさんに怒られていた。

「どゆこと?」

「色々と失礼なことを言って申し訳なかった、と言いたいのでしょう。

 照れているのです。許してあげてください」

「はあ」

 改めて見ると二人とも何やら気まずい様子。

 そういえば、この二人には「生きるか死ぬか」の二択を迫られた記憶がある

ような。

 ありますね。

「あまり気にしてないから」

「「………」」

 二人がショックを受けたように黙り込む。

 気にされていないと、ソレはソレで嫌なのか。

 乙女心は複雑だな。

 雰囲気が大人しくなりかけたところで、

 『パン!』

 と、タオルを鳴らす小気味よい音が鳴った。

「そこまで悪いと思ってんならさ」

「モイト?」

「三人一緒にご奉仕でもしてやったらどうよ?」

「モイト!?」

 言外に「何を言ってるんだ!?」というニュアンスをたっぷりと込める。

「残念ですが」

 クスグリさんはゴドリーを流し見て、

「私にはもう、他に良い人がいますので」

「ダメかよ。

 じゃあ、やっぱクスグリの代わりに入って三人に、だよな」

「まずは、その三人縛りを止めような」

「ご奉仕はいいのかよ。

 なんだかんだ言って、やる気まんまんじゃん♪」

 どうしてそうなる。

 俺は女性陣から逃げるように距離を取って、

「あら? 三人同時?

 私とはしなかったくせに、随分派手にヤってるのね?」

「フルス」

 退路を断つように別の危険生物が待っていた。

「頼む。見逃してくれ」

「逃げ場なし。いい修羅場だわ」

 ダメだ。コイツ。助けてくれる気が微塵もない。

 誰かに、ひしっと腕を抱きしめられて反射的に手を伸ばすが、

「彼は私のものです」

「レア!?」

 しかもリジーとオーザを連れている。

 相手がレアならば、と手は止まった。

 しかし、その発言はまずい。

「ぎゃあああああああああああああーーーッッ!!」

 「耳が腐るー!」とでも叫びそうな勢いで、ジレイが立ち上がった。

 ハートブレイク級の台詞をまともに受けてしまったようだ。

 彼は泣きながら、水を切るように走り去っていった。

「? ジレイはいったい」

「それ以上は聞かないで」

 同僚の奇行に、レアは驚いた顔をしていたが。

 これほど残酷なこともないな。

 片思いは、今日をもって終了したことだろう。


 悪いとは思うが、ジレイのおかげで場は落ち着いていた。

「そういえば、レアに聞いておきたいことがあったんだ」

「はい?」

 誰もが疑問に思うだろう『アレ』について、だ。

「あのデカイ剣は、何なの?」

 家よりも大きい超剣。あんなもの、荷物として持っていたら気付かない方が

おかしいだろう。

「アレは連結馬車の追加装備です。

 あの馬車は強襲用に作られていますから。

 他国の城壁や城門を一撃の下に葬り去る程度の威力が必要になります。

 馬で引く破城槌、のようなものです」

 邪魔なものをすべて切り裂いて突入、と同時に、大量の人員をいっぺんに敵

の懐へと送り込むわけだ。

「私は、特に隠しているつもりはなかったんですけど。

 あの剣は御者のスキルが高くないと使えないものなんです。

 取り外すこともないだろうと、馬車の下部に収納しておいたんですけど」

「結局はレアが使ったんだから。

 いい判断だったんじゃないか?」

「そうですか?」

「俺はそう思う」

 すべて納得した。

 それでも、少女の細腕で馬が引くような超剣を、持ち上げないまでも走らせ

攻撃したというのだから、驚きだが。


「ふむ」

 レアの勇姿と同時に思い出すものがあった。

 長い名前のキマイラが口にした言葉。

 『我が主はクロウレンにいる』

 クロウレンは、当然のようにクローレン王国のことだろう。

 人の手に負えない者が、クローレンに潜伏しているのか。

 あるいは嘘を吐かれたか。

 ヤツの言葉には真実味があった。

 しかし、気になる点がいくつかある。

 逃げようと思えば逃げ切れたはずのキマイラが、やられるとわかっていて、

突っ立ったまま超剣の直撃を受けたこと。

 ダンジョンに第一歩を踏み入れた時の印象は『やばいヤツがいる』だった。

にも関わらず、そこまで酷いヤツが出て来ていないこと。

 彼らが信仰する影の女神が、まだ干渉して来ないこと。

 すべて『クローレンに黒幕がいるから』で説明できる。

 同時に『ヤツの言葉は嘘だから』でも説明できてしまうのだ。


 ジレイが言っていたことを思い出す。

 ここは『行き止まりの迷宮』だ、と。

 やはり、調べてみるべきだろうか?

 直径80メートルはある3層の下に『4層』があるのかどうかを。

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