表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/40

クロアケダンジョン第二層延長戦

巨大ゴーレムを行動不能に追い込んだ攻略団。

しかし、

 まだ戦いは終わっていない。

 そう思っているのは、俺だけだった。


 巨大ゴーレムの転倒を誘い、無数の剣で張り付けにした。

 「次だ」と思ってみた先には、もう一体のゴーレム。

 その背中が見て取れる。

 倒すべき敵はゴーレムの他にも、もう一匹。

 キマイラに視線を送る。

 こちらも蛇の尻尾をゆらりと揺らして、背筋の形に添って色分けされた背中

を見せながらの『敗走中』だった。

 地下から上がってきた一番の大物を倒したことで、逃げたのだ。

 俺達を無視して、もっと狩りやすく殺しやすい獲物を求めて、逃げている。

 全身から、サッと血の気が引いた。

「やるじゃねーか! キズオ!」

 エイシンが駆け寄ってきて背中を叩いてくるが、嫌な予感が消えない。


 攻略団のほぼ全員が安堵の表情を浮かべて、その場に座り込んでいた。


 俺が次を考えていた時、他の人は勝利の雄たけびをあげていたのか。

 あんな大型のモンスターを二体も見逃すのか?

 ない。

 俺の中には、そんな選択肢はない。

「違う。終わりじゃない」

「キズオ。終わりでいいじゃねーか」

「何を言ってるんだ?

 ここで見逃したら、どれだけの人間が殺されるか」

「キズオ!」

 エイシンが俺の肩を揺さぶるように、強く掴んでいた。

「エニルが見つかってねーんだぞ。

 いまなら奇跡的に、死者だっていないかもしれねーんだぞ!

 それでも追撃すんのか? それでエニルは放置か!? 怪我人は!?」

「でも」

 そんな自分達にだけ優しい選択を、していいはずがない。

 ほぼ無傷の俺が、そんなことを思っていた。

「俺も殴られなくちゃ、痛い思いしなくちゃダメだろ」

 俺は走り出していた。

「キズオ! 行かせねーぞッ!」

 エイシンの持つ機械杖から、黒い蛇のような縄が伸びる。

 俺にエイシンの魔法を初見で見切れるだけの動体視力があるはずもない。

 ゴーレムに勝利できたのは、90分に渡る観察の成果だ。

 他人を盾にして、自分だけが無傷のまま勝ってしまった。

 このままじゃ、申し訳なさすぎる。

 彼らを踏み台にした俺が、悪人過ぎるじゃないか。

「行かせてくれ! せめて一体だけでも!」

 黒い蛇が足首に絡みつく。

 クンッ、と引っ張られる力に、足を取られた。

「だう!?」

 顔から無様に倒れ、額を打つ。

 俺はこれから後悔を抱えたまま生きていくのか、と思い、

  

 ギャリ、ギャリッ!


 と、妙な音が聞こえた。

 ゴーレムが自爆でもするのだろうか?

 そう思って、無様も忘れて這い蹲ると『ギャリリリリリ!』と、何かを引き

ずるような音が連続して響く。

 思わず立ち上がり、戦場を見回して、見つけた。

 土煙が尾を引いている。

 そこには、家ほどもある巨大な背びれにしか見えない『剣』があった。

 剣が走っている。

「あ、はは」

 もう笑うしかない。

 あんなことが出来るのは一人だけ。

 レアだけだ。

 戦時雑用の子供達がレアのために道を作っていた。

 地面を削り、火花を散らしながら、剣が近づいてくる。

 重すぎて持ち上げることもできないのだろう。

 剣という規模を超えた剣が、レアの尋常ではない力に押されていた。

 流星のように、攻略団の目の前を通り過ぎていく。

 そして、

「ハアアアアアアアアアアアアァァァァァァーーーーーーーーーーッ!!!」

 ゴーレムの背中に追いつくと同時に、盛大な火花を散らした。

 力の拮抗は、ない。

 レアの走らせた超剣がゴーレムの体を一方的に侵食して、断ち切る!

 真っ二つ。

 小気味いいくらいにアッサリと、一撃だった。

 俺達の苦労はなんだったのか。

「やっぱり、レアはすごいな」

 ただ、見た目からも明らかだが、超剣は小回りが効かないはず。

 キマイラのスピードには、手を焼くだろう。

「エイシン」

「あ?」

「ちょっと手伝ってくる」

「お、おう」

 今度は止められなかった。

 俺は走り出す。

 キマイラの背中を追った。


 ダンジョン地上部の端にキマイラはいた。

 人の足では追いつけないか。

 とも思ったが、ギリギリのところで立ち止まっている。

 外に出る気はないようだ。

 どうしてだろうか?

 考える間もなく、敵の前に立ってしまった。

 キマイラは人型。人なら頭がある部分にはヤギ頭。

 両腕はなく、右手の代わりに獅子頭。

 左手の代わりに熊頭があった。尻尾のような蛇の頭もこちらを向いた。

「さて、レアが来るまで、殴られるとするか」

 それで少しは、俺の気も晴れるだろう。

 キマイラは獅子の顔を持ち上げて、

 パッと口を開いて見せた。

 牙はない。

 そこにあるのは、ただの掌だった。

 獅子の頭、と俺が思っていたものは獅子に擬態する腕だったのだ。

「マテ」

 キマイラがしゃべった。

 それなりに知能が発達しているのだとしたら、コイツがダンジョンの主?

 人の手に負えない者、なのだろうか。

「喋るのか」

「マテ。人間」

 一軒家サイズのモンスターから待てと言われて、素直に待つほど俺は自分の

力を過信していなかった。

 熱刀ヒクナギを腰から抜き放つ。

 しかし、相手の喋りは止まない。

「オレのナマエは、パペテイム・キマイラ・フオシズン」

 長いな。

「我が主は、クロウレンに、いる」

「は?」

「クロウレンにいる」

 二度、言われた。

 どういう意味なのか。

 考える間もなく、終わりがやってきた。

 地上部の端を回ってきたのだろうレアの超剣が迫ってくる。

「ちょっと待て」

 今度は俺がキマイラを引き止める番だった。

「このダンジョンを大きくしているのはお前じゃないのか?」

 キマイラは「ニヤッ」と唇の端を吊り上げて、

 レアの押す超剣に、その身を真っ二つに切り裂かれていた。


 死の間際に放たれた敵の言葉は、妙な真実味を宿していた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ